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佐村河内守氏対プロモーション会社間訴訟第一審判決紹介4

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平成30年 2月17日(土):初稿
○「佐村河内守氏対プロモーション会社間訴訟第一審判決紹介3」の続きで、裁判所の被告の身体状況等と不法行為の成否の認定です。
被告の聴力に関して、普通の聴力検査の他に、耳と頭部等に電極を取り付け,ヘッドホンからの音による脳波の変化(聞こえると脳が反応して脳波に変化が生じる)により聴力を検査するABR(聴性脳幹反応検査)の結果も記述されています。幼児時代から大学時代までの右耳慢性中耳炎(化膿性中耳炎)、左耳滲出性中耳炎の結果、徐々に難聴が進行してきた私は、繰り返し数え切れないほど聴力検査を受けております。

○普通の聴力検査は、防音室に入り、耳にヘッドホンをかけて、出される音を聞こえたら灯りが点灯する合図スイッチを押す方式で、被検査者本人の主観で決まります。本人が聞こえているのに聞こえないふりをすればそれがそのまま検査結果になる実にいい加減な検査です。私の場合、特に右耳は常時耳鳴りがなっており、聴力検査で入ってくる微かな音が、耳鳴りなのか実際の音なのか判別できなくなるのが常で、どっちか判らないまま聞こえているとの合図スイッチを押すことが良くあります。従ってその検査結果は相当いい加減と言えばいい加減です。

○この本人の主観による検査ではなく、新生児や高齢者など、音が聞こえたかどうかを返事できない人に行なう音による脳波の変化を元にする聴力検査(他覚的聴力検査)であるABR検査(聴性脳幹反応)でないと正確な聴音検査はできません。被告はABR検査も受けており、その結果は、「右40デシベル,左60デシベルで,脳幹の下丘における反応を示すV波が確認できており,これは,2000から4000Hz領域において右30デシベル,左50デシベル程度の聴力があることを示している」と認定されています。「2000から4000Hz領域において右30デシベル,左50デシベル程度の聴力」は、軽度難聴にはなりますが、身体障害者にはなりません。

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(4)被告の身体状況等
ア 診断書

 被告の平成14年1月21日付けの「身体障害者診断書・意見書(聴覚障害用)」(以下「平成14年診断書」という。)には,障害名を「聴覚障害」,原因となった疾病・外傷名として「感音性難聴」,疾病・外傷発生年月日として「左昭和60年,右平成9年」,参考となる経過・現症として,「24才時左聴力低下 34才時右聴力低下,大学病院で加療するが改善なし」,総合所見として,「右101.3dB,左115dBで身障2級に該当する」と記載されている(乙10)。

 被告の平成26年2月21日付けの「身体障害者診断書・意見書(聴覚障害用)」(以下「平成26年診断書」という。)には,障害名を「聴覚障害」,原因となった疾病・外傷名は「不明」,参考となる経過・現症として,「純音聴力検査:右48.8dB,左51.3dB,語音聴力検査(最高明瞭度:右71%,左29%)」,「ABR域値:右40dB,左60dBにおいてV波確認,DPOAE:両側とも反応良好」などの記載があり,総合所見として,「聴覚障害に該当しない」とされ,身体障害者福祉法第15条第3項の意見として,障害の程度は同法別表に掲げる障害に該当しないと記載されている(乙11)。

イ 放送倫理・番組向上機構の放送倫理委員会による耳鼻咽喉科専門医からの聞き取りやこれまでの事実関係を踏まえての報告書には次のような記載がされている。
(ア)専門医の意見
 両耳が純音聴力検査で100デシベルを超えるような高度の感音難聴は,内耳の有毛細胞(物理的な振動を電気的な神経の信号に変換する細胞)の破壊がないと起こり得ないものであり,有毛細胞は自然に再生することはあり得ないから,このような高度の感音難聴が自然に改善することは,現在の医学的知見ではまずあり得ない。平成14年診断書において,100デシベル以上の結果が出ている理由としては,軽度から中等度の感音難聴に加え,機能性難聴(心因性難聴又は難聴であることを偽る詐聴)を合併したものと考えられる。

 平成26年診断書においては,自覚的な検査のほかに、他覚的な検査が行われており,耳と頭部等に電極を取り付け,ヘッドホンからの音による脳波の変化(聞こえると脳が反応して脳波に変化が生じる)により聴力を検査するABR(聴性脳幹反応検査)では,右40デシベル,左60デシベルで,脳幹の下丘における反応を示すV波が確認できており,これは,2000から4000Hz領域において右30デシベル,左50デシベル程度の聴力があることを示している。また,DPOAE(歪成分耳音響放射)では,反応良好となっているが,40デシベル以上の難聴の場合,一般に反応は減弱又は反応欠如となる。このような検査結果を総合すると,被告は,現在,軽度から中等度の難聴があると考えられる。(甲183・30頁)。

(イ)文献の記載
 平成11年8月に発行された雑誌「放送技術」において,被告が明らかに聞こえていることを前提としたマスタリング作業時に視聴している姿,打合せの様子,マスタリング後の楽曲を視聴している姿等の写真が掲載されており,急性難聴になった後の状況について,被告は,悪い時もあるが大分いいと述べており,補聴器や筆談によるインタビューをうかがわせるような記載がない(甲183・31頁)。 

(ウ)結論
 上記の結果から,平成11年8月頃に被告に聴力があった時期があることは明らかで,また,専門医の意見によれば,被告に高度の感音難聴があったとは認められず,平成14年当時の診断結果が,軽度から中等度の難聴に加えて機能性難聴(心因性難聴又は難聴であることを偽る詐聴)を合併したものと考えられるとのことからすれば,平成11年以降被告がずっと全ろうのまま作曲をしていたことは虚偽の事実である(甲183・31から32頁)。

(5)本件楽曲の著作権
ア 被告とP2は,JASRACに対し,被告を作曲者として作曲届を提出した全ての楽曲について,それらの著作権ないしその持分権(著作権法27条及び同法28条に規定する権利を含む。)がP2から被告に譲渡済みであり,著作権が全て被告に帰属していることを相互に確認するとの平成26年12月11日付け確認書(以下「本件確認書」という。)を作成した(乙4)。

イ JASRACは,同月31日付けで,被告との間の著作権信託契約を解除した(甲184)。

2 争点1(被告による不法行為の成否)について
(1)原告は,被告が公表していた,本件楽曲が被告自ら作曲した作品であること,被告が全ろうの中,苦労をして絶対音感を頼りに作曲した状況がいずれも虚偽であり,このような虚偽の説明を前提に原告に本件公演の実施を許可し,さらには公演を増やすよう申入れるなどして本件公演の実施に深く関与した行為が,不法行為である旨主張し,被告は,原告が主張するいずれの事実も虚偽ではないし,そもそも本件楽曲に関する明確な著作物利用契約まで成立したとはいえないまま本件公演が行われたのであるから被告に告知義務違反もないなどとしてこれを争っている。

(2)そこでまず,本件公演を行うに当たっての原告及び被告の認識を検討するに,前記認定事実によれば,原告が被告に対して本件交響曲公演の提案をした平成25年3月頃までに,被告が平成11年頃に全ろうとなり,耳鳴り,偏頭痛,頭鳴症等に悩まされながら,内側からの音を記譜することにより作曲活動を行ったという経緯が,全国紙や雑誌,全国放送のテレビ番組等で度々取り上げられるなどしたことから,そのような被告の作曲家としての人物像や作曲の状況が公衆にも相当知られるところとなり,それとともに,著名レコード会社から発売されている本件交響曲のCDもクラシック音楽においては異例の売上げとなっていたことが認められる。

 このような経緯に加え,本件公演の広告の内容からすると,国内外の音楽家の演奏会の企画・主催等を行うことを業とする原告が,全国で30回以上の本件楽曲の演奏会を企画するに当たっては,作曲者とされていた被告のこのような人物像や作曲状況を前提とし,この点が広く知られていることが重要な事情となっていたものと認められ,仮にこれらの事情が事実でなかった場合には,本件公演を企画しなかったであろうと認められる。そして,被告においても,自らが多数のメディアに取り上げられていた状況等を認識した上で,原告に対して公演回数の増加を強く要求したことからして,原告からの本件交響曲公演の提案が,被告が公表していた被告の人物像や作曲状況を前提とし,それを重視していたものであることについて,当然承知していたものと認められる。

 なお,被告は,本件公演に関して原告が作成して記名押印の上で被告に交付した契約書(乙1,乙2)に被告が署名押印をしていない点を指摘して,本件楽曲についての著作物利用契約が成立していないまま本件公演が行われたと主張する。しかし,前記認定事実のとおり,被告は,原告からの本件交響曲公演の提案に対し,指揮者等について希望を伝えてその交渉に応じ,平成25年3月24日には,原告に対し,本件交響曲公演の開催が決定である旨のメールを送信して本件交響曲公演の実施に同意することを明確に示している上,同月28日に本件交響曲公演の日程,広告予定等を受け取り,同年5月には本件ピアノ公演の企画が追加されたのに対し,同月から同年7月にかけて,本件ピアノ公演及び本件交響曲公演の回数をいずれも増やすよう,原告に強く要請し,原告はこの要請に応じて本件公演を実施していき,被告から特段の異議が出された形跡もないのであるから,被告は,本件楽曲の作曲者として,原告に対し,本件公演における本件楽曲の利用を許諾し,本件公演の実施を了承していたと認めることができ,被告の上記主張は採用できない。

(3)次に,前記(2)の前提とされた状況について検討する。
ア まず,被告の聴力については,本件交響曲が作曲された時期に作成された平成14年診断書では,感音性難聴を原因とする聴覚障害により身体障害2級に該当するとされている。しかし,脳波の反応による客観的な検査が行われた平成26年診断書においては,右が40デシベル,左が60デシベルで脳波の反応が確認されているところ,専門医の意見によれば,これは,ある領域においては右が30デシベル,左が50デシベル程度の聴力があることを示しているものであること,被告自身も3年前から聴力が戻っていると述べていることから,平成26年2月頃において,被告は軽度から中等度の難聴にあったが,全ろうといえるような状況ではなかったと認められる。

 このような被告の状態に加えて,平成14年診断書に記載されているような100デシベルを超えるような感音性難聴の場合,自然に改善することは現在の医学的知見ではあり得ないとの専門医の意見や,平成11年8月頃に聞こえない状況になかったことがうかがえることからすると,平成14年診断書の記載はこれを採用することができず,平成14年当時,高度の感音性難聴が被告にあったとは認められない。また,平成14年診断書の結果は,軽度から中等度の難聴に加え機能性難聴(心因性難聴又は難聴であることを偽る詐聴)を合併したものと考えられるとの専門医の意見からしても,平成11年以降,被告が全ろうの状態で作曲していたという事実を認めることはできない。この点について,被告の妻である証人P5は,平成13年末頃までに被告は全ろうに近い状態となったと証言するが,上記に照らし,採用できない。
 したがって,平成11年以降,被告が軽度から中等度の難聴であったことは事実であるといえても,全ろうの音が聞こえない状態であった点は事実でなかったといえる。

イ また,被告は,全ろうの状態で,耳鳴り,偏頭痛,頭鳴症等に耐えながら被告自身が内から聞こえる音を記譜して本件交響曲を作曲したと公表していたが,前記認定事実によれば,被告が本件交響曲について関与したのは,本件指示書を渡すなどしてP2に指示を与え,また,被告が本件交響曲における鐘の音を入れたことにとどまる。また,ピアノ・ソナタ第2番についても,モチーフの選択やその順序等について指示をしていたにとどまる。したがって,被告が上記の状況で本件楽曲を自ら作曲したとの点も,事実でなかったといえる。

 この点について,証人P5は,被告は平成15年に完成した本件交響曲についてもシンセサイザーでメロディーを作りオーケストレーションもしており,それを録音したものを聴いたことがあるなどと証言し,陳述(乙22)している。しかし,被告がP2に作曲を依頼したことを発表した直後の会見において被告が述べていたのは,本件指示書等による指示をしたことのみであり,シンセサイザーによる作曲については何ら触れられておらず(甲172),むしろ,被告には絶対音感がなく,オーケストラ曲を作ることができなかったことから設計図を示してP2に音符を書いてもらった旨を述べていたことからすると,証人P5の上記証言は直ちにこれを採用することはできず,その他,本件楽曲につき,鐘の音以外のメロディー等を被告が作成してP2に提供したことを裏付ける証拠は提出されておらず,そのような事実を認めることはできない。

 また,同証人は,近年のドキュメンタリー映画の中で被告が自ら新曲を作曲する過程が描かれたと陳述し(乙22),その楽曲の「音楽著作権使用料支払いに関する覚書」も提出されている(乙23)。しかし,それは,当該楽曲についてのことであるにとどまり,それをもって本件楽曲の作曲過程についての前記の認定判断が左右されるものではない。

(4)以上のとおり,被告が公表し,多数のメディアで紹介されていた被告の人物像や作曲状況は,原告が本件公演を企画するに当たっての重要な前提事情であり,それが事実でない場合には,原告が本件公演を企画・実施することはなかったものであるが,被告は,そのような事情を知りながら,本件公演を実施することを了承したにとどまらず,特定の指揮者の選定や公演回数の増加を強く要求するなど,本件公演の企画に積極的に関与したといえる。これに加え,上記の前提事情が事実でないことが公となった場合には,それまでの新聞や雑誌の掲載,テレビの番組放映等の数,これらに対する反響の大きさからして公演を実施することができなくなり,予定公演数の多さから原告に多大な損害が発生するであろうことは,容易に思い至ることができたものであったといえることを併せ考慮すると,本件公演の企画に対する上記のような関与をするに当たり,被告において,これまで公表していた被告の人物像や作曲状況が事実とは異なることを原告にあらかじめ伝え,その内包されるリスクを告知する義務があったものというべきである。

 したがって,被告がこの義務に反して事実を告げず,原告が多額の費用をかけ,多数の人が携わることとなる全国公演を行うことを了承し,さらには公演数を増やすように強く申し入れるなどして本件公演の企画に積極的に関与し,それにより原告に本件公演を企画・実施するに至らせた行為は,原告に対する不法行為を構成すると評価するのが相当である。

(5)これに対し,被告は,原告が本件楽曲の利用許可を求めたという平成25年においても中等度以上の感音性難聴であり,聴覚障害のレベルに変化があったとしてもこれを積極的に話す必要はなく,また,被告は本件交響曲の共同著作者であるから,P2と合意の下で被告を作曲者として表示することは何ら違法ではないなどとして,被告の行為が不法行為に当たらない旨主張する。

 しかし,被告は,そもそも,調性音楽を目指し,全ろうの状態で,外からの音が聞こえない状態にあることを前提に,内からの音を絶対音感を頼りに記譜という方法で作曲したと説明し,テレビ番組においても,白い五線紙を前にした姿や,出来上がった楽譜を前にする姿等を撮影させていることからすれば,被告は,それらに接した者に,聴力を失ったにもかかわらず,各種の作曲技法を用いて自ら楽曲を創作し,本件楽曲の記譜も被告自身が行っていたとの意味で,全ろうの作曲者であると理解させ,また,各種メディアもその感動性に着目して広く取り上げていたものと認められる。

 それが,実際に作曲技法を用いて楽曲を具体的に創作し,記譜までしたのは別人のP2であり,被告が行ったという本件指示書等による関与は,楽曲の創作であるかどうかを争われるような指示にすぎず,しかも,全ろうといえるような状態にもなかったのであるから,作曲されたとされる当時に被告が軽度から中等度の難聴であり,また,仮に被告の関与が本件楽曲につき著作権法上の創作行為として肯定され,共同著作者とされることがあったとしても,被告の行為が不法行為を構成するものであることに変わりはないというべきである


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