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2020年05月16日発行第269号”弁護士の鎧”

令和 2年 5月17日(日):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの令和2年5月16日発行第269号「弁護士の鎧」をお届けします。

○問題が発生しその解決方法について考え方が分かれる例は山のようにあります。昨日の「オーバーローン不動産住宅ローン返済分の財産分与を認めた高裁決定紹介」の例でも考え方が別れた判決を紹介しました。

○離婚における住宅ローン付不動産の財産分与の問題です。3000万円の土地建物を夫名義で全額住宅ローン(年利1.3%・返済期間20年240回分割返済)で購入し、10年後に住宅ローン残高約1600万円、10年間返済金約1700万円のところ、土地建物時価が1500万円に下落していた場合を想定します。

○この夫名義土地建物は、時価が1500万円のところ約1600万円の抵当権債務がついていますので剰余価値がなく価値ゼロとも評価でき、離婚の際、夫が住宅ローン債務をつけたまま取得しても妻に財産分与の余地がないとの考え方が一般です(平成10年3月13日東京高裁)。しかし、10年間約1700万円返済しており、全額夫の給料からの返済としても夫の給料の半分は妻に権利があり、1700万円の半分は妻が支払ったとの評価も可能です。

○そこで3000万円の住宅ローン債務について10年間1700万円返済し、債務は1400万円減ったことについて「当事者の同居期間中の夫婦としての経済的協力関係に基づく住宅ローンの返済によって形成された夫婦の実質的共有部分及び同返済によって夫の特有部分の維持に寄与した部分につき財産分与の対象財産としての性格は失われるわけではない」として財産分与の対象財産と認める考え方も出てきました(平成29年7月20日東京高裁)。

○弁護士の場合、夫側・妻側のいずれにつくかによってそれぞれに有利な考え方を採用しますが、裁判官の場合、公平な立場の第三者レフリーとしての判断は難しくなります。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

弁護士の鎧


中国の歴史書に、反乱軍の討伐に行く武将の話があります。この人は、戦場に行くのに鎧をつけてなかったんですね。するとそれを見た人が忠告します。「なぜ全身を鎧で守らないのですか。あなたに万が一のことがあれば、国中の人が絶望します。」というわけです。

そこで、今度は全身を鎧で覆って進軍したところ、また違う人から意見されたんです。「なんだって鎧で全身を隠しているのですか?あなたが顔を見せて、反乱鎮圧に立ち上がったことを皆に見せれば、士気も上がるし安心します。それなのに、全身を隠してしまうなど、民の希望を絶つものです。」みたいなことを言われます。そこでまた、鎧を脱いで進軍したという話です。歴史書には特にコメントが付いていないので、これをどう解釈して良いのか、途方にくれた記憶があります。

ただ、この2つの意見は、どちらももっともな気はしました。合戦のときに、総大将が討たれたら負けですから、安全なところにいた方が良いというのは真理です。その一方、大将が前線に出てくるからこそ、兵隊の士気が上がるのも間違いないところです。

さらに考えますと、以前は正しいとされていた見解が、今になっては間違いとされることもよくあります。昭和の時代なんか経済優先で、今とは比較できないほど「イケイケ」でした。公害や交通事故で、本当に多数の国民が犠牲になってましたよね。会社に「風邪気味なので休みます。」なんて言おうものなら、「ふざけるな!這ってでも出てこい。」なんて怒られました。

今の新型コロナも、昭和の時代に発生していたら、国民の対応も大きく違っていたように思います。「コロナ気味なので、お休みさせてください。」なんて言おうものなら、「そんなの会社に出てきて、誰かに伝染せば治るんだ」位のメチャクチャを言われてたはずです。今は本当に良い時代になったと思います。

しかし、コロナを蔓延させないように対策するのは当然として、それによる経済への打撃をどうするのかは難しい問題です。「鎧」の話と同じように、「まずはコロナを徹底的に抑えこまないといけない。」という人と、「経済の方も考えないといけない。」という人が、それぞれ政治家に意見しています。こういう、どちらも正しい意見について、最終的にどう決めないといけない人は、本当に大変だと思うのです。

ということで、法律の話です。法的問題でも、どちらが正しいのか判断が難しいことはよくあります。例えば、商標侵害の事件で、「大森林」という商標を、「木林森」という商品が侵害しているのかが争われた事件がありました。これって、商品は育毛剤!なんだそうです。外見が似てるといえば似てますが、そもそも読み方など全く違いそうです。

これについて、地方裁判所は似ていると判断し、高等裁判所は似ていないと判断。最高裁では再び似ていると認定されたんです。どちらも根拠がある場合の判断は、本当に難しいということです。もっとも弁護士の場合は、自分の立場の主張だけをすればよいのでかなり楽です。最終的に判断せざるを得ない裁判官は、本当に大変だと思います。(と言いつつ、自分が負けると裁判官の悪口言うんですけど。。。)

弁護士の場合も、事件処理をどのように行うかで、悩むことはよくあります。相手方と交渉する場合でも、強気に攻めた方が良いのか、妥協して譲歩した方が結果的に得なのか、どちらも「正しい」だけに、決めるのは非常に難しい。そんな中で、横から「こうすべきだった!」なんて言われると、非常に辛いのです。政治家や裁判官の苦労も、よく理解できるのでした。

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◇ 弁護士より一言

本日は、長女の20歳の誕生日です。いつまで一緒に暮らせるだろうかと、しんみりしてしまいます。その一方、stay homeということで、家で楽しそうに毎日過ごしているのを見ていたら、このまま10年、20年と居続けられるのではと、不安になったのです。

妻にそんな話をしたら、「そうなったら、それもきっと楽しいよ。」なんて、ポジティブなことを言われちゃいました。そうかもしれないけれど、ちゃんと独立して欲しいと、親心の悩みは尽きないのです。
以上:2,620文字

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