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自賠法被害者請求が労災補償保険法請求に優先するとした高裁判決紹介

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令和 1年 6月13日(木):初稿
○「自賠法被害者請求が労災補償保険法請求に優先するとした地裁判決紹介」の続きで、その控訴審平成28年12月22日東京高裁判決(自保ジャーナル1992号40頁)関連部分を紹介します。

○判決は、訴訟上の被害者請求では、裁判所が支払基準によることなく損害賠償額を決定し、保険会社において判決が確定するまでは損害賠償額を確認することができないことからすると、保険会社が訴訟を遅滞させるなどの特段の事情がない限り、訴訟上の被害者請求における自動車損害賠償保障法16条の9第1項の必要な期間とは、判決が確定するまでの期間をいうものと解すべきであるとしました。

○一審は、原告請求について約276万円を認めていましたが、控訴審は、1審原告の損害残額は、傷害関係が303万5476円、後遺障害関係が290万円であるところ、これらはいずれも自賠責保険の上限金額(傷害120万円、後遺障害224万円(後遺障害等級12級))を上回るから、同上限金額が1審原告に支払うべき保険金の額となり、これらを合計すると、344万円となるとして、約68万円増額しました。

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主   文
1 1審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1)1審被告は、1審原告に対し、344万円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)1審原告のその余の請求を棄却する。
2 1審被告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを5分し、その2を1審原告の負担とし、その余を1審被告の負担とする。

事実及び理由
第一 各控訴の趣旨

1 1審原告
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)1審被告は、1審原告に対し、581万円及びこれに対する平成27年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 1審被告
(1)原判決中、1審被告敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消部分について1審原告の請求を棄却する。

第二 事案の概要(略称は原判決のものを用いる。)
1 本件は、1審原告が、平成25年9月8日に発生した1審原告運転の中型貨物自動車(控訴人トラック)とC(C)が運転する軽自動車(C車)が正面衝突した事故(本件事故)により負傷し、左肩、右肩及び頸部に後遺障害等級併合9級に該当する後遺障害が残り、傷害による慰謝料160万円及び休業損害689万4910円並びに後遺障害による慰謝料550万円及び逸失利益703万7958円の合計2,103万2868円から労働者災害補償保険(労災保険)より給付を受けた休業(補償)給付410万7255円及び障害(補償)一時金498万1490円の合計908万8745円を控除した1194万4123円の損害があるとして、Cが加入する自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の保険者(自賠責保険会社)である1審被告に対し、自動車損害賠償保障法(自賠法)16条1項に基づき、自賠責保険金として、傷害の上限金額120万円及び後遺障害等級10級の上限金額461万円の合計581万円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年2月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原審は、1審原告の後遺障害等級は併合12級に該当するとし、傷害による慰謝料158万円及び休業損害689万4910円の合計847万4910円並びに後遺障害による慰謝料290万円及び逸失利益364万9311円の合計654万9311円を認め、ここから労災保険給付による損害の填補をして、傷害関係の損害残額を436万7655円、後遺障害関係の損害残額を156万7821円と認定し、1審原告の請求につき、傷害の上限金額である120万円、後遺障害による損害分156万7821円の合計276万7821円及び判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で一部認容した。
 これに対し、双方が控訴した。

2 本件における争いのない事実等、争点及び当事者の主張は、下記3に当事者の当審における主張を付加ないし補足するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第二の2項及び3項に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決2頁6行目から7行目にかけての「中型貨物動車」を「中型貨物自動車」に、5頁16行目の「2103万2868円」を「1253万7958円」にそれぞれ改める。

3 当事者の当審における主張

         (中略)



第三 当裁判所の判断
1 当裁判所は、1審原告の本件請求は、1審被告に対し、344万円及び判決確定日以降の遅延損害金の支払を命ずる限度で理由があるが、その余の請求は理由がないと判断する。
 その理由は、下記2に当事者の当審における主張についての判断を補足するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第三の1項から3項までに記載のとおりであるから、これを引用する。
 ただし、原判決13頁20行目から26行目までを次のとおり改める。
「ウ 労災保険給付による損害の填補後の残額
〔1〕休業(補償)給付及び障害(補償)一時金填補後の休業損害 145万5476円
(計算式)689万4910円-410万7255円-(498万1490円-364万9311円)
 休業(補償)給付に加えて、障害(補償)一時金を後遺障害逸失利益に填補した後の残額を填補した。

〔2〕障害(補償)一時金填補後の後遺障害逸失利益 0円
(計算式)364万9311円-498万1490円

エ 1審原告の損害残額
〔1〕傷害関係 303万5476円
(計算式)158万円+145万5476円

〔2〕後遺障害関係 290万円
(計算式)290万円+0円

(2)1審原告に支払うべき保険金の額
 以上のとおり、1審原告の損害残額は、傷害関係が303万5476円、後遺障害関係が290万円であるところ、これらはいずれも自賠責保険の上限金額(傷害120万円、後遺障害224万円(後遺障害等級12級))を上回るから、同上限金額が1審原告に支払うべき保険金の額となり、これらを合計すると、344万円となる。」

2 当事者の当審における主張に対する判断
(1)1審原告の主張について

ア 1審原告の後遺障害等級について
 1審原告は、b病院の診療録と比較してリハビリテーション診療記録は信用性が高く、これによれば1審原告の左肩関節の外転の可動域が平成26年5月まで順調に改善し100度以上にまで回復した事実や翌6月からが顕著に悪化した事実は認められず、D医師の後遺障害診断書によれば、他動運動の場合における左肩関節の可動域は外転が85度(自動値80度)であるから、後遺障害等級10級10号に該当する旨主張する。

 しかし、b病院の診療録は、診療に当たったF医師が規則的かつ客観的に作成したものと認められることからすると、1審原告の主張を考慮しても同診療録の診療録の信用性が低いものということはできない。そして、同診療録によれば、1審原告の左肩関節の外転の可動域は、本件事故直後の平成25年9月9日には80度、同年10月9日には90度であったものが、同年11月18日には130度、同年12月16日には100度、平成26年1月20日には130度、同年3月24日には100度と概ね100度ないし130度となり、同年5月26日の診療までは順調に改善した事実が認められる。

 ところが、同年6月17日の診療録によれば、左肩関節の外転の可動域は70度にまで顕著に悪化したとされているところ、このような可動域の顕著な悪化について、本件事故による影響を合理的に説明することは困難であるといわざるを得ない。そうすると、左肩関節の機能障害は、可動域が屈曲と外転ともに130度まで改善した時点の数値を基に後遺障害等級12級6号に該当すると捉えることができ、したがって、1審原告の主張は採用することができない。

イ 遅延損害金の起算点について
 1審原告は、被害者請求訴訟は判決確定まで損害賠償額を確認できない点で不法行為訴訟と同様であるなどとして、遅延損害金の起算日は訴状送達日の翌日か、遅くとも本件訴訟において裁判所が送付嘱託に係る医療記録を受領してから1ヶ月後の平成27年8月25日とすべき旨主張する。

 自賠法16条の9は、同法16条1項の規定による損害賠償額の支払の請求があった後、当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは遅滞の責任を負わない旨規定している。同規定は、直接請求権が行使される場合、自動車事故の事実関係、損害の程度、因果関係の有無及び過失割合等の確認を要する事由が必ずしも明らかにされずに請求されることがあり、損害賠償額の支払のために確認を要する事由とこれに要する期間が事案ごとに異なることから、直接請求権の履行期を上記事由の確認に必要な期間の経過後とするものと解される。

 そして、保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合においては、公平かつ迅速な保険金等の支払の確保という見地から、保険会社に対して、自賠法16条の3第1項が規定する支払基準に従って支払うことを義務付けているのに対し、自賠法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟においては,当事者の主張立証に基づく個別的な事案ごとの結果の妥当性が尊重されるべきであって、裁判所は同項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができる(最高裁判所平成18年3月30日第一小法廷判決。民集60巻3号1242頁参照)。

 このように、訴訟上の被害者請求では、裁判所が支払基準によることなく損害賠償額を決定するのであって、保険会社において判決が確定するまでは損害賠償額を確認することができないことからすると、保険会社が訴訟を遅滞させるなどの特段の事情がない限り、訴訟上の被害者請求における自賠法16条の9第1項の必要な期間とは、判決が確定するまでの期間をいうものと解すべきである。

 これを本件の原審から当審に至るまでの審理についてみると、弁論の全趣旨によれば、当事者双方は、1審原告の後遺障害等級等の争点を巡り必要な審理を重ねてきたと認められ、当審の口頭弁論終結時までの審理において、1審被告が訴訟を遅滞させたなどの特段の事情があるとはいえない。よって、本件においては、判決の確定時をもって遅延損害金の起算日とみるのが相当であり、したがって、1審原告の主張は採用することができない。 

(2)1審被告の主張について
 1審被告は、政府が労災給付を行って代位取得した被害者請求権と被害者の被害者請求権は同質であるから債権者平等の原則により1審被告が支払義務を負う被害者請求は政府の有する請求権と按分した限度であるとする按分説が妥当であるとし、その根拠として、自賠法16条1項は損害賠償額の全額を被害者に支払うことを保障するものではないこと、被害者は労災保険給付と合計すれば自賠責保険の限度額以上の支払を受けることができること、按分説は行政及び実務上長年通用してきたものであること、損害の填補を目的とする労災保険については老人保健に関する平成20年最判の射程は及ばない旨重ねて主張する。

 労災保険法12条の4は、事故が第三者の行為によって生じた場合において、受給権者に対し、政府が先に保険給付をしたときは、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権は給付の価額の限度で当然国に移転し(1項)、第三者が先に損害賠償をしたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができる旨定め(2項)、受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の保険給付義務とが相互補完の関係にあり、同一の事由による損害の二重填補を認めるものではない趣旨を明らかにしている(最高裁判所平成元年4月11日第三小法廷判決。民集43巻4号209頁参照)。

 このことからすると、受給権者が交通事故による労災保険給付を受けた場合であって加害者に対し損害賠償を求めることができる損害額のすべてが填補されていないときには、これが填補されるに至るまで被害者の権利行使を認めたとしても、被害者が同一の事由による損害の二重填補を受けるものではなく、同条が、これを超えて、労災保険給付の履行によって生じる労災保険給付者による求償権と被害者の直接請求権が並存する場合においても、労災保険給付者と被害者とが対等な地位に立つことまで要請しているものとは解し難い。

 また、業務上災害に当たる交通事故の被害者が、加害者、自賠責保険及び労災保険のいずれに対し、どのような順序で損害の填補を求めるかは自由であるところ、按分説を基本とする保険実務の取扱いによると、自賠責保険から保険金額全額の支払を受けた後に労災保険金を請求した場合と労災保険金を請求した後に自賠責保険金を請求した場合との間で損害の填補額に不合理な差異が生ずることになる。

 これに加え、労災保険法は、労働者の福祉の増進に寄与することを目的とし、事業主が加入者として保険料を負担し、政府を保険者とする強制保険制度によって災害補償の迅速かつ公正な実施を行うことを目的とするものであることからすると、使用者との保険契約上の債務の履行としての給付である労災保険が、加害者を被保険者とし被害者保護を図る自賠責保険と同等であると解すべきであるということはできない。


 1審被告は、控除前相殺説との整合性を理由に按分説が妥当であるとする。しかし、いわゆる第三者行為災害において、災害によって権利を侵害された労働者等の保険給付受給者の加害者である第三者との関係における請求権の算定において過失割合による減額をした後の残額から保険給付の価格を控除するとの解釈(控除前相殺説)によったとしても、本件のように被害者による被害者請求権と政府が代位取得した被害者請求権の優劣をどのように解するかについては別の問題であって、被害者による被害者請求権が優先すると解することが控除前相殺説に矛盾するものということはできない。

 労災保険は、その給付がされれば、使用者は労基法上の災害補償の責任を免れる(労基法84条1項参照)ことなどの点において、使用者の災害補償責任の責任保険としての役割を果たしているということができるから、控除前相殺説には一定の合理性がある。他方、労災保険は、労働者の保護を図ることを理念として、保険加入者たる事業主の費用共同負担の下に保険給付として独自の災害補償を労働者に直接行い災害補償の迅速かつ公正な実施を行うことを目的とするのであって、この点から被害者の請求権が政府の請求権に優先すると解することができるから、控除前相殺説と矛盾するものとはいえず、したがって、1審被告の主張は採用することができない。

3 以上によれば、1審原告の本件請求は、1審被告に対し、344万円及び判決確定日以降の遅延損害金の支払を命ずる限度で理由があるから一部認容し、その余の請求は棄却することとし、これと異なる原判決を変更することとし、仮執行宣言は付さないこととする。
 よって、主文のとおり判決する。東京高等裁判所第21民事部
以上:6,245文字

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