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転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-判決理由5

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平成24年10月 5日(金):初稿
○「転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-判決理由4」の続きです。



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第六 A医師の過失(転送義務違反)について 
 前記第二に認定のとおり、A医師は、血液検査の指示を出した12時39分の時点では、心電図検査の結果及び問診により、Bには、急性心筋梗塞に典型的な所見・症状がみられることを把握していたし、その所見・症状は、臨床医療上、ほぼ間違いなく急性心筋梗塞であると診断するに足る程度のものであった。 

 そして、前記第一の三に認定の医学的知見を総合すれば、急性心筋梗塞の最善の治療法は再灌流療法であり、それもできるだけ早期に行うほど救命可能性が高まるといえるから、医師が急性心筋梗塞と診断したときには、可能な限り早期に再灌流療法を実施すべきであるが、被告病院ではPCI等の再灌流療法は実施できないから、結局のところ、A医師としては、12時39分の時点で、再灌流療法を実施することができ、かつ、救急患者の受入れ態勢がある近隣の専門病院にできるだけ早期にBを転送すべき注意義務を負っていたことになる(以下、この義務を「本件注意義務」という。)。 

 前記第五に認定の事実によれば、被告病院の近隣の専門病院である神鋼加古川病院及び高砂市民病院は、いずれも休日に心筋梗塞患者の転送を受け入れており、神鋼加古川病院は、受入れの条件として、一般に何らかの検査結果を求めるということはなかったし、高砂市民病院は、受入れの際、心電図検査の結果によって心筋梗塞であることが明らかであれば、その結果だけを求め、血液検査の結果を求めることはしなかった運用をしていたと認められるから、A医師が神鋼加古川病院又は高砂市民病院に転送要請することに何ら障害はなかったといえる。 

 ところが、A医師は、本件注意義務を果たさず、13時50分になってようやく高砂市民病院に転送要請の電話をしたのであって、約70分も、転送措置の開始が遅れたことになる。すなわち、この点にA医師の注意義務違反(過失)があるといわざるを得ない。 

三 被告の主張について 
(1)被告は、神鋼加古川病院及び高砂市民病院に転送要請するためには、心電図検査のほか血液検査の結果を添えることが事実上求められており、被告病院が転送義務を果たすためには、血液検査の結果を得ておく必要があった旨主張し、血液検査の結果が出るまで転送措置を開始しなかったことは、やむを得ない取扱いであって過失ではないというようである。 

 しかしながら、転送要請するため血液検査が要求されていたとの事実を認めるための証拠は見当たらない。 
 前記第二の二に認定の事実経過によれば、被告病院が平成15年3月30日1時30分に来院した患者を心筋梗塞患者として神鋼加古川病院に転送要請したが断られた事実が認められるが、この患者は、心筋梗塞に典型的な所見・症状を示していたわけではないのであって、血液検査の未了を理由として転送要請が断られたとは考えにくい。 

 したがって、この事実は、心筋梗塞に典型的な所見・症状を示す患者であっても、転送を受け入れてもらうためには、まずは無条件に血液検査の結果を得なければならないとか、Bについても血液検査の結果を得なければ転送要請をすることができなかった状況を示唆する事実とすべきではない。 

 また、実際にも、A医師は、13時50分ころ、血液検査において陽性の結果を得ることなく、高砂市民病院に転送の受入れを要請し、その承諾を得ていることからみても、血液検査の実施が必須であったと考えることは困難である。 

 そもそも、急性心筋梗塞の治療において最重要なことは、できるだけ早期にPCIを実施することであり、神鋼加古川病院や高砂市民病院が24時間の急性心筋梗塞患者の救急受入れを実施しているのも、そのためである。そして、心筋梗塞の急性期における血液検査が無意味であることくらい、そのような専門病院はよく理解しているはずであって、そのような専門病院が、心筋梗塞に典型的な心電図所見や臨床症状がみられる患者について、さらに血液検査の実施を要求するとはにわかに考えられないし、そのような要求が常態化しているとの不可解な地域医療の実情があるとも考えられない。上記両病院とも調査嘱託に対する回答書で血液検査の実施を要求していないと回答しているが、これを不可解な地域医療の実情を隠ぺいするための嘘と考える必要は何もなく、医学的知見から当然に導き出される取扱いを素直に述べたまでと受け止めるべきである。

 以上要するに、被告の上記主張は理由がない。 

(2)また、被告は、臨床の現場では、急性心筋梗塞の疑いのある患者に対して全例において血液検査を実施している実情があるから、A医師が血液検査結果も添えて近隣の専門病院に転送要請しようとすることは自然であって、それを非難することはできないと主張する。
 
 しかしながら、既に述べたように、心筋梗塞患者の治療のためには、できるだけ早期に再灌流療法を実施しなければならず、一方で心筋梗塞発症後2、3時間内においては、血液検査の診断は意味がないのである。したがって、仮に、被告主張のような臨床現場の実情があったとしても、患者の救命を第一に考えなければならない立場にある医師の転送義務を検討するに当たって、そのような実情を考慮することは相当でない。 

(3)なお、E意見書によれば、A医師は、転送要請に着手するまでの時間、漫然と経過観察していたわけではなく、転送を決める前に、本人及び家族に対し、PCIの得失について説明し、その承諾を得なければならず、そのための時間が必要であったし、同日の被告病院の配置人員に関する態勢や被告病院と専門病院との関係からみたA医師の立場に立ってみれば、可及的速やかに転送することは現実の医療現場とはかけ離れた理想論にすぎない旨の意見が述べられている。 

 しかしながら、そもそも本件証拠上、A医師が本人及び家族に対し、PCIの得失について説明しようとしたために、転送が遅れたとの事情は認められない。また、確かに、前記第二に認定の事実経過によれば、A医師が極めて多忙であったことは認められるが、そのことが原因で本件注意義務を果たすこと(12時39分の時点で専門病院に電話をかけ、Bの症状と心電図所見を知らせ、転送受入れを要請すること)ができなかったとも考えられないから、可及的速やかに転送義務を果たすことが理想論にすぎないともいうことはできない。


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