平成28年10月 9日(日):初稿 |
○平成24年11月5日から7日にかけて,日弁連弁護士任官等推進センター,及び裁判官制度改革・地域司法計画推進本部の会員20名及び通訳3名の調査団により韓国の司法制度改革に関する調査を実施した結果について、日弁連では、全236頁にも及ぶ「法曹一元及び弁護士任官に関する韓国調査[最終報告書]」を公表していました。 ○「法曹一元」とは、裁判官を弁護士や検察官など、他の法曹経験者の中から任用する制度で、アメリカ、イギリスなど多くの国々で採用されており、私も「私の法曹養成制度に関するパブリックコメントまとめ」等で繰り返し、その重要性を述べてきました。人の争いを裁く裁判官になるのは最低5年程度弁護士としての実務経験が必要と痛感しているからです。 ○前記報告書によると韓国では、「法曹一元化を含む司法の全般的な改革が進められており,今後10年間をかけて,弁護士などの法曹経験10年以上の者から裁判官を任用するという法改正が行われた」とのことです。日本の司法改革では、合格者数が増えただけで、法曹一元に関しては何ら手が付けられず、裁判官のエリート意識だけが極端に増長した感がします。死刑制度廃止の提言なんぞより、法曹一元の提言の方が余程重要と思うのですが。 以下「最終報告書」抜粋です。 ****************************************** 3 法曹一元制度の現段階の内容 (1) 判事の給源の改革 前述のような経過で,法曹一元制度が2013年から導入されることになった。判事の給源は全面的に変更され,司法研修院修了や弁護士試験後に直接判事になることはなくなり,キャリアシステムは廃止されることになる。根本的に制度を変えようとする大改革である。これまでの裁判官制度に対する国民の批判の声も強く,法律で決められた以上,裁判所としても受け入れざるを得なくなっているのである。 2013年1月からは判事は10年以上の法曹経歴者から任用するものとしているが,任用のために必要な法曹経歴の年数に関しては経過規定が置かれている。 ①2013年1月~2017年12月に任用する場合は3年以上の経歴 ②2018年1月~2019年12月に任用する場合は5年以上の経歴 ③2020年1月~2021年12月に任用する場合は7年以上の経歴 ④2022年1月1日以降は10年以上の経歴を要する 1年につき100人程度の判事任官が可能となる応募者があるかという質問に対しては,韓国における裁判官の地位の高さから多数応募するのではないか,ロークラーク出身者が一時期弁護士になってその後多数任官していくのではないか,当面今後3年間は軍法務官経験者(研修院修了後,兵役として軍法務官勤務を3年行う者)からの任官者数十人と弁護士等からの任官者とあわせて充足し,制度が定着していく中で弁護士任官者数も増加するのではないかなどの回答があった。ただ,法院行政処(最高裁事務総局)では,今後必要となる任官者数や優れた人材の確保の点で懸念を抱き,10年の法曹経験が必要というのでは長すぎるからこれを5年程度に短くするよう法改正を国会に働きかける必要があるとの見解を持っているようであった。 なお,2011年7月の法改正時に既に司法研修院に入っている者には任官の期待を奪うとして,その限度で違憲との部分違憲判決が憲法裁判所で2012年11月に出された(この判決の違憲部分の対象者は2013年2月司法研修院を修了する者のみとなる)。この点,既に進路を決めている者も多く,どの程度の影響が出るかはまだ不明であると報じられていた。 (2) ロークラーク(裁判研究員)制度の導入 弁護士試験合格者に対し,すぐにロークラークとして裁判所が登用する制度が2012年1月から施行されている。2012年1月から2017年12月までの採用は任期2年の範囲で期間を定めて採用することとなっており,それ以降は任期は3年の範囲とされている(法院組織法53条の2)。 2022年までは定員は200人の範囲で大法院規則で定めることになっており,2012年はソウル高等法院管内で約60人,太田・大邱・釜山・光州各高等法院管内に各約10人採用されており,合計約100人のロークラークが存在する。 ロークラークは合議体には入れず,研修を受けて判決作成の手伝い(事件検討報告書の作成)等を行っている。実際にそのような職務を行うことと,将来の判事候補として教育し,優秀な人材を予め確保しようという2つの役割を追求する制度と思われる。 (3) 任用制度の改革 2012年1月に施行された法院組織法の改正(改正は2011年7月)により,判事の任命に法官人事委員会の審議を経ることが必要となった。再任についても同様である(以上,法院組織法第41条3項,第45条の2第1項。)。法官人事委員会は改組され,11人構成となって外部委員も多数加わることとなった。法官3人,法務部長官(法務省)が推薦する検事2人(ただし,判事新任の際のみ。),大韓弁護士協会長が推薦する弁護士2人,韓国法学教授会会長と法学専門大学院協議会理事長が推薦する各1人の法学教授,有識者で弁護士の資格のない人2人(内1人以上は女性)を,大法院長が任命することとなった(以上,法院組織法第25条の2。)。 この法官人事委員会の任命過程で実際に果たしている役割については,今回の調査では担当者や委員から直接聞けず判明しなかった。今後の弁護士経歴者任官やロークラークを経由して他の法曹職についた上での任官で,この委員会が果たす役割を継続して調査する必要がある。 また,弁護士からの任官応募手続に関し,大法院からの要請を受けて,大韓弁協は「法官任用志願者評価指針」を作成した。大韓弁協は,この指針に基づいて任官応募者の評価を行い,大法院に評価意見を提出している。 (4) 人事制度の改革 人事評価については,2012年1月に施行された改正法院組織法44条の2により,内容が従前よりは詳細に法定された。大法院長は評定するために公正な評定基準を備えなければならないこと,評定基準において,勤務成績評定には事件処理率と処理期間,上訴率,破棄率及び破棄事由などが含まれるようにすること,資質評定には誠実性,清廉性及び親切性などが含まれるようにすることが定められた。また実施した結果を連任,補職および転補などの人事管理に反映することも定められた。 それを受けて法官人事規則が改正され,人事評価については,事前に評定結果告知申請がなされておりその評定結果が不良な場合,結果の要旨を告知するという制度を導入した。評定資料提供を要請すれば,写しを交付することになっている。そして評定に異議があれば意見書を出すことができ,評定者にも意見書提出の機会を付与することができる。その上で,評定書と一緒に意見書が保管されることになる。 しかし,人事評価は人事制度の一部でしかなく,転任の問題,地裁・高裁の配属の問題等,重要な人事制度をどのようにしていくのかという課題が残っている。検討項目として既にあがっているのは,弁護士任官との関係で給与を増額できるか,一審と二審を二元化できるか等であった。今後更に検討していくようであるが,今回の調査段階では明確にはなっていなかった。 そういった中で,循環勤務制を一部変更することになる制度が既に2つ実施されていることを注目したい。 1つ目は専担法官制度で,在職期間中,特定裁判事務だけを担当する裁判官を置くことができるとし,この裁判官は特別な事情がない限り他の法院に転補されないことになっている。法曹経歴15年以上の者をあて,主に少額訴訟を担当することとなっている(法官人事規則11条の2)。 2つ目は地域法官制で,ソウル首都圏以外の地方では,本人の希望により同一地域で10年間執務できる制度が行われている。10年経過後は撤回もできることとなっている。この地域法官制は,法律や規則ではなく,内部的な人事運営の基準として運営されているとのことである。 (5) 国民からのチェック (1)及至(4)で記載した改革がどの程度実質的に進んでいくかということについて,国民からのチェックが必要だとの意見を司法制度改革推進委員会企画推進団長として改革を担当した金善洙弁護士が述べていた。 韓国の国民から司法へのチェックとして有名なものとして,参与連帯という団体の司法監視センターがある。国民参与制(日本の裁判員制度と戦前の陪審制度の中間的なもの)に対するチェックや,裁判官評価をして発表するなどかなりの影響力を持っている。 裁判官制度の変革を法曹の中だけで見るのではなく,国民からのチェックの視点で考察していくことは重要であろう。日本においても,その点についての取組が重要である。 以上:3,600文字
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