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佐村河内守氏対プロモーション会社間訴訟第一審判決紹介5

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平成30年 2月18日(日):初稿
○「佐村河内守氏対プロモーション会社間訴訟第一審判決紹介4」の続きです。


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3 争点2(原告の損害額)について
(1)本件における損害の枠組みについて

ア 前記のとおり,本件公演は,平成26年2月2日までのものが実施され,同月23日以降のものは中止された。このことから,原告は,被告の不法行為により被った損害として,平成26年2月23日以降中止した本件公演に係る損害を主張している。
 しかし,本件において被告の原告に対する不法行為として捉えられるのは,被告が,告知義務に違反して,原告が多額の費用をかけ,多数の人が携わることとなる全国公演を行うことを了承し,さらには公演数を増やすように強く申入れるなどして本件公演の企画に積極的に関与し,それにより原告に本件公演を企画・実施するに至らせた行為であり,このような被告の行為がなければ,原告はそもそも本件公演を企画・実施しなかったと認められるものである。このような不法行為の内容からすると,原告の損害として捉えるべきは,本件公演を企画・実施しなかった場合と比べて,本件公演を企画・実施したことの全体によって生じた損害(実施分も含めて損益通算した損害)であると解するべきであって,中止された公演のみに着目し,その中止による損害のみを損害として主張する原告の上記主張は採用できない。他方,被告は,公演中止によって生じた損害と実施された公演から生じた利益との損益相殺を主張するところ,上記のとおり,原告の損害としては本件公演の企画・実施の全体から生じた損害を通算して把握すべきであるから,被告の損益相殺の主張自体は採用できないが,この主張は,実質的には上記で述べたのと同趣旨をいうものと解される。

 もっとも,原告は,各種の公演を企画・主催することを事業内容としているから,仮に本件公演を企画しなかったとしても,同じ時期に他の公演を企画・実施していたはずであり,それにより通常生じる利益を得ていたはずであると考えられる。そうすると,上記の損害として損益通算すべきは,〔1〕実施された公演については,通常得られる利益を超過して得られた利益を通算対象とすべきであり,〔2〕中止された公演については,売上げがない反面,経費は支出しており,また,同時期に他の公演を企画・実施する機会を逸し,突然の中止であったために他の公演で代替する余裕もなかったと認められるから,(a)純粋支出となった経費に加え,(b)他の公演を実施していれば通常得られたであろう利益を損害として通算対象とすべきである。

イ 他方,被告は,本件公演は著作権者から本件楽曲の利用許諾がされ実施可能であったにもかかわらず,原告の経営判断において実施しなかったものであるとして,上記〔2〕の本件公演の中止による損害は,被告の行為との間に相当因果関係はない旨主張してこれを争っている。

 しかし,前記1(3)イのとおり,平成26年2月5日に被告がP2に作曲を依頼していた事実を公表して以後,JASRACは本件楽曲の利用許諾を保留することを表明し,また,本件交響曲の楽譜管理会社においても,貸出しを中止することを発表していたのであるから,原告としては,楽譜の使用ができない上に,本件楽曲の著作権者が誰であるかについてさえ確たる認識を持つことは困難であったものといえ,実際,作曲行為をしたことが明らかなP2の許諾を受けていたわけでもない。また,本件公演は,上記認定事実のとおり,その広告やプログラムにおいて,従前から被告が公表していた全ろうによる作曲状況等を強調して実施されていたもので,それらが事実でないことが公に明らかとなった以上,本件公演の実施を継続することは,事実に反する宣伝に基づく公演を継続することを意味し,社会常識として許されることではなかったといえる。

 このような事情からすれば,原告が本件公演を実施することは社会通念上不可能であったといえ,本件公演の中止により被った損害は被告の不法行為と相当因果関係にあるといえる。

(2)本件公演中止による損害(前記〔2〕)について
ア 本件公演中止による逸失利益(前記〔2〕(b))4284万0846円

(ア)原告は,この損害項目について,中止された本件公演を実施していれば原告が得られたであろう利益であるとの趣旨の主張をするが,それは,契約上の履行利益の賠償を求めるものであるから,被告が主張するとおり,不法行為による損害賠償における損害としては請求できない。しかし,同じ逸失利益であっても,前記のとおり,原告が同時期に他の公演を企画・実施していれば通常得られたであろう利益であれば,不法行為に基づく損害賠償として請求することができると解され,原告の主張はこの趣旨を含むものと解される。

(イ)そして,原告が実施した本件公演により得た利益は,本件公演における販売実績が,近年原告が手掛けてきた音楽公演における販売実績を特に上回るものでないと認められること(甲175ないし甲180)からすれば,原告が通常行ってきた業務により得ていた利益と同視し得るものといえる。

 この点について,被告は,上記の近年の販売実績は著名なピアニストの公演であって,それのみによって通常の販売利益性を基礎付けることができない旨の主張をする。しかし,上記音楽公演は,中止された本件公演が予定していた時期の前年同時期である平成24年の3月から5月に原告が企画したコンサートであり,季節的な要素も考慮されている上,被告が指摘するピアニスト以外のアーティストの音楽公演も含まれており(甲180),そもそも原告は従前より人気の高いアーティストのコンサートを企画してきたことがうかがわれること(甲1)からすれば,上記の前年同時期の公演によるチケットの販売実績が特別なものではないといえ,被告の上記主張は採用できない。

(ウ)そうすると,本件公演により,他の公演を行う機会を逸したことにより原告が被った損害は,本件公演の予想利益の額とするのが相当であり,その額としては,次のとおり算定した金額を認めるのが相当である。

a 売上予定額
(a)中止された本件公演に係る売上予定額を算定するに,それらのうち,別紙公演目録記載1(2)及び2(2)の本件交響曲公演2回分と本件ピアノ公演3回分は,公演を販売して一定額を得る形での契約になっており,これらについては当初の販売額が売上予定額といえる。

(b)これに対し,その余のものは,チケットを販売する形による公演であることから,その売上予定額は,中止された本件公演に係る配券チケット売上高(チケットが完売した場合に得られる売上額)に,既に実施された本件公演に係る平均チケット売上率を乗じて算定するのが合理的である。
 そして,配券チケット売上高については,別紙売上予定額算定表の配券チケット売上高欄のとおりと認められ(小数点以下切捨て。甲39の2),平均チケット売上率については,実施された本件公演の実績値に基づき,実際のチケット売上合計額から販売手数料を控除した金額を,配券チケット数に各販売額を乗じた配券チケット売上高で除することにより算出すると,本件交響曲公演においては73.78%,本件ピアノ公演においては49.38%であることが認められる(甲55ないし甲70,以上の説明として甲138)。

(c)以上に基づき算定すると,売上予定額は,別紙売上予定額算定表のとおり,合計9337万1860円(小数点以下切捨て)となる。

b 経費
 本件交響曲公演における必要経費として予定されていたのは,指揮者の出演料,オーケストラ出演料(公演販売形式のものは除く。),楽譜借上げ費及び会場費であり,これらについては前例及び見積額による額を必要経費として認め,それ以外に原告従業員が公演に赴くための交通費等の経費が必要と認められ,これらの額は,証拠(甲39の3,甲40ないし甲52,以上の説明として甲138)によれば,別紙経費額算定表のとおり,合計で4433万6655円と認められる。

 また,本件ピアノ公演における必要経費として予定されていたのは,ピアニストの出演料,会場費,原告従業員が公演に赴くための交通費等の経費(「いずみホール」の公演についてはケータリング費)であり,これらの額は,証拠(甲71ないし甲74,甲75の1,以上の説明として甲138)によれば,別紙経費額算定表のとおり,合計で159万8380円と認められる。

 さらに,中止した本件公演に必要であったと認められる後記ケの広告費132万2718円,本件ピアノソナタ公演の出演者の交通費(国際航空券代)として13万3720円(甲75の2,甲138)が必要であったと認められる。また,後記5のとおり,本件公演の実施には,本件楽曲の利用の対価を支払う必要があるから,その額は,後記5のとおりの,JASRACの使用料規程(甲165)により算定するのが相当であり,各公演の入場料(税込み),座席数及び予定日は別紙売上予定額算定表に記載のとおりと認められるから(甲39の2),各公演の本件楽曲に係る使用料は,別紙中止公演著作物使用料のとおり,入場料(税抜き)の平均額に「定員数」を乗じて得た額から定められる「総入場料算定基準額」の5%に消費税を加えた「Z税込み」欄記載の額となり(平成26年3月までは消費税5%,同年4月以降は同8%として,いずれも小数点以下切捨て),公演を販売しているものについては,後記5で認定する実施した本件公演における使用料の平均額である,本件交響曲公演については1公演26万0535円,本件ピアノ公演については1公演15万2989円を認めるのが相当であるから(別紙著作物使用料算定表参照),これらの合計は,別紙中止公演著作物使用料のとおり,320万5128円となる。
 そうすると,必要と認められる経費額は,別紙経費額算定表のとおり,合計5059万6601円と認められる。

c 以上から,本件公演の中止による逸失利益として,上記9337万1860円から上記経費額の合計5059万6601円を控除した4277万5259円を損害と認める。

イ 本件交響曲公演のプログラムの販売不能による逸失利益(前記〔2〕(b))188万5313円
 原告は,本件交響曲公演のプログラム(甲79の2)を,本件公演の会場にて販売していたところ,本件公演の中止により同プログラムを販売する機会を逸したのであるが,原告が特別な公演を多く手掛けているとうかがわれること(甲1)からすると,公演に係るプログラムを公演会場で販売することは通常なされることであると推認されるから,その逸失利益は,上記ア同様,原告の損害と認めるのが相当である。

 そこで,まず,中止された本件交響曲公演で販売されたと見込まれる冊数について見ると,中止された本件交響曲公演の規模は現に実施されたものとさほど変わりないと認められるから(甲39の2),実施された本件交響曲公演における販売実績と同様の販売があったものと認めるのが相当である。そして,実施された14の本件交響曲公演において販売されたプログラムは,合計3520冊であることが認められるから(甲79の1,甲80ないし甲87,甲91の1,甲92ないし甲97),1回の本件交響曲公演における平均販売冊数は251冊であり,中止された10公演で販売されたはずの冊数は2510冊といえる。

 次に,中止された本件ピアノ公演において販売されたと見込まれる冊数について見ると、実施された3公演で販売された冊数は合計29冊と僅かであり(甲79の1,甲88ないし甲90),1回の平均販売冊数は9冊(小数点以下切捨て)であるから,中止の4公演で販売されたはずのプログラムは36冊であるといえる。
 そして,販売単価は1冊1000円であり,原告も認めるとおり,プログラム販売手数料を1割(100円)を差し引いて算定するのが相当であり,また,製作原価は1冊当たり159.5円であるから(甲79の1),損害額は,上記販売数2546冊分についての売上予定額からその販売手数料及び製作原価を差し引いた,合計188万5313円となる。 
(1000円-259.5円)×2546冊=188万5313円

ウ 返金したチケット返送料(前記〔2〕(a))5万8560円
 返金したチケット返送料は,原告が,本件公演が中止されたことにより支出した経費であることから,被告の不法行為と相当因果関係ある損害といえ,上記金額を損害と認める(甲38,甲103ないし甲106,以上の説明として甲138)。

エ ウを返金する際の振込手数料(前記〔2〕(a))2万0300円
 上記ウと同様の証拠により,ウを返金する際の振込手数料として上記金額を原告が支出したことが認められ,上記ウと同様,同額を損害と認める。

オ プレイガイドへ支払った手数料等(前記〔2〕(a))270万6243円
 中止となった本件公演について,原告は,各プレイガイドに対し,販売手数料,発券用紙代,払戻手数料の合計から,各プレイガイドにおける払戻未了金額を控除した上記金額を支出したことが認められ(甲38,甲107,以上の説明として甲138),同額を被告の不法行為と相当因果関係ある損害と認める。

カ オを返金する際の振込手数料(前記〔2〕(a))6988円
 上記オを返金する際の振込手数料として上記金額を原告が支出したことが認められ(甲107),上記オと同様の証拠により,同額を損害と認める。

キ 公演中止広告費(前記〔2〕(a))21万0000円
 原告は,本件公演の中止に伴い公演中止の広告を掲載したことにより上記金額を支出したことが認められ(甲38,甲108,以上の説明として甲138),同額を被告の不法行為と相当因果関係ある損害と認める。

ク 会場費(前記〔2〕(a))279万3040円
 証拠(甲38,甲46,甲47,甲49ないし甲52,甲74,甲75,甲109ないし甲112,以上の説明として甲138)によれば,原告は,本件公演実施のために契約していた公演会場について,公演の中止により既に支払って返済されなかった費用,あるいはキャンセル料として,合計279万3040円を支出したことが認められ,同額を被告の不法行為と相当因果関係ある損害と認める。

ケ 広告費(前記〔2〕(a))132万2718円
 原告は,本件公演のために広告費を支出したことが認められる(説明として甲138)が,ほとんどの広告は実施された公演を含む広告であることから,本件公演の中止による損害といえるものではなく,中止された本件公演のみのために追加的に支出したことが証拠により明らかな(甲117ないし甲122),別紙損害算定表の「ケ 広告費」に記載の広告について損害と認めるのが相当である(なお,原告が指摘する全国紙の地域別広告については,原告従業員の陳述書(甲138)に記載されているものが中止された本件公演のみのために支出したものと認めるに足りない。)。

コ 印刷費,デザイン費(前記〔2〕(a))
 原告は,印刷費及びデザイン費についても損害である旨主張するが,証拠(甲124ないし甲136)によれば,原告の主張する印刷費及びデザイン費は,いずれも実施した本件公演と共通するものであることが認められ,中止されたもののみのために追加的に支出したものではないから,被告の不法行為と相当因果関係ある損害とは認められない。

サ 本件公演中止による損害合計 5177万8421円
以上:6,397文字

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