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被相続人口座無断出金不当利得返還請求権は法定相続分承継認定地裁判決紹介2

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令和 4年12月21日(水):初稿
○「被相続人口座無断出金不当利得返還請求権は法定相続分承継認定地裁判決紹介」の続きで、同じ令和3年9月28日東京地裁判決(判時2528号72頁)で、第二の論点の、相続人が、被相続人の死後、遺産である被相続人の預金口座から他の相続人に無断で出金し、これに対し他の相続人が、不当利得返還請求権を行使する場合の権利割合についての判断部分を紹介します。

○原告は被告に対し、被相続人の死後にも被告が、被相続人の預金口座から金員を出金しているが、被告の具体的相続分は0円で、且つ、この出金に係る金銭の受領についても悪意の受益者であるとして,不当利得返還請求権に基づき,出金額と手数料合計259万6432円の全額及び民法704条に基づき,同額に対する最終の出金日の翌日である平成26年11月3日以降の改正前民法所定の年5分の割合による利息の支払を求めました。

○これに対し判決は、相続人が、被相続人の死後、遺産である被相続人の預金口座から他の相続人に無断で出金し、これに対し他の相続人が、不当利得返還請求権を行使する場合の権利割合は法定相続分であり、本件死後出金について,必要な費用に充てたものとして不当利得の成立が否定される部分はないから,原告は,被告に対し,本件死後出金のうち,被告の法定相続分を超過した129万8216円の限度で,不当利得返還請求権を有するとしました。

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主   文
1 被告は,原告に対し,129万8216円及びこれに対する平成26年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は20分し,その19を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告に対し,259万6432円及びこれに対する平成26年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,2132万9639円及びこれに対する平成26年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 原告と被告は,C(以下「被相続人」という。)の共同相続人である。
 原告は,被告に対し,本件前に,被告が被相続人の生前に被相続人の預金口座等から金銭を無断で出金していたことが被相続人に対する不法行為に当たるとして,これに基づく損害賠償請求権のうち,原告の法定相続分2分の1に相当する金額の支払を求める別件訴訟を提起していた。同訴訟の担当裁判所(控訴審)は,被告による無断出金を一部認めて,その2分の1に相当する額の支払(4716万7657円)を被告に命じた。

 本件は,原告が,被告に対し,
〔1〕上記別件訴訟に係る被告による被相続人の預金口座等からの無断出金は,被相続人に対する不当利得にも当たる,原告は同不当利得返還請求権を相続したが,被告には被相続人の生前,特別受益があり,原告の具体的相続分は,法定相続分である2分の1を超えていた,上記無断出金に係る被相続人の被告に対する請求権の相続分を,原告の具体的相続分で計算し直すなどすると,原告が相続すべき金額は6852万5445円である,このうち2132万9639円が未払である,被告は同額の受領につき悪意の受益者であるなどとして,不当利得返還請求権に基づき,同額及び民法704条に基づき,同額に対する最終の出金日の翌日である平成26年10月10日以降の民法(ただし,平成29年法律第44号による改正前のもの。以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による利息の支払を求めるとともに,

〔2〕被告は,被相続人の死後にも,被相続人の預金口座から金員を出金しているところ,被告の具体的相続分は0円である,被告は同出金に係る金銭の受領についても悪意の受益者であるとして,不当利得返還請求権に基づき,同出金の額及び出金に係る手数料の合計259万6432円の全額及び民法704条に基づき,同額に対する最終の出金日の翌日である平成26年11月3日以降の改正前民法所定の年5分の割合による利息の支払を求めた事案である。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 原告が本件生前出金に係る被相続人の被告に対する請求権について分割承継した金額はいくらか


         (中略)

2 本件死後出金は,原告の損失の下,被告が法律上の原因なく利得したものか
(1)本件死後出金の全額につき法律上の原因がない利得といえるか

ア 本件死後出金がなされた本件口座は,預金口座であるから,本件死後出金前は,本件死後出金に係る出金相当額を含め,遺産を構成するものであったと解される(最高裁平成28年大法廷決定)。なお,被告は,本件死後出金は,最高裁平成28年大法廷決定よりも前になされたとして,同決定は遡及適用されないなどと主張するが,同決定は,預金債権は,可分債権に当たらない旨の解釈を示したものである以上,同決定前に出金がなされた預金口座に係る預金債権にも同様の解釈が及ぶことが否定される理由はない。

イ もっとも,上記1(2)アで説示したとおり,具体的相続分とは,遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって,それ自体が実体法上の権利関係に当たるものではない。したがって,本件死後出金がなされた時点で,原告が本件口座に関し,具体的相続分に相当する実体法上の権利を有していたとはいえないし,被告に法定相続分に相当する実体法上の権利がなかったともいえない。

そうすると,被告による,本件死後出金は,被告の法定相続分の範囲にとどまる限り,法律上の原因のない利得ということはできないし,原告にそれに対応した損失があるともいえず,本件死後出金の全額について,被告の不当利得が成立するとはいえない。本件死後出金の額合計259万6432円の2分の1に相当する額129万8216円を超えた部分の限度で不当利得の成否が問題となるにすぎないというべきである。

 なお,この点につき,被告は,本件死後出金の額259万6432円のうち,本件口座の相続開始後の残高に相続開始後の入出金を考慮した最終残高259万7161円(甲2)の2分の1に相当する129万8580円の差額129万7852円の限度で不当利得の成否が問題となるにすぎないと主張する。

 しかし,本件死後出金に係る本件口座は,最高裁平成28年大法廷決定のとおり,本件死後出金時点で,被相続人の遺産であったのであるから,結局,本件口座は,原告と被告において,各2分の1の潜在的な持分割合による準共有状態にあったものと解されるのであり,本件口座の預金残高を数量的に2分の1に分けた金額それぞれを原告と被告が有しているというものではない(原告と被告は,預金残高の全体について2分の1の割合の準共有持分権を有しているものである)。

したがって,本件口座の最終残高に関わらず,本件死後出金の額である259万6432円の全額について,原告と被告の準共有状態にあった財産の逸出となるから,その2分の1に相当する金額については,原告に対する準共有持分権の侵害となり,不当利得を構成し得るものである。 

ウ 被告は,原告が遺産分割調停の際には,本件死後出金に係る金員は既分割として遺産に含めないことに合意しており,その不当利得返還請求は自己矛盾ないし禁反言則に反する,遺産分割において被告が具体的相続分を超過する財産を受領していたとしても,その返還を求めることはできない(民法903条2項)などとも主張する。

 しかし,遺産分割調停当時の原告の主張書面を見ても,本件死後出金が既分割であるなどとは主張しておらず,かえって不当利得による返還を求める意思を示しているし(乙1),既に出金がなされた以上,当該出金に係る部分は,遺産分割時に現存しない財産として,遺産に当たらないのであるから,原告が,本件死後出金を遺産分割調停時点で,遺産に掲げていなかったとしても,そのことから,本件死後出金に係る不当利得返還請求権を行使することが自己矛盾であるとか,禁反言則に反するなどとはいえない。

 また,原告の不当利得返還請求権は,被告による本件死後出金が,原告の相続権を侵害するものとして,その返還を求めるものであって,特別受益の返還を求めるものではないから,超過特別受益の返還が求められないこと(民法903条2項)は,同不当利得返還請求権行使の可否に影響するものではない。

(2)本件死後出金につき,必要な費用に充てたものとして不当利得とならないか
ア 医療費13万7900円(被告主張欄の〔1〕)については,別件判決において,被相続人の生前の出金額から必要な費用として控除されているから(甲14・17頁,20頁),本件死後出金に係る金員をもって,上記医療費に充てたものとは認められない。

イ 葬儀費用等,墓所移動費用の合計226万6501円(被告主張欄の〔2〕ないし〔5〕)については,いずれも当然に共同相続人が相続分に応じて負担すべき性質の費用とはいえないところ,被相続人の生前に,その死後に要することとなったこれら費用について,明確に被告にその出捐をゆだねていたと認めるに足りる証拠はなく,当該費用支出の時点で,原告の承諾を得たとも認められない。

そうすると,これら費用は原告が負担すべきものとはいえず,当該費用出捐の原因となる葬儀等を主宰したと考えられる被告において負担すべき費用である。したがって,仮に,本件死後出金をこれら費用に充てていたとしても,それは被告が負担すべき費用に充てたというにすぎず,その限度で被告は,原告の損失の下,利得を得たといえるし,その利得に法律上の原因があるとはいえない。

ウ よって,本件死後出金について,必要な費用に充てたものとして不当利得の成立が否定される部分はないから,原告は,被告に対し,本件死後出金のうち,被告の法定相続分を超過した129万8216円の限度で,不当利得返還請求権を有する。

(3)本件死後出金に関し,被告は悪意の受益者か
 本件死後出金は,相続開始後になされたものであり,遅くとも最終の出金時点である平成26年11月2日の時点までは,被告の法定相続分を超える限度で出金がなされたものである(甲2)。これによれば,被告は,遅くとも同日時点までに法律上の原因がないことを認識していたというべきであるから,被告は本件死後出金に係る不当利得129万8216円について,同日の翌日である同月3日以降の法定利息を返還すべきである。

3 結論
 よって,原告の請求は,本件死後出金に係る不当利得返還請求権として129万8216円及びこれに対する平成26年11月3日以降の改正前民法所定の年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で理由があるから,その範囲で認容し,その余の請求には理由がないから,これらを棄却することとして主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は相当でないのでこれを付さないこととする。
 東京地方裁判所民事第31部 裁判官 増子由一
以上:4,575文字

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