平成18年11月14日(火):初稿 |
○「将来の退職金請求権は財産分与の対象になるか1」において「将来の退職金は必ず貰えるとは限らないので、財産分与の対象にはならない」と言う判例を紹介しましたが、近時の多くの判例は、退職金も財産分与の対象になるとしており、以下ご説明します。 ○退職金は、将来の債権であり且つ100%取得できるとの保障はありません。と言うのは仮にAさんが、現在の計算で10年後に2000万円の退職金が貰える就業規則のある会社に勤務していたとしても、それまでにAさんが問題を起こして懲戒解雇になった場合退職金が支給されないこともあります。 ○Aさんが問題になく勤務を終了し2000万円の退職金債権を取得しても勤務先の会社が倒産し未払賃金立替支払制度でようやく立替払上限額である296万円しか貰えない場合もあります。 ○従って退職金は将来確実に取得できるものではないので、原則としては、将来退職金を受領したときはその○分の○を支払えと言う条件付き判決になります。その○分の○と言う割合は、原則として婚姻期間中の積立部分の2分の1になります。 ○しかし典型的には公務員などで将来退職金を受領できる可能性が限りなく100%に近い場合(判例では蓋然性が高いと表現します)は、婚姻期間中に相当する部分の退職金額の原則2分の1を現在の金額に換算して直ちに支払を命じられる場合もあります。現在の金額に換算するとは中間利息を控除することです。 ○以下実際の代表的な判決例を2例紹介します。 ・横浜地裁平成9年1月22日判決(判時1618号109頁) 原告の場合、特段の事情のない限り、右理事会の承認のあることを前提として、2191万7500円が支給される可能性が高い。退職金の持つ性質や右に見た同学園の常任理事在職期間と婚姻期間との関係等に徴すると、将来原告が取得する退職金は二人の共有財産であって、被告はその2分の1を原告から分与を受けるのが相当と認められる。 しかし、原告が同学園から退職金を確実に取得できるかは未確定なことであり、その金額も確定されてはいないから、現時点では原告から被告への確定金額の支払を命じることは相当でない。そこで、本件においては、「将来原告に○○学園からの退職金が支給されたとき、原告は被告に対し、その2分の1を支払え。」と命ずるのが相当と認められる。 ・東京地裁平成11年9月3日判決(判時1700号79頁、判タ1014号239頁) いわゆる退職金には賃金の後払いとしての性格があることは否定できず、夫が取得する退職金には妻が夫婦としての共同生活を営んでいた際の貢献が反映されているとみるべきであって、退職金自体が清算的財産分与の対象となることは明かというべきである。問題は将来受け取るべき退職金が清算の対象となるか否かであるが、将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合には、将来受給するであろう退職金のうち、夫婦の婚姻期間に対応する分を算出し、これを現在の額に引き直したうえ、清算の対象とすることができると解すべきである。 以上:1,240文字
|