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誤嚥窒息死を外来事故否認した平成23年2月23日大阪高裁判決理由全文紹介

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平成26年10月 2日(木):初稿
○「誤嚥窒息死を外来事故とした平成22年9月14日神戸地裁判決理由全文紹介」の続きで、この判決の控訴審である平成23年2月23日大阪高裁判決(判時2121号134頁)の理由部分全文を紹介します。


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第三 当裁判所の判断
一 被控訴人が本件請求をするために主張立証すベき事項についての説示は、原判決の「事実及び理由」中の第三の一記載のとおりである。

二 前提となる事実に《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 太郎は、平成20年12月24日、帰宅の途中で飲酒を伴う飲食後、午後10時頃帰宅し、更にフライドチキンを食べながら寝酒として梅酒ロックを飲み、分野病院で処方された薬を服用した上、一階リビングでうたた寝をしていた。翌25日午前1時30分~2時ころ、被控訴人春子に起こされて寝室で寝るように促された。太郎は、その起きざまに、飲み残しの梅酒ロックが入ったグラスを手に取り、口をつけて一口飲もうとした途端、口腔内に嘔吐し、その嘔吐物を誤嚥して窒息し、「うっ」と言って倒れ、意識不明に陥った。太郎は、救急車で中央市民病院に搬入されたが、午前3時に同病院に到着した時には、既に心肺停止状態であり、蘇生処置に反応がなく、午前3時18分に死亡が確認された。太郎の死亡推定日時は同日(平成20年12月25日)午前2時頃とされた。

(2) 同日、太郎の遺体は解剖され、併せてアルコール濃度が測定されたが、その結果は、血中濃度が1・76mg/ml、尿中濃度が2・01mg/mlであり、これは、酒酔いの症状を1度(微酔)~4度(泥酔)に分類した場合の2度(軽酔)にあたる程度であった。また、太郎は、当時、通院中の分野病院で処方されていた向精神薬を処方どおり服用していた。

(3) 一般に、人は、食塊や流動物が気管に流入する危険が生じたときは、喉頭蓋及び声門が閉じて流入を防ぐが、これらが気管に流入してしまうと、咳嗽反射によって異物を排出する。

(4) 太郎は、平成20年12月24日夜、帰宅途中及び自宅で飲酒して相当量のアルコールを摂取し、併せて処方されていた向精神薬を服用していたため、翌25日午前2時前ころ、梅酒ロックを飲もうとしたことが契機となり、嘔吐を起こし、折から、アルコールと向精神薬の相互作用により、中枢神経がより抑制され、知覚、運動機能等が低下し、気道反射(喉頭蓋及び声門の閉鎖並びに咳嗽反射)が著しく低下していたため、気管内に吐物を流入させてしまい、自力で吐物を排出できず、吐物の気道閉塞による窒息を起こした。

三 本件保険金の支払事由である「外来の事故」とは、前記のとおり、「被保険者の身体の外部からの作用による事故」をいうと解されるが、これは、外部からの作用が直接の原因となって生じた事故をいうのであって、薬物、アルコール、ウィルス、細菌等が外部から体内に摂取され、あるいは侵入し、これによって生じた身体の異変や不調によって生じた事故は含まないものと解するのが相当である。なぜなら、後者も含むと解すると、社会通念上「疾病」と理解されている事例も含まれることとなって、「傷害」に対して保険金を支払うという傷害保険の趣旨を逸脱する結果になるし、「外来の事故」によって、保険金支払の原因となる事故とそうでない事故を明確に区別しようとした約款の趣旨に合致しないからである。

 本件についてこれをみるに、太郎に起こった窒息は、嘔吐により、食道ないし胃の中の食物残渣が吐物となって口腔内に逆流し、折から、太郎の気道反射が著しく低下していたため、これが気道内に流入して生じたものであって、気道反射の著しい低下は、数時間前から1、2時間前の間に体内に摂取したアルコールや服用していた向精神薬の影響による中枢神経の抑制、知覚、運動機能の低下等が原因であるから、上記窒息は、外部からの作用が直接の原因となって生じたものとはいえない。また、梅酒ロックを飲もうとしたことが嘔吐の契機となったとしても、それは、契機にすぎず、これによって嘔吐や気道反射の低下が生じたものではない。

 そうすると、太郎に起こった窒息が「外来の事故」であると認めることができないから、その他の「急激性」及び「偶然性」の要件の具備等について検討するまでもなく、太郎の窒息死を理由として保険金を請求する被控訴人の請求は理由がない。

四 よって、被控訴人らの本訴各請求を認容した原判決を取り消した上、これらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小島 浩 裁判官 井戸謙一 山本善彦)


以上:1,932文字

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