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占有妨害排除を理由に雨樋設置を命じた地裁判例紹介

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令和 5年 8月 7日(月):初稿
○以下の、民法第218条に関する相談を受け、関連裁判例を探していますが、私が持っている判例データベースでは、直接民法第218条を適用した裁判例は見当たりません。

第214条(自然水流に対する妨害の禁止)
 土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。
第218条(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)
 土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。


○直接に関連しませんが、
・工場から発する騒音が隣接建物の所有権又は占有権を侵害するかどうかの判定
・工場から発する騒音が隣接建物の居住者に精神的苦痛をこうむらしめたものとして慰謝料請求を認容した事例
・隣地占有権に対する妨害予防として排水施設の設置を命じた事例
として、昭和32年7月29日佐賀地裁判決(ウエストロージャパン)関連部分を紹介します。

○令和5年からは66年も前の判例で、文章の一文が大変長くなっており、読み取りづらいところがあります。民法第218条は明示せず、被告建物の二階屋根及び一階西側屋根は、降雨の夥しい場合においては原告等居宅の屋根及び右3畳並びにその北隣3畳の間の外壁に散水し、或は原告居宅敷地内に流下して、これら敷地並びに地上建物に対する原告Aの占有を妨害する虞れがあるので、被告は原告Aに対し右占有の妨害を予防するため相当の設備を施工する義務があり、妨害予防のために別紙仕様書(二)、及び同附属青写真に図示した雨樋を架設し該屋根面の雨水を誘導し、排水桝及び排水土管により、外地に排水する設備を設置せよと命じています。

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主  文
被告は原告等に対し、各金5万円を支払え。
被告は原告Aに対し、同原告所有にかかる武雄市武雄町大字武雄○番地の宅地に面する被告所有の同所×番地、地上に建設しある製氷工場西側屋根の、別紙青写真に図示する部分に別紙仕様書二、記載のとおり雨樋を設置せよ。
原告等その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを3分し、その1を被告の、その2を原告等の負担とする。

事  実

 原告等訴訟代理人は、被告は、
一、原告等に対し、武雄市武雄町大字武雄×番地に建設してある被告所有の製氷工場につき、別紙仕様書(一)、のとおり騒音防止の工事をなせ、
二、原告等に対し各金21万円を支払え、
三、原告Aに対し、同原告所有に係る同所○番地に面する前記製氷工場西側屋根に別紙仕様書(二)、のとおり雨桶を架設せよ、
四、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに右第二項について担保を条件とする仮執行宣言を求める旨申立て、
その請求の原因として、
 原告Aは昭和26年11月武雄市武雄町大字武雄○番地に木造瓦葺居宅建坪19坪の家屋の所有権を取得し、爾来夫、原告Bと共にこれに居住しているものであるが、

     (中略)


理  由
 原告Aが昭和26年11月頃、武雄市武雄町大字武雄○番地所在、木造瓦葺居宅、建坪19坪の所有権を取得し、爾来その夫原告Bと共にこれに居住していること、被告が昭和28年8月頃、原告A所有の前記家屋敷地の東側に隣接する同所×番地地上に製氷工場を建設してその頃操業を開始し、現在に至つていること、右操業の開始及びその継続により同工場機械の音響が原告等居宅に絶えず伝播していることはいずれも当事者間に争がない。

一、そこで先ず原告等の防音施設設置請求の当否について検討しよう。
 成立に争のない甲第五号証、乙第一号証、証人C、D、Eの各証言、鑑定人F、G、Hの各鑑定並びに検証(1、2回)の結果及び被告会社代表者本人の供述、原告等本人の各供述の一部を綜合すれば、被告製氷工場の製氷用機械(電動機、二馬力、三馬力及び30馬力各一基、冷却水ポンプ、アンモニアーコンデンサー等)を装置した建物は前記×番地地上、西寄りに建設され、右建物から原告等居宅までは20尺を距てない程に近接しているのであるが、昭和28年8月右工場の操業を開始した当時においては右機械室内の電動機、冷却水ポンプ並びに同室北側空地に設置された縦型アンモニアーコンデンサー(第二回検証調書添附写真(一)参照)同室西側外壁に取付けられた横型アンモニアーコンデンサー(同(六)、(七)、(九)参照)の発する騒音の程度は相当に大きく、その頃同工場西隣に居住する原告等及び近隣者は所轄杵島地方事務所長に対し、被告との間に防音設備設置の斡旋を依頼し、その結果同事務所長は被告に対し適当な防音施設をなすよう求めたこともあつた程である。

そして昭和30年8月3日午後3時における音量測定(音響の耳における感覚上の大きさでホーンを以て表示される)の結果は原告等居宅八畳(客間兼原告等の寝室)及び南側廊下において、戸を開放した場合、それぞれ最高76ホーン、最低72ホーン、平均74ホーン、及び最高77ホーン、最低73ホーン、平均74ホーン、戸締した場合右八畳間において最高75ホーン、最低70ホーン、平均72ホーンであり、右八畳間における夜間の騒音度は、戸を開放した場合最高76ホーン、最低72ホーン、平均73ホーン、戸締した場合、最高66ホーン、最低61ホーン、平均62ホーンに達する音量が、ホーン、メーター器に計量された。而して被告は前記のとおり所轄地方事務所長の斡旋及び原告等の苦情申入を受けたので、特に騒音が隣地に伝播するのを防止することを考慮の上、本訴係属後間もない昭和30年9月中前記製永機械室北側の空地を距てて建設してあつた貯氷庫南端からその西側原告等居宅に面して応接室、物置等を増設し、その増設部分中、原告等居宅に面した西側壁面を、全部テツクスを以て張り、前記横型アンモニアーコンデンサー上部の製氷機械室の窓を密閉する等極力防音を図つた結果、製氷機を最高能力を以て運転した場合において、昭和31年4月21日午前10時から午後2時における原告等居宅八畳間及び南側廊下における騒音度は、戸を開放した場合それぞれ平均50ホーン及び同60ホーン、戸締した場合それぞれ平均47ホーン、及び同59ホーンに著るしく下降しており、更に右音量測定直後、被告は、前記横型アンモニアーコンデンサーの取入パイプ及び縦型アンモンニアーコンデンサー、冷却用水パイプ(前記写真(七)参照)に布片を詰め、或は藁縄を巻き、パイプの右部分並びに冷却装置全体の振動及び騒音発散防止の措置を講じたため、同月24日午後1時から午後4時における前記両所の騒音度は戸を開放した場合それぞれ最高46ホーン、最低44ホーン平均45ホーン及び最高49ホーン、最低47ホーン、平均48ホーン、戸締した場合それぞれ最高43ホーン、最低40ホーン、平均42ホーン及び最高47ホーン、最低45ホーン、平均46ホーンと更に一段弱くなつている。

 そこで本件の如き音響の伝播によつて、原告等がその住居所有権又は占有を妨害せられたか否かについて検討しよう。
 ところで隣地の機械音から伝播する音響についても、それが通常の日常生活から発生する通常の音響である限り、音源の隣地居住者は社会協同生活上これを受忍すべき義務を有することは自明とするところである。たゞその受忍義務の程度、逆に占有等を妨害するに到る音響の程度はその基準が必ずしも明確でなく、殊に前顕鑑定人Fの鑑定の結果によると、被害者の主観的状態からみればいかに徴少な音響であつても又いかに快い音楽であつても、騒音になるのであつて、騒音には限界が存しない。即ち科学的実験によれば凡そ80ホーンをこえると人の聴器官に障害を与えることが認められているが、他方血圧、消化液分泌等自律神経系統に対しては極く小さい音響であつても無影響ではありえないことが認められるのである。

しかしながら単に主観的事情のみによつて妨害の有無を判断すべきでない。そこで前掲各証拠に基き、社会生活上受忍すべき音響の大きさの基準についてみると厚生省においては昭和30年頃、生活環境汚染防止基準法なる名称の下に騒音取締の限度となる一般的基準を考案して、その取締対策を練つたがそれによれば同基準は住宅地域において、昼間60ホーン、夜間45ホーン程度を一応の限度としていること、福岡県騒音防止条例によれば福岡市、小倉市等同県内主要都市の第三種地域(住居地域、緑地地域等)の昼夜間における音量の取締限界をそれぞれ50ホーン及び45ホーン、地域指定のない市町村の音量の基準は別に知事が定めるものとし、特に夜間においては近隣家屋内における睡眠を妨げない程度のものとすることを規定していること、而して武雄市においては右のような市街地、住居地等の地域種の区別がないことは十分考慮に値するが、一般的にいつて右認定の騒音の社会的限界即ち住宅を主体とする地域において凡そ昼間60ホーン、夜間45ホーン程度を本件の場合においてもその基準として採用して差支えないであろう。

尤も同条例では音響測定地点を音源周辺の建物の隣地との境界線上としており、原告等はこれを援用して本件においても製氷機械室(音源)の建物外部の境界線上の音響を50ホーンとすることを主張するので、一言すると、成程宅地自体の所有権又はその占有は隣地との境界線迄及ぶので、右境界線上における音量を基準として所有権又は占有の妨害の有無を判断するのが理論上正当のようにみえるが、隣地居住者が音響によつて日常生活を妨げられるか否かの問題は日常生活の中心場所たる家屋内での生活従つて家屋の完全なる支配を妨げられるか否かの問題と解するのを相当とするから現に居住する家屋内部において実際的に測定するのを相当と考えるので右主張は採用できない。

又鑑定人G、Hの鑑定書中には住宅地における許容騒音度は30デシベル(32ホーンに換算される)と言われるとの記載がみえるが、証人Cの証言によれば30デシベル程度の音量であれば、全く不愉快を感じないというのであつて、社会生活上の忍容義務を考慮して出された基準ではないと認められるので、これを採用することはできない。

 さて、前記認定の騒音の社会的限界によつてみると、昭和30年8月3日昼間における原告等住居における音量は明らかに、この限度を超えており、原告等の住居の平穏を妨害していると認められる。しかしながら同年9月中前記増築及び防音施設をなして後の音量は右基準内の騒音に止まつているのであり(尤も昭和31年4月21日昼間の原告等住居南側三帖間における音量は戸を開放した場合平均61ホーン、戸締した場合同60ホーンを示し、若干右基準をこえているようであるが、右認定の基準は凡その基準であるからこの場合若干右基準を超えたことを以て前記所有権又は占有の侵害と見ることは当らないし同月24日昼間の音量は右基準内に止まつていることが認められる)叙上の事実に第二回検証によつて、当裁判所が感得した騒音の度合を綜合すれば、本件口頭弁論終結当時における被告製氷工場機械から発する音響は、原告等において未だ社会生活上忍容すべき程度を超えているものと認めることはできない。

 されば原告等が被告に対し、請求の趣旨記載のような防音装置の設置を求める部分は理由がないから棄却を免れない。

二、次に原告等の慰藉料請求の当否について判断する。
 前記一、において認定したところに原告等本人の各供述を併せ考えると、原告等は昭和28年8月頃以来昭和30年9月に至る凡そ2年間、被告がその製氷工場を建設するに当り、同工場及び工場内備付の製氷用機械に対し十分な防音設備を施さなかつたため昼夜連続、社会生活上受忍すべき限度を超える騒音の侵入により平穏な日常起居を害され、且つ夜間必要な睡眠を摂ることも妨げられ、原告A(当55才)の如きはその頃睡眠剤を常用し、その副作用のため著しく健康を害し神経衰弱症状を呈し、原告B(当61才)また血圧の上昇等の状態に陥つた。

而して原告Bは福岡県田川市及び長崎県北松浦郡佐々町に炭礦を経営していたので、両事業場の中間に在つて特に閑静にして且つ温泉療養の可能な恰好の場所として前記住宅を入手したものであるが、その意義は以上の妨害により前記期間中著るしく害われ、ために原告等は精神上苦痛を蒙つたことが認められる。而して被告会社代表者本人の供述によれば被告会社の資本金は700万円であり、その製氷能力日産5噸、工員4名を使用していることが認められるが、これを叙上認定の諸般の事情を考量し、その慰藉料額は原告等に対し各5万円を相当とする。

三、次に雨樋設置請求の当否について判断しよう。
 鑑定人Fの鑑定及び検証(二回)の各結果によれば、被告は昭和30年9月中、先に認定したとおり貯氷庫建物の部分を増改築し、一部二階建式の建物にしたのであるが、二階屋根及び一階西側屋根はいずれも原告等居宅に面して傾斜しているに拘らず、雨樋の設備を存しない。

そして一階応接室及び工具置場の各部屋附近は、原告等居宅と3尺乃至6尺を距てるのみで且つ最も近接している原告等居宅南三畳南側の敷地は被告工場敷地より一段と低くなつているので、降雨の夥しい場合においては原告等居宅の屋根及び右3畳並びにその北隣3畳の間の外壁に散水し或は原告居宅敷地内に流下して、これら敷地並びに地上建物に対する原告Aの占有を妨害する虞れがあるものと認められる。されば被告は原告Aに対し右占有の妨害を予防するため相当の設備を施工する義務がある。

 而して前掲鑑定の結果によれば、妨害予防のために別紙仕様書(二)、及び同附属青写真に図示したとおり雨樋を架設し該屋根面の雨水を誘導し、排水桝及び排水土管により、外地に排水する設備を施工するのを適当とすることが認められる。
よつて原告Aが被告に対し、右のとおりの排水施設の設置を求める本訴請求部分は正当として認容する。

 以上の次第であるから訴訟費用の負担について、民事訴訟法第92条、第93条各本文、第89条を適用し仮執行の宣言はこれを附さないこととして主文のとおり判決する。
 (裁判官 原田一隆 田中武一 三枝信義)

 仕様書(一)(防音装置)
 表〈省略〉
以上:5,789文字

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