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賃借人破産管財人による建物買取請求を認めた高裁判決紹介

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令和 3年 8月 2日(月):初稿
○「賃借人破産管財人による建物買取請求を認めた地裁判決紹介」の続きです。この地裁判決の控訴審判決ではありませんが、賃借人破産管財人による建物買取請求を認めた高裁判決として昭和47年3月30日東京高裁判決(判時666号52頁、判タ278号306頁)を紹介します。

○建物所有目的の土地賃貸借契約が、賃借人Aの破産により、民法621条(平成16年改正により622条削除)の規定に基づいて解約されると主張され、第一審昭和45年10月19日東京地裁判決(判時620号60頁)は、以下の通り、破産管財人に対し、建物収去明渡を命じました。
主  文
被告A破産管財人は、原告に対し、昭和46年5月18日限り別紙第一目録記載の建物を収去し、同第二目録記載の土地を明渡し、かつ、昭和46年5月18日から右土地明渡ずみまで1か月金1335円の割合による金員を支払え。
被告Yは、原告に対し、昭和46年5月18日限り別紙第一目録記載の建物から退去して同建物の敷地を明渡せ。
訴訟費用は被告らの負担とする。


○この控訴審昭和47年3月30日東京高裁判決は、昭和41年の借地法の改正は、賃貸借契約が債権者債務者間の人的信頼関係を基盤とすることにまで変更を加えたものではなく、借地人破産の場合土地の賃貸借を解約すべきか、あるいは解約をせず、とくに右借地権の譲渡を承諾するかを賃貸人の選択に任せたものであるとして、原判決を一部変更し、賃借人の建物買取請求権行使を認め、賃借人の破産管財人に対し、建物代金相当額との引換給付を命じました。

○この高裁判決は、昭和48年10月30日最高裁判決で覆されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
原判決主文第1項、第3項を次のとおり変更する。
控訴人(※A破産管財人)は被控訴人(※賃貸人土地所有者)から金181万2000円の支払を受けるのと引換に被控訴人に対し原判決添付別紙第一目録記載の建物を引き渡して同第二目録記載の土地を明け渡し、かつ昭和46年5月18日から明渡ずみまで1ケ月金1335円の割合による金員を支払うべし。
訴訟費用は第1、2審を通じこれを5分し、その1を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とし、参加費用はこれを5分し、その1を被控訴人の、その余を補助参加人の各負担とする。

事   実
控訴代理人は「原判決主文第1項、第3項を取り消す。被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠の関係は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)
(一)賃借人の破産によつて賃貸人のこうむる不利益は賃料債権の確保が危ぶまれるという点にあるにすぎないところ、破産法上賃料債権は財団債権として保護されており、賃貸人にはなんらの不利益も与えないようにされている。仮りに賃貸人が賃料債権を確保することができない事態が生じても、その時に賃貸人は賃借人の債務不履行を原因として賃貸借契約を解除すれば足りるのであつて、賃貸人の保護に欠けるところはなく、また遅きに失するということもないはずである。

また昭和41年の借地法の改正によつて土地の賃借権の譲渡等が相当程度可能になつた現在においてはもはや賃貸借における信頼関係を絶対のものと考えるのは当をえず、また右改正は土地の賃借権が社会的に価値のある存在であることを法制上無視できなくなつたため法律上も価値のあるものとして把握すべきであると考えたからにほかならない。

従つて土地の賃借人破産の場合には民法第621条の適用は排除されるものというべきである。また借地法の立法趣旨が借地権を保護することを前提として民法の種々の規定を制限している以上、少なくとも民法第621条の解釈においても右趣旨を考慮して解釈すべきものであり、しかりとすれば同条の解約の申入については正当事由を要するものというべきである。

(二)仮りに右主張が理由がないとすれば、控訴人は被控訴人に対し本件建物の買取請求権を行使するものであり、しかしてその買取価格は金181万2000円である。

(被控訴人の主張)
本件建物の買取請求時の時価が控訴人主張の金額であることは争わない。
(証拠関係)(省略)

理   由
一、被控訴人が原判決添付別紙第二目録記載の土地(以下本件土地という)を所有し、これについてAとの間に昭和36年4月7日期間は昭和56年4月7日まで賃料は1ケ月につき本件土地のうち65坪については坪当り金9円、本件土地のうち25坪については坪当り金30円の割合とする約で賃貸借契約を締結したこと、Aは本件土地上に原判決添付別紙第一目録記載の建物(以下本件建物という)を所有していたところ、昭和45年4月23日午前10時東京地方裁判所より破産宣告を受け、控訴人がその破産管財人に就任したこと、被控訴人が民法第621条にもとづき同年5月16日付内容証明郵便で右賃貸借契約の解約の申入をし、右意思表示がその頃控訴人に到達したことは当事者間に争がない。

二、当裁判所は民法第621条は土地の賃借人が破産した場合にも適用があり、しかして土地の賃貸人が同条によつて賃貸借契約の解約の申入をするについては正当事由の存在を必要とせず、たゞ賃借人(破産管財人)は地上に所有している建物の買取請求権を有するものと解するものであつて、その理由は次に附加訂正するほか、原判決理由(原判決3枚目表10行目から5枚目表10行目まで)において説示するところと同一であるからこれを引用する。

(1)賃借人の破産によつて賃貸人のこうむる不利益が賃料債権の確保が危ぶまれるという点にあるということは控訴人の主張するとおりであるけれども、破産法上賃料債権が財団債権として保護されるのは、破産宣告により賃貸借契約の解約の申入があつた場合においてその終了にいたるまでに生じたものだけであつて(同法第47条第8号参照)、その解約の申入をすることなく賃貸借を継続する場合に破産宣告後の賃料債権が財団債権として保護されるべきことについては成法上の根拠を缺き、むしろ前記法条の反対解釈及び破産が一般的清算を本旨とするところからすれば、むしろこれを否定すべきものである。

また賃料の不払があつた場合には賃貸人は賃借人の債務不履行を原因として賃貸借契約を解除することができるが、その時にはもはや未払賃料の支払を受けることは困難であると考えられ、従つてその時では遅すぎるのである。むしろ民法第621条が賃借人破産の場合に賃貸借契約の解約の申入ができるとしたのは、そのような事態の生ずることを避けんがためであると考えられる。

また昭和41年の借地法の改正によつて裁判所の許可があれば賃貸人の承諾がなくても土地賃借権の譲渡等ができる途が拓かれたが、これは従来賃貸人が正当の理由もないのにその承諾を拒否し、あるいは承諾するにしても不当に多額の承諾料の支払を要求するといつたことが多く、またかかる事情のため賃貸人の承諾のえられないまま賃借権の譲渡等が強行され、その結果賃貸人の賃貸借契約の解除によつて建物収去土地明渡の訴訟が提起される事例も多かつたことにかんがみ、賃借人が地上建物を第三者に譲渡せんとする場合において第三者に賃借権の取得等を認めても賃貸人に不利となるおそれがない場合に賃貸人の承諾に代わる裁判所の許可によつて賃借権の譲渡等ができることとしてその譲渡等の円滑化、合理化をはからんとしたものであつて、この点において同法の他の改正規定と相まつてある程度借地権に譲渡性が付与せられ、また借地上の建物の担保価値が強化せられたことは事実であるが、それだからといつて賃貸借契約が債権者債務者間の人的信頼関係を基盤とする点についてまで変更を加えたものということはできない。

また右改正が行われたのは控訴人の主張するごとく土地の賃借権が社会的に価値のある存在であることを法制上無視できなくなつたため法律上も価値のあるものとして把握すべきであると考えたがためであるとしても、前記改正にあたつて民法の前記法条にはなんの変更も加えられなかつたことからすれば、借地人破産の場合土地の賃貸借を解約すべきか、あるいは解約をせず、とくに右借地権の譲渡を承諾し、事宜によつては裁判所の関与のもとに相当な対価を取得すべきかを賃貸人の選択にまかせたものというべきである。

従つて控訴人主張のごとき理由によつてはまた土地の賃借人破産の場合には民法第621条の適用は排除されると解さなければならないということにはならない。されに前記の如く破産による解約の場合、建物買取請求権の行使は妨げないと解されるから、破産債権者又は建物に抵当権等を有する別除権者は右買取代金によつてその利益はある程度確保されることとなることも、右結論を助けるに足りる。

(2)原判決5枚目表11行目に「かかる特約の存在については何らの主張も立証もない。」とあるのを次のとおりに改める。
「成立に争のない丙第2、第3号証、当審証人B、同C(たゞし後記採用しない部分を除く)の各証言をあわせれば、Aはその居住していた本件建物が痛んだので、その補修費にあてるため株式会社三和銀行から金100万円の融資を受けるつもりで,昭和43年10月頃地主である被控訴人に頼んで同人から本件建物に抵当権を設定することおよび競売等により第三者が本件建物の所有権を取得したときは本件土地を同一条件で賃貸することの承諾をえ、その旨記載した承諾書(丙第10号証)に被控訴人の署名押印をえたが、三和銀行から融資を受けることができなかつたこと、これより以前から有限会社D(Aの妻Eがその代表取締役をしていた、以下Dという)は運転資金に欠乏していたので、他から融資を受けることになり、その頃補助参加人(以下参加人という)から金300万円の融資を受け、これを担保するためAに無断で本件建物に抵当権を設定し、かつ被控訴人およびAの承諾をえないで右承諾書を参加人に差し入れたこと、その後Dは右債務を返済したが、参加人から右承諾書の返還を受けなかつたこと、その後昭和44年12月2日頃Dは再び参加人から金400万円の融資を受け、これを担保するためAは本件建物に抵当権を設定したが、Aの甥でDの専務取締役をしていたBは参加人の社員Cから頼まれて被控訴人の承諾をえないで勝手に、本件建物に抵当権を設定することおよび競売等により第三者が本件建物の所有権を取得したときは本件土地を同一条件で賃貸することを被控訴人が承諾する旨記載した書面に被控訴人の氏名を記入し、その名下にBが買い求めてきた「石田」なる印をCが押捺して丙第一号証の承諾書を作成し、Dはこれを参加人に差し入れたことが認められ、前掲証人Cの証言中右認定に反する部分は採用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被控訴人はAが本件建物の補修費を三和銀行から借り入れるということで本件建物に抵当権を設定することおよび競売等により第三者が本件建物の所有権を取得したときは本件土地を同一条件で賃貸することを承諾したにすぎないものであつて、Dが参加人から第1回目に金300万円を第2回目に金400万円を借り入れるについて右と同様の承諾をしたことはなく、またさきにした三和銀行のさいの右承諾をもつてその承諾があつたものといいえないことは右に述べた承諾の経緯からして明らかであり、他に右特約の存在を認めるに足りる証拠はない。」

三、Aが本件土地上に本件建物を所有していることはさきに述べたとおりである。そうするとさきに述べたところによりAは被控訴人に対し本件建物の買取請求権を有するものというべきところ、控訴人は本訴において右買取請求権を行使し、しかして本件建物の買取請求時の時価が金181万2000円であることは当事者間に争がないから、控訴人は被控訴人から右金181万2000円の支払を受けるのと引換に被控訴人に対し本件建物を引渡して本件土地を明け渡す義務があるものというべく、しかして本件土地の賃料が1ケ月につき本件土地のうち65坪については坪当り金9円、本件土地のうち25坪については坪当り金30円の割合であつたことはさきにのべたとおりであるから、結局控訴人は被控訴人に対し右の本件土地賃貸借終了後である昭和46年5月18日から明渡ずみまで1ケ月金1335円の賃料相当の損害金及び不当利得金の支払義務があるものというべく、従つて被控訴人の本訴請求は右の限度で正当としてこれを認容すべく、その余は失当としてこれを棄却すべきである。

四、よつてこれと異る原判決主文第1項および第3項を右趣旨に従い変更することとし、訴訟費用および参加費用の負担につき同法第96条、第89条、第92条、第94条を適用し、仮執行の宣言はこれを附さないこととして主文のとおり判決する。
(昭和47年3月30日 東京高等裁判所第二民事部)
以上:5,365文字

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