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もやもや病脳内出血死亡に医療過誤が認められた判例紹介2

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平成29年10月 4日:初稿
○「もやもや病脳内出血死亡に医療過誤が認められた判例紹介1」の続きです。


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4 争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(水頭症,頭蓋内圧亢進の管理に係る注意義務違反の有無)について

(原告らの主張)
ア Z4のもやもや病の急性期管理について
(ア)もやもや病の患者は,脳灌流圧が低く,脳梗塞を発症しやすいところ,頭蓋内圧が上昇すると,もともと低い脳灌流圧がさらに低下するから,わずかな頭蓋内圧亢進でも脳梗塞を発症し又は既に発症している脳梗塞の悪化をもたらすことがある。脳梗塞は,急性期に頭蓋内圧を亢進させるおそれがあり,生命に危険を及ぼすことがあり得る。
 脳室内出血は,水頭症に至る危険があるところ,水頭症となれば頭蓋内圧が亢進する。
(イ)Z4は,もやもや病で,脳梗塞,脳室内出血も起こしていたのであるから,厳重に頭蓋内圧の管理をすることが必要な患者であった。

イ 10月19日までに水頭症と診断して脳室ドレナージなどの急性期管理を実施すべき注意義務違反
(ア)水頭症を発症すると,頭蓋内圧が亢進し,脳虚血・脳梗塞に至る危険があるため,脳室ドレナージなどを実施して,頭蓋内圧のコントロールを行わなければならないところ,前記アのとおり,もやもや病患者で脳梗塞及び脳室内出血も起こしていたZ4が水頭病を発症した場合には,とりわけ,すみやかに頭蓋内圧を適正に保つ必要がある。
(イ)以下のとおり,Z4について,〔1〕CT上側脳室下角拡大の所見があったこと,〔2〕頭蓋内圧亢進症状が継続していたこと及び〔3〕もやもや病による脳出血(脳室内穿破),脳梗塞を起こしていたことから,Z5医師は,10月18日,遅くとも10月19日には,水頭症であると診断することが可能であった。
a CT上側脳室下角拡大の所見があったこと
 小児の場合,CT
MRI画像上,側脳室下角が幅2mm以上であるときは,水頭症を疑う脳室拡大であるところ,Z4については,10月18日及び10月19日に撮影された4回全てのCT画像上,側脳室下角が幅2mm以上に拡大していた。
 被告は,Z4が甲B2に記載されている水頭症の判定基準を満たさないと主張するが,同基準は,主に成人を対象とした完成した慢性期の水頭症の場合にCT画像によって水頭症を判断する場合の基準であり,Z4のように,発症したばかりの急性期の水頭症の場合にはそのまま当てはまらない。また,Z4のCT画像上シルビウス裂及び大脳の脳溝が確認できる(なお,大脳半球間裂は見えていない。)が,Z4が7歳であったこと,Z4の脳室内出血が穿破していたこと及び一連のCT画像は水頭症の発症直後ないし数日内に撮影されたものであることなどから,シルビウス裂及び大脳の脳溝が確認できることは,水頭症の発症と矛盾しない。

b 頭蓋内圧亢進症状が継続していたこと
 水頭症では,頭痛,嘔吐・嘔気及び意識障害などの頭蓋内圧亢進症状を呈するところ,Z4には,10月18日及び10月19日にこれらの症状が見られていた。

c もやもや病による脳出血(脳室内穿破),脳梗塞を起こしていたこと
 脳室内出血は,水頭症を発症する原因となる疾患の一つであり,水頭症を合併しやすいところ,Z4は,10月18日に脳室内出血と診断されていた。
 また,もやもや病が脳出血や脳梗塞の原因疾患である場合,当該患者は水頭症になりやすいところ,Z4は,遅くとも10月19日の時点でもやもや病が疑われており,同日のCTでは脳梗塞も確認された。

d 画像上髄液が確認できるとの被告の主張について
 被告は,CT,MRI画像上髄液の灌流が確認できることからZ4は閉塞性水頭症を発症していなかったと主張するが,原告らは,閉塞性水頭症の発症に限定した主張をしているものではなく,交通性及び非交通性の水頭症を区別して主張するものではない。
 また,画像上血腫の周囲に髄液が確認できることは,血腫によって髄液の流れが完全に閉塞しているわけではないということにすぎず,髄液の交通障害も吸収障害も否定されないから,水頭症を否定する根拠とはならない。
 さらに,被告は,10月18日,10月19日,10月24日のCT画像を比較して側脳室下角の拡大が小さくなっている又は拡大していないから,髄液の流れは改善していたと主張するが,比較するCT画像の断面位置(高さ)が同一ではないため,これらの画像を比較して空間の広狭を論じることは全く無意味である。

(ウ)したがって,Z5医師には,10月18日,遅くともMRI
MRA検査でもやもや病との診断がなされた10月19日には,Z4につき,水頭症と診断した上,直ちに脳室ドレナージなどの急性期管理を実施すべき注意義務があった。

(エ)しかしながら,Z5医師は,水頭症との診断を行なわず,脳室ドレナージも実施せずに,上記注意義務に違反した。

ウ 10月23日午後5時頃までに脳室ドレナージなどの頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務違反
(ア)以下のとおりのZ4の症状及び画像所見に照らせば,10月19日以降も,10月23日午後5時頃の痙攣発作に至るまで,Z4の頭蓋内圧はさらに亢進していたことは明らかである。
a 頭蓋内圧亢進症状の継続,増悪化
 頭痛,嘔気,嘔吐及び意識レベルの低下は,頭蓋内圧亢進の症状であるところ,Z4には,10月18日から頭痛,嘔気,嘔吐の症状が見られ,10月19日以降においてもこれらが継続し,10月21日,22日,23日には意識レベルの低下も見られた。

b 側脳室下角の拡大
 10月18日から10月22日までに被告病院において撮影されたCTのいずれにおいても,側脳室下角の拡大が見られるが,これは,頭蓋内圧亢進を疑わせる所見である。

c ミッドラインシフト
 ミッドラインシフトは,脳梗塞による脳浮腫が疑われる所見であり,脳浮腫は頭蓋内圧亢進を来すものであるところ,10月19日及び10月22日に撮影したCTではミッドラインシフトが見られた。

(イ)前記アのとおり,Z4については,厳重に頭蓋内圧を管理すべきであったところ,前記(ア)のとおり,頭蓋内圧亢進を示す症状及び画像所見があったのであるから,Z5医師には,10月19日以降も10月23日午後5時頃に痙攣発作を起こすまでに,脳室ドレナージなどによる頭蓋内圧の管理をすべき注意義務があった。

(ウ)しかしながら,Z5医師は,脳室ドレナージなどを実施せず,頭蓋内圧亢進を放置して,上記注意義務に違反した。

(被告の主張)
ア 10月19日までに水頭症と診断して脳室ドレナージなどの急性期管理を実施すべき注意義務違反について
 後記(ア)ないし(ウ)のとおり,Z4は,水頭症を発症していないから,Z5医師には,水頭症と診断の上,脳室ドレナージを実施すべき注意義務はなかった。
(ア)CT上脳室拡大所見がなかったこと
 水頭症の発症を判断するには,側脳室下角の拡大のみならず,他の脳室のサイズや,脳室拡大の有無に関する継続的な観察が必要である。

a 水頭症の診断の前提となる脳室拡大の所見は,〔1〕側脳室下角が幅2mm以上であることに加え,〔2〕シルビウス裂,大脳半球間裂,大脳の脳溝がみえないこと又は〔3〕FH
ID比が0.5以上であることを要する(甲B2)。
 Z4の画像所見上,側脳室下角が2mm以上写っているが,Z4の側脳室下角がもともと大きかった可能性はあるし,成長過程の子供の場合,脳と頭蓋骨の成長の速さが異なり,脳室に隙間が生じる場合があり,側脳室下角の拡大が無くても,CT上側脳室下角が確認できることはある。
 また,Z4の画像所見上,〔2〕シルビウス裂,大脳半球間裂,脳溝が描出されており,〔3〕FH
IDは0.4を超えていない。
 したがって,Z4のCT画像は,上記水頭症の診断基準を満たさなかった。

b 水頭症の診断は,時間的経過を観察するなど総合的に行うべきであり,単回の画像から必ずしも確定診断できないところ,Z4には,進行性の脳室拡大は見られなかった。

(イ)頭蓋内圧亢進症状はなかったこと
 10月18日以降継続する頭痛,嘔吐・嘔気,意識障害などは,もやもや病による脳出血,脳梗塞及びもやもや病自体に起因するものであり,水頭症による頭蓋内圧亢進の臨床所見ではない。そして,Z4の上記症状は,10月21日には前日より改善し,若干の変動をしつつもほぼ同じレベルで推移していたものである。

(ウ)髄液の灌流が保たれていること
 原告らは,Z4が閉塞性水頭症を発症したと主張するものと考えられるところ,Z4のCT,MRI画像によれば,以下のとおり,髄液の灌流は保たれており,閉塞性水頭症を発症していたとはいえない。
a 10月18日の2回のCT画像上,第4脳室にある血腫の周囲には空間が黒く描出されており(CT画像では髄液は黒く描出される),第4脳室において血腫による灌流障害は認められず,髄液が流れていることを示している。
b 10月19日のMRIサージタル画像(T2強調)では,第4脳室の血腫の周囲に白く描出された部分があり(T2強調画像では髄液が白く抽出される),髄液の灌流が認められる。
c 10月18日と10月19日のCT画像を比較すると,10月19日の方が側脳室が小さくなっており,髄液の流れが改善されたことを示している。
d 10月18日と10月24日のCT画像を比較すると,側脳室の下角は拡大しておらず,髄液の灌流障害,貯留は認められない。

イ 10月23日午後5時頃までに脳室ドレナージなどの頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務違反について
 以下のとおり,10月23日までの間に,Z4の頭蓋内圧がさらに亢進していたことはなく,Z4に対して脳室ドレナージをすべき状況にはなかった。
(ア)症状について
 Z4の症状は,若干の変動をしつつほぼ同じレベルで推移していったのであり,頭蓋内圧の更なる亢進を認めるに足りる所見は見当たらない。
 小児の意識レベルを客観的に判断するのは難しいところ,10月21日及び10月22日のZ4の意識状態は,ぼんやりとしているという程度であり,意識障害があったと評価することはできない。また,10月21日から10月23日までにかけて,診療録に「ぼんやりはしている」等の記載はあるものの,それらの前後のZ4の意識レベルは概ね良い状態であり,少なくとも意識障害が継続していたとか,意識レベルが悪くなっていったとはいえない。

(イ)側脳室下角の拡大について
 側脳室下角の拡大が頭蓋内圧亢進を疑わせる所見であることは否定しないが,前記ア(ア)と同様,それだけでは頭蓋内圧の更なる亢進があると判断することはできず,他の脳室のサイズや,継続的な観察が必要である。

(ウ)ミッドラインシフトについて
 10月19日と10月22日のCT上見られたミッドラインシフトは,あくまで「若干の」である。Z4はもともともやもや病による脳出血,脳梗塞があり,それによる脳浮腫によって頭蓋内圧が亢進している状態だったのであって,上記若干のミッドラインシフトの所見は,それによる所見であり,頭蓋内圧の更なる亢進を示すものではない。上記の脳浮腫及び頭蓋内圧亢進に対してはグリセレブの投薬により対応している。

(エ)したがって,10月23日までの間に,頭蓋内圧が更に亢進したという事実は認められず,仮に頭蓋内圧が亢進しつつあったとしても,被告においてその管理を怠ったという注意義務違反はなかった。

(2)争点(2)(痙攣発作への対応に係る注意義務違反の有無)について
(原告らの主張)
ア 痙攣が継続すると,脳浮腫や頭蓋内圧亢進を来し,死亡や不可逆的脳障害に至るため,痙攣が生じた場合,速やかに医師が診察の上,抗痙攣薬を投与し,痙攣を止めて全身管理を行わなければならない。
 とりわけ,Z4はもやもや病により脳出血と脳梗塞を発症して入院中であったところ,頭蓋内圧の亢進は脳内灌流の低下を来し,脳梗塞を招くことになるため,直ちに抗痙攣薬を投与して痙攣を止め,痙攣の原因検索のために頭部CT検査又はMRI検査を実施するなどして脳の状態を確認した上で,頭蓋内圧亢進が疑われれば,必要に応じて減圧開頭術や脳室ドレナージ,投薬などによって頭蓋内圧亢進の改善を図らなくてはならない。

イ Z6看護師の注意義務違反
 Z4は,10月23日午後5時頃以降,痙攣がみられたところ,Z6看護師は,その状態を確認したのであるから,被告病院医師に対し,Z4のかかる状態を速やかに報告する注意義務があったにもかかわらず,痙攣発症の約7時間半後である10月24日0時30分にZ7医師に報告するまでこれをせず,上記注意義務に違反した。

 10月24日午前0時45分頃にZ7医師が診察した後も,Z4の痙攣は継続し,午前4時30分以降は,全身が硬直し,硬直性痙攣に至っていることは明らかであった。したがって,Z6看護師は,速やかに,Z4の状態を医師に報告する注意義務があったにもかかわらず,午前7時10分までこれをせず,上記注意義務に違反した。

ウ Z7医師の注意義務違反
 Z7医師は,10月24日午前0時45分頃にZ4を診察したところ,速やかに抗痙攣薬を投与し,痙攣を止めて全身管理を行うなどすべき注意義務又は少なくとも主治医に連絡して指示を受けるべき注意義務があったにもかかわらず,これらを怠り,上記注意義務に違反した。
 さらに,同日午前7時10分には,Z7医師は,看護師から,一晩中痙攣が続いている,硬直性痙攣が続いているとの報告を受けたにもかかわらず,自ら診察することなく,電話で,再度の経過観察と主治医の到着を待つよう指示したのみであり,上記注意義務に違反した。

(被告の主張)
ア Z6看護師の注意義務違反については争う。(答弁書9頁)


(ア)10月24日午前0時45分において,脳内の変化を表す所見が確認できている以上,Z7医師は,脳神経外科の専門医に連絡を取って判断を仰ぐべきであり,そうしなかったことについて一定の落ち度があることは認める。また,その後遅くとも同日午前5時に硬直性痙攣が確認された後にも脳神経外科の医師を呼ばず,何ら積極的な処置をしなかったことにも一定の落ち度があることは認める。

(イ)しかし,10月23日午後5時以降のZ4の不随意運動が全て痙攣発作であるとの原告らの主張は争う。
 Z4は,10月21日に右足をバタンバタンと動かすという運動が認められたものの,10月22日のCT画像では10月19日のCT画像と比較して著変なく,脳室内出血はわずかに軽減していたのであるから,10月23日に,前日である10月22日と同様の状態が継続していると判断してもやむを得ないというべきである。したがって,10月23日夕方から10月24日午前0時45分頃のZ7医師訪室までの間に,不随意運動の原因を特定し,それに対する治療,処置を行うこと,あるいは特定のためにCT,MRI等の新たな撮影を行う判断をすることは困難であり,注意義務として求められるものではない。


以上:6,189文字

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