平成18年 3月 2日(木):初稿 |
○相続の問題で良く相談されるのは生命保険金の問題です。父が大きな負債を抱えて死亡したが、生命保険金の受取人に指定された相続人が生命保険を受け取ると相続を放棄できなくなるのではと言う相談です。 ○生命保険金請求権は相続財産に含まれるかという問題ですが、受取人の形態によって異なります。 先ず受取人が特定の相続人に指定されている場合は、生命保険契約の効果として受取人が保険金請求権を取得しますのでこれは相続財産には含まれず、相続放棄をした相続人でもこの保険金請求権を取得します。例えば1億円の負債を抱えて死亡した父が、他に財産はなく、長男に1億円の生命保険契約をしていた場合、長男は相続を放棄して1億円の債務を承継せず1億円の生命保険金だけを受け取ることが出来、債権者にとっては甚だ面白くない結果となります。 ○次に受取人を相続人とだけ書いて指定した場合は保険契約の効果として、被保険者死亡時の相続人が保険金請求権を取得します。この場合も、保険金請求権は相続財産ではないので、相続人は相続放棄して生命保険金だけ受け取ることが出来ます。但し注意を要するのは、取得割合で、法定相続分ではなく、民法427条「数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。」によって平等となることです。 ○受取人欄に指定がない場合も、通常は保険約款に相続人が受取人になるとの条項があるため上記と同様相続人が平等割合で固有財産として生命保険金を受け取ることが出来ます。 ○受取人が被相続人と指定した場合は、生命保険金請求権は被相続人の権利であり、相続財産を構成します。従ってこの生命保険金を受け取ると相続放棄は出来なくなります。 ○生命保険金を受け取った場合それが「特別受益」に該当して持ち戻しの対象になるかという相談も良くあります。 これについては争いがありましたが、最高裁平成16.10.29決定(判時1884号41頁)が、死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するもので、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもなく、被相続人の財産ではないので、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与ではなく「特別受益」には当たらないと判断して決着をみました。但し、保険料が高すぎる場合、保険料が特別受益に当たる場合はあります。 以上:1,012文字
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