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民法第887条2項に関する平成元年8月10日大阪高裁判決概要説明

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平成29年 1月 5日(木):初稿
○「民法第887条2項に関する平成元年8月10日大阪高裁判決全文紹介」の続きで、その概要説明です。
この判決の結論は、養子縁組前の養子の子が、その一方の養親の実子で、その一方の養親の直系卑属になるときは、他方の養親との関係で直系卑属でなくても、養親の養親を被相続人とする相続において、この養子の子は、養親より先に死亡した他方の養子を代襲して相続人になるとしたものです。話しがややこしいので事案を図案化すると次の通りです。

  先妻B___被相続人A___妻Y(控訴人)  被相続人A_愛人D
      |       |(養子縁組)         |
   (実子)X1_______C(養子)           |
        |   |                |
  (縁組前出生)X2   X3(縁組後出生)          X4(婚外子)

判決での事案説明は、
2 被控訴人X2の相続権について
 控訴人は、被控訴人X2の相続権を争っているので、若干付言する。
 Aが昭和59年10月26日に死亡したこと、控訴人がAの妻であり、被控訴人X1がAと先妻Bとの間の長女であり、被控訴人X2が右X1と亡C(Aと控訴人の養子)間の長女、被控訴人X3が右X1と右C間の二女であり、被控訴人X4がAとD間の子であってAにより認知されたものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第1、第2号証によれば、右Cは昭和39年2月25日A及び控訴人の養子となる縁組届出をし、同日、被控訴人X1と婚姻届出をしたこと、被控訴人X2は右縁組届出の日の約2週間前の同年2月12日に出生し、被控訴人X3は昭和41年8月22日に出生したこと、右Cは昭和52年6月9日死亡したことの各事実が認められる。

となっています。

○まとめると、被相続人Aは昭和59年10月26日死亡し、その相続人としては、後妻被控訴人Y、Aと先妻B間の長女X1、A・Yの養子亡CとX1間の長女X2、同二女X3、Aが認知したDとの間の非嫡の子X4の5人の事案です。
養子Cは昭和39年2月25日にA及びYの養子となる縁組届出をし、同日、X1と婚姻届出をし、X2はその前の同年2月12日に出生していました。X2の出生届出はCがこの養子縁組届出及び婚姻届出と同時にしていました。CはAの死亡前の昭和52年6月9日に死亡し、X2はCの縁組前の子であるから、養子Cのみの観点から見れば、民法727条の解釈上X2はAの直系卑属ではないこととなり、民法887条2項ただし書により、X2はAの遺産につき被代襲者Cを代襲して相続人にはならないともなりそうです。

○しかし、X2は母であるX1の観点からみればAの孫であり、Aの直系卑属になるのであるから、その観点からは887条2項による代襲相続権を認めてもよいのではないかとも考えられます。一審判決はそのような考えからX2の代襲相続権を認めました。被控訴人Yはこれを争って控訴したのですが、控訴審の平成元年8月10日大阪高裁判決(判タ708号222頁)は、一審判決と同様の結論を採りました。

○養子縁組前の養子の子が代襲相続権を有するかという問題については古くから論ぜられ、判例・学説とも代襲否定説が多数でしたが、昭和37年の民法の一部改正によりこの問題は立法的に解決され、代襲相続人は被相続人の直系卑属でなければならないこととされました。しかし、本件で問題となっている点は、養子縁組前の養子の子が、その母を通じて養親(被相続人)の実の孫であって直系卑属となっている場合に、養親よりも先に死亡した養子を代襲して養親の遺産につき相続人になれるかということでした。

○この問題に直接あてはまる裁判例は見当たりませんが、戸籍先例は、本件と同様な事例につき、縁組前の養子の子に代襲相続権を認めていました(昭和35年8月5日民事甲第1997号民事局第二課長回答、昭和36年12月25日民事甲第3140号民事局長回答・曹時14巻4号152頁)。本件の場合には、X2に相続権がないとしても、妹のX3の相続分が10分の1から10分の2に増えるだけであって、他の相続人の相続分には何ら影響がありません。そのため控訴人Y(被告)の方でもそれほど積極的には争いませんでした。しかし、他に弟妹がいない場合とか、母親も死亡していた場合などは激しい争いになりそうです。

○Aの遺産として不動産があった場合、その所有権移転登記の登録免許税率が相続人で相続を原因とする場合1000分の4が、非相続人で遺贈を原因とする場合1000分の20で5倍になります。固定資産評価額数億円数十億円の巨額不動産の場合、代襲相続相続人としての登記であれば数百万円節約できることもあります。
以上:1,952文字

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