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民事再生法第127条3項否認権行使要件についての最高裁判決等紹介

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平成30年 4月 3日(火):初稿
○民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件についての平成29年11月16日最高裁判決(裁判所時報1688号2頁)を紹介します。
事案は、以下の通りです。
・Y社は、上告人Xとの間で、平成26年8月29日,G社の上告人Xに対する7億円の借入金債務を連帯保証する旨の契約を締結
・Y社は、平成27年2月18日(※連帯保証契約後6ヶ月以内),再生手続開始の申立
・再生手続で、Xが本件連帯保証契約に基づく連帯保証債務履行請求権につき再生債権として届出をするも、東京地裁はその額を0円と査定
・Xは、この査定を不服として、Y社再生管財人を被告として、その変更を求める異議の訴え
・一審平成28年8月5日東京地裁は、その査定決定を認可する判決、X控訴
・控訴審平成29年1月18日東京高裁判決もXの控訴を棄却、X上告


○平成29年11月16日最高裁判決は、Y社の本件連帯保証契約の締結に対し民事再生法127条3項に基づく否認権の行使をすることの可否について、再生債務者が無償行為等の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは、民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件ではないと解するのが相当であるとし、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができるとしXの上告を棄却しました。

○民事再生法関連条文は以下の通りです。
第105条(再生債権の査定の裁判)
 再生債権の調査において、再生債権の内容について再生債務者等が認めず、又は届出再生債権者が異議を述べた場合には、当該再生債権(以下「異議等のある再生債権」という。)を有する再生債権者は、その内容の確定のために、当該再生債務者等及び当該異議を述べた届出再生債権者(以下この条から第107条まで及び第109条において「異議者等」という。)の全員を相手方として、裁判所に査定の申立てをすることができる。ただし、第107条第1項並びに第109条第1項及び第2項の場合は、この限りでない。
       (中略)

第106条(査定の申立てについての裁判に対する異議の訴え)
 前条第1項本文の査定の申立てについての裁判に不服がある者は、その送達を受けた日から1月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。
       (中略)

第127条(再生債権者を害する行為の否認)
 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。
 一 再生債務者が再生債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、再生債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
 二 再生債務者が支払の停止又は再生手続開始、破産手続開始若しくは特別清算開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした再生債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び再生債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
       (中略)
3 再生債務者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。



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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○,同○○○○の上告受理申立て理由第2について
1 Y株式会社は,平成26年8月29日,上告人との間で,G株式会社の上告人に対する7億円の借入金債務を連帯保証する旨の契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結したが,平成27年2月18日,再生手続開始の申立てをし,その後,再生手続開始の決定を受けた。
 本件は,上記の再生手続において,上告人が再生債権として届出をした本件連帯保証契約に基づく連帯保証債務履行請求権につき,その額を0円と査定する旨の決定がされたことから,これを不服とする上告人がその変更を求める異議の訴えであり,再生管財人である被上告人が本件連帯保証契約の締結に対し民事再生法127条3項に基づく否認権の行使をすることの可否が争われている。

2 所論は,民事再生法127条3項の否認が再生債権者を害する行為の否認の一類型であることなどから,再生債務者が無償行為若しくはこれと同視すべき有償行為(以下「無償行為等」という。)の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることが同項に基づく否認権行使の要件であるというのである。

3 そこで検討すると,民事再生法127条3項は,再生債務者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為等を否認することができるものとし、同項に基づく否認権行使について,対象となる行為の内容及び時期を定めるところ,同項には,再生債務者が上記行為の時に債務超過であること又は上記行為により債務超過になることを要件とすることをうかがわせる文言はない。そして,同項の趣旨は,その否認の対象である再生債務者の行為が対価を伴わないものであって再生債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため,専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあると解するのが相当である。そうすると,同項所定の要件に加えて,再生債務者がその否認の対象となる行為の時に債務超過であること又はその行為により債務超過になることを要するものとすることは,同項の趣旨に沿うものとはいい難い。

 したがって,再生債務者が無償行為等の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは,民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件ではないと解するのが相当である。 

4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口厚)


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控訴審平成29年1月18日東京高裁判決(裁判所時報1688号2頁)事案概要部分

主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 控訴人を申立人、被控訴人を相手方とする再生債権査定申立事件(基本事件・東京地方裁判所平成27年(再)第12号事件)について、東京地方裁判所が平成27年10月7日にした決定を次のとおり変更する。
 控訴人の届け出た再生債権(再生債権認否書受付番号35-1~3)のうち、受付番号35-1の債権額を7億円と、同35-2の債権額を4244万1095円と、同35-3の債権額を7億円に対する平成27年2月23日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員と、それぞれ査定する。

第2 事案の概要

(1)本件は、控訴人が、株式会社ユタカ電機製作所(以下「再生債務者」という。)を債務者とする民事再生手続(東京地方裁判所平成27年(再)第12号事件。以下「本件再生手続」という。)において、再生債務者に対する保証債務履行請求権元金7億円、同元金に対する本件再生手続開始決定日の前日までの確定利息及び損害金並びに上記元金に対する同手続開始決定日から支払済みまでの遅延損害金を再生債権として届け出たところ、同裁判所が上記届出債権の額をいずれも0円とした決定(以下「本件査定決定」という。)を不服として、控訴人が、民事再生法(以下「法」という。)106条1項に基づき、異議の訴えを提起した事案である。

(2)原審が、被控訴人による否認権の行使(無償行為否認、法127条3項)に理由があるとして本件査定決定を認可したので控訴人が控訴を提起し、上記第1のとおりの判決を求めている。

(3)前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次項のとおり当審における控訴人の主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
 なお、略語は特記しない限り原判決の例による。


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一審平成28年8月5日東京地裁判決(金融・商事判例1531号17頁)事案概要・争点部分

主   文
1 原告を申立人,被告を相手方とする再生債権査定申立事件(基本事件・東京地方裁判所平成27年(再)第12号)について,東京地方裁判所が平成27年10月7日にした査定決定を認可する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 原告を申立人,被告を相手方とする再生債権査定申立事件(基本事件・東京地方裁判所平成27年(再)第12号事件)について,東京地方裁判所が平成27年10月7日にした決定を次のとおり変更する。
 原告の届け出た再生債権(再生債権認否書受付番号35-1~3)のうち,受付番号35-1の債権額を7億円と,同35-2の債権額を4244万1095円と,同35-3の債権額を7億円に対する平成27年2月23日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員と,それぞれ査定する。

第2 事案の概要
 本件は,Y株式会社(以下「再生債務者」という。)を債務者とする民事再生手続(東京地方裁判所平成27年(再)第12号事件。以下「本件再生手続」という。)において,再生債務者に対する保証債務履行請求権元金7億円,同元金に対する本件再生手続開始決定日の前日までの確定利息及び損害金並びに上記元金に対する同手続開始決定日から支払済みまでの遅延損害金を再生債権として届け出たところ,同裁判所が上記届出債権の額をいずれも0円とした決定(以下「本件査定決定」という。)を不服として,原告が,民事再生法(以下「法」という。)106条1項に基づき,異議の訴えを提起した事案である。

1 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者等

ア 再生債務者は,各種電気機械器具の製造販売業等を目的とする株式会社である。再生債務者は,平成27年2月18日,東京地方裁判所に民事再生手続開始を申し立て,同裁判所は,同月23日,民事再生手続開始決定及び管財人による管理命令をし,被告が管財人に選任された。
 グラス・ワンホールディングス株式会社(以下「GOH」という。)は,平成26年4月2日,再生債務者の発行済株式を全て取得して100%親会社となった会社であり,GOHの一人株主で,代表取締役でもあったB(以下「B」という。)が,同月14日から平成27年2月9日まで,再生債務者の代表取締役であった。
イ 原告は,不動産の賃貸等を目的とする株式会社である。
 原告の代表取締役であるA(以下「A」という。)は,株式会社トーヨーコーポレーション(以下「トーヨーコーポレーション」という。)の代表取締役も務めている。

(2)トーヨーコーポレーションのGOHに対する金銭の貸付け
ア トーヨーコーポレーション,GOH及び同社の代表取締役であるBは,平成26年4月1日,大要次の(ア)~(ウ)のとおりの金銭消費貸借及び株式質権設定契約(以下「第1貸借等契約」という。)を書面により締結した。(甲1)
(ア)トーヨーコーポレーションは,GOHに対し,同日,GOHが再生債務者を買収するための資金として,弁済期を同年8月29日,利息を年3.0%(年365日の日割計算),損害金を年14.6%(年365日の日割計算)として,13億円を貸し付ける。
(イ)Bは,GOHのトーヨーコーポレーションに対する上記(ア)の貸金返還債務を連帯して保証する。
(ウ)GOH及びBは,上記(ア)の貸金返還債務履行担保のため,GOH名義の再生債務者普通株式175万0590株及びB名義のGOH普通株式20株について,それぞれ質権を設定する。
イ GOHは,平成26年4月18日,トーヨーコーポレーションに対し,第1貸借等契約に基づく貸金元金13億円のうち6億円を弁済した。この6億円の原資は,再生債務者がGOHに対して貸し付けた6億円であった。(甲2,3,乙2,弁論の全趣旨)

(3)連帯保証契約書の作成等
ア トーヨーコーポレーションは,平成26年8月29日,原告との間で,トーヨーコーポレーションのGOHに対する第1貸借等契約に基づく残債権(以下「本件貸金債権」という。)を原告に譲渡する旨の契約(以下「本件債権譲渡契約」)を締結した(甲5)。
イ 原告,GOH,B,再生債務者及びグラス・ワン・テクノロジー株式会社(以下「GOT」という。)ほか1社は,平成26年8月29日,第1貸借等契約に基づく貸金債権残金7億円を対象として,大要次の(ア)~(ウ)のとおりの内容を含む「金銭消費貸借及び株式質権設定契約」と題する契約書に署名(又は記名)押印した(以下,同契約書に基づく契約を「第2貸借等契約」という。甲6)。
(ア)原告は,GOHに対し,同日,弁済期を同年9月30日,利息を年3.0%(年365日の日割計算),損害金を年14.6%(年365日の日割計算)として,7億円を貸し付ける。
(イ)B,再生債務者及びGOTほか1社は,GOHの上記(ア)の貸金返還債務を連帯して保証する(以下,第2貸借等契約のうち再生債務者による連帯保証の約定を「本件連帯保証契約」といい,この契約に係る契約書を「本件連帯保証契約書」という。)。
(ウ)GOH及びBは,上記(ア)の貸金返還債務履行確保のため,GOH名義の再生債務者普通株式175万0590株及びB名義のGOH普通株式20株について,それぞれ質権を設定する。
ウ GOHは,平成26年12月30日,再生債務者のみずほ銀行に対する10億1174万0958円の債務につき,書面により連帯保証した(甲13)。

(4)本件再生手続における再生債権の届出及びその認否等
ア 原告は,本件再生手続において,その届出期間内である平成27年4月8日,本件連帯保証契約に基づく保証債務履行請求権の元金7億円(再生債権認否書受付番号35-1),本件再生手続開始決定日の前日である同年2月22日までの上記元金に対する利息及び遅延損害金合計4244万1095円(同35-2)並びに上記元金に対する同月23日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金(同35-3)を,再生債権として届け出た(以下「本件届出債権」という。)。
 これに対し,被告は,同年4月23日,本件届出債権について全額を認めない旨の認否をした(甲7)。
イ 原告が,平成27年6月8日,本件届出債権の査定申立てをしたところ,東京地方裁判所は,同年10月7日,本件連帯保証契約に対する否認権の行使(法127条3項)に理由があるとして,本件届出債権の額をいずれも0円とする決定(本件査定決定)をした(甲8)。
ウ 本件査定決定は,平成27年10月8日に原告に送達され,原告は,同年11月2日,本件訴訟を提起した(法106条1項参照)。

2 争点
 本件の主な争点は,本件連帯保証契約の締結の無償行為否認(法127条3項)の可否(以下の(1)ないし(5))及び本件連帯保証契約の締結が否認された場合に原告が善意の相手方として保護されるか否か(以下の(6))である。
(1)本件連帯保証契約は再生債務者の「支払の停止等」の「前6月以内」(法127条3項)に締結されたか
(2)法127条3項に基づき本件連帯保証契約の締結を否認するために再生債務者が同契約締結時及び本件再生手続開始決定時に債務超過であったことを要するか
(3)再生債務者は本件連帯保証契約締結時及び本件再生手続開始決定時に債務超過であったか
(4)本件連帯保証契約の締結は「無償行為」(法127条3項)に当たるか
(5)被告が本件連帯保証契約の締結を否認することが権利濫用に当たるか
(6)法132条2項の適用により本件届出債権が存在するものと認められるか

以上:6,640文字

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