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生命保険金を特別受益として持ち戻し対象としない高裁決定紹介1

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令和 1年 7月 6日(土):初稿
○「生命保険金を特別受益として持ち戻し対象とした高裁決定紹介2」の続きです。今回は、被相続人を保険契約者、相手方を受取人とする生命保険契約により相手方が受領した保険金は、民法903条1項所定の要件である被相続人からの遺贈又は贈与には該当せず、また、本件の場合は被相続人死亡後の相手方の生活保障を目的として同保険契約をしたものと認められるから、特別受益には当たらず、仮に同条項の要件に該当するとしても、被相続人は同保険金につき持戻の免除の意思表示をしたことが明らかであるとした平成11年3月5日高松高裁決定(家月51巻8号48頁)関連部分を紹介します。

○特別受益を含めたみなし相続財産総額は約1億1855万円のところ、問題の生命保険金額は約1072万円で、相続財産総額の10%程度でした。これまで見つけた生命保険金を特別受益として認めた裁判例は、生命保険金額が相続財産の50%以上の場合です。相続財産全体に対し、受領生命保険金額がどの程度の割合になれば、特別受益になるかについて基準を示した判例が欲しいところですが、現時点では見つかっていません。

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主  文
1 本件即時抗告に基づき原審判主文2、3項を次のとおり変更する。
(1) 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
イ 原審判添付別紙遺産目録I23記載の土地、同II3記載の建物、同III2ないし6、8ないし10、12ないし15記載の預貯金、同IV1、2記載の保険、本決定添付別紙遺産追加目録2記載の保険は、抗告人の単独取得とする。
ロ 原審判別紙遺産目録I1ないし22記載の土地、同II1、2記載の建物、同III1、7、11、16、17記載の預金、同IV3記載の有限会社a退職金、同V1記載のゴルフ会員権、同V2記載の有限会社a社員権、本決定添付別紙遺産追加目録1記載の立木売却益、同目録3ないし5記載の保険は、相手方の単独取得とする。
(2) 相手方は、抗告人に対し、本審判確定の日から3か月以内に、金1971万1633円を支払え。
2 本件手続費用は、原審及び当審を通じてこれを3分し、その2を抗告人の、その余を相手方の各負担とする。

理  由
第1 本件即時抗告の趣旨

 原審判について抗告する。

第2 一件記録に基づく当裁判所の認定判断は次のとおりである。
1 相続の開始、相続人及び法定相続分


         (中略)

5 みなし相続財産等
(1) みなし相続財産の額は、次のとおり、合計1億1855万3663円である。
 遺産額+特別受益額 = 107,779,885+8,771,000+2,002,778 = 118,553,663


         (中略)

第3 一件記録に基づく、抗告理由に関する当裁判所の認定判断は次のとおりである。

(1) 抗告人の主張

 相手方の特別受益である原審判添付別紙特別受益目録(以下「特別受益目録」という)3、4記載の土地の特別受益評価額が不当である。また、同土地について相手方が取得した駐車場収入を特別受益に加算すべきである。

         (中略)


(1) 抗告人の主張

 相手方が保険金受取人として受領した生命保険金を遺産分割の対象とすべきであるし、特別受益として加算すべきである。

(2) 検討
イ 被相続人を保険契約者とする生命保険契約により、相手方が受領した保険金は、遺産目録及び遺産追加目録記載の保険以外には、下記のとおりであり、相手方は、保険金1072万5150円を受領したものと認められる(なお、相手方は保険金内金300万円の交付を受けた残額772万5150円について、保険金据置の措置をとり、同金員は相手方の保険会社に対する預金となった)。
   記
 保険契約者 被相続人
 被保険者  被相続人
 受取人   相手方
 保険会社  b生命保険相互会社
 保険金   1072万5150円

ロ 相手方は、被相続人と保険会社間の保険契約における保険金受取人としての地位に基づき、相続とは無関係に前示イの保険金を取得したものである。そうであるから、前示イの保険金は、保険金受取人である相手方の固有資産であり、被相続人の遺産を構成するとはいえない。

ハ 前示ロと同様に、前示イの保険金は、相手方が保険金受取人としての地位に基づいて保険会社から受け取ったものであるから、これが、民法903条1項所定の要件である「被相続人から」の「遺贈」ないし「贈与」に該当するとはいえない。そうである以上、前示イの保険金が特別受益に当たるとはいえない。

 また、被相続人が前示イの保険契約をしたのは、同人と相手方夫婦間に子供がなかったことなどから、被相続人死亡後の相手方の生活を支える糧とするためであったものと認められる。すなわち、被相続人は、夫としての立場に基づき、同人死亡後の妻の生活保障をすることを目的として、前示イの保険契約をしたものと認められる。以上に、前示イの保険金の額等の諸般の事情を考えあわせると、同保険金は特別受益に当たらないものというべきである。
 なお、本件遺産分割による抗告人の取得資産が前示のとおりであること、抗告人の生活状況等の諸般の事情を考えあわせると、前示イの保険金を特別受益としなければ相続人間の衡平に反する事態が生ずるものとはいえない。


ニ のみならず、前示ハのとおり、被相続人は、相手方の生活保障をする趣旨で、前示イの保険契約をしたものといえるのであるから、被相続人は、相手方を保険金受取人とする保険契約を締結することにより、遺産に対する相手方の法定相続分に加えて、さらに同保険契約による保険金をも相手方に取得させる意思を有していたことが明らかである。そうすると、仮に前示イの保険金が民法903条1項所定の要件に該当するとしても、被相続人は、前示イの保険金につき持戻免除の意思表示をしたことが明らかである。したがって、前示イの保険金を特別受益として持ち戻すべきであるとはいえない。

ホ なお、抗告人が、他にも存在する旨指摘する生命保険は、保険契約者が有限会社a、被保険者が被相続人のものであると認められる。このように第三者が保険契約を締結した場合には、第三者が被相続人を保険金受取人として指定したのであれば、被保険者の死亡の時はその相続人を受取人に指定する旨の黙示の意思表示があったものと推定できるから、保険金請求権は、相続人の固有資産となる。また、第三者が保険金受取人を指定しなかったのであれば、受取人は保険契約者である第三者自身となる。したがって、保険金受取人の指定の有無・内容にかかわらず、抗告人指摘の生命保険が遺産となることはないものというべきである。

ヘ 次に、前示ホのとおり、抗告人の指摘する生命保険は、被相続人ではなく、第三者が保険契約者であるから、同生命保険は被相続人から受けた利益に該当しない。そうである以上、上記生命保険は特別受益に当たらないことが明らかである。
 なお、有限会社aは、被相続人が事実上支配していた会社ではあるものの、同会社は、それ自体独立した社会的実態を有していたものと認められる。また、上記会社の会計処理につき、被相続人個人の会計との混同があったとは認められない。そうであるから、第三者と被相続人を法律上同視すべき事情があったとはいえない。したがって、有限会社aが締結した保険契約を、被相続人が締結したものと同視することができない。

ト 以上のとおり、被告人の主張は理由がない。

第4 結論
 よって、本件即時抗告に基づき原審判主文2、3項を本決定主文1項のとおり変更することとし、本決定主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 溝淵勝 杉江佳治)

以上:3,180文字

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