令和 5年 2月20日(月):初稿 |
○原告が、被告らが運営するサイトについて、出会い系サイトを装ったサクラサイトであり、これを利用して支払い続けた合計2166万円について、詐欺を理由に損害賠償請求をしました。 ○これに対し、被告らが運営するサイトについて、被告らは,本件サイトの利用者に対し,サクラを使用していることを秘匿して,実在する異性と出会えるなどと虚偽の宣伝をし,サクラの異性が、利用者と交際を求めているかのように装ったメールを送信するなどして,利用者において,連絡先を交換した異性が実在し,利用者との交際を求めているものと欺罔し,誤信させ,その誤信に乗じて,利用料等の名目で高額の支払をさせたもので、原告は欺罔された結果,利用料相当額の損害を被ったとして、利用料金全額について、詐欺の不法行為が成立するとして返還を命じた令和3年7月29日東京地裁判決(LEX/DB)主文・理由文を紹介します。 ○「出会い系アプリ「ハッピーマッチ」の女性とガチでやりとりした結果が笑えるぞ!」と言うサイトで、「100%!異性と出会う事はできない!! ハッピーマッチはいわゆるサクラを使ってお金儲けをする悪質詐会い系アプリなんだ。」と検証結果を断言していますが、このようなサクラ利用出会い系サイトは、ネットには山ほど溢れているように思えます。10年以上前ですが、出会い系サイトで出会った相手が配偶者だったという笑える事案があり、実際、出会える出会い系サイトも山のように存在しているのでしょうが。 ******************************************** 主 文 1 被告株式会社A及び被告Bは,原告に対し,連帯して2166万1024円並びに別紙1及び別紙2の元金欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各支払日から各支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,1970万1000円及び別紙1の元金欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各支払日から各支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告株式会社Dと連帯して)を支払え。 2 被告株式会社Dは,原告に対し,被告株式会社A及び被告Bと連帯して1970万1000円及び別紙1の元金欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各支払日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告らの負担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求 主文1及び2項と同旨 2 被告Bに対する予備的請求 被告Bは,原告に対し,2166万1024円及びこれに対する令和2年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 本件は,原告が,被告らの運営する「H★M」(仮称、以下「本件サイト」という。)と題するサイトについて,出会い系サイトを装ったサクラサイトであり,これを利用したことにより損害を被ったとして,被告らに対し,以下の請求をする事案である。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件サイトがいわゆるサクラサイトであるか等)に対する判断 (1)後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア 本件サイトには,「幅広い用途であなただけの出会い探せる!」「恋愛・結婚・様々な出会いを応援するH★M」「当サイトは男女間の恋愛・結婚・出会いを応援するコミュニティサイトです。」(甲2の2)などの記載がある。 イ 本件サイトには,体験談を掲載するページがあり,本件サイトで知り合った異性と実際に会ったとか,交際に至ったとか,結婚したとかいう内容の体験談が多数掲載されている(甲2の3,甲2の4,甲2の5)。 ウ 本件サイトの規約等によれば,利用料金については次のとおり定められていた。以下,1ポイントは,10円である(甲3,4)。 メール送信・返信 50ポイント 電話番号を送る 999ポイント メールアドレスを送る 999ポイント プライベート画像の閲覧 100ポイント 秘密の写真館 500ポイント~5000ポイント メールを開封する 無料 写真を添付 無料 プロフィールを照会 無料 個人情報変更 無料 検索をする 無料 新人紹介表示 無料 写真館表示 無料 写真を見る 無料 友達に追加 無料 エ 本件サイト内の原告のメールBOXには,毎日,若い女性を中心とした複数の女性を名乗り,顔写真を添付し,性的な内容も含む,原告との面会等を要望するメールが多数届いた(甲6,7,20,22,23,原告本人尋問の結果)。 当初,原告は,メールの相手方とメール交換をするために,本件サイトの運営者から,数万円の金額でポイントを購入するように指示され,1万円から5万円を支払って,本件サイト上でメールを交換するために必要なポイントを購入し,50ポイント(500円)でメールを交換する等していた(甲20)。 本件サイトでは,異性とのランクが同一でないと,当該異性と本件サイト外のメールアドレスを交換することができず,当該異性と本件サイト外のメールアドレスを交換しないと,直接,会うことなどはできないとされていた(原告本人尋問の結果)。 原告は,本件サイトの運営者から,女性と本件サイト外のメールアドレスを交換するためには,当該女性とランクを同一にしたり,チケットを購入したりする必要があるとして,50万円でチケット等を購入することを勧誘するメールを繰り返し送信された(甲8から10まで,20)。なお,本件サイトからの利用者に対するメールは,新しいメールが来ると古いものから削除される仕組みとなっていた(原告本人尋問の結果)。 原告は,令和元年6月頃から同年11月頃までの間,前記チケット購入費用等の名目で,多数回にわたり,被告株式会社Aに対し,高額の支払を繰り返した(甲11から13,15,16)。 その後,原告は,本件サイト外のメールアドレスを交換した相手とメールのやり取りをしたが,いずれの相手も,連絡が取れなくなり,1度も電話をすることも,実際に会うこともできなかった(甲20,原告本人尋問の結果)。 オ 独立行政法人国民生活センターには,本件サイトがいわゆるサクラサイトであるなどとして,多数の相談が寄せられている。相談内容は,異性とメールアドレスを交換した後,メールのやり取りが数回で途絶えてしまい,一度も会えておらず,詐欺であるとか,メールを送ってくる女性たちは,あたかもポイントがなくなりそうなタイミングを知っているかのようにメールの返信を促し,新たなポイントを購入させるよう仕向けてくるのでサクラだと思うなどというものである(甲18の1・2)。 (2)検討 ア 前記(1)ア及びイによれば,本件サイトは,本件サイトを利用することにより実在する異性と知り合えると宣伝していることが認められる。 被告らは,本件サイトについて,実在の異性と出会えると宣伝し,登録を募った事実はないと主張している(令和2年12月21日付け被告ら準備書面1及び令和3年1月19日付け被告ら準備書面2)。 被告らの上記主張自体からして,本件サイトは,実在の異性と出会うことができないサイトであり,メール交換等をする相手方は,本件サイトのサクラ(業者と通謀し,客のふりをしている者)であると推認するのが合理的である。 イ 前記(1)エのとおり,本件サイトでは,メールを送信してきた相手方と本件サイト外のメールアドレスを交換しなければ,直接,会うことなどはできず,そのためには50万円もの高額の費用がかかることが認められる。 そして,前記(1)ウのとおり,本件サイトの規約等には,メールを送信してきた相手方と本件サイト外のメールアドレスを交換するために,50万円もの高額の費用がかかることなどは記載されていない。 本件サイトの利用者の目的は,実在する異性と出会うことであり,そのためには高額の利用料がかかることを秘匿して本件サイトへの利用登録をさせること自体,利用者を欺罔する行為である。 その点は措くとしても,ほとんどの利用者は,メールを送信してきた相手方と本件サイト外のメールアドレスを交換する必要が生じた時点で,50万円もの高額の費用がかかることを知れば,費用の支払を断念することが明らかである。そうすると,本件サイトの利用者とメールのやり取りをしている相手方が,本件サイトを利用して交際を求めているのであれば,その目的は,ほとんどの場合に達成されないことになる。 さらに,前記(1)エのとおり,原告は,本件サイト内において,連絡先を交換した相手方と1度も電話することも会うこともできなかったことなどが認められるし,前記(1)オのとおり,同様の内容の相談が独立行政法人国民生活センターに寄せられていることが認められる。 加えて,被告らは,原告と連絡先を交換した相手(女性)が実在していることなどについて,全く主張立証していない。 これらのことからすると,原告が本件サイトにおいてメールのやり取り等をしていた相手方は,いずれも原告と交際する意図を有していたのではなく,原告に対し,被告株式会社Aに対する高額の支払をさせるために行動をしていたものと認定するのが合理的である。 そして,本件サイトの利用者に高額な利用料金を支払わせることによって利益を得られるのは,被告ら以外にないから,原告が本件サイトにおいてメールのやり取り等をしていた相手方は,被告らが組織的に使用している者(サクラ)であると認められる。 ウ 以上によれば,被告らは,本件サイトの利用者に対し,サクラを使用していることを秘匿して,実在する異性と出会えるなどと虚偽の宣伝をし,当該異性が利用者と交際を求めているかのように装ったメールを送信するなどして,利用者において,連絡先を交換した異性が実在し,利用者との交際を求めているものと欺罔し,誤信させ,その誤信に乗じて,利用料等の名目で高額の支払をさせているものと認められる。 原告も,本件において,上記のとおり欺罔された結果,利用料相当額の損害を被ったものと認められるから,本件サイトの運営者である被告株式会社Aの行為には,詐欺の不法行為が成立する。 2 争点2(被告株式会社D及び被告Bによる共同不法行為の成否)に対する判断 前提事実のとおり、被告株式会社Dは,本件サイトによる詐欺の被害金を受領しており,詐欺の実行行為の一部を分担したものと認められる。 したがって,被告株式会社Dは,共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 被告株式会社A及び被告株式会社Dの代表取締役である被告Bは,本件サイトによる詐欺を当然に認識しており,これを主導したと認定するのが合理的である。 したがって,被告Bは,共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 3 その余の被告らの主張に対する判断 被告らは,仮に,被告株式会社Aの行為が詐欺に当たるとしても,遅くとも原告訴訟代理人弁護士が介入して被告株式会社Dの預金口座の凍結を銀行に依頼し,原告が,詐欺であると認識していた令和元年12月10日以降も,7か月余りにもわたり,利用料金を支払って本件サイトを利用したことからすると,原告が〔1〕詐欺を追認した又は〔2〕前記利用料金の返還請求権を放棄した,〔3〕本件請求が権利濫用に当たる,〔4〕原告には5割の過失相殺がされるべきであると主張している。 しかしながら,原告が弁護士に依頼した後も本件サイトを利用した理由は,欺罔された状態が継続していたからにほかならず,黙示的に利用料金の返還請求権を放棄する意思表示をしたなどと評価することはできない。そして,原告は,原告訴訟代理人弁護士に依頼した後も,なお本件サイトによる同様の詐欺の被害に遭い続けていたということに過ぎないから,本件請求が権利濫用に当たるなどということもできない。したがって,上記〔1〕から〔3〕までの主張は,いずれも採用できない。 また,被告らによる本件サイトを利用した詐欺が故意による不法行為であることなどからすれば,過失相殺をするのは相当でないから,上記〔4〕の主張も採用できない。 4 結論 以上によれば,原告の被告株式会社A及び被告株式会社Dに対する請求並びに被告Bに対する主位的請求には,いずれも理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第26部 裁判官 西田昌吾 (別紙1)振込分 (別紙2)カード決済分 以上:5,136文字
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