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過去の扶養料を請求できるとした昭和39年10月24日高松高裁決定全文紹介

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平成30年 1月26日(金):初稿
○過去の扶養料の請求について質問を受けました。過去の扶養料請求に関する裁判例は6件ほど紹介してきましたが、7件目として扶養権利者からの請求の時を基準として、以後義務者が遅滞に陥つた場合の扶養料は過去のものでも請求できるとした昭和39年10月24日高松高裁決定(判タ180号156頁) 全文を紹介します。

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主   文
一、本件抗告ならびに附帯抗告をいずれも棄却する。
二、抗告費用は抗告人の、附帯抗告の費用は附帯抗告人等の、各負担とする。
三、原審判主文第一項のうち「昭和39年2月以降」とあるを「昭和39年3月以降」と更正する。

理   由
一、本件抗告(昭和39年(ラ)第14号事件)の趣旨および理由は、別紙(一)のとおりである。
(1) 抗告理由第一点について
 論旨が引用するところは、原審における申立人の主張のうちの一節であつて、原審がそのとおり事実を認定したわけではないから、右非難はあたらない。

(2) 同第二、第四点について
 原審判の挙示する資料および当審における相手方等法定代理人審尋の結果によると、相手方等の母である甲野花子の収入はほぼ月額金1万円程度であること、同人が野口弘、小松孝男から合計金15万円を金借していることが認められ、これに反する原審証人乙野春子の供述の一部等は信用しがたい。

(3) 同第三点について
 記録によれば抗告人がドライ機を購入したのは昭和37年11月であることが認められ、この点に関する原審判の認定は誤りであることが明らかである。しかし右の誤りは、抗告人の営業状態や収入の認定にさほど影響を及ぼすものではなく、原審判挙示の資料によれば、抗告人の収入について原審判の認定と同じ事実を認めることができる。

(4) 同第五点について
 原審判挙示の資料に当審における抗告人審尋の結果(ただしその一部)を総合すれば、同人の月収は金6万円以上に及ぶことが認められる。もつとも当審における抗告人審尋において、抗告人は昭和39年4月に妻春子と協議離婚し、クリーニング営業を右春子にゆだねて家を去り、現に無職であると陳述しているところ、抗告人が昭和39年5月12日右協議離婚の届出をしたことは、戸籍上明らかであるけれども、果して真実離婚したものかどうか疑わしく、右陳述部分はにわかに信用し難い。その他右認定に反する資料は信用できない。
 以上のとおり、抗告人の主張は、いずれも理由がない。原審判は相当であつて、本件抗告は棄却をまぬがれない。

二、附帯抗告人(昭和39年(ラ)第39号事件)の抗告の趣旨および理由は、別紙(二)のとおりである。
(1) 抗告理由第一ないし第六点について
 記録によれば、附帯抗告相手方の営業状態、収入、負債等に関する原審判の認定が必ずしも誤認であるとは認められない。原審における附帯抗告人等法定代理人甲野花子、証人田中ヨシ子、同川村重男等の供述のうち右認定に反する部分は信用しがたい。その他に附帯抗告人等の主張事実を認めうる資料はない。(なお附帯抗告相手方の離婚に関しては、前記一の(4)参照)

(2) 同第七点について
いわゆる過去の扶養料を家事審判手続において請求しうるかどうか、請求しうるとしても何時の分から請求しうるか、については説の分れるところである。元来扶養は自己の資産または収入によつてはその生活を維持できない者に経済的給付をなすものであるから、扶養に関する権利義務は時々刻々に発生しまた消滅するもので、過ぎ去つた期間の生活についての扶養ということは不可能であり不必要でもある。

しかし過去の扶養料の請求を一切否定すると、扶養義務者が少しでも履行を引きのばすことによつて義務そのものを免れうる結果をまねく虞れがあるから、扶養権利者からの請求の時を基準として、その請求により義務者が遅滞に陥つた以後の扶養料は過去のものでも請求できる、と解するのが相当である。


したがつて本件については、原審判のとおり附帯抗告人等が本件審判の申立をした昭和37年8月15日以降の扶養料の請求は理由があるが、それ以前の分は請求しえないものというべきである。(附帯抗告人等の母甲野花子が右申立までに抗告人等を扶養した分につき、他の法理によりこれを請求しうるか否かは別論である。)

 以上のとおり、附帯抗告人等の附帯抗告は理由がない。記録によるも原審判は相当であるから、本件附帯抗告は棄却されるべきである。

三、なお原審判の主文第一項に、「昭和39年2月以降」とあるは、その理由と対照すると、「昭和39年3月以降」の誤記であることが明白であるから、民事訴訟法第194条を準用して、これを更正することとする。

四、よつて家事審判法第7条、非訟事件手続法第25条、民事訴訟法第414条、第384条、第95条、第89条、第93条により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 浮田茂男 裁判官 水上東作 裁判官 石井玄)

別紙一
抗告の理由

一、審判の主文においては、抗告人に扶養義務を命じたが、審判の理由において、承服し難い虚実と矛盾が存在するがために、かかる主文となつたと思われる、よつて順をおつて理由中の要点に反ばくを加えて行く。

二、第一に昭和35年1月14日家事調停の結果、親権者を父(抗告人)に変更したが、父や父の後妻が、申立人等を冷遇するので云々とあるがこれは事実無根である。実際は母が子供達二人に悪知恵をつけて、子供等の学校の帰途、母が連れて帰つたものであり、一方的な子供の証言のみにて、抗告人とその妻を判断するのは誤りである。

 第二に親権者(甲野花子)は月収1万円以上得ており生活も相当苦しくとあるが、現在親権者等は、3、000円のアパートに住み、自分のスクーターで洗濯の外交をしているのであり、洗濯の外交はスクーターの後の袋一ぱいつめて約3、000円の水あげでありその3割を外交員に分配しているので、1日平均1、000円の収入であり一カ月約3万円位の収入はあるのである。

 第三に抗告人は昭和35年11月ドライ機を購入しとあるが、そのように早く購入出来るはずはなく、実際に購入したのは、昭和37年11月である。これは購入契約書の写を家庭裁判所がとつているのであるから再度調査したら明白である。

 第四に親権者は(甲野花子)は知人親族から15万円を借用しているとあるが、私の知る範囲では、かようなことは事実に相違しており、むしろ貯金がある、昭和37年2月頃より部屋に若い男を引き入れ、ごうかな生活をしていたが、あげくの果には男に金をだましとられて逃げられたのである。

 第五に抗告人の月収は6万円以上とあるが、純利益はそれよりはるかに以下である。松山では数多くのクリーニング屋がしのぎをけずつて闘つており、まして私の如きかけ出しでは四苦八苦借金の返済について、日夜苦悩の連続である。クリーニング業の外面と内容は全く異る。
 かような次第でやりくり算段の全く面白くもないクリーニング業をやつているが、借金の山のために、妻の親族より妻に対して、離婚した方がよいのではないかとの話もあり、私としては第二の悲劇を繰り返すまいと必死である。それに加うるに、主文の如き毎月7、000円の支払いをさせられたら,いくら親といつても全くお手あげの現状である。かような次第で審判に不服であるので抗告に及んだ次第である。

別紙二
抗告の理由

1 6月30日御審判に依り形式的の離婚に過ぎないことがお分りになつたと思います。親子三人があの前夜から宿屋に泊り当日も一泊し二泊の観光旅行をして帰つたのであります。

2 160万円負債の性質が一審で陳述したのとまるきり違つていましたことに依り全くのいつはりであることが分ります。前には自分が営業上機械器具の購入などで作つた負債だと云い今度は前妻甲野花子が作つたように代理人は聞取りました。一審でも云ふことが曖昧を極めたのにどうして信用されたのか不思議の到りであります。或は調査官を信用されたのでしようか。ともかく陳述自体の真偽如何の御洞察が足りなかつたと思います。乙野氏の盛況を知る同業者の証言と睨み合はせたらお分りになりそうなものだと思ふのであります。

3 ドライ機備付のクリーニング業の収入が物凄いものであることは御出入りの業者に就いて御聞きになれば分つて頂けると思ひます。同業者が一審で証言しましたがあの通りであります。金があり余つて困つて居るからこの度も新婚旅行みたような事をしたのであります。

4 あの時甲野花子が発言しまして調書にはのつてないかも知れませんが道で子供にあつても顔をそむける。懇意な者には子供なんか可愛くも何ともないと広言して憚らない。甚だしき異常性格であります。

5 子供は母親が育て自分等は親子水入らずの生活ができる。若し子供が学業を続けることができない等々の原因で不良になつて「おやじこりや」と云つた具合に転がり込んで来るようになつたらどうするか。そんな事を考へたら月3千や5千の金はただよりまだ安いと申さなければなりません。

6 調査官が真の調査をなさつたらうなる程収入があることが直ぐ分つた筈です。清託の世の中で乙野氏は其道の大家です。ひとりで勝手に調書が作れるのは家裁調査官のみでこれが大々的に物を云ふのですから危険極まりないけしからん制度であります。

7 申立以前の分も法理上取れると思います。申立日以前に於ても扶養料の権利あり従つてこれを請求し得るものでありますから「母が借金政策を取つて申立日迄の分はそれですんだことだから父から取れない父から取る権利がなくなつて居る」等と云う法理の発見に苦みます。


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