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2012/ 2/16 第71号 サルの正義と弁護士の正義(2)

平成24年 2月29日(水):初稿
横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

 前回は、朝三暮四のサルの正義が、実は多くの弁護士の正義でもあるのだということで終わりました。

 例えば賃貸借契約の場合の「礼金」や「更新料」の問題です。賃貸借契約を結び部屋を借りる場合、私などは、最終的に全部で幾ら払うのかだけが大切だと思うわけです。全体の金額が同じなら、その内訳が、「全て家賃」であろうとも、「一部が家賃で一部が礼金や更新料」ということになっていようと、結局は同じことではないかと思えるわけです。サルの正義の呉智英先生も同じ意見なわけですね。ところが、多くの弁護士の考えは違うのです。

 どういうことかと言いますと、家賃だけで7万円を取るのは許されるが、家賃5万円プラス更新料2万円で合計7万円にするのは許せない、という意見が多数派のように思えます。

 同じような問題は、労働者の賃金でも起こります。私など、詰まるところ、自分がどれだけ働けば、結果としてどれだけ貰えるのかさえ明確なら、それで良いのではないかと思ってしまいます。しかし、そういう意見は弁護士界では超少数派です。さらに、法律違反でさえあるんですね。

 少し前までは、例えば銀行など、残業代を払わないのが当然でした。

 もともと給料を沢山もらっているんだから、それ以上残業代など必要ないだろうという共通認識が有ったはずです。これだけの仕事に対して、結局これだけもらえるのだから、それに納得していた以上、ぐずぐず言うのはおかしいという考えでしょう。

 しかし、こういうのは法律違反ですね。残業をさせている以上、どんなに元の給料が高かろうと、やはり残業代は必要だというのが法律です。最近では、これまで請求しなかった残業代を請求して、裁判にまでなるケースが増えてきています。

 そうしますと、基本給として30万円支払うだけで、残業代は支払わない場合は、法律違反として怒られるわけです。一方、基本給は最低賃金なみの15万円とする一方で、残業代として15万円支払っていることにすれば、法律を守り、残業代を気前よく支払っていると、感激して貰えます。

 どちらにしても、同一の労働への対価として、30万円を支払うことには変わりはありません。「一方に対しては歯をむき出して怒るくせに、他方に対しては泣いて感激する理由は何なんだよ!」と、私などはどうしても皮肉に見てしまうのです。まさに、「弁護士の正義」、さらには「法律の正義」というのは、「サルの正義」ではないかと感じてしまうんですね。

 しかし、こんな風に法律を批判的に見るのは、法律実務家として正しくないのでしょう。考えてみますと、これは正にリスク管理の問題だと思うのです。

 木の実を朝に3つ、暮に4つあげる場合はリスクがある一方、朝に4つ、暮3つにしたらリスクが減少するのならば、そうするようにアドバイスするのが、正しい法律家のあり方ですね。

 賃貸借や労働問題に限らず、法律実務にはこのような、「朝三暮四」の問題は沢山あります。法律は「サルの正義」だなんて悪口を言っていないで、リスク軽減に努める弁護士を目指したいと思うのです。

 
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 弁護士より一言

 年長クラスに通っている息子が、幼稚園でお芝居をすることになりました。「長靴をはいた猫」をやるんだそうです。何の役をするのかと聞いてみたら、3人のお友達と一緒に、魔法使いの鬼の役をするんだと張り切っていました。だまされてネズミに化けたところを、猫に食べられてしまう、あの鬼ですね。

 がおーがおーと家でも練習していたんですね。ところが、先日幼稚園から帰ってくると、どうも元気が有りません。

 「鬼の役なのに、なぜかネズミのお面をかぶせられたの。」息子よ、がっかりするな。パパだって、馬の脚くらいしかやらせてもらえなかったのだよと、心の中で励ましたのでした。

 引き続きコメントを楽しみにしております。

 (2012年2月16日第71号)
以上:1,570文字

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