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他宗派戒名授与を理由とする墓地使用権取消処分を無効とした地裁判決紹介

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令和 7年 4月 5日(土):初稿
○Aは真言宗の宗教法人Y寺の檀徒で、Y寺の墓地1区画に墓石3基を建立していましたが、Aの子であるXは、その夫のBが死亡したので、Y寺の住職からBの戒名を授かりましたが、その住職の言動に不信感を生じたことから、知り合いの天台宗の寺からら戒名を授かり、Bの戒名として使用しました。

○Y寺は、Xが他宗派から戒名を授与されたこと等を理由に、Y寺の定めた墓地使用規則上の墓地使用許可取消事由に当たるとして、Aの墓地使用許可を取り消し、その取消し書面を貼付した杭看板をAの使用墓地に設置しました。
Y寺の墓地使用規則は、以下の通りです。
第8条 墓地を使用している檀徒が信仰をかえて Y寺の檀徒でなくなった場合は、その後新たに焼骨の埋蔵をすることができない。
第11条 管理者は、次の場合には墓地使用の許可を取消するものとする。
(中略)
第3号 信仰を異にして真言宗の教義にそむき、管理者及びY寺信徒の宗教感情を著しく害すると認めるとき。


○これに対し、Aは、①墓地の永代使用権を有することの確認、②Bの焼骨の墓地埋蔵に対する妨害禁止、③Y寺に対する損害賠償として弁護士費用10万円を請求し、Aは訴訟中に死亡し、Xがその地位を相続承継し、Xの請求を全て認めた令和5年6月12日東京地裁判決(判時2615合併号120頁)関連部分を紹介します。

○差戻し前第一審東京地裁は、本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないとして、訴えを却下し、控訴審東京高裁が「法律上の争訟」に当たるとして一審判決を取り消し差し戻しとして、差し戻し後の判決です。戒名だけを他宗派から授かっただけでは信仰を変えたことにならず、宗教感情を著しく害することにも当たらないとしたもので妥当な判決と思います。

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主   文
1 原告が別紙物件目録記載の土地について墓地の永代使用権を有することを確認する。
2 被告は、亡B(令和元年10月14日死亡)の焼骨を原告が別紙物件目録記載の土地に埋蔵することを妨害してはならない。
3 被告は、原告に対し、10万円を支払え。
4 訴訟の総費用は、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文1項から3項までと同旨。

第2 事案の概要
 本件は、被告が所有する別紙物件目録記載の土地(以下「本件墓地区画」という。)の永代使用権を取得したと主張するA(以下「A」という。)が、被告に対し、被告による墓地使用許可の取消しが無効であるとして、〔1〕本件墓地区画の永代使用権を有することの確認を求めるとともに、〔2〕上記永代使用権に基づく妨害予防請求として、Aの子である原告の死亡した夫であるB(以下「亡B」という。)の焼骨を本件墓地区画に埋蔵することの妨害の禁止を求め、さらに、〔3〕被告の一連の行為が不法行為に該当するとして、弁護士費用10万円の損害賠償を求めた事案である。

 差戻し前の第1審(東京地方裁判所令和2年(ワ)第23390号)は、本件訴えは、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないとして、訴えを却下するとの判決をした。Aは、同判決を不服として控訴したところ、差戻し前の控訴審(東京高等裁判所令和4年(ネ)第1363号)は、本件訴えは、その判断に当たり宗教上の教義、信仰の内容に立ち入らざるを得ないものではないから「法律上の争訟」に当たるとして、差戻し前の第1審判決を取り消して、本件訴訟を東京地方裁判所に差し戻すとの判決をした。Aは令和5年1月5日に死亡し、Aの子である原告がその訴訟上の地位を承継した。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 被告等
(ア)被告は、主たる事務所を栃木県足利市α×××番地に置く、真言宗豊山派に属する宗教法人である。C(以下「C」という。)は被告の代表役員であり、被告の住職である。Cは、住職の職務と並行して、タクシー会社の乗務員としても稼働している。(争いがない)

(イ)被告の「宗教法人『医王寺』規則」(以下「本件法人規則」という。)9条では,代表役員は、この法人を代表し、その事務を総理すること(1項)、及びこの法人の事務は、この規則に別段の定めがある場合を除く外、責任役員の定数の過半数で決し、その責任役員の議決権は、各々平等とすること(2項)がそれぞれ定められている(甲11)。

イ 原告等
(ア)Aは、昭和49年9月24日、同人の出生地である栃木県足利市に所在する被告運営の墓地内の広さ約39.5平方メートル(約11坪)の一区画(本件墓地区画)の使用の承諾を受け、被告の墓籍簿に登録された(以下、これによりAが取得した本件墓地区画の使用許可を「本件墓地使用許可」という。)。 

 Aは、本件墓地区画に、東京都内に所在していた戦死した夫一族の墓所から、夫らの墓を移設することとし、被告の先々代住職に新墓地開眼供養を行ってもらい、奈良県の石材店に注文した墓石三基(Aの夫分並びに夫の先祖2名分及び同46名分)を建立して祀っていた。また、Aは、本件墓地使用許可を受けて以降、被告の檀徒として、被告に対し、継続して護寺会費を支払っており、毎年、盆の時期にはA方で被告住職による供養を受けてきた。なお、Aは高齢のため、晩年は施設に入居し、生活していたが、本訴提起後である令和5年1月5日、死亡した。
(以上について、甲2の写真〔1〕及び〔4〕、甲13、乙1、弁論の全趣旨)

(イ)原告はAの子であり、Aの死亡により、その唯一の相続人として、Aの権利義務の一切を承継した。

(ウ)亡Bは原告の夫であり、原告との婚姻に際し、原告の氏を称したものであるが、令和元年10月14日に死亡した。

(エ)原告は、亡Bの焼骨(以下「本件焼骨」という。)を本件墓地区画に埋蔵しようと考えている。(甲13、弁論の全趣旨)

(2)被告の墓地使用規則
 被告の墓地使用規則(以下「本件墓地使用規則」という。)には以下の規定がある。(甲9)

     (中略)

オ 第8条
 墓地を所用している檀徒が信仰をかえて医王寺の檀徒でなくなった場合は、その後新たに焼骨の埋蔵することができない。

カ 第11条
 管理者は、次の場合には墓地使用の許可を取消するものとする。
(第1号及び第2号 省略)
第3号 信仰を異にして真言宗の教義にそむき、管理者および医王寺檀徒の宗教感情を著しく害すると認められるとき。

(3)亡B死亡後の経緯
ア 亡Bは、令和元年10月14日に死亡したことから、原告は、葬儀の段取り等について打合せをするため、被告の固定電話やCの携帯電話に複数回架電し、翌日の夜半にようやく連絡がついたものの、Cは飲酒していた状態であった。その後、原告の依頼に基づき、Cは、同月16日午後6時30分頃、亡Bの枕経を上げた。その際、Cは、原告に対し、C自らが考えた亡Bの戒名が記載された半紙を提示し、戒名及び法要代として75万円を提示した。(甲13、弁論の全趣旨)

イ 原告は、Cに対し、令和元年10月20日に予定されていた亡Bの通夜及び同月21日に予定されていた本葬の読経を要請したところ、Cの予定が合わず、Cは代行導師を手配した(争いがない)。

ウ 原告は、Cが亡Bの人となりや生前の職業、業績等について喪主である原告から予め聴取することなく戒名を提示したこと等に不満を抱く中、亡Bが生前に、毎年数回、大津市に所在する天台宗寺院である最乗院に通って、同院の住職と親しく交流していたことを思い出し、同住職に架電して、亡Bの戒名の付与を依頼し、同住職から亡Bの戒名を得た(甲13、弁論の全趣旨)。

エ 原告の娘は、令和元年10月17日、Cに対し、「昨夜はご苦労様でした。戒名の件、父が尊敬し親しくさせて頂いているご住職様に付けていただきました。従って、お経は通夜告別式のみお願い致します。」と伝えた(争いがない)。

オ 令和元年10月21日、Cが手配した代行導師により、亡Bの通夜、本葬及び初七日法要の読経が行われた。上記本葬の際に、原告は、枕経並びに通夜及び本葬の読経の費用として用意した23万円を代行導師に渡そうとしたが、代行導師は、これは被告が受け取るべきものであるとして受領しなかった(甲13、弁論の全趣旨)。そこで、原告は、同年11月29日付けで同額の預金小切手を被告宛てに郵送したが、被告は上記小切手を原告に返送した(甲5の1ないし3)。

(4)本件墓地使用許可取消しの意思表示
 被告は、令和元年11月3日付けで、被告が授けた戒名に異を唱え、他宗の戒名を授与された件(本件墓地使用規則8条)、被告は一切関係ないとの言動及び葬送所作読経料未払いの件(同11条3号)を理由として、本件墓地使用許可を取消し、本件墓地区画を令和2年4月30日までに返還するよう求める旨を記載した原告宛ての墓地使用許可取消通知書(以下「本件通知書」という。)を送付するとともに、原告の住所氏名を記載したままの状態で、本件通知書と同じ内容を印刷した紙を杭看板に貼付して、これを本件墓地区画に設置して掲示した(甲2の写真〔3〕、甲3。なお、現在、同看板は撤去されている。)。

(5)差戻し前第1審における本件墓地使用許可の取消しの意思表示
 被告は、差戻し前第1審の第3回弁論準備手続期日において、改めて、Aに対し、本件墓地使用規則11条3号に基づき、本件墓地使用許可を取り消す旨の意思表示をした(顕著な事実)。

(6)被告は、被告運営の墓地を含む敷地の外壁に、「墓地分譲募集中」と記載した大型看板を設置しているが、その看板には、「墓地1区画7万円~12万円」との記載及び連絡先電話番号の記載がされている(甲2の〔7〕及び〔8〕の写真)。

(7)Aは、その後も、被告に対し、毎年、応分の護寺会費を支払ってきた(争いがない。)。

2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、
〔1〕被告による本件墓地使用許可の取消しの可否
〔2〕不法行為の成否及び損害額
の2点である。


     (中略)

第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告による本件墓地使用許可の取消しの可否)について

(1)被告は、原告の行為が本件墓地使用規則11条3号に掲げる墓地使用許可の取消事由に該当する旨主張するから、まずこの点について検討する。

(2)本件墓地使用規則は、8条において、「墓地を所用している檀徒が信仰をかえて被告の檀徒でなくなった場合」には、新たな焼骨の埋蔵ができなくなると規定する一方、11条3号において、「信仰を異にして真言宗の教義にそむき、管理者および被告檀徒の宗教感情を著しく害すると認められるとき」には墓地使用許可を取り消す旨規定している(前記前提事実(2)オ、カ)。すなわち、被告においては、その墓地を使用する檀徒が信仰を変えて被告の檀徒ではなくなった場合でも、墓地への新たな焼骨埋蔵ができなくなるのみである一方、本件墓地使用規則11条3号に掲げる事由に該当する場合には、墓地使用許可が取り消される結果、新たな焼骨埋蔵ができなくなるのみでなく、設置した墓石を撤去した上で先祖の供養場所を他に探さなければならなくなるという、はるかに重大な権利制限がもたらされることになる。そうすると、墓地の使用者の行為が墓地使用許可の取消事由に該当するか否かの判断に当たっては、当該行為が「信仰をかえて被告の檀徒でなくなった場合」よりも更に重大な信頼関係の破壊をもたらすものであるか否かを検討する必要があるというべきである。

(3)これを本件についてみると、原告は、亡Bにつき、Cから提示された戒名ではなく、天台宗の寺院の住職から戒名を得て、このことを事後的にCに伝えている(前記前提事実(3)ウ、エ)。しかし、これらは、当時本件墓地使用許可を有していたAではなく原告が行ったものであり、Aがこれらにどの程度関与していたかは、本件各証拠に照らしても明確ではない。

また、原告は、亡Bの通夜、本葬及び初七日法要の読経をCに依頼し、これらはCが手配した代行導師によって被告の宗派に沿った方式で行われているのであり、原告ないしAは、これらの読経費用を被告に送付しているほか(前記前提事実(3)オ)、被告に対する毎年の護寺会費の支払も続けている(前記前提事実(7))。

これらに照らせば、Aは、「信仰をかえ」たり「被告の檀徒でなくなった」りしたもの(本件墓地使用規則8条)ですらないというべきである。そして、原告が、上記のとおり亡BにつきCから提示した戒名を受けるのではなく天台宗の僧侶から戒名を受けることとしたのは、あらかじめ原告から亡Bの生前の人となり等を聴き取ることなく亡Bの戒名を提示し、上記戒名に含まれる文字(「空」)の意味について問われた際にも、亡Bと特段関係のない抽象的な返答をするにとどまり、その後、上記戒名を記載した半紙を原告に手渡すことすらしなかった(前記前提事実(3)ア)というCの対応によるものであることに加え、被告がその運営する墓地敷地外壁に、金額を記載した「墓地分譲中」との大型看板を掲示していることから(前記前提事実(6))、墓地使用許可に当たり、墓地使用者が被告の宗派に沿った信仰を有することを必ずしも厳格に要求しているものではないとうかがわれることも考慮すれば、原告の上記言動をもって、墓地使用許可の取消しという重大な権利制限の結果を生じさせるほどに被告とAとの間の信頼関係が破壊されたと評価することはできない。

(4)したがって、Aにつき本件墓地使用許可の取消事由(本件墓地使用規則11条3号)に該当する行為があったとは認められないから、本件墓地使用許可の取消しについての手続的瑕疵の有無について判断するまでもなく、本件墓地使用許可が取り消されたとはいえない。

(5)小括
 そうすると、Aは本件墓地使用許可に基づく本件墓地区画の永代使用権を有していたこととなり、原告は、Aの死亡により上記永代使用権を承継したものであって、上記永代使用権を有することとなる。

 なお、原告の言動がAにつき「信仰をかえて被告の檀徒でなくなった」場合(本件墓地使用規則8条)に当たると評価することができないことは前述のとおりであるから、被告が、Aないし原告が本件焼骨を本件墓地区画に埋蔵することを妨害し得る根拠は見当たらない。それにもかかわらず、被告は、本件墓地区画に本件通知書と同内容の掲示をするなどして(前記前提事実(4))、Aないし原告が本件焼骨を本件墓地区画に埋蔵することを妨害してきたのであるから、原告は、被告に対し、本件焼骨を本件墓地区画に埋蔵することへの妨害の禁止を求め得るというべきである。

2 争点(2)(不法行為の成否及び損害額)について
(1)原告は、被告が本件墓地区画に本件墓地使用許可を取り消した旨の掲示をしたこと等がAに対する不法行為に該当する旨主張する。

(2)そこで検討すると、被告は、Aにつき本件墓地使用許可を取り消すべき事由がないにもかかわらず、本件通知書を発出したのみならず、本件墓地区画に、Aの子である原告の氏名及び住所を記載したままの状態で、本件通知書と同内容の掲示を行って(前記前提事実(4))、Aに上記事由がある旨を流布したものであるから、上記行為は、Aに対する不法行為(名誉毀損)を構成するというべきである。そして、上記不法行為の内容、本件訴訟に至る経緯その他本件にあらわれた一切の事情に照らせば、上記不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用は、10万円を下らないと認められる。

(3)したがって、被告は、原告に対し、弁護士費用相当額10万円の損害を賠償する義務があるというべきである。

3 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部
裁判長裁判官 新谷祐子 裁判官 森川さつき 裁判官 志村敬一

(別紙)物件目録
以上:6,539文字

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