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債務整理事件大量処理事務所職員整理解雇を無効とした判例紹介2

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平成28年 8月 4日(木):初稿
○「債務整理事件大量処理事務所職員整理解雇を無効とした判例紹介1」と続けます。



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4 争点4(不法行為責任の成否)
(1) 請求原因1から6

 原告は,被告Y2が嫌がらせで懲戒処分を行い,原告を退職に追い込みたいと考えていた旨の主張をする。
 証拠(乙30ないし乙39)及び弁論の全趣旨によれば,派遣会社を通じ,あるいは女性派遣社員からの申告に基づき,被告Y2が原告に対し懲戒処分をする必要があると考えたことが認められるところ,懲戒処分の手続に瑕疵があったことはさておき,事実関係を精査した上で原告の懲戒処分を検討すること自体は経営者として当然あり得ることである。しかし,被告Y2が企業秩序の維持目的に必要な限度を超えて,当初の段階から原告との雇用関係を終了させることを意図していたと認めるに足りる証拠はない。よって,原告主張の故意があったとは認められない。

 また,請求原因1から6の各請求は,前記第2の2(5)のとおり,前回本訴事件における各処分の撤回並びに原告の雇用契約上の地位確認及び未払賃金の支払請求の認諾等により,すでに原告の財産的損失は填補されており,通常はこれにより精神的苦痛も慰謝されるものというべきである。前回本訴事件終了後に原告に上記各処分に関する損害が拡大したことを認めるに足りる証拠はないことからすれば,原告主張の損害の発生も認められない。

(2) 請求原因7,8
 請求原因7については,第2仮処分事件の審理経過についてこれを認めるに足りる証拠はなく,他方で,答弁書(甲52)の記載上,被告法人が一部争っている部分が存することに鑑みれば,前回本訴事件における準備書面の提出が遅れた事実を担当裁判官が知っていたならば,担当裁判官において第1回審尋期日で審理を終結して第2仮処分事件の決定をしたとは必ずしもいえず,原告主張の事実は認められない。

 請求原因8については,平成23年8月5日の第1回審問期日は次回期日が追って指定となっているところ(甲83),同期日等での原告の復職に関する原告被告法人間の協議内容について,これを認めるに足りる証拠はなく,さらには,同月25日時点で原告が「自宅待機中」(甲45の1)の扱いとなった経緯も不明である。もっとも,一般には使用者たる被告法人は労働者である原告に対し労務の提供を求めることができる以上,原告の被告法人への復職を前提とした場合に,出勤しない原告に対して被告法人が「出勤の通知」(甲45の1)及び「出勤命令」(甲45の2)をすること自体は必ずしも不自然ではない。よって,違法と評価することはできず,不法行為の成立を認めることはできない。

(3) 請求原因9,10
 原告が,仕事をしていない期間が平成24年4月14日から平成25年3月31日までであることは当事者間に争いがないが,他方で,証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成23年12月20日付けで被告法人内の再生申立チームに異動したことが認められるにもかかわらず,本件訴訟で原告が再生申立チームへの異動自体を否定して争っていることに鑑みると,上記仕事をしていない期間において原告が被告法人の指揮命令に従わず,就労を拒否していたと評価する余地が残る(なお,厚生年金加入証明書(甲57)の「個人法務2グループ 金訴チーム」の表記は被告法人が誤記したものと認める。)。そうすると,被告法人は原告の反抗的態度に苦慮して原告に仕事を与えられなかった可能性を否定できないところであるから,原告の主張する仕事不提示及び本件解雇の違法を認めるに足りない。

 また,請求原因10については,前記1の判示のとおり,本件解雇は無効であり,定年までの賃金請求が認められるのであるから,原告の財産的損失は填補され,通常はこれにより精神的苦痛も慰謝されるものというべきであるところ,賃金請求権の回復では填補されない原告の精神的苦痛を基礎付ける具体的な事実関係に関しての特段の主張立証もなく,原告主張の損害の発生は認められない。

(4) 弁護士費用
 前記(1)の判示のとおり,不法行為の故意が認められないことから不法行為が成立せず,原告主張の弁護士費用について相当因果関係のある損害と認めることはできない。

(5) 小括
 以上によれば,原告の主張する各不法行為はいずれも認められない。

5 争点5(被告らの連帯責任の成否)
(1) 原告の被告Y2の債務が被告法人によって重畳的債務引受されたとの主張について

 前記4の判示のとおり被告Y2の原告に対する債務は存在しないことから,原告の主張はそもそも前提を欠く。なお,証拠(甲38)及び弁論の全趣旨によれば,平成23年3月1日被告法人が設立された際に,被告Y2及び被告Y2の法律事務所の事業を包括承継したことが認められるが,原告主張の重畳的債務引受の事実を認めるに足りる証拠はない。よって,原告の主張は理由がない。

(2) 原告の会社法22条,24条の類推適用の主張について
 前記(1)と同様,前記4の判示のとおり被告Y2の原告に対する債務は存在しないことから,原告の主張はそもそも前提を欠く。なお,会社法22条,24条はいわゆる権利外観法理に基づく規定であるが,同一名称を法人の名称として続用しているからといって,被告らに雇用されていた原告には誤認混同のおそれはないというべきであるし,被告Y2が原告の債務をことさらに免れるために事業譲渡をしたと認めるに足りる証拠もないから,あえて,会社法22条,24条の類推適用を認める必要はないというべきである。よって,原告の主張は理由がない。

(3) 原告の法人格否認の法理の主張について
 いわゆる法人格否認の法理については,「法人格が全くの形骸にすぎない場合,またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合」(最高裁昭和43年(オ)第877号同44年2月27日第一小法廷判決民集23巻2号511頁)に認められる。
 しかし,証拠(甲14の2,乙21ないし乙23,乙44)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y2と被告法人は会計上も労務管理上も別個の法主体であると認められるし,単に被告Y2が被告法人の社員の地位にあることをもって,直ちに被告Y2が被告法人を支配しているとは評価できない。また,原告が主張するような,被告Y2が,原告の請求の免脱,原告の解雇,不法行為等を目的として法人制度を濫用していることを認めるに足りる証拠はなく,その他,上記法人格否認の法理が適用される要件事実を認めるに足りる証拠はない。よって,原告の主張は理由がない。

6 争点6(求償金請求の成否)
 被告らの主張のうち,(1)は当事者間に争いがなく,(2)から(5)は証拠(乙50の1から2まで,乙51の1から4まで,乙52)及び弁論の全趣旨によれば認めることができる。
 よって,被告らの請求は認められる。

第5 結論
 そうすると,原告の請求は,被告法人に対し,平成25年4月から平成26年8月まで,毎月25日限り51万3000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の原告の被告法人に対する請求及び被告Y2に対する請求は理由がないからいずれも棄却する。被告らの反訴請求は理由があるから認容する。なお,主文第1項につき,原告は本件解雇の無効を主張して仮処分の申立てを行い(当庁平成25年(ヨ)第21056号地位保全等仮処分申立事件),同事件の決定に基づいて被告法人から賃金仮払を受け,既に実質的な満足を得ていることが証拠(甲53の1から2まで)及び弁論の全趣旨により認められることから,本判決確定前に即時執行の必要はないと考えられるため,仮執行宣言は付さない。
 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判官 吉田光寿)

判決主文と請求は以下の通りです。

主  文
1 被告法人は,原告に対し,平成25年4月から平成26年8月まで,毎月25日限り51万3000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 その余の原告の被告法人に対する請求及び被告Y2に対する請求をいずれも棄却する。
3 原告は,被告Y2に対し,38万4588円及びこれに対する平成24年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告は,被告法人に対し,13万9368円及びこれに対する平成24年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告法人の負担とする。
6 この判決は,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
(本訴請求

1 原告が,被告法人に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告らは,原告に対し,連帯して,以下の各金員を支払え。
(1) 平成25年4月より毎月25日限り51万3000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員
(2) 平成25年より毎年6月30日及び12月15日限り各51万3000円並びにこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員
(3) 平成23年より毎年10月31日限り30万円,平成24年より毎年4月20日限り20万円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員
(4) 2000万円並びにこのうち300万円に対する平成23年9月29日から,このうち100万円に対する平成23年9月29日から,このうち100万円に対する平成22年6月4日から,このうち100万円に対する平成22年10月15日から,このうち300万円に対する平成22年6月16日から,このうち200万円に対する平成22年8月9日から,このうち50万円に対する平成23年8月5日から,このうち50万円に対する平成23年9月8日から,このうち500万円に対する平成25年3月31日から,このうち300万円に対する平成25年3月31日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
(5) 34万5000円及びこれに対する平成22年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員

(反訴請求)
1 主文第3項に同旨
2 主文第4項に同旨

 
以上:4,292文字

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