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代襲相続人への遺留分減殺請求と特別受益に関する福岡高裁判決紹介1

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平成29年12月 8日(金):初稿
○遺留分減殺請求において、被代襲者が生前に受けた特別受益が、被代襲者の死亡後に代襲相続人となった者らの特別受益に当たるとされ、更に推定相続人でない者が被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得した場合には、特段の事情がない限り代襲相続人の特別受益には当たらないが、この贈与が実質的には被代襲者への遺産の前渡しとも評価しうる特段の事情があるとして、特別受益に当たるとした平成29年5月18日福岡高裁判決(判時2346号81頁)全文を2回に分けて紹介します。

被相続人A________
     |      |
   長女B___ 二女X
     |  |
     Y1 Y2

○事案は被相続人A(平成23年7月死亡)が
①平成元年12月、長女B(平成16年2月死亡)に対し土地13筆(本件土地一)を、
②平成3年5月、B及びY1(Bの長男、代襲相続人)に対し土地2筆(本件土地二)の各共有持分権2分の1を、
③B死亡後の平成16年4月Y1に対し土地3筆(本件土地三)を
をそれぞれ贈与していたところ(B遺産分割では、Y1がB遺産全て取得し、Y2は代償金3970万円を取得)
被相続人Aの二女Xが、Aの上記①乃至③の贈与によって、Xの遺留分が侵害されているとして、Y1及びY2(Bの二男・代襲相続人)に対して遺留分減殺請求として約850万円の支払を求めたものです。
なお、判決では特別受益と認められる不動産評価額は合計約4570万円と認定しています。

○争点は
①被代襲者Bが生前被相続人Aから受けた特別受益が、B代襲相続人Y1、Y2の特別受益にあたるか
②Aの推定相続人でないY1がAから受けた贈与が、代襲相続人としての地位を取得後は、Aからの特別受益にあたるか
の2点で、福岡高裁は、①を肯定し、②については原則として否定するも、本件ではこの贈与が実質的には被代襲者への遺産の前渡しとも評価しうる特段の事情があるとして肯定し、Y1に対し、約243万円の支払を認めました。

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主   文
一 原判決のうち、被控訴人Y1に関する部分を取り消す。
二 被控訴人Y1は、控訴人に対し、242万6247円及びこれに対する平成23年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 控訴人の被控訴人Y1に対するその余の請求を棄却する。
四 控訴人の被控訴人Y2に対する控訴を棄却する。
五 訴訟費用については、控訴人と被控訴人Y1との間で生じた訴訟費用は、一審、二審を通じて、これを5分し、その1を被控訴人Y1の負担とし、その余は控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人Y2との間で生じた控訴費用は控訴人の負担とする。
六 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 控訴の趣旨

一 原判決を取り消す。
二 被控訴人Y1は、控訴人に対し、489万6942円及びこれに対する平成23年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人Y2は、控訴人に対し、361万8270円及びこれに対する平成23年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(控訴人は、当審において、被控訴人Y1に対する不動産の所有権移転登記手続請求を取り下げるとともに、被控訴人らに対する請求をそれぞれ減縮した。)
四 訴訟費用は、一審、二審とも被控訴人らの負担とする。
五 仮執行宣言

第二 事案の概要
一 事案の要旨(略語は、特に断らない限り、原判決の表記による。)

 本件は、亡A(平成23年7月××日死亡)の二女である控訴人が、亡Aの長女である亡B(平成16年2月××日死亡)及び亡Bの長男である被控訴人Y1に対する亡Aの贈与により、亡Aの相続についての控訴人の遺留分が侵害されたため、亡Aについての共同相続人(代襲相続人)である被控訴人Y1及び亡Bの二男である被控訴人Y2に対して遺留分減殺請求権を行使したとして、(1)被控訴人Y1に対して、贈与を受けた土地の引渡、遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続、720万0768円及びこれに対する遺留分減殺請求権を行使した日の翌日である平成23年7月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求め(甲事件)、(2)被控訴人Y2に対して、1016万9908円及びこれに対する平成23年7月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を、それぞれ求めた事案である(なお、控訴人は、当審において後記三のとおり請求を変更した。)。

二 原判決の判断の要旨
 原判決は、亡Aの遺産について現金135万2996円を含む1334万8517円であると認定した上で、控訴人が主張する亡B及び被控訴人Y1への贈与のうち、原判決別紙不動産目録三記載の各不動産(以下「本件土地三」という。)の贈与(原判決別紙遺産目録二記載107)のみが特別受益であり、この不動産の価額を390万4001円(控訴人主張額)とすると、控訴人の遺留分は431万3129円となるところ、控訴人は亡Aの遺産である1334万8517円を既に相続しているから、控訴人の遺留分は侵害されていないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。

三 控訴及び請求の趣旨の変更
 控訴人は、これを不服として控訴し、当審において、被控訴人Y1の価額弁償の申し出を受けて、土地の引渡及び所有権移転登記手続請求を取り下げ、価額弁償金のみを請求し、預貯金及び保険についての特別受益の主張を撤回して、その請求を、
(1)被控訴人Y1に対して、489万6942円及びこれに対する平成23年7月3日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を、
(2)被控訴人Y2に対して、361万8270円及びこれに対する平成23年7月3日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を
それぞれ求めるものに減縮した。

四 本件の「前提事実」
 本件の「前提事実」は、原判決の「事実及び理由」の第二の一に記載のとおりであるから、これを引用する。

五 争点及び争点についての当事者の主張
(1)亡Aの遺産額

(控訴人の主張)
 亡Aの遺産は、1199万7217円から保佐人報酬、諸経費を控除した1064万5917円である。

(被控訴人Y1の主張)
 平成23年12月20日付け財産目録では、亡Aの遺産の現金は1696円とされているが、控訴人が作成した同年8月6日付け後見等事務終了報告書では現金は135万2996円とされており、これを含めるべきである。

(被控訴人Y2の主張)
 不知。

(2)亡B及び被控訴人Y1に対する贈与の有無
(控訴人の主張)
 亡Aは、以下のとおり、亡B及び被控訴人Y1に対し、所有する不動産を贈与し、所有権等の移転登記手続を行った。なお、仮に、亡Bが、亡Aに無断でこれらの登記手続を行ったのだとしても、その後、亡Aはその取り戻しを断念して、贈与を追認したものである。
ア 平成元年12月7日、亡Bに対して、原判決別紙不動産目録一記載の各土地(以下「本件土地一」という。)を贈与した。
イ 平成3年5月24日、亡B及び被控訴人Y1に対して、原判決別紙不動産目録二記載の土地(以下「本件土地二」という。)の持分各2分の1ずつを贈与した。
ウ 平成16年4月23日、被控訴人Y1に対して、本件土地三を贈与した。

(被控訴人Y1の主張)
 被控訴人Y1への本件土地三の贈与は認める。その余の贈与は知らないが、亡Aと亡Bとの間で何らかの合意があって所有権移転登記手続が行われたものと考えている。

(被控訴人Y2の主張)
 上記各贈与はいずれも知らないが、控訴人は、上記贈与についての立証を尽くしていない。また、控訴人はこれまで亡Bが無断で本件土地一及び本件土地二について贈与を原因とする所有権移転登記手続を行ったと主張し、原審でもそのように供述しているから、控訴人が贈与を主張することは許されない。
 また、亡Aは追認をしておらず、追認の主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

(3)上記(2)の贈与が被控訴人らの特別受益として遺留分減殺の対象となるか。
(控訴人の主張)
ア 亡Bは、本件土地一及び二(持分2分の1)の各贈与を受けた当時、亡Aの推定相続人であるから、亡Bに対する贈与は特別受益に当たるところ、被控訴人らは特別受益者である亡Bの相続人(亡Aの代襲相続人)であるから、亡Bの特別受益は、被控訴人らとの関係で遺留分算定の基礎に加えるべきである。
 また、被控訴人Y1に対する贈与も特別受益として、遺留分算定の基礎に加えるべきである。
イ 亡Bは、被控訴人らに不動産及び預貯金等合計6700万円以上を相続財産として残しているところ、上記不動産はいずれも亡Aから贈与を受けたものである上、亡Bが行っていた行商による生花業ではさほどの収益を上げることはできないから、上記相続財産は亡Aから亡Bへの上記贈与によって形成されたというべきであり、遺留分減殺の対象とすべきである。

(被控訴人らの主張)
ア 亡Bに対する贈与が行われた当時、亡Aと亡Bが同居して共同生活をし、亡Aの生花業を亡Bが事実上承継していたことなどを考えると、上記贈与は亡Bの生計の資本としての贈与ではなく、亡A自身のその後の生活のために行われた贈与とみるべきであり、特別受益とは認められない。
イ 亡Bに対する贈与が同人の特別受益に当たるとしても、被控訴人らは、亡Bに対する贈与が行われた後に、同人の死亡により亡Aの相続人(代襲相続人)となったものであり、特別受益は一身専属的なものと考えるべきであるから、被代襲者である亡Bが受けた特別受益に関して、代襲相続人である被控訴人らは持戻しの義務は負わないと解すべきである。
ウ 上記各贈与が被控訴人らとの関係で持戻しの対象となるとしても、贈与が相続開始よりも相当以前になされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、遺留分減殺請求を認めることが相続人に酷であるなどの特段の事情がある場合には、当該贈与は減殺の対象とはならないとされており(最高裁判所平成10年3月24日第三小法廷判決・民集52巻二号433頁参照)、上記各贈与は、亡Aの相続開始(平成23年7月××日)よりも相当以前になされた贈与であり、亡Bが贈与を受けた財産と亡Bの固有財産は区別できなくなっているから、被控訴人らについて上記各贈与を対象として遺留分減殺請求を認めることは、被控訴人らに酷というべきであり、上記各贈与は遺留分減殺の対象とすべきではない。
 また、亡Bに贈与された不動産のうち同人が売却したものは同人の遺産となっていないから、これらに関して被控訴人らは持戻しの義務を負わない。

(4)遺留分侵害額及び被控訴人らが支払うべき金額
(控訴人の主張)
ア 遺留分侵害額
 亡Aの遺産は1064万5917円であり、亡Aが亡B及び被控訴人Y1に贈与した財産の評価額合計6599万8596円を加えると、7664万4513円となる。
 控訴人の遺留分額は、上記金額に控訴人の遺留分割合である4分の1を乗じた1916万1128円であり、控訴人が亡Aから相続した財産1064万5917円を控除すると、遺留分侵害額は851万5211円となる。

イ 被控訴人らが受けた贈与額
(ア)被控訴人Y1が亡Aから直接贈与された本件土地二の2分の1及び本件土地三の評価額合計は703万8270円であり、亡Bが贈与された本件土地一及び本件土地二の2分の1の評価額合計5632万7705円の2分の1である2816万3852円を被控訴人Y1は亡Bから承継している。よって、被控訴人Y1が受けた贈与額は3520万2122円となる。
(イ)被控訴人Y2が受けた贈与額は、亡Bが受けた上記贈与額の2分の1の2816万3852円である。

ウ 被控訴人らが支払うべき金額
 被控訴人らについて、上記贈与を受けた額から被控訴人らの遺留分額(824万9245円)を控除した額の割合に応じて、上記遺留分侵害額を割り付けると、被控訴人Y1が489万6942円、被控訴人Y2が361万8270円(いずれも円未満切捨て)となる。
 被控訴人Y1が現在所有する本件土地三、本件土地二について、後の贈与から順に遺留分減殺の対象となるが、被控訴人Y1は価額弁償の意思を表示し、控訴人も価額弁償金を請求しているから、被控訴人Y1が控訴人に支払うべき金額は489万6942円となる。
 被控訴人Y2は、亡Bの遺産を取得せず、代償金を取得しているから、被控訴人Y2が控訴人に支払うべき金額は361万8270円となる。

(被控訴人らの主張)
 控訴人の主張は争う。

以上:5,228文字

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