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2020年05月01日発行第268号”尾生弁護士の約束”

令和 2年 5月 2日(土):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの令和2年5月1日発行第268号「尾生弁護士の約束」をお届けします。

○大山先生のニュースレターを見る度に不勉強な私には、大変勉強になります。今回のニュースレターで「尾生之信」と言う言葉を初めて知りました(^^;)。「いったん交わした約束は、固く守って背かないこと。また愚直で融通のきかない者のたとえ。」と解説されています。愚直と柔軟のいずれが評価されるかは難しいところがあります。

○私は、「愚直」で「馬鹿正直」を自称していますが、余りあてになりません(^^;)。約束を守ることは重要ですが、さらに重要なことは守れない約束はしないことと思っています。弁護士業務においては、お客様から私の事件は必ず勝てるでしょうかと質問されることが日常茶飯事にあります。これに対し、回答は、原則として「残念ながら、必ず勝てるとは約束できません」と回答せざるを得ません。

○弁護士職務基本規程第29条2項で「弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け負い、又は保証してはならない。」と規定されています。これは弁護士の基本姿勢を示す極めて重要な規定ですが、弁護士にとっては大変有り難い規定でもあります。必ず勝つことの保証を求めるお客様に対し、規程で保証はできないのですと、回答できるからです。

○事件について、勝つか負けるかの見通しは、実は大変難しいものです。あくまでお客様に説明された事情の範囲内では、勝つ可能性が高いですが、想定外の事情が出てくると結論は不明ですなんて、馬鹿正直に説明すると、頼りないと思われて依頼されない可能性も高くなります。見通しの説明如何で事件受任増減が左右される面が強くあります。

○しかし、安請け合いは、弁護士職務基本規程第29条3項「弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはならない。」とも規定から絶対に許されません。この事件の見通し即ち「見込み」の判断は極めて重要であり、弁護士は、条文・判例・学説についての勉強が欠かせません。最も重要なものは同種事案についての過去の裁判例であり、相談を受けると、連日、裁判例漁りに終始し、HPを埋めています(^^;)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

尾生弁護士の約束


尾生(びせい)というのは、古代中国の人です。「絶対に約束を守る!」ということで有名な人でした。論語の中で孔子大先生も言及していますし、芥川龍之介も小説にしています。あるとき、川沿いで女性と待ち合わせの約束をしたんですが、大雨になって川が氾濫してしまいます。それでも尾生は約束を守って川のそばで待ち続け、最後には溺れ死んだというエピソードがあります。

思わず、何だよそれは!と言いたくなります。尾生は柔軟性に欠ける愚かな人と批判されても来ました。その一方、愚直に約束を守る信頼できる人として、三千年近く経った今でも名前が残っているのです。そもそも、「約束」というのは、どこまで守らないといけないのか、必ずしも簡単ではないようです。常識的に考えると、最初から守るつもりのない約束をするのは大変悪いことですが、必ずしもそうとは言えない気もします。

以前、徳川五代将軍綱吉の話を読んだことがあります。「お犬様」で悪名高い、生類憐みの令を作った将軍ですね。この法律の評判が悪いことを知っていた綱吉は、次の将軍に、天地神明に誓って生類憐みの令を継続することを「約束」させたそうです。ところが、綱吉が亡くなると、新将軍はすぐに約束を破り、この法律を廃止してしまう。でも、これについて非難する人は聞いたことがありません。

現代の日本でも、法律違反の労働契約や消費者契約などに関しては、たとえ約束しても守る必要はないということになっています。私も、従業員や消費者の代理人になれば、依頼者のために「契約は無効だ!」と主張します。しかし、約束を破る手伝いをすることに、少し抵抗を感じるのも事実なのです。

約束をどこまで守る必要があるのかという点になると、国によっても違いがありそうです。米国のロースクールで、契約法の授業を受けたときは驚きました。商品を一定の価格で販売する契約を締結した後、その商品が値上がりしたというケースです。前の契約を破棄して、新たに高額で販売した場合の損得について講義を受けたんです。

契約や約束は、破られることを前提に考えないといけないのかと、感心しちゃいました。実際アメリカ流の契約書には、契約が破られたときにはどうなるのかなど、本当に長々と書かれています。「問題が起こったらお互い誠意をもって協議して対応しましょう」といった、日本式の契約書とはかなり違います。アメリカでは、「人は約束を破るものだ」という前提で、契約書を作っているようです。

これは確かに合理的な考えですが、こういうことばかり考えていると、他人から信頼されるのも難しくなりそうです。アメリカでは弁護士に対して、「油断のならない奴らだ。騙されないように気を付けないと。」という意識があるのも、理由がありそうです。私も、会社勤めをしているときは、アメリカ弁護士に対して、そんな風に思ってました。

でもこれって、多かれ少なかれ日本でも同じです。私が独立開業したときに、ある人から「世間の人たちは、弁護士を警戒しているのに、それを自覚している弁護士は少ない。そのことに気がついている弁護士が、信頼を勝ち得ていけるんだ。」と、アドバイスしてもらいました。

確かにそんな気がします。アメリカでも超一流の弁護士は、まず何よりも「信用」を大切にしていたように思います。弁護士も信頼が大切だということは、複数の裁判官から言われました。「主張の内容も大切だが、それを言っている弁護士が信用できるかどうかを、裁判官は見ている。」んだそうです。ほ、本当ですか。。。尾生のように、柔軟性に欠けた弁護士は困りものでしょう。しかし私は、馬鹿正直と言われるくらい、約束を守る弁護士になりたいのです。

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◇ 弁護士より一言

自分の子供達には、「人間信用が一番大切だよ。約束は必ず守らないといけないよ!」と教えてきました。「約束を破ると、誰も信用してくれなくなるよ。」と言い続けてるんです。ところが自分自身は、「食べ過ぎない」「飲み過ぎない」「太らないように節制する」といった約束を、何度も妻としていながら、いつの間にか元に戻っている。全く説得力のないところが、辛いのです。。
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