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養子縁組意思を認めた平成27年9月16日東京家裁(第一審)判決全文紹介

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平成29年 8月 8日(火):初稿
○専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとした平成29年1月31日最高裁判決(判タ1435号95頁、判時2332号13頁)がだされました

○この最高裁判決のその第一審平成27年9月16日東京家裁判決(金融・商事判例1515号13頁)は、亡Aの法定相続人(長女及び二女)である原告らが、世田谷区長に対する届出によってされたAと被告との養子縁組は、Aの縁組意思及び届出意思に基づかないものであると主張して、無効であることの確認を求めた事案です。

○同判決は、本件縁組届は、その用紙の体裁や印字されている文言から、それが養子縁組の届出書であることを容易に認識できるものであり、Aは、本件縁組届に署名した際、養子縁組届であることを認識したものと認められ、本件養子縁組当時、Aが縁組意思及び届出意思を欠いていたと認めるに足りる証拠は見当たらないとして請求を棄却しました。その平成27年9月16日東京家裁判決全文を紹介します。


亡A____D
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 |       |       |
 B(長男) 原告X1(長女) 原告X2(二女)
 |
被告Y


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主   文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 平成24年5月■日東京都世田谷区長に対する届出によってされたA(本籍福島県a市b■番地■,昭和6年■月■日生,平成25年■月■日死亡)と被告との間の養子縁組は無効であることを確認する。

第2 事案の概要
 本件は,亡A(以下「A」という。)の法定相続人(長女及び二女)である原告らが,平成24年5月■日東京都世田谷区長に対する届出によってされたAと被告との養子縁組(以下「本件養子縁組」という。)は,Aの縁組意思及び届出意思に基づかないものであると主張して,無効であることの確認を求めた事案である。

1 前提事実(文中摘示の証拠又は弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者等

 原告X1(以下「原告X1」という。)は,Aとその妻Dとの間の長女であり,原告X2(以下「原告X2」という。)は二女,被告法定代理人親権者父B(以下「B」という。)は長男である(甲1ないし甲4)。
 被告は、Bの長男である。 
 Aは,昭和62年頃まで衆議院議員の秘書として働き,その後福島県c町の町長などを務めた者である。

(2)公正証書遺言
 Aは,東京都世田谷区d■丁目に3筆の土地を所有し,同地上の建物につき共有持分を有していた(以下,土地及び建物を併せて「dの不動産」という。)ほか,東京都狛江市や静岡県伊豆市,出身地である福島県a市にも不動産を所有していたところ,平成22年3月11日,dの不動産をB及びDに相続させることなどを内容とする公正証書遺言を作成した(乙4)。
 また,Dは,同年6月28日,dの不動産のうち建物の共有持分をBに相続させることなどを内容とする公正証書遺言を作成した(乙5)。

(3)Dの死亡
 Dは,平成24年3月■日に死亡した(甲1)。

(4)自筆証書遺言
 Aは,同月22日付けで,「現在の遺言書は無効です」として,前記公正証書遺言を取り消す旨の自筆証書遺言を作成した(甲27)。

(5)Bとの関係悪化
 同年6月頃,BがAに対して同人の女性問題を追及するなどしたことなどをきっかけに,BとAの関係は悪化し,Bは,Aからの連絡を拒むようになった。その後も,BとAの関係が修復することはなく,Bは,Dと同じ墓所にAを埋葬することを拒絶するなどした(甲23,原告X2本人,B本人)。
 また,Bは,Dの生前から,原告らからの電話の着信を拒否するようになり,同年7月頃には,Dの形見分けなどに関連して関係が一層悪化していた(乙8,原告X2本人)。

(6)本件養子縁組
 同年5月■日,本件養子縁組の届出が受理された。
 本件養子縁組に係る養子縁組届(以下「本件縁組届」という。)のうち,養親側の届出人署名押印欄になされたAの署名は,本人によるものである。
 また,本件養子縁組に当たっては,Aの弟であるE及びその妻のFが証人となった(甲5)。
 なお,その頃,Aは,dの不動産に居住していたが,住民票上の住所は福島県a市であり,しばしば同市内に所有する不動産にも滞在するなどしていたものである(原告X1本人)。

(7)養子縁組後の事情
 Aは,同年7月14日付けで,「息子Bの私に対する態度も含め精神的に参っています。私の財産は一切今後渡さなことに決めました」(原文のまま)と記載した上で,署名押印をした文書を作成した(甲6の1枚目)。
 なお,甲第6号証の2枚目以降の「追伸」から始まる文書については,Bは,同年10月以降にBの代理人であった弁護士に送られてきたものであると供述しているところ,1枚目と一体の文書と認めることはできない。
 原告X1は,同年9月頃,Aから遺言公正証書の作成の相談を受けた弁護士の事務所から,被告がAの養子になっているとの連絡を受け,本件養子縁組の事実を知り(甲13,原告X1本人),Aに問合せた。

(8)離縁届の作成
 Aは,同年10月7日付けで,当時のBの代理人であった弁護士を通じ,Bに対し,本件養子縁組はBの勝手な判断によるものであり,自分は本件養子縁組について詳しい説明を受けたことも,本件縁組届に署名押印した事実もないとして,離縁届を作成して提出する旨を書面で連絡した(甲7)。

 その上で,Aは,被告との養子離縁届に署名押印の上,同月12日,世田谷区長に提出し,受理された(乙9)。なお,離縁届のうち,Aが記入したのは,自らの署名押印欄のみで,被告法定代理人親権者らの署名押印を含むその余の部分は,原告X2が作成したものである。

(9)新たな遺言公正証書の作成
 Aは,同年11月22日,dの不動産を含む一切の財産を,原告らに相続させるとともに,Aが連帯保証人として負担する債務を主債務者であるBに負担させ,佐賀県g市のG弁護士を遺言執行者として指定することを内容とする公正証書を作成した(乙19)。
 なお,Aは,当初,原告X2と面識のあった東京都調布市内の弁護士に公正証書遺言の作成を相談したが,手続きが速やかに進められなかったことから,原告X1が紹介した上記G弁護士に相談することになったものである(原告X1本人,原告X2本人)。

(10)離縁無効確認請求訴訟等
 被告は,平成25年2月頃,Aを被告として離縁無効確認請求訴訟を提起した(東京家庭裁判所平成25年(家ホ)第79号)。
 これに対し,Aは,同年4月4日,本件養子縁組が無効であることの確認を求める反訴を提起した(平成25年(家ホ)第236号)(甲19)。
 同年■月■日,Aが死亡したことにより,前記養子縁組無効確認請求事件は当然に終了し,離縁無効確認請求事件については,検察官(東京地方検察庁検事正)が受継して被告となった。
 平成26年3月10日,前記離縁は,代諾権者である被告法定代理人親権者らの意思を欠くものであるとして,無効であることを確認する旨の判決が言い渡され,同判決は同月26日に確定した(乙11の1及び2)。

2 当事者の主張の骨子
(原告らの主張)

 Aは,養子縁組届であることを認識せずに,本件縁組届に署名したものであり,本件養子縁組当時,縁組意思及び届出意思を有していなかった。
 Aは,死亡する直前まで地元での仕事に従事し,認知症を疑わせるような状態にはなかったのであり,原告らがAの判断能力の低下を奇貨として,離縁届や新たな遺言書の作成を強要したなどということはない。
 Bは,Aを激しく憎悪していたのであり,Aと被告との間に,真に養親子関係を設定するような関係は存在しなかった。原告らが,円満であったAとBの関係を妨害したというような事情は一切ない。

(被告の主張)
 Aが本件縁組届に署名押印していること,Aの要請によって証人2名が署名押印をしたことなどからすれば,本件養子縁組が,Aの意思に基づくことは明らかである。
 Bに対して反感を抱いていた原告らは,本件養子縁組の事実を知るや,Aに不満と怒りをぶつけ,精神的に圧迫して公正証書遺言の書換え等を主導した。Aは,原告らから圧迫されて一時的に思考力や判断力を奪われ,原告らの意に沿う行動をしたのである。

第3 当裁判所の判断
1 Aが,養子縁組届であることを認識せずに本件縁組届に署名したか否か

(1)本件縁組届の届出人署名欄がAによって作成されたことは前記判示のとおりである。
 本件縁組届は,その用紙の体裁や印字されている文言から,それが養子縁組の届出書であることを容易に認識できるものである。


(2)また,証拠(甲5)によれば,本件養子縁組当日,世田谷区役所からAの住民票上の住所に養子縁組届の受理通知が送付されたことが認められ,また,原告X2本人尋問の結果によれば,a市の家に送られた郵便物は,世田谷区dの自宅に転送されるようになっていたというのであるが,その頃,AがBに対して本件養子縁組について明確に抗議したという形跡もない。

(3)そして,本件養子縁組当時,Aの認知機能が低下していて,有効な養子縁組をするのに必要な意思能力を欠いていた等の事情も見当たらない。

(4)加えて,Aは,自ら提起した養子縁組無効確認請求訴訟(前記第2の1(10))の訴状においては,本件縁組届に署名した際に養子縁組届であるとの認識がなかった旨の主張をしていない(甲19)。

(5)これらの事実からすれば,Aは,本件縁組届に署名した際,養子縁組届であることを認識したものと認められ,これを左右すべき事情は見当たらない。
 よって,Aが養子縁組届であることを認識せずに本件縁組届を作成したという原告らの主張は採用できない。

 なお,Bは,本人尋問において,Aは,平成24年4月24日,税理士らの面前で,本件縁組届に署名をした旨の供述をする(B本人尋問調書12頁)が,陳述書(乙42)においては,Dの49日法要のあった同年5月3日に署名したと説明しており,重要な事実において,合理的理由なく変遷している。また,本件養子縁組を助言したというH税理士作成の2通の文書(乙3,乙41)のいずれにおいても,養子縁組について「早々に手続を進めることとなった。」と記載があるのみで,面前で署名したという重要な事実の記載が明確になされていない。したがって,Aが本件縁組届に署名した日時については,証拠上認定できない。

2 縁組意思及び届出意思について
(1)本件縁組届がAによって作成されたということからすれば,Aには被告との養子縁組の意思があったものと推定できる。

(2)既に判示したとおり,Aは,平成24年10月頃から,本件養子縁組の解消やその効力の否定に向けた積極的な行動をしているが,本件養子縁組の約1か月後である同年6月から,BがAからの連絡を拒むようになり,関係が著しく悪化したと認められること(甲23,原告X1本人,原告X2本人,B本人)のほか,遅くとも平成25年3月7日の時点において,Aは短期記憶ができないこと,自分に都合良く作話することがあることなどが原告X2によって確認されていたものであること(乙21の1ないし3)も考慮すれば,本件養子縁組をしたことと矛盾するようなAの言動をもっても,前記推定を覆すには足りない。

 なお,被告は,原告らがAとBとの良好な関係を妨害し,また,Aに圧力をかけて離縁届の作成や遺言の作り直し等を強要したかのような主張をするが,そのような事情をうかがわせる証拠は一切存しない。

(3)そして,Aが本件縁組届作成後,届出までに翻意したり,その届出のみを拒んだりした事情はうかがわれないから,本件養子縁組は,Aの意思に基づいて届け出られたものと認めるのが相当である。

3 本件養子縁組の経緯について
 従前から被告を養子とすることの節税メリットを助言していたというH税理士が,平成24年4月24日の午後6時30分,改めてAに対し,同様の説明をしたところ,Aはこれを快諾して手続を進めることにした旨の文書(乙3,乙41)は,その内容の信用性を否定すべき事情は見当たらない

4 結論
 以上のほか,本件養子縁組当時,Aが縁組意思及び届出意思を欠いていたと認めるに足りる証拠は見当たらないから,主文のとおり判決する。

東京家庭裁判所家事第6部 裁判官 久次良奈子
以上:5,170文字

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