平成21年 8月19日(水):初稿 |
○夫婦が離婚する場合、子の監護をすべき者(原則親権者)と定めなければならず、この親権者について、しばしば熾烈な争いが生じ、当事者間で協議が出来ず、家庭裁判所で決めることが多くあります。 この親権者決定に関する民法の関連規定は以下の通りです。 第766条第1項「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。」 第819条第1項「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。」 同条第5項「第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。」 同条第6項「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。」 ○民法では親権者の指定は先ず当事者間の協議で、協議が整わないときは家庭裁判所が決めるとされています。父母双方とも親権者になると主張して譲らず、家庭裁判所で決めて貰う場合、子供が小学低学年までは、余程のことがない限り、母が親権者に認められます。そこで父は我が身の不利を自覚し、親権者の協議の際、一応離婚時は親権者を母とするが、母が再婚したらその時点で父に変更する、或いは小学校入学時までは母とするが、小学入学時点で父に変更すると言う様な条件や期限をつけ、これを調停調書或いは公正証書に記載する合意が成立する場合もあります。 ○ある無料相談で、父がどうしても子の親権者を譲らなかったところ、母が再婚したら親権者を父に変更するという公正証書を作るとの妥協案を提案されていますが、このような公正証書を作ることが出来るのでしょうかとの質問を受け、今まで考えたことがない問題で,一瞬、たじろぎましたが、直感的にダメと判断し、先ず無理でしょうと答えました。 ○その無理な理由ですが、先ず第一に親の都合で親権者が変更されるのは子供にとって大迷惑だという実質的理由です。親権者指定・変更の決め手は,何をおいても,先ず子の福祉・子の利益にかなうことであり、これが最優先されます。親権者の変更は環境の激変であり子にとっては大変なストレスになりますので、子にとって必要性のない変更は認められません。 ○次に法文上の理由ですが、親権者変更は「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。」と規定されており、親権者変更はあくまで家庭裁判所が決めることで、いったん親権者が決められ戸籍に記載された以上、父母といえど勝手に変更できません。ですから親権者指定にあたって条件や期限をつけても無効です。 ○戸籍先例も、「子が小学校入学時までの親権者は母、爾後は父とする。」旨の調停調書による親権者変更届に対し、改めて親権者変更審判が必要とするとしています(昭和31年11月13日民甲2394号事務代理回答)。ですから仮に「親権者母、母再婚後は父とする。」との調停調書や公正証書が作られても、「親権者母」だけが有効で「母再婚後父とする。」は無効となります。 とすると、早く離婚届に判を押して貰うために「親権者母、母再婚後は父とする。」との公正証書作成に応じるのも一つの手です。但し、後で詐欺による離婚で離婚自体無効だと争われてても責任は負いません(^^)。そもそも私のようにちゃんと勉強している公証人であればこのような公正証書を作ってくれませんが(^^;)。 以上:1,508文字
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