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不貞行為第三者責任岩月論文紹介-有名学説の紹介部分

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平成24年 4月10日(火):初稿
○「間男・間女?の責任に関する最近の学説概観」に、「比較的古い時期の学説には、『今日まだまだ、婚姻の安定のため不貞行為の相手方を婚姻破壊の共同不法行為者として法的責任を負わせるべきとするのが支配的モラルである』と肯定するするものがありますが、最近の学説は、否定説の方が強くなっているようです。」としながら、この問題についての学説の正に概観-さわりだけ説明していました。

○比較的古い時期の学説で不貞行為に関して第三者の不法行為責任を認める学説が通説として紹介されることが多かったのは、民法学の泰斗我妻栄・中川善之助両大先生が、第三者責任を認める立場だったからです。明治民法は、家父長制的家制度を基本として、妻は準禁治産者に準じた無能力者とされ(14条~18条)、妻の財産は夫が管理し(801条1項)、同一戸籍に属する「家」(746条)の構成員たる「家族」は、婚姻するには戸主の同意を必要で(750条1項)、戸主に居所指定権があり(749条)、更に家制度では、子の父親が最重要で妻の不貞行為は、姦通罪として2年以下の懲役に問われ(刑法183条=昭和22年削除)、離婚原因においても、妻の不貞は直ちに離婚原因となる一方、夫の不貞は夫が姦通罪によって処罰されたときに離婚原因とされるだけでした。

○しかし、戦後 個人の尊厳を基本理念とし両性の平等を謳う日本国憲法の制定に伴い、家制度が廃止され、明治民法において著しかった男女の不平等が是正され、中川善之助氏は、夫の不貞行為の相手方たる女性に対する妻からの慰謝料請求が成立することを支持する論文(「愛情の自由と責任」判例評論52号(昭和37年)を発表して、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求について論じたほぼ初めての論考となり、我妻博士も昭和36年発行の教科書において、妻から不貞相手の女性に対する損害賠償請求権の成立を当然のこととして認めてましたが(我妻「親族法」99頁)、これらは、戦前に当然であった夫権侵害に基づく第三者に対する慰謝料請求の論理を、そのよって立つ理念や基盤の変化を吟味することなく、機械的に妻にも拡大したにすぎないものでした。

○そこでその後登場した不貞行為第三者責任に関する加藤一郎先生を初めとする比較的古い時代の有名学者による否定的学説について、岩月論文から引用して紹介します。ちと難しい表現もありますが、格調高く紹介しています。

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2 債権侵害論
(1)不法行為の構造

 冒頭において述べたとおり、法的に見る限り、不貞行為による第三者の不法行為責任は、貞操請求権の侵害の問題であり、債権侵害の一類型としてとらえられるべきものである。
 わが国の婚姻制度が一夫一婦制をとり(重婚の禁止。民法732条、刑法184条)、不貞行為が離婚原因とされている(民法770条1項1号)ことから、明文はないものの、夫婦は相互に貞操義務を負い、また、他方に対して貞操を守るべきことを要求する権利があることについては、異論は少ないといえよう(なお後記松本克美論文は否定的)。
 被侵害利益として明確に位置づけることができるのは、貞操請求権(守操要求権)に尽きると考えられる。

(2)加藤一郎説
 早くから不貞行為の第三者責任の問題が債権侵害の類型に類似することに自覚的であった加藤一郎教授は、昭和54年判決を受けて、昭和55年には、「相手の女性に姦通の相手方として責任を負わせるべきか、それともそこは愛情の自由競争にゆだねて夫だけの責任と考えるべきかは、男女関係についての価値観によって違ってくるであろう。筆者は前に、姦通の相手方に責任を認める判例の立場に疑問を呈しつつも、現状ではそれが『支配的なモラルの命ずるところなのであろうか』と述べたことがあるが、いまではそれを進めて相手方に責任を認めるのは適当でないと考えるようになった」とし、「この点では、債権侵害が通常は自由競争に委ねられて不法行為にならないが、侵害者が不法な手段を用いたときは不法行為になりうるというのと、似た考え方を取るべきではあるまいか」(家族法判例百選第3版14頁)と限定的否定説の立場を明確にしている。

(3)四宮和夫説
 四宮和夫教授も、「貞操請求権の保護は配偶者間にとどめ、ただ、乙(第三者)が不貞行為を利用して丙(不貞相手の配偶者)を害しようとした場合にのみ、不法行為責任を負うことになる、と解すべきである」と限定的否定説の立場を明らかにし、それが「近時の学説の傾向でもある」と指摘している(四宮和夫「事務管理・不当利得・不法行為(下)」527頁・昭和60年)。

(4)前田達明説
 前田達明教授は、昭和54年判決が、「子の慰謝料請求に対して、害意がある場合に限ったことは、非常に評価しうるのではないか」(昭和54年判決は、子から親の不貞行為の相手方たる第三者に対する慰謝料請求を害意がある場合に限るとしている)とした上、昭和54年判決が、子の慰謝料請求を否定したのは「第三者がかりに、故意はあった、すなわち認容としての故意はあったとしても、その第三者の行為は親の愛情行為という自由意思の行為の中に取り込まれているので、もし、第三者にそれを越えた害意がある場合には、それは親の自由な愛情行為を越えたもので、むしろそのような親の愛情行為を利用した行為として、第三者が子どもに対して、損害賠償をしなければならないとしたのである」と理解し、「子に対して害意を要求するのであるから、夫婦間においても害意を要求してしかるべきではなかろうか。なぜならば、752条も820条も同じ価値をもつ権利義務を定めたものとみなければならないからである」とまっとうな指摘をして限定的否定説の立場を述べる(前田達明「不貞にもとづく損害賠償」判タ397巻4頁・昭和54年)。

(5)島津一郎説
 島津一郎教授も「判例のいう『夫または妻としての権利』とは何かである。近代法のもとでそれを物権類似の権利ということは言い難いであろう」とした上で、「暴力や詐欺・強迫など違法手段によって強制的・半強制的に不貞行為を実行させた第三者に対するときに限って損害賠償請求を認めるべきだと考える。守操請求権ないし貞操を要求する権利が対人的・相対的な権利であるとすれば、その侵害は第三者による債権侵害の場合に準じて考えれば足りると思う」としている(島津一郎「不貞行為と損害賠償」判タ385号123頁。沢井裕「家族法判例百選第3版」53頁同旨)。

(6)結論
 以上のとおり、この問題について、法論理的に考察する限り、債権侵害と同様の構造の問題として、第三者が違法な手段を用いたか、不貞に藉口して他方配偶者を害する意図を有していた場合に限って、不法行為の成立を認めるとする論理の真っ当さは明らかである。



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