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もやもや病脳内出血死亡に医療過誤が認められた判例紹介3

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平成29年10月 5日(木):初稿
○「もやもや病脳内出血死亡に医療過誤が認められた判例紹介2」の続きです。長い判例で、全文を5回に分けて紹介します。


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(3)争点(3)(因果関係)について
(原告らの主張)
ア Z4が死亡したのは,10月18日にもやもや病によって脳室内出血を起こし水頭症を発症したが,水頭症の治療がなされなかったことにより脳圧が亢進し,10月23日午後5時以降に痙攣発作を発症し,この痙攣発作に対しても何らの対応がとられなかったことにより脳腫脹のためさらに脳圧が亢進して,10月24日の広範な脳梗塞を発生させたためである。
 他方,学童期発症のもやもや病は,水頭症を発症したとしても,急性期管理が適切であれば,血行再建術を実施するなどにより,運動麻痺が残存することがあったとしても,生命予後は良好である。

イ 水頭症、頭蓋内圧亢進の管理に係る注意義務違反と死亡との因果関係
 Z4に対して,水頭症と頭蓋内圧の管理がなされ脳室ドレナージが実施されていれば,10月23日の痙攣発作が起きなかったか,起きてもすぐに頭蓋内圧亢進症状に対応可能であったから,広範な脳梗塞に至ることはなく,死亡を免れたことは明らかである。 

ウ 痙攣への対応に係る注意義務違反と死亡との因果関係
(ア)10月23日午後5時頃に痙攣が発生したときに,直ちに抗痙攣薬を投与して痙攣を止め,原因の精査のため速やかにCT,或いは可能ならばMRIにより脳の画像診断を行い,頭蓋内圧亢進が疑われれば,必要に応じて減圧開頭術,脳室ドレナージ又は投薬などの頭蓋内圧亢進を改善するような管理をされていれば,広範な脳梗塞に至ることはなく,死亡することはなかった。

(イ)被告は,10月23日午後5時以降の痙攣の前に既に広範な脳梗塞が発生していた可能性があると主張する。
 しかしながら,Z4の死亡の原因となった脳梗塞は,右大脳半球及び左前大脳動脈領域,左中大脳動脈領域という広範な脳梗塞であり,このような脳梗塞が生じれば,患者は意識障害や失語等の神経症状を呈すると考えられるところ,Z4は,痙攣発症の直前に会話が成立しており,痙攣発生後にも発語が見られ,また,10月23日午後5時頃の痙攣発生以後,10月24日午前7時30分の硬直性痙攣まで痙攣の頻度は徐々に頻回になり,重症化している。
 したがって,上記被告の主張は,論理的な可能性を示すにとどまり,本件には妥当せず,10月23日午後5時頃に直ちに抗痙攣薬を投与して痙攣を止め,原因精査のため速やかにCT又はMRIにより脳の画像診断を行い頭蓋内圧亢進が疑われれば,必要に応じて減圧開頭術,脳室ドレナージ又は投薬などの頭蓋内圧亢進を改善するような管理をし,そうすれば,このような広範な脳梗塞に至ることはなく,Z4は死亡することはなかったし,少なくとも死亡しなかった相当程度の可能性はある。

(被告の主張)
ア 争う。

イ Z4については,広範な脳梗塞が痙攣発作よりも先に発症していた可能性もあり,その場合には,痙攣発作に対する対処をしていたとしても,救命は不可能である。
 原告らは,10月23日午後5時以降に広範な脳梗塞が発生したと主張するが,脳梗塞は急激に発症するものであるから,直前に会話が成立していたとしてもその後に急激に発症することはあり得るし,意識障害の呈し方は様々であるから発語があるというだけで脳梗塞の発症が否定されるわけではないし,また,痙攣の重症化は脳梗塞ではなく痙攣重積によるとの説明が可能である。

ウ 原告らが主張する頭蓋内圧亢進を疑わせる所見とは脳梗塞の所見であると考えられるところ,CT検査で脳梗塞を確認できるまでには発症から時間的乖離があることから,痙攣を止めて直ちにCT検査を行ったとしても発症直後の脳梗塞は描出されないし,脳梗塞の発症前であれば,CT検査で頭蓋内圧亢進の所見を確認することができない。また,当時,被告病院では,休日夜間にすぐにMRI検査を行える体制になかったので,仮に広範な脳梗塞が痙攣発作よりも後に発症していたとしても,MRIの撮影時には既に広範な脳梗塞による脳の不可逆的変化が完成していた可能性がある。
 したがって,仮に広範な脳梗塞が痙攣発作よりも後に発症していたとしても,因果関係はない。

(4)争点(4)(損害)について
(原告らの主張)
ア 前記(1)及び(2)で主張した被告病院の医師及び看護師の注意義務違反によりZ4が被った損害は,以下の(ア)ないし(カ)のとおりであり,6199万9225円となるところ,原告らは,相続により,各2分の1の割合で,Z4の下記各損害賠償請求権を承継した。
(ア)付添看護費 9万8000円
 Z4は,10月18日から同月31日までの14日間入院し,その間原告らの付添看護を要したところ,1日当たりの金額は7000円が相当であるから,付添看護料に係る損害は9万8000円である。
(イ)入院雑費 2万2400円
 Z4は,前記(ア)のとおり14日間入院したところ,入院雑費を1日1600円の割合で計算すると,上記金額となる。
(ウ)葬儀関係費 170万円
(エ)逸失利益 3501万8825円
 基礎収入を平成23年全労働者平均賃金である470万9300円,生活費控除率を3割として,ライプニッツ係数により中間利息を控除して,7歳から67歳に達するまでの逸失利益を算定すると,次の計算式のとおりとなる。
(計算式)470万9300円×0.7×10.623=約3501万8825円
(オ)入院慰謝料 16万円
(カ)死亡慰謝料 2500万円

イ 原告ら固有の慰謝料 各300万円
 原告らは,Z4の入院中,ずっと付添をしており,とりわけ痙攣発作を起こした10月23日から同月24日にかけては,Z7医師の指示を守り,夜通し細かく痙攣の様子・時間を記録し,医師の診察を何度も訴えたが,被告病院の医師らには何の対応をしてもらえないまま14時間半も放置された挙句に愛娘を失ったものであり,こうした経過は,原告らに筆舌に尽くしがたい後悔と苦悩を残した。したがって,これを慰謝するには少なくとも,原告らに対して各300万円の支払いがされなくてはならない。

ウ 弁護士費用 各339万円

(被告の主張)
 不知ないし争う。

(5)争点(5)(期待権侵害の有無)について
(原告らの主張)
 仮に前記注意義務違反(2)とZ4の死亡との間に相当程度の可能性すら認められないとしても,14時間半におよび長時間痙攣発作を放置したことは「医療の名に値しない」ものであり,「著しく不適切なもの」として,同医療行為自体が損害賠償の対象となる。

(被告の主張)
 争う。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実,証拠(甲A7,9,甲B1,2,5,11,12,15,乙A1,3,乙B2の1,乙B5)及び弁論の全趣旨によれば,以下事実を認めることができ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
(1)診療経過
 Z4の被告病院における診療経過は,別紙診療経過一覧表記載のとおりである。
ア 10月18日
(ア)Z4は,午前9時頃から頭痛があり,午後4時頃に2回転倒し,同日午後4時20分頃には頭が痛いと激しく啼泣した後嘔吐して反応が低下したことから,被告病院に救急搬送された。

(イ)被告病院脳神経外科の医師は,午後5時18分,Z4に対し,CT検査を行ったところ,被告病院放射線科の医師は,右基底核領域背側の脳出血,脳室内穿破と診断した。
 なお,上記CT画像を含め,以後,10月22日までの間に被告病院において実施された合計5回のCT検査のいずれにおいても,Z4の側脳室下角は2mm以上であったが,このことは診療録には記載されておらず,また,いずれのCT画像においてもシルビウス裂及び大脳の脳溝が描出されている。

(ウ)Z4は,同日午後6時,被告病院ICUに入院となり,被告病院脳神経外科のZ5医師が主治医となった。
 入院の際に行われたカンファレンスでは,頭蓋内圧亢進症状に注意し,異常の早期発見に努める必要があるとされていた(乙A1・367頁)。

(エ)Z5医師は,午後6時27分,Z4に対し,CT検査(造影3D)を行ったところ,被告病院放射線科の医師は,もやもや病の疑いがあると診断した。
 Z5医師は,前記(イ)の脳出血により左片麻痺,意識障害などが出現しており,その原因としてもやもや病が疑われることから,以後,さらに精査し,治療を計画することとした。また,出血が脳室にも及んでいることから水頭症になる可能性があるとして,その際にはすぐにドレナージ術を行うことにした。そして,原告らに対し,現在の症状が後遺症として残る可能性があると説明した。(乙A1・332頁)

(オ)Z4は,午後8時15分,午後9時15分,午後10時に嘔吐し,午後10時の嘔吐後には,意識レベルが低下し,しばらくしても改善せず,右上下肢の不随意運動がみられた(乙A1・323,451頁。別紙診療経過一覧表)。
 そのため,被告病院脳神経外科のZ10医師は,午後10時3分,緊急CT検査を行ったところ,被告病院放射線科の医師は,脳室拡大の進行はなく,脳出血と脳室内穿破のいずれも著変はないと読影した(乙A1・324,405頁。別紙診療経過一覧表)。
 Z10医師は,上記CT検査の結果につき,Z5医師に確認をしたが,Z5医師は,水頭症はないものと判断し,経過観察とした(乙A1・323頁)。

イ 10月19日
 Z5医師は,午前10時3分,Z4に対し,MRI・MRA検査及びCT検査を行った。被告病院放射線科の医師は,上記MRI・MRA画像につき,右半卵円中心,右尾状核,右視床内側の比較的新しい脳梗塞が生じていること及びもやもや病等の鑑別が必要であることを読影した。また,上記CT画像につき,新たな脳梗塞が明瞭化したこと,脳出血と脳室内出血には著変ないこと,脳室拡大は見られないこと及び中心構造が若干左側に偏位していることを読影した(乙A1・408頁,409頁)。
 Z5医師は,上記MRI・MRA,CT検査の結果から,もやもや病が疑われるが,出血が止まり,水頭症もないと判断したため,脳梗塞に対してはラジカット及びグリセレブを処方して保存的治療を,麻痺に対してはリハビリ治療を,頭痛及び吐き気には対処療法を行い,出血と梗塞が落ち着いたら精査することとした(乙A1・302頁)。
 Z4は,午後2時頃,ICUから一般病棟へ転棟した。
 被告病院における10月19日のカンファレンスでは,Z4については,頭蓋内圧亢進状態を含め,全身状態を密に観察していく必要があるとされていた(乙A1・290,323頁,乙A3)。

ウ 10月22日
(ア)Z4は,午後1時頃,左眼の対光反射が午前に比べ少し反応が鈍く,瞳孔左右差があり(右3.5mm
左4mm),左右上肢に触れながらどこに触れているか問いかけたのに対して,触られていることは認識できるが,その部位の名前が出てこなかったり,違う部位の名前を答えてしまう状態であった(乙A1・256頁)。

(イ)被告病院脳神経外科のZ11医師(以下「Z11医師」という。)は,午後1時46分,Z4に対し,CT検査を実施したところ,被告病院放射線科の医師は,脳梗塞がさらに明瞭化したこと,脳出血は著変ないこと,脳室内出血はわずかに軽減したこと,脳室拡大は見られないこと及び中心構造が若干左側に偏位していることを読影した(乙A1・410頁)。
 Z11医師は,新たな異常は認めないとして,経過観察とした(乙A1・258頁)。

エ 10月23日
(ア)Z4は,午後5時頃,足をばたつかせ目は虚ろな状態で,「あつい,あつい…足あつい…あつい。」などと発言したが,Z6看護師が右足底部をクーリングすると,そのまま発語,体動なく,眠りについた。その後Z4は,午後5時55分,「やめて,そんなことをしないで,いやだ,いやだ,いやだ…」と叫び,ベッド柵を蹴とばすような仕草で右足をばたつかせ,右手で顔面や頭部を掻いたり,ベッド柵に叩きつける仕草をし,付き添っていた原告Z1がなだめて声をかけても視線を合わせず,つじつまの合わないことを言い続け,しばらくすると,眠るような状態であった。このとき対光反射の反応が鈍く,眼球が上転し,追視できないことが確認されている。

(イ)その後も,上下肢をばたつかせる,視線が合わない,目を閉じてぐったり動かなくなるなどの状態が続いた。

オ 10月24日
(ア)原告Z1が,午前0時10分頃,Z6看護師に連絡し,同看護師が当直医であるZ7医師にZ4の診察を依頼したところ,Z7医師は,午前0時45分頃からZ4の診察を行った。
 Z7医師が午前0時45分に訪室した際にはZ4の不随意運動は停止し,両上下肢を伸展させ閉眼していたが,午前0時50分から,5分間,不随意運動があり,その際,呼びかけへの反応はなく,開眼し,眼球は左方に偏位していた。その後,Z4の不随意運動は停止し,再び上下肢を伸展し,閉眼して眠りについた。Z7医師は,Z6看護師に対し,不随意運動が再度起こるようであれば,症状等の観察を行いながら,運動に伴う外傷や呼吸困難に注意し,経過観察をするよう指示した。(乙A1・236頁)
 また,Z7医師は,原告らに対し,Z4の不随意運動の様子を記録するように指示し,以後,原告らは,これを記録していた(甲A7,9)。

(イ)Z4は,午前7時45分頃,被告病院脳神経外科のZ9医師により抗痙攣薬セルシンが投与された。

(ウ)Z5医師は,午前11時10分頃,Z4に対しCT検査を実施したところ,被告病院放射線科の医師は,水頭症は明らかでないと診療録に記載し,新たに広範な脳梗塞又は痙攣後脳症が生じたが,脳出血及び脳室内出血並びに脳梗塞には著変ないと診断した(乙A1・412頁)。

(エ)Z5医師は,右脳を中心に広範囲に及ぶ脳梗塞の増悪が認められたため,午後3時3分,Z4に対し,緊急減圧開頭術を実施し,両側脳室ドレナージの留置を行った(乙A1・206~207頁)。

カ Z4は,同月27日に自発呼吸が喪失,同月28日には全脳死状態となり,同月31日午前11時10分に死亡した。


以上:5,842文字

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