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グーグルマップ口コミ記事を名誉毀損で削除を認めた地裁判決

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令和 7年12月 9日(火):初稿
○病院や法律事務所についてグーグルマップに結構クチコミ記事が記載されており、当小松・畠山法律事務所にも苦情記事が残っています。畠山弁護士ではなく私に対する苦情です。何件かある記事に対し、フォロー記事が書かれていますが、私では無く、畠山弁護士によるフォロー記事で有り難いところです(^^;)。

○病院のグーグルマップクチコミ記事も私が通院したところを何件か見てみましたが、私にとっては大変良い病院でも、厳しいクチコミが結構あります。クチコミは厳しい評価をした人が書くことが多いようですが、原告医師が、グーグルマップに投稿された投稿記事によって名誉権を侵害されていると主張して、グーグルマップを設置・運営し、そのシステムを管理する被告GoogleLLC(代表者)グーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社に対し、名誉権に基づいて、投稿記事の削除を求めました。投稿記事目録の内容は残念ながら省略されています。

○これに対し、本件記事は、原告に関する記事であり、本件記事は、原告が投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとるという医師としての資質に欠ける非常識な行動に出たかのような印象を一般人に与えるものであって、原告の社会的評価を低下させるものであるといえ、本件記事は、原告の名誉を毀損するものであると認められ、本件記事は、口頭弁論終結時においても、本件ウェブサイトにおいて公開されていることが認められ、本件記事による原告の社会的評価の低下の程度が極めて軽微であるとはいえないこと、公開から長年経過していることも考慮すると、削除の必要性が認められるというべきであるとして、原告の請求を認容した令和6年6月26日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

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判   決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 ○○○○
被告 Google LLC
同代表者(日本における代表者) グーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社
上記代表者代表取締役 B
被告訴訟代理人弁護士 ○○○○
同 ○○○○
同 ○○○○

主   文
1 被告は、別紙投稿記事目録記載〔1〕の記事内容の「朝1番は」から「心療内科。」までの投稿記事を削除せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文第1項と同旨

第2 事案の概要
 本件は、原告が、グーグルマップに投稿された投稿記事によって名誉権を侵害されていると主張して、グーグルマップを設置・運営し、そのシステムを管理する被告に対し、名誉権に基づいて、上記投稿記事の削除を求めている事案である。

1 前提事実(末尾に認定の根拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1)
ア 原告は、令和元年10月以前から、愛知県豊田市において心療内科・精神科の診療を行う「a」という名称のクリニック(以下「本件クリニック」という。)の院長を務めている医師である(甲1)。

イ 被告は、インターネットで閲覧可能な地図検索サービス「グーグルマップ」(以下「本件ウェブサイト」という。)を設置・運営し、そのシステムを管理している外国法人である。本件ウェブサイトには、被告からアカウントを与えられた者が、地図上に表示されている店舗等について、口コミを投稿する機能が付されている。(弁論の全趣旨)

(2)「b」を名乗るユーザーは、令和○年○○月○日、本件ウェブサイトにおいて、別紙投稿記事目録記載〔1〕の記事内容の「朝1番は」から「心療内科。」までの投稿記事(以下「本件記事」という。)を投稿した(甲3、4、8、弁論の全趣旨)。

2 争点
(1)本件記事が原告の名誉を毀損するものであるか(争点1)。
(2)本件記事における意見の前提事実が重要部分において虚偽であるか(争点2)。 
(3)削除の必要性の有無(争点3)

3 争点に関する当事者の主張
(1)本件記事が原告の名誉を毀損するものであるか(争点1)。
(原告)
ア 本件記事には本件クリニックの名称及び所在地が表示されており,本件クリニックに在籍する医師は原告のみであるから、本件記事の閲覧者は、本件記事が原告に係る口コミであることを容易に認識することができる。

イ 本件記事は、閲覧者に対し、原告が医師としての資質に欠ける非常識な人物であるという印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させるものである。

(被告)
ア 本件記事の上部に本件クリニックの名称及び所在地が表示されていることは認め、その余は不知。

イ 本件記事は、「医療サービスを受けるというよりは、ドクターからの精神的圧力を楽しむことが可能な非常に珍しい心療内科。」という記載部分の根拠となる医師の具体的な言動等を摘示していないから、投稿者が上記記載部分のとおりに感じる場面があったという印象を一般の読者に与えるものにすぎない。原告が、国家から特別に資格を与えられ、医療行為を行うことを許可されて、本件クリニックを運営しており、本件クリニックの運営、本件クリニックの医師の治療技術及び治療内容等について国民から批判を受けるべき立場にあることも考慮すると、本件記事は、受忍限度を超えて、原告の社会的評価を低下させない。

(2)本件記事における意見の前提事実が重要部分において虚偽であるか(争点2)。
(原告)
ア 本件記事のうち「本日も(中略)とても御立腹でございました。」という記載部分は、事実を摘示するものであるところ、投稿者が本件クリニックを受診して本件記事を投稿したとされる令和○年○○月○日は、本件クリニックが営業していなかったから、摘示された事実はその重要部分において虚偽である。

イ なお、被告は、後記(被告)アのとおり、本件記事における「本日も」という記載は、単に「今回投稿の対象となる経験をした日も」という意味にすぎないと解する余地が十分にあると主張するが、そのような読み方は、「本日」という言葉の通常の用法にそぐわず、一般の読者の普通の注意と読み方ではない。

(被告)
ア 本件記事における「本日も」という記載は、本件記事を投稿した日という意味ではなく、単に「今回投稿の対象となる経験をした日も」という意味にすぎないと解する余地は十分にある。

イ そして、本件記事の投稿者とは異なる者からも、原告の機嫌が悪いときに患者の心理に対する配慮を欠くと受け止められても仕方のないような対応がされる場合があるとする口コミが複数投稿されているから、本件記事のうち「本日も(中略)とても御立腹でございました。」という記載部分が虚偽であるとはいえない。

(3)削除の必要性の有無(争点3)
(原告)
 本件記事は、現在も、本件ウェブサイトにおいて公開されているから、削除の必要性が認められる。
 なお、本件記事は、既に公開され、投稿から4年4か月以上が経過しているから、その削除請求に当たり、原告が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあることが必要であるとはいえない。

(被告)
 本件記事が被告準備書面(1)作成時である令和6年1月19日ころの時点においてインターネット上に公開されていることは認める。
 名誉権に基づく削除請求が認められるためには、被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあることが必要であるというべきであるところ、原告は、その点について、何ら主張立証をしていない。 
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件記事が原告の名誉を毀損するものであるか。)について

(1)証拠(甲3、甲7・1頁)によれば、本件記事の上部に本件クリニックの名称及び所在地が表示されていること、本件クリニックに在籍する医師は院長である原告一人であることが認められるから、本件記事は、原告に関する記事であるというべきである。そして、原告と面識があり、又は本件クリニックに在籍する医師の数を知る者は、その知識を手がかりに本件記事が原告に関する記事であることを推知することが可能であるところ、本件ウェブサイトが一般に普及していることや本件記事が医療機関に関する記事であることを考慮すると、本件記事の読者の中に、原告と面識があり、又は本件クリニックに在籍する医師の数を知る者が存在した可能性を否定することはできない。そして、これらの者を通じて、多数人に本件記事が原告に関する記事であることが認識可能であったといえる。

 したがって、本件記事は、原告について言及したものであるとの印象を一般の閲覧者に与えるものであるといえる。

(2)また、本件記事は、原告が投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとるという(心療内科・精神科の)医師としての資質に欠ける非常識な行動に出たかのような印象を一般人に与えるものであって、原告の社会的評価を低下させるものであるといえる。したがって、本件記事は、原告の名誉を毀損するものであると認められる。

(3)
ア これに対し、被告は、本件記事が、「医療サービスを受けるというよりは、ドクターからの精神的圧力を楽しむことが可能な非常に珍しい心療内科。」という記載部分の根拠となる医師の具体的な言動等を摘示していない旨の主張をするが、前記(2)のとおり、投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとるという具体的な言動を摘示していると認められるから、被告の上記主張は採用することができない。

イ また、被告は、原告が、国家から特別に資格を与えられ、医療行為を行うことを許可されて、本件クリニックを運営しているなどとして、本件記事が、受忍限度を超えて、原告の社会的評価を低下させない旨の主張もするが、本件記事は、前記(2)のとおり、原告が投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとるという(心療内科・精神科の)医師としての資質に欠ける非常識な行動に出たかのような印象を一般人に与えるものであり、本件記事による原告の社会的評価の低下の程度が極めて軽微であるとはいえない。そして、後記のとおり、本件記事における意見の前提事実が重要部分において虚偽であることも考慮すると、本件記事が、受忍限度を超えて、原告の社会的評価を低下させない旨の被告の上記主張も採用することができない。

2 争点2(本件記事における意見の前提事実が重要部分において虚偽であるか。)について
(1)本件記事のうち、「医療サービスを受けるというよりは、ドクターからの精神的圧力を楽しむことが可能な非常に珍しい心療内科。」という部分は、意見の表明であるところ、その意見は、原告が「本日」(令和○年○○月○日。前提事実(2)参照)に投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとったという事実を基礎とするものである。

 しかるところ、証拠(甲7・1頁)によれば、本件クリニックは、毎週日曜日及び月曜日が休診日であったこと、したがって、令和○年○○月○日月曜日も営業していなかったことが認められるから、上記の意見の前提事実は、その重要な部分において虚偽であると認められる。


(2)
ア なお、被告は、本件記事における「本日も」という記載は、本件記事を投稿した日という意味ではなく、単に「今回投稿の対象となる経験をした日も」という意味にすぎないと解する余地は十分にある旨の主張をするが、その主張に係る用法は、一般の読者の普通の読み方ではなく、極めて特異な用法であるから、被告の上記主張を採用することはできない。

イ また、被告は、本件記事の投稿者とは異なる者からも、原告の機嫌が悪いときに患者の心理に対する配慮を欠くと受け止められても仕方のないような対応がされる場合があるとする口コミが複数投稿されている旨の主張もするが、それ自体、本件クリニックが令和○年○○月○日月曜日に営業していたこと、原告が同日に投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとったことをいうものではない。

3 争点3(削除の必要性の有無)について
 弁論の全趣旨によれば、本件記事は、口頭弁論終結時においても、本件ウェブサイトにおいて公開されていることが認められる。そして、本件記事が、原告において(心療内科・精神科の)医師としての資質に欠ける非常識な行動に出たかのような印象を一般人に与えるものであり、本件記事による原告の社会的評価の低下の程度が極めて軽微であるとはいえないこと(前記1(3)イ)、公開から4年7か月余りが経過していることも考慮すると、削除の必要性が認められるというべきである。

 これに対し、被告は、名誉権に基づく削除請求が認められるためには、被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあることが必要である旨の主張をするが、本件のような場合に、そのように解することはできない。

4 結論
 以上によれば、原告の請求は、理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部 裁判官 宮川広臣

(別紙)投稿記事目録
以上:5,325文字

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