平成22年 6月12日(土):初稿 |
○「不貞の相手方の他方配偶者に対する責任概観」で、「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わない。」との平成8年3月26日最高裁判決(判タ908号284頁、判時1563号72頁)を紹介しております。 ○この判例は大変有名な判例で、不貞行為についての間男・間女?に対する不法行為に基づく損害賠償裁判では、間男・間女?側から、殆ど「婚姻破綻後の不貞行為であって責任はない」との抗弁が出されます。この「婚姻破綻」とは、教科書的には「夫婦が婚姻継続の意思を実質的に失っており、婚姻共同生活を回復することが不可能であると客観的に判断できるような状態」と定義されています。 ○この定義では、①夫婦が婚姻継続の意思を実質的に失っておりとの主観的要件と、②婚姻共同生活を回復することが不可能であると客観的に判断できるような状態との客観的要件があり、この主観的要件は、当事者双方が婚姻を修復させる意思がないことであり、どちらか一方が離婚を拒否している場合、この要件は満たされません。しかし、客観的要件は、社会から客観的に見て婚姻を修復させることが著しく困難か不可能であると評価される場合であり、例え主観的要件が充足されなくても客観的要件が充足されることで「婚姻破綻」が認定される場合があります。 ○この不貞行為責任解除のための「婚姻破綻」とは離婚要件としての「婚姻破綻」とは、字句は同じですが、前者は「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為」の責任解除、後者は、法によって強制的に離婚を認める程に婚姻関係修復が困難か不可能な状態になっているかとの観点から判断されるため実際には微妙に異なってくるかも知れません。 ○では具体的にはどのような場合にこの「婚姻破綻」が認定されるかというと、典型的には夫婦仲が悪くなっての離婚を前提とした別居があります。仕事での単身赴任等での別居や、双方合意の元の別居結婚で定期的に同居する形式での別居は含まれません。実務で一番問題になるのは、同居中で、どのような場合に「婚姻破綻」と認定できるかですが、これはケースバイケースで極めて難しい認定となります。 ○私なりに、同居中で「婚姻破綻」が認定されるキーポイントを検討すると以下の通りです。 ①夫婦間の性交渉 例え嫌々ながらであろうと定期的に性交渉があれば「婚姻破綻」とは先ず認めらません。毎回、脅迫的に強姦まがいの性交渉であったと主張することがよくありますが、相手が否定した場合の立証は困難で、その認定は極めて困難と言うより不可能でしょう。 逆に数年間セックスレス状態が続いている事実が認定されれば「婚姻破綻」の可能性は出て来ます。 ②性交渉以外の接触程度 性関係以外の会話、生活場所、接触状況、食事 例えば夫は2階、妻は1階で寝起きし食事も別で、お互いの接触・会話も殆どなくなれば「婚姻破綻」の可能性は出て来ます。これも例えば妻が主張しても、妻以外の家族全員が否定した場合立証は限りなく困難になります。 ③生活費分担状況 生活費がお互いのそれぞれの収入(身内からの援助も含む)で賄われており、家計が全く別々になっていれば「婚姻破綻」の可能性が出て来ます。 ④婚姻継続の意欲 双方婚姻共同生活を営もうとの意欲が全く欠如している場合も「婚姻破綻」の可能性が出て来ますが、相手が否定した場合の立証は困難というより不可能に近いでしょう。 ○この①乃至④のキーポイントを総合考慮して、「婚姻破綻」と評価できるかどうかを判断することになりますが、一つ一つ見てみると、同居中で「婚姻破綻」を認定されるための要件は殆どの場合、主張は兎も角として、相手から否認された場合(殆ど真っ向から否認されます)に、その立証が困難であることが判ります。そこで同居している場合に、「婚姻破綻」が認定される例は、双方が離婚に合意している場合を除いては殆どないと断言される裁判官も居るほどです。 以上:1,666文字
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