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車両盗難保険に関する平成19年4月17日最高裁判決全文紹介

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平成28年12月14日(水):初稿
○車両が盗難に遭い、保険会社に盗難保険金を請求したところ、拒否されたとの相談が予定されています。そこで、盗難保険金についての裁判例を探していますが、「衝突、接触…その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定している家庭用総合自動車保険約款に基づき、上記盗難に当たる保険事故が発生したとして保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は、「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張・立証すれば足り、被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張・立証すべき責任を負わないとした平成19年4月17日最高裁判決(判タ1242号104頁、判時1970号32頁)全文を紹介します。

参考旧商法第641条
 保険ノ目的ノ性質若クハ瑕疵其自然ノ消耗又ハ保険契約者若クハ被保険者ノ悪意若クハ重大ナル過失ニ因リテ生シタル損害ハ保険者之ヲ填補スル責ニ任セス

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主  文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理  由
上告代理人○○○○の上告受理申立て理由第3について
1 原審の確定した事実関係の概要は次のとおりである。
(1) 被上告人は、損害保険業を目的とする株式会社である。

(2) 上告人は、平成12年11月ころ、それまで所有していた車両の下取価格を60万円とし、これに加えて頭金80万円、割賦支払金263万5500円を支払う約定で、自家用普通乗用自動車(トヨタセルシオ。以下「本件車両」という。)を購入し、平成14年7月にその代金を完済した。

(3) 本件車両には、盗難防止装置の一種であるイモビライザーが搭載されていた。

(4) 上告人は、平成13年11月12日、被上告人との間で、次のとおりの車両保険契約(本件保険契約)を締結した。
ア 保険の種類家庭用総合自動車保険
イ 保険期間平成13年11月12日午後4時から平成14年11月12日午後4時まで
ウ 被保険自動車本件車両
エ 被保険者(被保険自動車の所有者)上告人
オ 保険金額450万円

(5) 本件保険契約に適用される家庭用総合自動車保険約款(以下「本件約款」という。)には、次の定めがある。
ア 被上告人は、「衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、台風、こう水、高潮その他偶然な事故」によって被保険自動車に生じた損害及び「被保険自動車の盗難」による損害に対して、被保険者に保険金を支払う(第6章車両条項第1条1項。以下「本件条項1」という。)。
イ 被上告人は、保険契約者、被保険者、保険金を受け取るべき者、所有権留保条項付売買契約に基づく被保険自動車の買主等(以下「保険契約者、被保険者等」という。)の故意により生じた損害に対しては、保険金を支払わない(同章第4条(1)。以下「本件条項2」という。)。

(6) 上告人は、平成14年10月12日午後1時ころ、上告人の肩書住所地のマンション1階にある駐車場に本件車両を駐車し、福岡空港から同日午後4時発の便でフィリピンに出発し、同月22日午後3時ころ、フィリピンから帰国した。

(7) 本件車両は、平成14年10月12日午後7時21分ころ、上告人以外の何者かによって、上記駐車場から持ち去られた(以下、これを「本件車両持ち去り」という。)。本件車両持ち去りの状況は、上記駐車場に設置された防犯ビデオにより撮影されていた。

2 本件は、上告人が、本件車両の盗難により損害を被ったと主張して、被上告人に対し、本件保険契約に基づき保険金の支払を求める事案である。

3 原審は、次のとおり判示して、上告人の請求を棄却すべきものとした。
 本件保険契約に基づき保険金を請求する者は、被保険自動車の盗難その他偶然な事故の発生を主張、立証すべき責任を負担するものと解される。本件の具体的事情を総合すれば、本件車両を持ち去った人物が被保険者である上告人と全く無関係の第三者としてこれを窃取したものではなく、上告人と意を通じていたのではないかとの疑念を払拭することができない。したがって、上告人は、本件車両持ち去りが盗難その他偶然な事故によるものであることを証明するに至っていない。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは、損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり、保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には、保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。同法641条は、保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については、保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが、これは、保険事故の偶然性について規定したものではなく、保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される。

 本件条項1は、「衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、台風、こう水、高潮その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定しているが、これは、保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故を「被保険自動車の盗難」も含めてすべて保険事故とすることを明らかにしたもので、商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものというべきである。

 そして、本件条項2は、保険契約者、被保険者等が故意によって保険事故を発生させたことを、同法641条と同様に免責事由として規定したものというべきである(最高裁平成17年(受)第1206号同18年6月1日第一小法廷判決・民集60巻5号1887頁、最高裁平成17年(受)第2058号同18年6月6日第三小法廷判決・裁判集民事220号391頁参照)。

 本件条項1では「被保険自動車の盗難」が他の保険事故と区別して記載されているが、「被保険自動車の盗難」についても他の保険事故と同じく本件条項2が適用されるのであるから、「被保険自動車の盗難」が他の保険事故と区別して記載されているのは、本件約款が保険事故として「被保険自動車の盗難」を含むものであることを保険契約者や被保険者に対して明確にするためのものと解すべきであり、少なくとも保険事故の発生や免責事由について他の保険事故と異なる主張立証責任を定めたものと解することはできない。

 そして、一般に盗難とは、占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転であると解することができるが、上記のとおり、被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者、被保険者等の意思に基づいて発生したことは、本件条項2により保険者において免責事由として主張、立証すべき事項であるから、被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は、「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張、立証すれば足り、被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負わないというべきである。

(2) 原審は、本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることにつき主張立証責任を負うと解した上、本件においてはその証明がないとして、上告人の被上告人に対する請求を棄却したものである。しかし、前記事実関係によれば、被保険者である上告人以外の者が本件車両をその所在場所から持ち去ったことは明らかになっているというべきであるから、保険事故の発生が立証されていないとして上告人の請求を棄却することはできない。

5 原審の前記判断には法令の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、被上告人は、本件車両持ち去りが上告人の意思に基づくものであるという免責事由の主張をしているから、これについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫)
以上:3,564文字

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