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2019年01月16日発行第237号”あなたに似た弁護士”

平成31年 1月16日(水):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの平成31年1月16日発行第237号「あなたに似た弁護士」をお届けします。

○人間、「自己に甘く他に厳しい」のは絶対の真理と確信していますが、「他に厳しい」は他人の行動は、他人には客観的に見えるところ、行動者本人は、自分の「気持」は判っても、「行動」は見えないからなんですね。勉強になりました。

○「この判例、半年前に勉強会でやりましたよね。」には、グサッときました。判例調査は、私の趣味の一つですが、半年前に調べて、このHPで紹介しているのに、スッカリ忘れて、再度、このHPで紹介することがあるからです。若い時ならそんなことはなかったはずですが(^^;)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

あなたに似た弁護士


「あなたに似た人」は、英国の作家、ロアルド・ダールの短編集です。「奇妙な味」の小説で、例えばこんな感じです。海辺のホテルで、ある人が賭けをもちかけるんです。ライターで10回連続火をつけることが出来たら、自分の高級車を渡す。しかし、1回でも火が付かなかったら、指を1本貰うというんですね。相手の青年は悩みますが、高級車が欲しくて、その賭けを受けてしまいます。

男は、青年の指を即座に切断できるようにして、賭けが始まろうというときに、男の奥さんが止めに入ります。「この人には財産などありません。私が全部賭けで取り上げたから。高級車も私のものです!」そういう奥さんの手を見ると、指が2本しか残っていなかったなんて、怖い話です。

賭けを持ち掛ける男も、欲に駆られてそれを受けようとした青年もおかしな人です。指をなくしてまで、夫の財産を取り上げた奥さんには、狂気を感じます。そんな人達が、「あなたに似た人」だと言われても、納得できない気がします。しかし、人は誰しも「自分のことは自分が一番よく知っている。」と思いますが、心理学の本によると、実は他人の方がよほど正確に理解しているそうです。

一般生活の中でも例えば、周りの人達が「あの二人はすぐに別れるな。」なんて思っているカップルいますよね。もちろん当人たちは、そんなこと絶対にないと思っています。でも、こういう場合、90%以上の確率で、周りの人の意見が正しいものです。だいたい、他人から「将来後悔するよ。」と忠告されているのに、「絶対に後悔しない。」と主張する場合も、他人の意見がまず正しいですね。

私だって、減量中についつい美味しそうなものを「後悔はしない。」と食べてしまいますが、あとから必ず後悔するのです。刑事事件でも、こういうことはよくあります。被告人は、「もう二度とやりません。」と言いますが、かなり怪しい人もいます。判決のときに、執行猶予を付けた裁判官から、「あなた、またやりそうで本当に心配です。十分注意してください。」なんて言われた人がいました。本人は憤慨していましたが、実は私も裁判官と同じ意見だったんです。

残念ながらその人は、また同じ罪を犯して、今度は刑務所に行ってしまいました。心理学の本によると、他人の方が、本人について正しく理解できるのには理由があるんだそうです。本人は、「自分の今の気持ち」はよく分かるけど、自分の「行動」は見えません。一方、他人からは、本人の気持ちはどうあれ、その行動はよく見えます。つまり、その人の今までの行動から判断した方が、その人がどういう人で、次にどういう行動をするのか、正しく判断できるというんです。

アメリカで生活を始めたとき、クレジットカードを作るのに苦労しました。クレジットヒストリーといって、それまで長期間真面目に支払っていたという実績を示さないと、カードの審査に通らないのです。「カードがないのに、どうやって実績を示すんだよ!」と憤慨しましたが、コツコツ真面目に払い続けるという行動から、その人がどういう人か知ろうとすること自体は、間違っていないと思うのです。

刑事事件の話に戻りますと、痴漢や万引きなどの行為をやめられない人は一定数います。そういう人には、弁護の一環として、心療内科などの専門医院に通うようにアドバイスするんです。そうしたときに、キチンキチンと愚直に通い続ける人で、再び犯罪をした人はいませんね。「しばらく通ったけど、内容がバカバカしいので止めました。あんなの行っても、何の意味もないですよ。」なんて言う人は、高い確率でまた同じ犯罪をします。他人のことはよく見えます。罪を犯した人も、「私に似た人」なんだと、少しは自分を省みたいと思ったのでした。

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◇ 弁護士より一言

面白い判例があったので、若手弁護士に紹介したところ、呆れたように言われました。「この判例、半年前に勉強会でやりましたよね。」す、すっかり忘れていたのです。ここまで物忘れが酷くなったのかと、心配になり、妻に相談したんです。「そんなの気にしないで大丈夫。パパは若いときからそうなんだから。」な、なんだよ、それは。「やっぱり私を知るのは妻だ。」とは、素直に思えなかったのでした。。。
以上:2,172文字

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