仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 相続家族 > 相続人 >    

再転相続での相続放棄に関する昭和63年6月21日最高裁判決紹介

   相続家族無料相談ご希望の方は、「相続家族相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 4年 6月22日(水):初稿
○甲の相続につきその法定相続人である乙が承認又は放棄をしないで死亡した場合において、乙の法定相続人である丙が乙の相続につき放棄をしていないときは、甲の相続につき放棄をすることができ、また、その後に丙が乙の相続につき放棄をしても、丙が先に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼって無効になることはないものと解するのが相当であるとした昭和63年6月21日最高裁判決(家月41巻9号101頁、金法1206号30頁)全文を紹介します。

○いわゆる再転相続についての問題であり、関係民法条文は以下の通りです。
第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

第916条
 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。


○事案は、以下の通りです。
・甲不動産の元所有者Aが昭和57年10月26日死亡
・A相続人のBは、Aの相続について承認又は放棄をしないで熟慮期間内昭和57年11月16日死亡
・B相続人の妻Cら3名は、Aの相続について昭和58年1月25日相続放棄申述受理
・Cら3名はその後Bの相続についても相続放棄申述受理
・Bの債権者上告人は、甲不動産について、BがAから法定相続分の2分の1につき相続したものと主張し代位登記の上仮差押執行
・Aの代襲相続人である孫5名が原告となり、上告人らに対し仮差押登記抹消登記の請求をして地裁・高裁とこれを認め、上告人らが上告


***************************************

主  文
一 上告人らが訴外Bに対する神戸地方裁判所尼崎支部昭和57年(ヨ)第289号不動産仮差押決定の正本に基づいて第一審判決添付物件目録記載の不動産の右訴外人の持分2分の1につきした仮差押の執行は、これを許さない。
二 上告費用は上告人らの負担とする。

理  由
 上告代理人○○○○、同○○○○の上告理由第一点について
1 原審の適法に確定したところによれば、本件の事実関係は、
(一)第一審判決添付物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)はもとAの所有であつたが、Aは昭和57年10月26日に死亡し、その相続人はその子Bと代襲相続人である孫の被上告人ら5名であつたところ、BはAの相続につき承認又は放棄をしないでその熟慮期間内である昭和57年11月16日死亡し、その法定相続人である妻C、長女D及び長男Eの3名(以下「Cら3名」という。)はAの相続につき昭和58年1月25日神戸家庭裁判所尼崎支部に相続放棄の申述をして受理された、なお、Cら3名はその後Bの相続についても同裁判所に相続放棄の申述をして受理されている、

(二)しかるところ、上告人らは、Bに対し商品代金等の債権を有していたものであるところ、BがAから本件不動産を法定相続分の2分の1につき相続したものと主張して(なお、記録によれば、上告人らは、BがAから相続により2分の1につき相続をしたとの所有権移転登記を代位により経由している。)、神戸地方裁判所尼崎支部に対しBを債務者として本件不動産の同人の持分2分の1につき不動産仮差押を申請し(同庁昭和57年(ヨ)第289号事件として係属)、同裁判所は、昭和57年11月8日、右申請を認容する旨の決定をし、右決定の正本に基づき本件不動産のBの持分2分の1につき仮差押登記を嘱託した、というのである。

2 論旨は、甲が死亡して、その相続人である乙が甲の相続につき承認又は放棄をしないで死亡し、丙が乙の法定相続人となつたいわゆる再転相続の場合には、再転相続人たる丙は、乙の相続につき承認をするときに限り、甲の相続につき放棄をすることができるものと解すべきであつて、Cら3名はAの相続を放棄し、かつ、Bの相続を放棄したのであるから、Cら3名がAの相続についてした放棄は無効に帰し、Bは本件不動産を法定相続分の2分の1につき相続したことになり、上告人らが本件不動産のBの持分2分の1につきした仮差押の執行は適法である、というのである。

3 しかしながら、民法916条の規定は、甲の相続につきその法定相続人である乙が承認又は放棄をしないで死亡した場合には、乙の法定相続人である丙のために、甲の相続についての熟慮期間を乙の相続についての熟慮期間と同一にまで延長し、甲の相続につき必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく、右のような丙の再転相続人たる地位そのものに基づき、甲の相続と乙の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、各別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべきである。

そうであつてみれば、丙が乙の相続を放棄して、もはや乙の権利義務をなんら承継しなくなった場合には、丙は、右の放棄によつて乙が有していた甲の相続についての承認又は放棄の選択権を失うことになるのであるから、もはや甲の相続につき承認又は放棄をすることはできないといわざるをえないが、丙が乙の相続につき放棄をしていないときは、甲の相続につき放棄をすることができ、かつ、甲の相続につき放棄をしても、それによつては乙の相続につき承認又は放棄をするのになんら障害にならず、また、その後に丙が乙の相続につき放棄をしても、丙が先に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼつて無効になることはないものと解するのが相当である。

そうすると、本件において、Cら3名がAの相続についてした放棄は、Cら3名がその後Bの相続について放棄をしても、その効力になんら消長をきたさないものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

 原審の確定した前記事実関係及び右説示に照らすならば、被上告人らが当審において択一的に追加した請求である本件不動産のBの持分2分の1に対する不動産仮差押の執行の排除を求める請求は理由があり、認容されるべきである(右追加に係る請求の内容、本件訴訟の経緯等に照らすならば、右の択一的な請求の追加は許されるものというべきである。)。なお、これによつて、本件不動産のBの持分2分の1につき仮差押登記の抹消登記手続を命じた第一、二審の判決は、失効した。
 よつて、訴訟費用の負担につき、民訴法95条、89条、93条を適用して、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡満彦 坂上壽夫)

以上:2,971文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
相続家族無料相談ご希望の方は、「相続家族相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 相続家族 > 相続人 > 再転相続での相続放棄に関する昭和63年6月21日最高裁判決紹介