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成熟子の老親に対する扶養程度を判断した一・二審裁判例全文紹介

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平成27年12月16日(水):初稿
○「扶養の基礎-扶養・扶け合いに関する条文整理」に、成熟子の老親扶養程度は、一杯の茶碗のご飯は自分が食べ、余っているご飯を与えればよい生活扶助義務であり、夫婦・未成熟子扶養程度は、一杯の茶碗のご飯を分けても与える生活保持義務であると説明していました。前者の生活扶助義務について具体的金額を示した裁判例の一審平成26年3月28日釧路家裁審判(判タ1417号129頁)と二審平成26年7月2日札幌高裁決定(判時2272号67頁) 全文を紹介します。

○二審平成26年7月2日札幌高裁決定(判時2272号67頁) は、成熟子の老親に対する扶養料は、老親の平均的生活を維持する最低生活費から老親の収入を差し引いた額を超えず、かつ、成熟子の扶養余力の範囲内の金額でよいとし、具体的には月額11万円を算出しています。

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一審平成26年3月28日釧路家裁審判(判タ1417号129頁)

主  文
1 相手方は,申立人に対し,18万円を支払え。
2 相手方は,申立人に対し,平成26年×月から毎月末日限り9万円を支払え。
3 手続費用は各自の負担とする。 

理  由
第1 申立ての趣旨(当初のもの)

 相手方は,申立人に対し,平成25年×月から毎月40万円を支払え。

第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。

(1)申立人はC(以下「相手方の父」という。)との間に,昭和48年×月×日,相手方をもうけた。

(2)申立人は,その後,相手方の父と離婚した。

(3)相手方は,医学部を卒業後,平成17年に○○において△△クリニックを開業し,平成19年に○○の□□病院を買収し,△△クリニックと併せて医療法人Eの傘下に2つの医療機関を置き,Eの本部を□□病院内に置いて病院経営を始めた。

(4)相手方は,申立人をEの理事として遇し,申立人に対しては,平成20年×月から理事報酬として月額30万円(額面)がEから支払われるようになった。申立人の理事報酬は,平成21年×月から月額40万円(額面)となり,平成24年には年間480万円(額面)が支払われた。

(5)その後,申立人と相手方との間でトラブルが重なり,相手方又はEは,平成24年暮れころ,申立人に対し,平成25年×月×日に申立人の常勤理事の任期が満了した後は,再任しない旨の通告をした。

(6)その後,申立人(代理人)と相手方(代理人)との間で,申立人の退職や退職金の支給をめぐって交渉がなされる一方,申立人は,平成25年×月×日,当庁に,本件扶養料の調停を申し立てた。

(7)申立人は,本件調停の申立時は○○に居住していたが,平成25年×月ころ,○○へと転居した。

(8)申立人に対しては平成25年×月から×月までは,Eから月額40万円の理事報酬が支払われたが,その後,申立人はEを退職することとなり,平成25年×月×日に退職金432万7000円(額面)が支給された。申立人は,受け取った退職金を弁護士費用,歯科治療代,税金や保険料の納付,債務の返済等にあて,退職金を上回る金額を費消した。

(9)申立人は,相手方の父と離婚した後,D(以下「前夫」という。)と再婚していたが,平成25年×月×日,前夫と離婚した。

(10)申立人は,平成25年×月下旬,○○の町営住宅への入居を申し込んだが,一旦決まった入居決定が取り消されるということがあった。そのため,申立人は,平成25年×月×日,○○に引越しした。その際,申立人は,それまで利用していた自動車(メルセデスベンツ)を130万円で売却し,借金の返済や転居のための旅費,生活費として費消した。

(11)○○へ転居後の申立人の収入は,国民年金と厚生年金で1か月当たり7万6725円であったため,申立人は,平成25年×月×日に○○へ生活保護の申請をした。そうしたところ,相手方は,申立人に対し,平成25年×月×日,6万円を振込みの方法で渡した。これを受けて,申立人の生活保護の申請は却下された。

(12)申立人は,○○の町営住宅への入居決定が取り消された後異議を述べていたが,その結果,町営住宅(申立人肩書住所地)に入居が認められたため,平成26年×月×日に転居した。

(13)相手方は,申立人に対し,平成26年×月×日及び同年×月×日に,それぞれ6万円を支払った。

(14)なお,申立人の現在の収入は上記のとおり国民年金と厚生年金であり,1か月当たりの支給額は合計7万6725円である。
 他方,相手方は,Eから理事報酬として年間3600万円(額面),月額にすると300万円(額面。手取りは月額約170万円)を得ており,相手方の妻もEの理事報酬として年間360万円(額面)の収入を得ている。また,相手方と相手方の妻との間には,3人の子どもがおり,将来医師になることを考えているため相当額の教育費や教育費用保険がかかっている。

2 以上の事実を前提に検討する。
(1)申立人は,最低限の生活費(月額)として27万6700円が必要であると主張し,それを前提に扶養料月額19万9975円を請求している。
 これに対し,相手方は,妥当な生活費(月額)は16万1700円であり,扶養料を月額8万4975円と定めるべきと主張している。

(2)ところで,直系血族は互いに扶養をする義務がある(民法877条1項)ところ,子の親に対する扶養義務は,自分の生活を犠牲にしない限度で被扶養者の最低限の生活扶助をする義務(いわゆる生活扶助義務)と解される

 そのような観点からは,相手方が主張するように生活保護基準や標準生活費を参考にして必要な生活費を検討すべきであり,そうすると,相手方が総務省の統計も考慮して主張する16万1700円は概ね相当な金額ということができ,申立人の主張する27万6700円は過大というべきである(なお,1か月当たりの年金収入額7万6725円に相手方から支給された6万円が加算され申立人の収入が月額13万6725円となったことで,生活保護の申請は却下されたという経緯もある。)。

 もっとも,医療費については,相手方は月額8000円が相当と主張するが,申立人が実際に平成25年×月から×月の3か月間に3万6550円(1か月当たり1万2183円)の支出をしていることを主張し裏付けとなる証拠も提出していることからすると,今後も申立人が同程度の支出を余儀なくさせられることも十分予想できる(なお,申立人は上記額を上回ることは確実と主張するが,それを裏付ける証拠はなく,かつ,突発的に支出が増えた場合には他の支出(教養・娯楽費等)を減らすことで対応すべきと考えられる。)。そうすると,医療費については,相手方が主張する8000円ではなく1万2000円程度が必要であると考えることができ,これを加味すると,申立人が必要な金額は16万5700円となる。

 なお,家賃については,申立人は,扶養料を得て収入が21万円を超えたら現在の町営住宅から退去を求められることを根拠に,民間住宅の家賃として6万円が必要となる旨を主張している。しかしながら,申立人の収入が21万円を超えるような扶養料を認めるのは,生活扶助義務という性質に照らし相当とは考えられず,申立人の主張は採用できない。妥当な家賃は1万2200円と考えるべきである。

(3)そして,上記のとおり申立人が必要とする金額を16万5700円とした上で,上記認定のとおり,申立人には国民年金及び厚生年金を受給することで1か月当たり7万6725円の収入があることからすれば,差引8万8975円となるので,相手方が生活扶助義務として申立人に支払うべき扶養料は月額9万円と定めるのが相当である。

(4)ところで,上記認定のとおり,申立人は,本件扶養料の調停の申立後に前夫と離婚し,その後の平成25年×月×日に○○に移転して以降は,それ以前の退職金や自動車の売却代金を費消し,平成25年×月×日には生活保護を申請しているから,申立人から相手方に対する扶養料の請求は平成25年×月に遡って認めるのが相当である。
 そして,相手方が平成25年×月,平成26年×月及び同年×月に各6万円を支払っていることを考慮すると,平成25年×月分から平成26年×月分までの扶養料の未払分として相手方がさらに支払うべきは18万円となる。

(5)そこで,相手方に対し,18万円を直ちに支払うことを命じるとともに,平成26年×月以降は毎月末日限り9万円の支払いを命じることとする。

3 よって,主文のとおり審判する。
 

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二審平成26年7月2日札幌高裁決定(判時2272号67頁)

主  文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 被抗告人は,抗告人に対し,59万円を支払え。
3 被抗告人は,抗告人に対し,平成26年×月から,11万円を毎月末日限り支払え。
4 手続費用は,原審及び当審とも,各自の負担とする。 

理  由
第1 抗告の趣旨及び理由

 抗告の趣旨は,「原審判を取り消す。被抗告人は,抗告人に対し,19万1950円を支払え。被抗告人は,抗告人に対し,平成25年×月から,毎月末日限り,21万1950円を支払え。」というものであり,その理由は別紙「即時抗告の理由書」及び「即時抗告の理由書(2)」(各写し)記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審判を変更し,被抗告人は,抗告人に対し,抗告人の扶養料として,平成25年×月分から平成26年×月分までの未払分の合計59万円を即時に支払い,同年×月から,毎月末日限り,11万円を支払うのが相当であると判断する。その理由は以下のとおりである。
(1)前提事実
 原審判の「理由」欄の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原審判3頁18行目冒頭から23行目末尾までを次のとおり改める。
 「被抗告人は役員報酬として月額300万円(所得税,住民税や社会保険料の控除後の金額は月額約170万円である。),被抗告人の妻は役員報酬として月額30万円(所得税,住民税や社会保険料の控除後の金額は月額約24万円である。)を得ている。被抗告人は,3人の子らの教育費,各種保険,住宅ローン,被抗告人自身の奨学金の返済,その他の債務の返済及び生活費として毎月190万円程度の支出がある。」

(2)検討
 被抗告人は抗告人に対し扶養義務(民法877条1項)を負うが,それは,生活扶助義務であるから,被抗告人らの社会的地位,収入等相応の生活をした上で余力を生じた限度で分担すれば足りるものであることを考慮して,扶養料の額は,抗告人の必要とする自己の平均的生活を維持するために必要である最低生活費から抗告人の収入を差し引いた額を超えず,かつ,被抗告人の扶養余力の範囲内の金額とするのが相当である。

 抗告人は,昭和19年×月×日生まれの女性であるところ,総務省統計局の家計調査報告(平成25年)によれば,単身世帯の65歳以上女性の消費支出(月額)は14万9397円であることが認められる。また,一件記録によれば,抗告人の非消費支出(月額)は,国民健康保険税1万5500円,住民税6000円,介護保険料9000円,医療・傷害保険8000円の計3万8500円であり,上記消費支出と非消費支出の合計は18万7897円となる。そして,上記(1)の前提事実によれば,抗告人の生活保護の申請は,被抗告人からの援助(月額6万円)が始まった後に却下されており,月額14万円程度(抗告人の年金収入月額7万6725円と被抗告人の援助の合計額)の収入があれば生活保護の基準を超えていると推認される。

 以上によれば,抗告人の平均的な生活1 当裁判所は,原審判を変更し,被抗告人は,抗告人に対し,抗告人の扶養料として,平成25年×月分から平成26年×月分までの未払分の合計59万円を即時に支払い,同年×月から,毎月末日限り,11万円を支払うのが相当であると判断する。その理由は以下のとおりであるを維持するために必要とする最低生活費は,月額18万7897円であるとするのが相当である。

 そうすると,上記最低生活費から抗告人の年金収入を差し引いた額は月額11万1172円であるが(計算式187,897-76,725=111,172),被抗告人の家計支出の内容等の一切の事情を考慮して,被抗告人の抗告人に対する扶養料は,月額11万円とするのが相当である。この点,抗告人は,被抗告人の収入を考慮して最低生活費を定めるべきとし,最低生活費は27万6700円を下らないと主張するが,上記認定及び判断は左右されない。

 そして,上記(1)の前提事実によれば,抗告人は,平成25年×月×日に本件扶養料の調停を申し立てたが,同月末までは月額40万円の報酬を,同年×月×日には退職慰労金432万7000円を受領していたこと,同年×月×日に前夫と離婚したこと,同年×月×日に生活保護の申請をしたことが認められ,このような経緯に鑑みれば,抗告人が被抗告人による扶養を要する状態になったのは同年×月であり,扶養料支払開始時期は同月とするのが相当である。

 したがって,被抗告人は,抗告人に対し,扶養料として,平成25年×月から1か月11万円を毎月末日限り支払うべきである。なお,上記(1)の前提事実によれば,被抗告人は,抗告人に対して,平成25年×月から平成26年×月までの間に合計18万円を扶養料として支払っており,平成26年×月までの未払分は59万円となる(計算式110,000×7-180,000=590,000)。

2 結論
 以上によれば,本件抗告は理由があるから,原審判を変更して審判に代わる裁判をすることとし,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 湯川浩昭 裁判官 石川真紀子) 

 別紙即時抗告の理由書(写し)〈省略〉
 即時抗告の理由書(2)(写し)〈省略〉 
以上:5,725文字

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