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労働基準法災害補償と慰謝料等との関係を判断した最高裁判決紹介

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令和 4年11月30日(水):初稿
○労働災害について相談を受け、関連判例を探しています。労働基準法第75条で労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならないと規定されています。これは労働災害についての使用者の療養補償責任を規定したものです。

○労働者が業務上負傷すると使用者には労働法第75条以下の責任が生じ、労働者災害保険法に基づく保険金給付がなされますが、使用者が労働者の慰謝料等を含む全損害について責任を負うのは労働者に対する債務不履行(安全配慮義務違反)または不法行為責任が生じる場合だけです。この労働者の労働基準法に基づく災害補償と慰謝料等との関係を判断した昭和41年12月1日最高裁判決(判タ202号117頁、判時470号58頁)全文を紹介します。

○この判決は以下の点について判断した労働災害についての重要判例です。
・加害者である第三者が被災労働者に支払つた慰謝料は、使用者が労働基準法に基づいて被災労働者に支払うべき災害補償の額に影響を及ぼさない
・労働基準法75条に基づく使用者の療養補償債務は、少なくとも、当該補償の事由が生じた月の末日の経過とともに履行遅滞となるものと解すべきである
・労働基準法76条に基づく使用者の休業補償債務は、少なくとも、当該休業期間の属する月の末日の経過とともに履行遅滞となるものと解すべきである

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主   文
原判決中、被上告人の請求のうち打切補償額40万6250円およびこれに対する昭和34年1月16日から完済に至るまで年5分の割合による金員の支払請求を認容した部分を破棄し、右部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
原判決のその余の部分に対する上告を棄却する。
前項の部分に関する上告費用は、上告人の負担とする。

理   由
上告代理人○○○○の上告理由第一点について。
 論旨は、被上告人の上告人に対する労働基準法上の請求権が、被上告人と訴外Aとの昭和32年5月27日の所論示談の際に、被上告人によつて放棄されて解決ずみであると主張するが、原判決はかかる上告人の主張事実を認めるに足りる証拠がない旨判示しているのであり、右判示は本件証拠関係により肯認できるから、右論旨は理由がない。

 つぎに、論旨は、原判決が被上告人とAとの間に成立した前記示談ならびに調停に基づき被上告人がAから受領した2万3000円を本訴請求金額より控除しなかつたのは違法であると主張する。しかし、右のうち1万円の示談金については、上告人自からも、Aには本件交通事故につき過失がないことが判つたので瑞穂警察署長立会のうえでAから被上告人に見舞金として贈られたものである旨を主張しているのであるから、右金員が本訴請求金額から控除さるべきものでないことは明らかである。

また、所論調停の結果Aから被上告人に交付されたとする1万3000円については、上告人において原審でなんら主張していないことであるのみならず、この点について被上告人が昭和簡易裁判所の調停の結果Aから1万5000円(記録上1万3000円の誤りと認められる。)の交付を受けた旨陳述しているけれども、記録によれば、それは慰藉料として受領した趣旨であることが認められるから、原審において、本件災害補償金から右慰藉料額を控除することなく上告人に支払を命じたことは正当である。

けだし、労働者に対する災害補償は、労働者のこうむつた財産上の損害の填補のためにのみなされるのであつて、精神的損害の填補の目的をも含むものではないから、加害者たる第三者が支払つた慰藉料が使用者の支払うべき災害補償の額に影響を及ぼさないからである。論旨は理由がない。

同第二点一について。
 原審において、被上告人は、本訴を不法行為に基づく損害賠償請求から労働者災害補償請求に交換的に変更した(当初は追加的変更であつたが、その後交換的変更に改めたことが記録上認められる。)ことが認められるが、この両請求は、いずれも、同一の交通事故によつて被上告人がこうむつた損害の填補を目的とするものであるから、その請求の基礎に変更がなく、かつ、記録上右変更当時の訴訟の経過・程度からすれば、右訴の変更により訴訟手続を著しく違滞させる場合にも当らないものと認められるから、右変更を許容した原審の措置は相当である。所論は、独自の法律的見解を主張するにすぎず、採用できない。

同第二点二について(ただし打切補償請求に関する部分を除く。)。
 労働基準法75条に基づく療養補償を使用者が行なうべき時期については、同法に別段の規定はないが、同条の趣旨からいつて、療養補償の事由が発生すれば遅滞なく補償を行なうべきものと解され、そして、労働基準法施行規則39条によれば、療養補償は毎月1回以上行なうべき旨規定されているから、使用者の右補償債務は、少なくとも、当該補償の事由の生じた月の末日にその履行期が到来し、同日の経過とともに履行遅滞に陥るものと解するのが相当である。

 本件において、原判決が確定したところによると、被上告人は本件事故による負傷の治療費として、(1)事故発生の日である昭和32年4月29日から入院した名古屋市民病院に対し1万8813円の債務を負つており、さらに、その後、(2)同年6月近藤医院に対して1240円を支払い、(3)同年8月1日から同月31日までの分として更生病院に対して1万4330円を支払つたというのであるから、上告人が使用者として補償すべき右合計3万4383円の支払債務は、本件訴状送達の日である昭和34年1月15日以前に既に遅滞に陥つているものというべきである。

 つぎに、労働基準法76条に基づく休業補償の履行期についても、同法に別段の規定はないが、この種の補償の性質上、通常の賃金支払日に補償金の支払を行なうべきものと解され、そして、労働基準法施行規則39条によれば、休業補償もまた毎月1回以上行なうべき旨規定されているから、使用者の右補償債務は、少なくとも、当該休業期間の属する月の末日の経過とともに遅滞に陥るものと解するのが相当である。

 本件において、原審が認めた休業補償の休業期間は、昭和32年5月1日から同33年10月31日までの549日間であるから、少なくとも、昭和33年11月1日以降右補償金の全額について遅滞に陥つているものというべきである。
 以上のとおりであるから、本件療養補償金および休業補償金につき、昭和34年1月16日から遅延損害金の支払を命じた原判決は、結局において正当であり、この点を非難する論旨は理由がない。

同第二点三について。
 被上告人は、原審において、上告人の清算結了の登記がなされた後、上告人に対する不法行為に基づく損害賠償請求を労働基準法に基づく労災補償請求に交換的に変更しているけれども、右変更前の訴訟が係属していた以上、これを無視して清算結了登記をしても、それによつて清算は結了するものではなく、その間にさらに適法な訴の変更がなされたのであるから、変更後の訴訟係属中はなお清算が終らないものと解すべきである。右の趣旨による原判示は、正当として是認すべきであり、論旨は独自の見解に立脚するものであつて、採るを得ない。

 しかしながら、職権をもつて按ずるに、原判決は、被上告人の労働基準法81条に基づく打切補償請求を認容し、上告人に対して40万6250円の支払を命じているけれども、打切補償は、被災労働者の療養の開始後3年を経過した後、使用者の意思によつて行なわれるものであるから、使用者が打切補償を行なう旨の意思を表示しないかぎり、被災労働者から当然にこの種の補償を請求しうるものでないことは、同条の解釈上疑いを容れないところである。

 しかるに、原審において、使用者たる上告人が打切補償をすべき旨の意思表示をしたことについては、被上告人においてなんら主張・立証しておらず、また、原審もこの事実についてなんらの判示もすることがないのに、漫然前記のように被上告人の右請求を認容していることは、同条の解釈適用を誤つたものというべく、右部分については、その余の論旨についての判断をまつまでもなく破棄を免れない(被上告人は、自動車損害賠償保障法によつて既に支払を受けたことを自認する10万円については、本訴で主張する金額中から控除すべき旨主張しているが、その控除の方法については、本件で認容されたいずれの請求部分から控除しても差支えないとの趣旨と解せられ、そのことは損益相殺の法理に反するものではないから、本件で打切補償請求として認容された40万6250円の部分だけを破棄しても、原判決認容の他の請求部分には影響を与えないものと認める。)。

 そして、本件記録によれば、被上告人は、本訴において、昭和32年5月1日から同33年10月31日までの549日分の休業補償の請求に続いて、同年11月1日から650日分の打切補償を請求しているので、その真意は実質上休業補償を請求する趣旨とも解せられなくもないので、それらの点についてさらに審理を尽さしめるため、右部分につき本件を原審に差し戻すことを相当とし、その余の部分については、上告を棄却すべきものとする。
 よつて、民訴法407条1項、396条、384条1項、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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