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会社締結生命保険契約死亡保険金の一部従業員帰属を認めた高裁判決紹介

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令和 7年 6月28日(土):初稿
○「会社締結生命保険契約死亡保険金の一部従業員帰属を認めた地裁判決紹介」の続きで、その控訴審平成14年 4月24日名古屋高裁判決(最高裁判所民事判例集60巻4号1481頁、労働判例829号38頁)関連部分を紹介します。

○一審被告の従業員であった亡Dら3名の各妻が、一審被告が亡Dらを被保険者として訴外生命保険会社他8社との間で締結した団体定期保険契約に基づき、亡Dらの死亡によって一審被告が支払を受けた生命保険金について、遺族である各妻に支払われるべきものであるとして、一審被告にそれぞれの保険金金額相当額に相当する金員の支払を請求し、原審では妻らの請求が一部認容されました。

○名古屋高裁判決も、団体定期保険契約の主たる目的は、福利厚生措置によって遺族に支払う弔慰金、死亡退職金、労災上乗せ補償金等の給付に充てることにあり、相当額の経費の支出を要するから、全額遺族に支払われるべきものとは言えないとして、既払いの死亡退職金を控除した保険金相当額の支払いを命じました。

○また名古屋高裁判決は、団体定期生命保険は、各保険会社と会社との間で締結されるものであり、少なくとも一方の当事者が商人たる株式会社である以上、商行為に当たり、同契約に基づき、死亡した従業員の遺族に対して退職金等として支払われるべき給付については、商事法定利率年6分の遅延損害金が支払われるべきとしました。

○さらに、団体定期保険契約の保険契約者である会社は、同保険契約を維持し続けるために相当額の経費の支出しているのであるから、保険金額について社会的に相当な金額を超える部分を会社が取得し、会社が福利厚生措置によって遺族に支払う弔慰金、死亡退職金、労災上乗せ補償金等の給付に充てることは許容されるべきであり、保険金額がさらに増大した場合であっても、会社が保険金額の2分の1を限度に保険金を取得することは公序良俗に反しないとしました。妥当な判決と思いました。

○しかし、「会社締結生命保険契約死亡保険金の全部会社帰属を認めた最高裁判決紹介」記載のとおり、上告審最高裁判所は、原審名古屋高裁の判断には、違法があるとして、遺族の請求を全て棄却しました。遺族の衝撃と落胆は相当大きかったと思われます。

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主   文
1 1審原告らの控訴及び当審における請求の拡張に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)1審被告は,1審原告甲野花子に対し,金1836万円及びこれに対する平成9年7月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)1審被告は,1審原告乙山月子に対し,金1711万5000円及びこれに対する平成10年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)1審被告は,1審原告丙川雪子に対し,金2111万7000円及びこれに対する平成10年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)1審原告らのその余の請求(当審において拡張された請求を含む。)をいずれも棄却する。
2 1審被告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審ともこれを3分し,その2を1審原告らの負担とし,その余を1審被告の負担とする。
4 この判決は,1項(1)ないし(3)に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告ら

(1)原判決を次のとおり変更する。
ア 1審被告は,1審原告甲野に対し,6120万円及びこれに対する平成9年7月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
イ 1審被告は,1審原告乙山に対し,6120万円及びこれに対する平成10年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
ウ 1審被告は,1審原告丙川に対し,6680万円及びこれに対する平成10年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(当審において,1審原告丙川は,請求金額を6120万円から6680万円に拡張し,かつ,1審原告ら全員は,遅延損害金の割合を年5分から年6分に拡張した。)
(2)1審被告の控訴を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。
(4)仮執行宣言

2 1審被告
(1)原判決中1審被告の敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消しにかかる1審原告らの請求をいずれも棄却する。
(3)1審原告らの控訴及び当審において拡張された請求をいずれも棄却する。
(4)訴訟費用は,第1,2審とも1審原告らの負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,1審被告の従業員であった亡甲野一郎(以下「亡一郎」という。),亡乙山二郎(以下「亡二郎」という。)及び亡丙川三郎(以下,「亡三郎」といい,上記3名を併せて「亡一郎ら」という。)の各妻が,1審被告が亡一郎らを被保険者として訴外日本生命保険相互会社ほか8社との間で締結した団体定期保険契約に基づき,亡一郎らの死亡によって1審被告が支払を受けた生命保険金について,それが遺族である各妻に支払われるべきものであるとして,1審被告に対し,それぞれ保険金全額に相当する金員の支払を請求した事案であり,原審が,1審原告らの請求を一部認容しその余は棄却したため,当事者双方が控訴したものである。

2 争いのない事実等,争点及び当事者の主張は,以下に原判決を改訂し,当審主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の一,二項及び「第三 争点についての当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

3 原判決の改訂

     (中略)

第3 当裁判所の判断
 当裁判所も,1審原告らの本訴請求(当審において拡張された請求を含む)は,1審原告甲野に対し1836万円及びこれに対する平成9年7月25日から,1審原告乙山に対し1711万5000円及びこれに対する平成10年10月6日から,1審原告丙川に対し2111万7000円及びこれに対する平成10年10月6日から,各支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきものと判断するが,その理由は,以下に原判決を改訂するほか,原判決「事実及び理由」の「第四 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

1 原判決の改訂
(1)原判決117頁7行目の「と超えている」を「を超えている」と,同133頁7行目の「経済的損失の」を「経済的損失を」と,同161頁6行目の「契約者」を「保険契約者」と,同166頁4行目の「一通票」を「一通」と,同170頁4行目の「契約者」を「保険契約者」と,同182頁12行目の「四二」を「四二の1ないし3,四三」と,同206頁4行目の「退職協定」を「退職金協定」と,同225頁10行目の「確認されているに」を「確認されている」と,同226頁4行目の「あったすれば」を「あったとすれば」と,それぞれ改める。

(2)同228頁1行目の「これから」を「また,平成6年12月1日の契約更新によって保険金は6680万円になっていたが,亡三郎については,前記のとおり6090万円の限度で保険金が支払われたから,これから,」と改める。

(3)同228頁3行目の「5871万0600円」を「5841万0600円」と改める。

(4)同230頁13行目の「保険金6120万円」を「保険金,すなわち,亡一郎及び亡二郎につき6120万円,亡三郎につき6090万円」と改める。

(5)同231頁5行目から6行目にかけての「2935万5300円」を「2920万5300円」と,同232頁6行目(60頁右段33行目)の「1835万1000円」を「1836万円」と,それぞれ改める。

2 当審主張に対する判断
(1)1審原告らの当審主張(1),1審被告の当審主張(1)について
 前記第2の3(2)に認定のとおり,亡三郎死亡時点においては,本件各団体定期保険契約の保険金総額は6680万円に増額されていたものの,本件各保険会社から支払われた保険金は合計6090万円であり,この金額を前提とすると,1審原告丙川に対する認容額は,引用にかかる原判決の認定判断(改訂部分を含む。)のとおりとなる。
 1審原告らの上記主張は採用できない。

(2)1審原告らの当審主張(2),1審被告の当審主張(2)について
 当裁判所は,1審原告らの請求は,本件各保険会社と1審被告との間の契約の趣旨(付保目的)についての合意に基づき認められるものと判断するものであり,上記合意は,少なくとも一方の当事者が商人たる株式会社によってなされているから,商行為に当たり,同合意に基づく請求権については,商事法定利率年6分の遅延損害金が支払われるべきものである。
 1審被告の上記主張は採用できない。

(3)1審原告らの当審主張(5),(6)について
 引用にかかる原判決の認定によれば,団体定期保険契約の主たる目的は,福利厚生措置によって遺族に支払う弔慰金,死亡退職金,労災上乗せ補償金等の給付に充てることにあるところ,団体定期保険契約を毎年維持し続けるためには相当額の経費の支出が必要となり,保険金額が高額になるほどその経費は増大するものであり,保険契約者における団体定期保険契約の収支は,保険会社から支払われる配当金及び保険金の全額をその年度の保険料の支払に充当しても通常赤字になるものであるから,保険金額が社会的に相当な金額を超える場合には,原則として同相当額を超える部分を上記経費に充てることは許容すべきである。

ただし,保険金額がさらに大きくなり,上記社会的に相当な金額の2倍を上回るときには,上記原則に従うならば,1審被告が保険金額の2分の1を超えて取得することとなり,上記団体定期保険契約の主たる目的に沿わないものというべきであるから,保険金額の2分の1の限度において上記経費に充てることを許容すべきである。そうすると,保険金額が大きくなればなるほど,保険契約者が取得する金額が大きくなるが,このことは,同取得額が保険料の支払に充当され,他方で遺族に支払われる金額も大きくなることに鑑みると,不当なことではないと解される。

 以上のとおり考えると,保険金額が社会的に相当な金額を超えるときには、原則として上記相当な金額,ただし,保険金額が上記相当額の2倍を上回るときには保険金額の2分の1が,遺族に支払われるならば,団体定期保険契約は公序良俗に反しないものと解することは,相当であるといわなければならない。

 なお,団体定期保険契約に支分契約性があることから,直ちに,保険金相当額が全額被保険者に支払われるべきことを結論づけることはできないものと解される。 
 そうすると,1審原告らの上記主張は採用できない。

(4)1審原告らの当審主張(7),1審被告の当審主張(6)について
 引用にかかる原判決認定の事情,特に,本件各団体定期保険契約の保険金総額,1審被告の規模,福利厚生制度の内容のほか,現在の社会の状況等一切の事情を総合考慮すると,本件において,上記社会的に相当な金額は亡一郎らにつきいずれも3000万円と認めるのが相当であり,亡一郎らにつき,個別に異なる金額とすべきものとする事情は,これを認めるに足りる証拠はない。算定基準を示していない旨の1審原告らの非難は当たらない。

(5)1審原告らの当審主張(8)について
 引用にかかる原判決の認定判断のとおり,本件各保険会社と1審被告との保険契約の趣旨(付保目的)についての合意は,保険金の全部又は一部を福利厚生措置によって遺族に支払う弔慰金,死亡退職金,労災上乗せ補償金等の給付に充てることを内容とするものであるから,既払の死亡退職金は,遺族に対して支払われるべき保険金相当額から控除するのが相当である。

 1審原告らは,退職金は賃金の後払的性格を有し,福利厚生措置には含まれないとして,その控除をすべきでない旨主張するが,上記合意においては,保険金の充当されるべき対象として死亡退職金を含むことがその内容となっているから,「福利厚生措置」という文言の意味によって,退職金を控除することが否定されるものとは解されない。

 また,1審原告らは,仮に退職金への充当が許されると解したとしても日本生命との間の合意である755万円に限定されるべきである旨主張するが,引用にかかる原判決の認定事実のとおり,本件各団体定期保険契約においては,その契約の趣旨が,日本生命との間で755万円につき死亡退職金に充当することが合意されていたほかは,業務外の死亡に関しては,死亡退職金を含む福利厚生制度に基づく給付に充当することが合意されていただけで,具体的な使途は特定されていなかったものであるから,上記主張は採用できない。
 1審原告らの上記主張中のその余の部分も,引用にかかる原判決の認定判断(改訂部分を含む。)に照らして採用できない。

(6)1審被告の当審主張(8)について
 原判決は,本件各保険会社と1審被告との間の保険契約の趣旨(付保目的)についての合意を第三者のためにする契約と認定して同契約に基づく請求を認容したものであるところ,当審の第1回口頭弁論期日において,当事者双方は,原判決のとおり原審口頭弁論の結果を陳述したことは当裁判所に顕著である。

 そうすると,原審においては,上記契約に基づく請求権が選択的に併合されていたものと認められ,その請求原因は,そのような法的構成を明示して主張されていなかったとしても,原審の口頭弁論に顕れていたものと解するのが相当であるから,1審被告の上記主張は採用できない。

(7)その他,1審原告ら及び1審被告は当審においてるる主張し,証拠(〈証拠略〉)を提出するが,いずれも引用にかかる原判決の認定判断(改訂部分を含む。)及び上記判断を覆すに足りない。

第4 結論
 よって,1審原告らの控訴及び当審における請求の拡張に基づき,以上と異なる原判決を変更し,1審被告の控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。名古屋高等裁判所民事第3部
裁判長裁判官 福田晧一 裁判官 藤田敏 裁判官 倉田慎也

以上:5,804文字

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