平成20年 1月 3日(木):初稿 |
○「治療費・看護費・交通費についての基本」で、「針灸、マッサージ費用、治療器具、薬品代等は原則として医師の指示がある場合に認められます。医師の指示がなくてもそれが有効且つ相当な場合は、認められますが、有効且つ相当性の立証が必要です。」と述べましたが、最近、交通事故被害者の方から、接骨院での治療費を保険会社が支払ってくれず困っているとの相談を数件受けました。 ○「無念!椎間板ヘルニア続編5-腰痛治療法整理2」で腰痛等治療国家資格について医師法第6条による医師以外に、 ①あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律等に関する法律第3条の3によるあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師 ②柔道整復師法第3条による柔道整復師 ③理学療法士及び作業療法士法第6条による理学療法士 があり、その他は法律の根拠のない整体、カイロプラティック等民間療法があることを述べました。 ○交通事故によって例えば腰椎捻挫等の整形外科対象傷害を受けた場合、整形外科医治療費は殆ど無条件で損害と認められます。理学療法士治療も、通常、整形外科病院で整形外科治療の一環として行われますのでその費用も認められます。 ○問題は①あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師と②柔道整復師の治療費ですが、整形外科医の指示がある場合は医師治療費に準ずるものとして殆ど認められます。しかし現実には整形外科医と特に接骨・整骨院との関係は競業関係にあり、相互に相手を牽制しあうケースが多い現状からは医師が指示を出すことは例外的な場合と思われます。 ○医師の指示がない整骨院施術費が交通事故と因果関係を認めた判例は以下の通りです。 損害と認める要件としては、施術が症状改善に効果があることが当然の前提で、更に施術費用の妥当性が要求されており、施術費全額が損害と認められる例は殆どないようです。尚、民間療法である整体費用について損害と認められた判例は見つけることが出来ず、逆に理容師による整体術を受けたことが被害者側の損害拡大の過失と評価された例があり要注意です。 ・平成16年2月27日東京地裁(交通民集37巻1号239頁) 施術を受けることにより、残存していた疼痛が軽快し、快方に向かいつつあることが窺えること、整形外科における治療回数が施術を受けることにより減少しており、施術が治療の代替機能を果たしている面があること、施術費は、健康保険や労災保険における柔道整復師施術料金算定基準と比較したとき、社会一般の水準と比較して妥当と判断できる金額であること、被告らは、平成9年1月29日までは、同整骨院における施術を認めていたという経緯があること等を考慮すると、症状固定日までの施術費を本件事故に基づく損害として認めるのが相当である。 同判決は東洋医学費用について一般論として次のように述べています。 交通事故の被害者が、加害者に対し、東洋医学に基づく施術費を交通事故に基づく損害として請求できるためには、原則として、施術を受けるにつき医師の指示を受けることが必要であり、さらに、医師の指示の有無を問わず、施術の必要性・有効性、施術内容の合理性、施術期間の相当性及び施術費用の相当性の各要件を満たすことが必要であると解される。なぜならば、患者の受傷の内容と程度に関し医学的見地から行う総合的判断は医師しかできないこと、施術には整形外科の治療法と比較したときに限界があること、施術の手段・方式や成績判定基準が明確ではないため施術の客観的な治療効果の判定が困難であること、施術者によって技術が異なり、施術の方法、程度も多様であること、施術費算定についても診療報酬算定基準のような明確な基準がないという事情を考慮すると、施術費を、上記要件を満たさない場合においても、医師による治療費と同様に加害者の負担すべき損害とするのは相当ではないからである。 ・平成15年6月24日東京地裁(交民集36巻3号858頁) 衝突事故により、左手関節捻挫、左肘・左大腿打撲、頸部外傷、左手根骨骨折の 傷害を負った被害者が、病院に5日、整骨院(柔道整復師)に63日実通院した 事案で、右整骨院通院には医師の指示や同意はないが、整骨院施術によって被害者の症状に一定の効果があり、対症療法として整形外科治療の代替機能を果たす ものとして認められるが、頻繁に通院する必要性の立証が不十分であり、かつ1日当たり約9169円という高額治療費をも考慮し、整骨院で要した施術費57万7700円の3分の1である19万2566円につき、事故と相当因果関係のある損害と認めた ・平成16年8月31日東京高裁(自動車保険ジャーナル・第1589号) 会社員男子が衝突事故で頸椎捻挫等を受傷し、約14か月間に185回、合計722万2,400円の整骨院施術料を要した事案で、医師の指示、同意を得ず自らの判断で施術を受けていたが、症状の改善がみられることから、頸部関係に限り、約6か月の期間の健保基準等参考に「50万円の限度で因果関係ある損害」と認定した。 ・平成14年2月22日東京地裁(自動車保険ジャーナル・第1444号) 整骨院施術費は必要性、合理性、相当性から否認も有効性認め慰謝料で計上。 頸椎捻挫等負って175万円請求する整骨院施術費につき「有効であったとは認められる」が、医師の指示はなく「必要性、合理性、相当性が認められない以上、損害として加害者に負担させるのは相当ではない」と否認した。 施術の有効性は「有用な慰謝料の費目で計上する」と193万円請求の慰謝料を230万円と認めた。 あん摩マッサージ師等費用を損害と認めるには必要性、合理性、相当性、有効性等について個別具体的に主張、立証しなければならない。 ・平成13年12月26日東京地裁(交民集34巻6号1680頁) 頸椎捻挫、右肩打撲等の傷害を負った被害者が、整骨院での治療を行なった事案で、被告代理人が行なった病院医師への照会では、柔道整復治療の必要性はない旨回答しているが、施術の具体的内容を把握した上で回答したものかどうかが不明であり、これをもって直ちに施術の必要性を否定できないと、柔道整復治療が症状緩解に一定程度有用であったものと、その治療費の7割を損害と認めた ・昭和61年12月19日神戸地裁(交民集19巻6号1706頁) 頚椎捻挫等を受傷した被害者が外科医院での治療と重複して鍼灸整骨院で施術を受ける事案で、右鍼灸治療の医学上の必要性が認められないと過剰治療から請求が否認された。 ・昭和61年4月4日東京地裁(交民集19巻2号506頁) 頸椎捻挫の傷害を負った被害者が、病院での治療を中止し、理容師による整体術・マッサージを受け、薬剤を塗布するなどしていたため症状が悪化し、事故から9か月後に別の病院で約1年9か月間263日通院するも完治せず、12級相当の神経障害を残す事案で、初期のうちに十分な治療を受けなかった事が、治療長期化及び症状の増悪を招いたものと、被害者側の損害拡大の過失として3割減額して認定。 以上:2,873文字
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