平成19年12月18日(火):初稿 |
○久しぶりに相続の話題です。 民法第1030条で「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によってその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。」と規定されています。 ○父A、母B、長男C、二男Dが居て、相続開始時に残した8億円相当の全財産を全て長男Cに相続させるとの遺言書を残して父Aが死んだ場合、二男Dの遺留分は法定相続分4分の1の2分の1即ち8分の1ありますので、Dは遺言によって8億円相当財産全てを取得した長男Cに対し、遺留分8分の1の1億円相当の財産を返せと請求できるのが遺留分減殺請求権です。 ○父A死亡時の財産は8億円相当でしたが、生前更に4億円相当の財産を有しており、これも全て長男Bに生前贈与していた場合、上記民法第1030条の規定により死亡時より1年間以内に贈与したのであれば、当然に遺留分基礎財産に参入され合計12億円となり、CはDに対し、12億円の8分の1即ち1億5000万円相当の財産を遺留分として返還せよと請求できます。 ○では死亡する1年以内ではなく、10年も前にこの4億円相当の財産を父Aが長男Cに生前贈与していた場合はどうでしょうか。民法第1030条によれば、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。」とあり、当事者である父A、長男C双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたことが必要にも見えます。 ○この「損害を加えることを知って」とは、損害を加えるとの事実関係の認識で、且つ将来の財産の増加のないことの予見まで必要とされ、この加害の認識の立証責任は遺留分減殺請求権者が負うとされています。 ○この「加害の認識」についての認定は実務的には大変難しいと思われますが、贈与された者が相続人である場合は、「加害の認識」の有無に拘わらず当然に算入され、本件ではCが相続人ですからA死亡10年前にCに贈与された4億円相当の財産も当然に遺留分基礎財産に算入されるとするのが通説・判例です。 ○相続人が受けた特別受益となる贈与については、民法第1044条で民法903条「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし」との規定を準用していることが根拠とされています。 ○この考え方に反対する学説もありますが、最高裁平成10年3月24日判決(民集52・2・433)は、この問題に直接言及したものではありませんが、この考え方を当然の前提にしたものと言われており、裁判実務では、相続人への生前贈与については「加害の認識」の有無に拘わらず当然に算入されるとして運用されています。 以上:1,212文字
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