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強制認知の訴え-親子関係の立証程度と方法

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平成24年 5月26日(土):初稿
○「強制認知の訴え-調停前置主義で先ず調停申立から」を続けます。
今回は、母が父と目される男性(以下、被告と言います)相手に強制認知の訴えを提起した場合の立証方法と程度を検討します。私自身は32年と2ヶ月の弁護士生活で強制認知の相談は多数受けていますが、残念ながら、実際、強制認知の訴え提起まで至った経験はありません。何事ともそうですが実務で一番力になるのは実務体験・経験であり、その意味では、このテーマについては、文献的机上の知識で自信を持った説明は出来ません(^^;)。

○先ず子の母と被告が内縁関係にあれば、民法第772条ご類推適用されて、内縁成立後200日後、解消後300日以内に出生した子は内縁の夫の子と推定されます(昭和29年1月21日最高裁判決、判時22号6頁、判タ38号52頁)。この推定により、母は内縁関係だけを立証すればよく内縁関係が立証された場合、被告がこの父子関係の推定を覆す反証をしなければなりません。

○内縁関係に至っていない場合の父子関係の立証は母がしなければなりませんが、これは結構面倒そうなところ、如何なる事実が証明されれば父子関係の存在を認定できるかについては、法律の規定はなく、全て裁判官の自由心証に委ねられており、いわば裁判官の腹一つでの認定になると解説されています。

○血液鑑定・DNA鑑定技術が確立されていない時代は、父子関係の存在を直接証明する手段がなく経験則に基づく間接事実の積み重ねによって行われてきました。それは以下の通りです。
①母の懐妊時に被告と性関係があったこと
②子と被告との間に血液型の食い違いがないこと
③指紋・掌紋・足紋などによる比較、人類学的特徴
によって父子関係の存在を普通の人であれば誰でも疑いを差し挟む余地が無い程に立証を尽くす必要があるとされていました(昭和50年10月24日最高裁判決)。

○さらに①母の懐妊時に被告と性関係があったことに加えて、懐胎当時母と被告以外の男性との間に性関係がなかったとの事実も証明しなければならないとされた時代もありましたが、事実の不存在の証明は悪魔の証明とも呼ばれ事実上不可能であり、これは厳しすぎると言うことで上記①乃至③が立証されれば、被告側でこれを覆す反証を挙げない限り、父子関係の認定が許されました。

○しかし、血液鑑定・DNA鑑定技術が確立された近時は、これらの鑑定一発で決まるのが家裁実務と思われます。血液鑑定では遺伝標識種類が増加してそれだけで父子関係鑑定は可能であり、また、少量の血液・毛髪・爪・精液・皮膚等から遺伝子本体のDNAを抽出して個人を識別するDNA鑑定でもほぼ確実に父子鑑定が可能とのことです。

○問題はこの血液鑑定・DNA鑑定には、血液等の任意提出という父の協力が必要なところ、強制的に提出させる方法はなく、父は子の鑑定を拒否することが可能なことです。被告が頑として血液鑑定・DNA鑑定を拒否する場合、正確な生物学的父子関係の存在を確認出来ません。しかし、説得しても採決等の資料収集に協力を得られないときは、鑑定による科学的裏付けなしに父子関係を認定してもやむを得ないとの判決もあります(昭和57年6月30日東京高裁判決、判タ478号119頁)。

○鑑定協力拒否は、特別の事情がない限り、事実上不利に判断される可能性が高いでしょう。父子関係がないと確信しているのであれば鑑定を何ら恐れる必要がないからです。父子関係がないことを証明したいなら、進んで鑑定に協力すべきと迫られたら、結局は、父と目された被告は鑑定から逃げられないと思われます。と言うことは、実際の父子関係があれば、血液鑑定・DNA鑑定の事実上の強制によって科学的に解明され、先ず強制認知からにげられないと思った方がよいでしょう。
認知・養育料放棄誓約の効力-殆ど効力なし」で述べた「性行為を楽しみたいしかし子供の父親にはなりたくないと言う場合、万全の備えをして行うべき」との結論は変わりません(^^)。
以上:1,632文字

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