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新生児取違での親子関係不存在確認請求が権利濫用とされた判決全文紹介4

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平成25年11月29日:初稿
新生児取違での親子関係不存在確認請求が権利濫用とされた判決全文紹介3」の続きで最終回です。
裁判所は、50年に渡る親子としての生活実態を重視して、両親が生前に実子でないことが判明しても養子縁組をして親子の関係を継続したはずと推測し、実子側の親子関係不存在確認請求は権利濫用で許されないと結論付けています。
しかし、最後に、代理人を含めて以下の注文を付けているのには、裁判所の苦渋の判断も見て取れます。
当裁判所は、太郎や被控訴人らに対する配慮を欠くと感じられる控訴人の態度が本件訴訟提起の原因の一つにもなっていることを、控訴人としては深く反省すべきであると考えるので付言する。そして、太郎の相続財産については、本件訴訟の判決確定後に再び和解交渉が始まる可能性が高いが、その際には、控訴人は、利己的な態度を取ることなく、花子の遺産分割の内容その他をも考え併せて、謙抑的な立場で太郎の遺産分割協議に臨むことが望まれる。また、控訴人代理人弁護士に対しても、本判決の意のあるところを汲み、控訴人に対し、然るべく助言することを要請しておきたい。

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エ 前記ア、イの事情、前記一の事実関係によれば、太郎・花子夫婦は、その生前、控訴人が実子でないことが判明していれば、控訴人との間で養子縁組をし、控訴人をして法的に同夫婦の子としての地位を取得させた蓋然性が高かったように思われる。しかし、控訴人が太郎・花子夫婦の子でないことが判明したのは、同夫婦がいずれも死亡した後であったから、控訴人が同夫婦と養子縁組をして嫡出子としての身分を取得することは不可能である。

オ 控訴人と太郎・花子夫婦との間に親子関係がないことを確認する判決が確定すれば、控訴人は、太郎、花子の相続人としての地位を失い、既に取得した相続財産は不当利得として返還すべき義務を負う。これは、相続適格を欠くとされることの法的効果であるから、それ自体はやむを得ないことではあるが、具体的にみると次のとおりである。

 花子の遺産については、既に遺産分割が終わっており、控訴人は、現在の居住建物の敷地所有権を始めとする相続財産を取得した。しかし、原判決が確定すれば、被控訴人らが上記敷地の所有権を主張して、同敷地についての現在の控訴人名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求したり、控訴人の居住建物を収去して敷地を明け渡すことを請求する等の事態が考えられる。もっとも、居住建物は、控訴人が建築した同人の所有名義のものであるから、その敷地を取得した経緯から、直ちに明け渡すべきであるとの結論に至ることには問題があろう。ただ、いずれにしても、控訴人の被る不利益は重大である。

 一方、太郎は公正証書遺言を作成しており、控訴人も被控訴人らと共に受遺者となっているので、これに基づく控訴人の権利が、親子関係の不存在により、直ちに影響を受けることは少ないと考えられるものの、上記遺言の前提事実に関わるとしてその効力が問題とされる余地は十分想定される。また、上記遺言後に太郎が購入した土地があり(弁論の全趣旨)、それについては、親子関係の不存在が確定すれば、控訴人が取得する余地はない。この点についても、控訴人は不利益を被ることになる。
 以上のとおり、親子関係不存在を確認する判決が確定すれば、それによる法的効果ではあるにしても、控訴人は、少なからぬ不利益を被る結果となる。

カ 被控訴人らは、平成20年5月ころ、控訴人に対し、公正証書遺言の内容とは異なる太郎の遺産分割案を提示した。しかし、控訴人は、これを不満として公正証書遺言のとおりにするよう求め、被控訴人らの案を拒絶したところ、その約1か月後、被控訴人らが本件訴訟を提起した。被控訴人三郎本人尋問においても、被控訴人三郎は、控訴人代理人弁護士の「今回の相続の話もあって訴訟提起に至っているわけですけれども、……(中略)……もしもあなたの思いどおりの要望で一郎さんが分かったという話だったら、この訴えって起きてましたか。」との質問に対して、「起きてませんよ。」と答えている。被控訴人らが、本件訴訟を提起した動機、目的には、もちろん身分関係を正したいとの思いがあると解されるが、以上の経過からすると、それと同時に、あるいはそれよりも少なからぬ比重で遺産分割を有利に展開する意図があったと評価すベきところである。

 被控訴人らは、本件訴訟提起の動機、目的は遺産分割にあるのではなく、根底に控訴人の太郎に対する冷たい態度による控訴人と被控訴人らとの間の不和があったと主張する。しかし、被控訴人らの主張によれば、例えば、花子の遺産分割の際、控訴人が太郎の在宅介護をすると言うので、控訴人に花子の遺産の大半を取得させたにもかかわらず、控訴人は太郎の在宅介護をせず、老人施設に入れようとしたため、被控訴人らが共同して在宅介護をしたが、控訴人は十分な協力をしなかったというのであるから、太郎の介護をめぐる兄弟間の不和といっても、結局は、財産的問題である遺産分割が大きく関わっているということができる。

 もっとも、《証拠略》によれば、公正証書遺言では、船橋の家は控訴人が取得するところ、控訴人は、北海道から転勤してきて船橋の家に住み、兄弟と共に太郎の在宅介護をし、太郎の死後も船橋の家を生活の本拠として居住し続けている被控訴人三郎に対し、当初、被控訴人三郎が控訴人から船橋の家の明渡しを求められると心配するような態度を示し(被控訴人三郎)、当審においても、船橋の家の時価による買取り又は賃借を求める態度(乙6、7)を示した(もっとも、その後、控訴人の態度はより柔軟になっている。)。このような控訴人の態度が、利己的な冷たい態度として、被控訴人らの反感を買ったことは想像に難くないが、親子関係不存在確認請求の動機、目的としては必ずしも相当とはいえない。

 そうすると、被控訴人らの親子関係不存在確認請求が認められない場合、被控訴人らは、法的には遺産相続上の不利益を受け、これは少なからぬ不利益ではあるが、著しい不利益と評するには躊躇を覚える。また、実際にも、控訴人が謙抑的対応をすることにより、事実上、被控訴人らの被る不利益を減少させることは可能でもある。

3) 以上のとおり、控訴人と太郎・花子夫婦との間で長期間にわたり実の親子と同様の生活の実体があったこと、太郎と花子はいずれも既に死亡しており、控訴人が太郎・花子夫婦との間で養子縁組をすることがもはや不可能であること、親子関係の不存在が確認された場合、控訴人が受ける重大な精神的苦痛及び少なからぬ経済的不利益、被控訴人らと控訴人の関係、被控訴人らが控訴人と太郎・花子夫婦との親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機、目的、親子関係が存在しないことが確認されない場合、被控訴人ら以外に不利益を受ける者はいないことなどを考慮すると、被控訴人らの親子関係不存在確認請求は、権利の濫用に当たり許されないというべきである。

 以上のように解するのは、病院で取り違えられた控訴人が育ての親と46年から54年もの長きにわたり実の親子と同様の生活実体を形成してきたのにもかかわらず、両親の死後、その遺産争いを直接の契機とし、戸籍上の弟である被控訴人らが本件訴訟を提起したという本件の事実関係における個別性、特殊性に由来するものであることはいうまでもない。

三 なお、当裁判所は、太郎や被控訴人らに対する配慮を欠くと感じられる控訴人の態度が本件訴訟提起の原因の一つにもなっていることを、控訴人としては深く反省すべきであると考えるので付言する。そして、太郎の相続財産については、本件訴訟の判決確定後に再び和解交渉が始まる可能性が高いが、その際には、控訴人は、利己的な態度を取ることなく、花子の遺産分割の内容その他をも考え併せて、謙抑的な立場で太郎の遺産分割協議に臨むことが望まれる。また、控訴人代理人弁護士に対しても、本判決の意のあるところを汲み、控訴人に対し、然るべく助言することを要請しておきたい。

四 結論
 以上によれば、被控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと異なる原判決は相当でない。
 よって、原判決を取り消して、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤新太郎 裁判官 加藤美枝子 都築政則)



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