令和 1年12月19日(木):初稿 |
○特定の相続人が一定の相続債務を全て承継する旨の遺産分割協議が相続債権者との法的対応を当該相続人に包括的に授権する趣旨であったと認定した平成30年1月24日東京地裁判決(判タ1464号205頁)全文を紹介します。 ○事案は、次の通りです。 ・s51.5.18、Aと原告夫婦が共有で本件不動産購入 ・同日、被告会社から280万円借り入れ、本件不動産に抵当権設定 ・h28.12.31A死去、相続人は原告と長女B、二女C ・h29.4.19原告がAの不動産共有持分権と相続債務全てを承継すると遺産分割協議成立 ・原告が被告会社に本件被担保債権の商事消滅時効を債務者として援用し,所有権に基づき本件登記の抹消登記手続を求める ○判決は、遺産分割協議による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(相続債権者)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないが、本件では①本件遺産分割協議の合理的解釈により,本件被担保債権に係る相続債務のうち二人の子の相続分についての商事消滅時効を援用することを含め,相続債権者Yとの法的対応につき,二人の子から原告への包括的な授権があったと解し,また,②原告の時効援用の意思表示の合理的解釈により,当該意思表示は,本件被担保債権に係る相続債務のうち二人の子の相続分も含めて,その商事消滅時効を援用する趣旨であった,すなわち,債務者全員(債務者本人兼他の債務者である二人の子の代理人としての原告)の時効援用の意思表示があったと解して,本件被担保債権の時効消滅による本件抵当権の消滅を認め,原告の請求を認容しました。 ******************************************** 主 文 1 被告は,原告に対し,別紙「物件目録」記載1ないし4の不動産について,別紙「登記目録」記載の抵当権設定登記の昭和56年8月1日被担保債権の時効消滅を原因とする抹消登記手続をせよ。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨 第2 事案の概要 1 本件は,別紙「物件目録」記載1ないし4の不動産(本件不動産)の所有者である原告が,別紙「登記目録」記載の抵当権設定登記(本件登記)の被担保債権が昭和56年8月1日に時効消滅したと主張して,本件登記上の抵当権者である被告に対し,所有権に基づき,本件登記の抹消登記手続を求める事案である。 2 前提事実 (1) A(A)と原告は夫婦であったところ(甲14,甲17),Aと原告は,昭和51年5月18日,本件不動産(甲1ないし甲4)を売買により取得した(弁論の全趣旨)。 (2) Aと原告は,昭和51年5月18日,株式会社である被告(昭和60年7月20日変更前の商号「三豊建設株式会社」。甲8)から,利息年12%,損害金年24%,最終弁済期を昭和56年7月31日の約定で280万円を借り入れた(甲1ないし甲4,甲11。本件被担保債権)。 (3) Aと原告は,昭和51年5月18日,本件被担保債権の支払を担保するために,被告との間で,本件不動産について抵当権設定契約を締結し,同年6月15日,これに基づき,本件登記(甲1ないし甲4)をした。 (4) 本件被担保債権の最終弁済期から5年(商法522条)が経過した。 (5) Aは,平成28年12月31日,死亡した(甲12の2枚目)。 Aの共同相続人全員(妻である原告,長女であるB(B),二女であるC(C)。甲17ないし甲19)による平成29年4月19日付け遺産分割協議(甲13)により,原告が本件不動産のA持分を全て取得した(甲1ないし甲4)。 (6) 原告は,平成30年1月10日の本件第1回口頭弁論期日において,被告に対し,本件被担保債権に係る債務の商事消滅時効(商法522条)を援用する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点(本件被担保債権に係るAの債務のうちB,Cの相続分について,原告がその商事消滅時効を援用することの可否)及びこれに関する当事者の主張 (原告の主張) (1) 本件被担保債権に係るAの債務についても,Aの共同相続人間全員による平成30年1月1日付け遺産分割協議により,原告がこれを負担することとされた。この遺産分割協議は,B,Cが本件被担保債権に係るAの債務のうちB,Cの相続分についての商事消滅時効を援用することを原告に授権することを含む趣旨である。 (2) 原告による上記援用の意思表示(前提事実(6))は,本件被担保債権に係る原告の債務(本件被担保債権に係るAの債務のうち原告の相続分を含む。)だけではなく,本件被担保債権に係るAの債務のうちB,Cの相続分についても,その商事消滅時効を援用する趣旨である。 (被告の主張) 原告の上記主張は不知又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 証拠(甲15)及び弁論の全趣旨によれば,Aの共同相続人間において,平成30年1月1日,本件被担保債権に係るAの債務を原告が全て承継する旨の遺産分割協議が成立したことが認められる。 もっとも,遺産分割協議による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(相続債権者)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばない結果,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,相続債権者に対し,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを直ちに主張することはできない。 2 しかしながら,上記のような遺産分割協議をした共同相続人の合理的意思としては,特段の事情のない限り,共同相続人間において相続債務を単独で承継することとされた特定の相続人に相続債権者との法的対応を包括的に授権する趣旨であったと解され,上記特段の事情の認められない本件においても,B,Cは,本件被担保債権に係るAの債務のうちB,Cの相続分についての商事消滅時効を援用することを含めて,相続債権者である被告への法的対応を原告に包括的に授権したものと解されるから,原告は,本件被担保債権に係るAの債務のうちB,Cの相続分についての商事消滅時効も援用することができるというべきである。そして,原告の上記援用の意思表示(前提事実(6))が,本件被担保債権に係る原告の債務(本件被担保債権に係るAの債務のうち原告の相続分を含む。)だけではなく,本件被担保債権に係るAの債務のうちB,Cの相続分についても,その商事消滅時効を援用する趣旨であったことは明らかである。 3 したがって,本件被担保債権は昭和56年8月1日に時効消滅し,付従性により本件抵当権も消滅したというべきである。 第4 結論 以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第39部 (裁判官 田中秀幸) 〈以下省略〉 以上:2,818文字
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