平成23年 1月 9日(日):初稿 |
○離婚時年金分割制度の按分割合は2分の1が大原則との判決をもう1件紹介します。 平成20年2月1日名古屋高裁決定(家月61巻3号57頁)です。 この決定でも、厚生年金保険等の被用者年金が、婚姻期間中の保険料納付により夫婦双方の老後の所得保障を同等に形成していくという社会保障的性質及び機能を有していることから、離婚時年金分割制度の按分割合は2分の1が大原則であり、特段の事情がない限り、按分割合は0.5とすべきとしています。 この事案では、婚姻期間332ヶ月中31ヶ月の別居、婚姻期間中の夫の借金は、特段の事情とは言えず、また155ヶ月にも及ぶ単身赴任による別居も別居とは評価されず、婚姻期間中の妻の浪費、蓄財の事情は、立証が尽くされておらず、いずれにしても0.5を変更すべき特段の事情は認められないとしました。 結論として、離婚時年金分割において原則0.5の変更が認められるのは、極めて困難と思われます。 ****************************************** 抗告人(原審相手方) Y 相手方(原審申立人) X 主文 本件抗告を棄却する。 理由 1 抗告の趣旨及び理由 抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」に記載のとおりである。 2 事案の概要 本件は,相手方(もと妻)が,抗告人(もと夫)に対して,原審判別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるよう求めた事案である。 原審判は,上記按分割合を0.5と定めたところ,抗告人が即時抗告をした。 3 当裁判所も,上記按分割合は0.5と定めるのを相当と認めるが,その理由は,原審判の理由欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 4 抗告人は,抗告理由として, ①抗告人と相手方との短い同居期間, ②婚姻期間中における抗告人の借金,相手方の浪費・蓄財, ③抗告人と相手方の相互扶助の欠如 などの特段の事情がある本件においては,按分割合を0.5とするのは誤りであって,原審判は取り消されるべきであると主張する。 (1) 厚生年金保険法78条の2第2項は,裁判所は当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して年金分割における按分割合を定めることができる旨規定しているところ,厚生年金保険等の被用者年金が,婚姻期間中の保険料納付により,主として夫婦双方の老後の所得保障を同等に形成していくという社会保障的性質及び機能を有していることに鑑みれば,年金分割における被扶養配偶者の按分割合を定める際,上記一切の事情を考慮するにあたっても,特段の事情がない限り,その按分割合は0.5とされるべきである。 (2) 本件記録によれば, (ア)抗告人と相手方の婚姻期間は,昭和54年×月から平成19年×月までの332か月であり, (イ)抗告人は, a昭和63年×月から平成元年×月まで○○へ13か月間単身赴任をし, b平成5年×月から平成16年×月まで○○へ142か月単身赴任をし, c平成17年×月から平成19年×月までの31か月間別居期間があったものと認められる。 (3) このうち単身赴任は,仕事の都合から一緒に生活できないという状態なのであってそもそも別居とは異なるもので,特段の事情には該当しない。 また,夫婦間の相互扶助の欠如などによって夫婦関係が悪化して別居に至ったとしても,本件ではその期間が31か月間に止まり,この期間について上記制度趣旨に照らし検討すれば,原則的按分割合0.5を変更すべき特段の事情には当たらないと解するのが相当である。 (4) 本件記録によれば,抗告人の借金は,抗告人名義のものである以上,抗告人が負担することは当然のことであり,他方,相手方が抗告人との婚姻期間中に浪費・蓄財をしたことを裏付ける的確な証拠はない(実際,抗告人と相手方の離婚に関する和解において,相手方から抗告人に対して,財産分与として何らかの財産を給付するといった合意はない。)。そして,婚姻期間中に抗告人に借金が生じたことだけをもっては,原則的按分割合0.5を変更すべき特段の事情には該当しない。 (5) 以上のとおり,抗告人の主張(抗告理由)は採用できない。 5 よって,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 坪井宣幸 堀禎男) 以上:1,817文字
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