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誤嚥窒息死を外来事故とした平成22年9月14日神戸地裁判決理由全文紹介

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平成26年 7月 4日:初稿
○「誤嚥による窒息死を外来事故とした平成25年4月16日最高裁判決全文紹介」の続きで、この事案の第一審である平成22年9月14日神戸地裁(判タ1338号220頁、判時2106号141頁)の裁判所の判断部分全文を紹介します。

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第3 当裁判所の判断
1 保険金請求者の主張、立証責任

 前記第2、1の前提となる事実(以下、単に「前提となる事実」という。)(3)によれば、本件約款は、保険金の支払事由を被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によって身体に傷害を被ったことと定めている(第1条①)が、その文言上、ここにいう「急激な事故」とは「にわかにはげしく起きた事故」、「偶然な事故」とは「何の因果関係もなく、予期しないまま起きた事故」、「外来の事故」とは「被保険者の身体の外部からの作用による事故」をいうものであると解される。また、前提となる事実(3)によれば、本件約款は、この規定とは別に、被保険者の疾病によって生じた傷害については保険金を支払わない旨の免責規定を置いている(第3条①(5))。さらに、前提となる事実(3)によれば、本件約款は、被保険者が「急激かつ偶然な外来の事故」により傷害を被り、その直接の結果として、事故の日からその日を含めて180日以内に死亡したときに死亡保険金を支払うと定めている(第5条①)。

 上記のような本件約款の文言及び構造に照らすと、本件保険契約における保険金請求者は、「急激かつ偶然な外来の事故」と被保険者の傷害(死亡)との間に相当因果関係があることを主張、立証すれば足り、被保険者の傷害(死亡)が被保険者の疾病を原因として生じたものではないことまで主張、立証すべき責任を負うものではないというべきである(最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1955頁参照)。

2 争点(本件約款所定の「急激かつ偶然な外来の事故」の存否)について
(1) 前提となる事実(4)、(6)、証拠(甲3、5、8、15~17、19、25、乙1、2、乙3の1~3、乙4の1・2、乙5、6、8、9、原告夏子本人)及び弁論の全趣旨によれば、
①Aは、平成20年12月24日、帰宅の途中飲食(飲酒を含む。)の上、午後10時頃帰宅し、さらに寝酒の酎ハイを飲んで、1階リビングでうたた寝をしていたところ、翌25日未明、原告秋子により寝室へ行くよう起こされ、その起きざまに、飲み残しの酎ハイを手に取り、これに口をつけて一口飲むか飲もうとした途端、「うっ」と言って倒れて意識不明に陥り、救急車で中央市民病院に搬入されたが、同病院到着時の午前3時には、既に心肺停止状態であり、蘇生処置に反応がなく、午前3時18分死亡が確認され、死亡日時は同日(平成20年12月25日)午前2時頃とされたこと、
②Aは、通院中の分野病院から向精神薬を処方された際に、服薬中のアルコール摂取について注意(飲酒を禁止する旨の指示)を受けていなかったため、そのことを知らないまま、前夜も日常どおり飲酒したことが認められ、
③翌日未明、Aがうたた寝から覚めて酎ハイを飲もうとしたとき、これが刺激となって、前夜来の飲酒(アルコール摂取)の影響及びこれにより増強された向精神薬の副作用により嘔吐し、その嘔吐物を誤嚥したが、上記副作用による意識低下ないし意識朦朧により気道反射が低下し、自力でこれを吐き出せず、嘔吐物による気道閉塞により窒息死したことが推認される。

(2) 上記認定事実によれば、Aが死亡に至る経緯は、
①飲酒、
②うたた寝、
③原告秋子(家族)による揺り起こし、
④飲み残しの酎ハイを飲むか飲もうとした、
⑤「うっ」と言って嘔吐、
⑥嘔吐物を気道に誤嚥、
⑦嘔吐物による気道閉塞、
⑧窒息、
⑨死亡、
というものであり、そのうち、
①から④までは、通常あり得る人の行動パターン(日常生活の一部)であり、不自然な点はなく、
⑤から⑦までは、前夜来の飲酒(アルコール摂取)の影響及びこれにより増強された向精神薬の副作用によるものであり、
⑧から⑨までは、自然の因果の流れである。

そうすると、Aは、うたた寝から覚めて起きざまに、身体の外部からアルコールを摂取するか摂取しようとしたことがきっかけとなり(身体の外部からの作用)、うたた寝前に身体の外部から摂取していたアルコールの影響と同じくうたた寝前に服用していた向精神薬の副作用(いずれも身体の外部から摂取した物に起因する作用であって、疾病に基づく作用であるとはいえない。)が相まって、にわかに、予期しない嘔吐、誤嚥、気道閉塞となり窒息死するに至ったことになるから、Aは「急激かつ偶然な外来の事故」により死亡したものと認めるのが相当である。

(3) これに対し、被告は、
①Aが起きるや否や一口酎ハイを口にしたからといってそれが嘔吐、しかも吐瀉物が気道を閉塞する程の大量の嘔吐の原因となるとは到底考えられないから、その点を捉えて「外来性」ありとすることはできない、
②Aは、飲酒、飲食、薬の服用から約4時間位(帰宅途中の飲酒飲食時からみれば、これより長い時間)経過後の寝起きに、突然、大量の胃内容物の嘔吐と吐瀉物による気道閉塞という事故を起こしたものであるから、それは、Aの身体内部の病的要因(生理的異常・内部的疾患)に基づいて内部的作用により発生したものといわざるを得ず、「外来性」は認められないし、「急激性」にも欠ける、
③アルコールの過度の摂取によって増強された向精神薬の副作用についても、Aはあらかじめ予知し得ていたはずであるから、「偶然性」も認められない
と主張する。

 しかし、Aが起きがけに飲むか飲もうとした酎ハイの刺激は、外来のものであることは明らかであるし、飲酒によりAの身体内に摂取されたアルコール及び服用によりAの身体内に摂取された薬物(向精神薬)の成分がいずれも外来の物(外来物)であることも明らかである。また、身体内に摂取されたアルコールの影響や薬物の副作用は、いずれも外来物に基づく作用であって、疾病等の身体の内部的原因に基づく作用であるとはいえない。

 また、前記(1)認定のとおり、Aの死亡は、嘔吐した際に、アルコールの影響と服用薬の副作用が相まって適切な気道反射が起こらず、気道閉塞・窒息となったためであり、嘔吐から死亡までは極めて短時間であるから、「急激性」の要件を充足している。さらに、前記(1)認定のとおり、Aが分野病院の医師から向精神薬服用中のアルコール摂取について注意(飲酒を禁止する旨の指示)を受けていたことを認めるに足りる証拠はなく、Aはそのことを知らなかったと認めざるを得ないから、「偶然性」の要件を欠くともいえない。
 したがって、被告の上記主張はいずれも採用することができない。

3 結論
 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。(裁判官・長井浩一)

以上:2,858文字

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