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不動産共有持分権放棄に登記抹消手続を認めた高裁判決紹介

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令和 4年10月15日(土):初稿
○「不動産共有持分権放棄は所有権移転登記手続とした最高裁判決紹介」の続きで、その控訴審で不動産共有持分権放棄について抹消登記手続を命じた昭和43年3月28日大阪高裁判決(最高裁判所民事判例集23巻3号639頁)を紹介します。

○判決文から事案を推測すると
・本件不動産は、控訴人A・Bの共有登記となっている
・被控訴人は本件不動産所有権はB→C→被控訴人と移転し、控訴人Aは本件不動産持分権を取得せず、取得しても放棄したと主張
・控訴人Bは、B→Cの本件不動産譲渡は、Cの条件違反行為を理由に譲渡を解除したと主張
・控訴人Bは、被控訴人とCと人格を同一視すべきで上記解除により本件不動産は控訴人Bの所有に復帰したと主張
・控訴人Aは、本件不動産の共有持分権を放棄していないと主張
・一審判決は、Bによる解除の主張を否認して、Aの持分放棄を認め、本件不動産について、B・Cいずれにも被控訴人への所有権移転登記手続を命じた


○判決は、控訴人BはからCへの本件不動産譲渡行為は無条件贈与で解除は認められないとして、Cから被控訴人への譲渡も有効であることを認め、被控訴人は、本件不動産について所有権を有することは明らかで、控訴人Aに対し、その持分権放棄を理由として、Cの控訴人Bに対する代位権を代位行使して登記抹消手続を求め、控訴人Bに対しその贈与を理由として、Cの控訴人Bに対する登記請求権を代位行使して所有権移転登記手続を求めることができるとしました。持分権放棄を理由とする登記抹消手続を認める根拠についての説明はありません。

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主   文
1 原判決中控訴人らに対し、原判決添付別紙目録記載の土地建物について所有権移転の登記手続を命じた部分を取消す。
2 控訴人Aは、前項の土地建物について大津地方法務局昭和17年11月17日受付第○○○○号の持分権取得登記の登記抹消手続をせよ。
3 控訴人Bは大津市石山南郷町○○番地Cに対し、前記土地建物について昭和28年7月4日の贈与を原因とする所有権移転の登記手続をせよ。
4 その余の部分に対する控訴人らの控訴を棄却する。
5 訴訟費用は第1、2審とも控訴人らの負担とする。

事   実
控訴人らは、原判決中各控訴人に関する部分を取消す。被控訴人の各控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とするとの判決を求めた。被控訴人は、主文同旨の判決を求め、請求の趣旨中登記に関する手続を求める部分を主文第二、第三項のとおり変更した。

当事者双方の主張および証拠関係は、つぎに付加するほか、原判決の事実摘示と同一(ただし、原判決4枚目表3行目の「住友金属鉱業株式会社」を「住友金属工業株式会社」と訂正し、原判決添付別紙目録表2行目の「真西町」のつぎに「(昭和40年7月1日長等一丁目字南別所と変更せられた。)」を加える。)であるから、これを引用する。

(被控訴人の主張)
控訴人Aは本件不動産について持分権を取得したことがなく、当初から控訴人Bが単独で所有していた。仮に、控訴人Aは控訴人Bとともにこれを共有していたとしても、原判決記載のとおり持分権を放棄した。

Cは、本件不動産が登記簿上共有名義になつているので、あざみ寮開設後控訴人Aから不当に権利を主張せられることがないよう、あらかじめ同人と協議した。その結果、本件不動産の公租公課は、あざみ寮開設以前の分は控訴人Aが、その後の分はCが負担する。補償金は、控訴人Aが請求していたが、以後Cが衝に当たり、交付を受けた場合あざみ寮の施設運営資金に使用する。控訴人Aは本件不動産に関し何らの権利も主張しない。以上の事項が了承せられた。Cはこのことを控訴人Bに報告した。

Cは本件不動産を被控訴人に贈与し、控訴人Bに対し中間省略登記により直接被控訴人に所有権移転の登記手続をするよう要求したところ、控訴人Bはこれに同意し、印鑑証明書等右登記手続に必要な書類を交付した。

被控訴人が控訴人Aに対し主文第二項記載のとおり登記抹消手続を求めるのは、Cの控訴人Bに対する代位権を代位行使するものであつて、第一次的には同項記載の登記が無効であることを、第二次的には控訴人Aが持分権を放棄したことを理由とする。控訴人Bに対し主文第三項記載のとおり登記手続を求めるのは、Cの控訴人Bに対する登記請求権を代位行使するものである。

(控訴人Aの主張)
Dから本件不動産を購入するに要した4万円は、控訴人Aが2万数千円を、控訴人Bが5000円を個人で支弁し、残余を無双原理講究所の経理でまかなつたが、その内1000円の所債については権利放棄の分を除き控訴人Aにおいて返済した。

控訴人Aは、控訴人Bが送つて来た5000円を、控訴人Aが無双原理講究所の施設である本件不動産の管理について長年尽くした物心両面の労苦に対する謝礼(原判決記載の共益費用の立替分に対する支払である旨の主張を訂正する。)であると解し、受取つたのである。

右5000円は、控訴人Aが本件不動産取得のために支出した前記金額と対比するときは、被控訴人主張のように持分権放棄の対価と目することができないことは明らかである。

控訴人Aは、戦後も引続いて、秋田県下の一燈園の経営する鉱山の仕事に従事していたが、一方昭和27年度まで本件不動産の固定資産税を支払い、必要の都度大津市に出向いて、右不動産につき管理事務や対外折衝に当たつて来たのであつて、このことは控訴人Aが本件不動産の共有者であることの証左である。控訴人Bが外遊するに際し、控訴人A、控訴人B、Cの三者が会談し、控訴人Aが本件不動産を共有するものであることを確認した。控訴人AはCに対し、本件不動産をあざみ寮の施設として使用することを拒絶していたのである。

(控訴人Bの主張)
控訴人Bが昭和28年7月4日Cに対し、本件不動産を贈与する旨約し、Cがこれを受諾したことは否認する。控訴人Bは昭和28年頃Cに対し、本件不動産を無償で貸与したにすぎない。被控訴人が昭和33年6月9日、Cから本件不動産の贈与を受け、これを受諾したことは知らない。Cが贈与していても、他人に属する権利を贈与したのであるから、被控訴人がその所有権を取得するはずがない。

仮にそうでないとしても、控訴人Bは昭和28年頃Cに対し、原判決記載のような5つの条件を付して本件不動産を譲渡したのであつて、右は一種の条件つき寄付というべきところ、受寄者Cは食養法を放棄し、本件不動産を被控訴人に譲渡し、補償金50万円を費消するなど、右条件を履行しなかつたので、控訴人BはCに対し寄附契約を解除し、その返還を請求した。

被控訴人は、Cが主体となつて設立した財団法人であつて、Cと人格を同一視すべきものであるから、右解除により、本件不動産は寄附者控訴人Bの所有に復帰した。
控訴人Bは被控訴人が主張するように、Cに対し本件不動産の登記手続に必要な印鑑証明書等を交付したことはない。

証拠関係(省略)

理   由

当裁判所の判断は、つぎに付加するほか、原判決の理由説示二から四までと同一(ただし、原判決6枚目表末行および同裏11行目の「住友金属鉱業株式会社」を「住友金属工業株式会社」と訂正する。)であるから、これを引用する。

一、本件不動産について、被控訴人主張のような控訴人両名の所有権(持分権)の取得登記がなされていることは、被控訴人と控訴人Aとの間では争いがなく、控訴人Bはこれを明らかに争わないから、自白したものとみなす。

二、被控訴人は、控訴人Aは本件不動産について持分権を取得したことがなく、当初から控訴人Bが単独で所有していた旨主張するが、当審証人Cの証言以外にはこれを認めるに足りる証拠がなく、右証言はたやすく採用することができない。
被控訴人は、仮にそうでないとしても、本件不動産は控訴人両名が共有していた旨主張し、右事実は控訴人Aとの間では争いがなく、控訴人Bはこれを明らかに争わないから、自白したものとみなす。

三、原判決の理由二について、つぎのとおり訂正する。
原判決6枚目表10行目の「主として」を「控訴人A、同Bが個人的に出資したほか」
と、7枚目裏11行目の「認められるほか」を「認められる。」と訂正し、7枚目裏12行目の初めから8枚目表2行目の「うかゞわれるのである。」までを削る。
原判決の理由中二の事実認定の証拠として、当審証人Cの証言を加える。右認定に反する当審における控訴人Aの本人尋問の結果は採用しない。その他前記認定を左右する証拠はない。

四、控訴人Aは、同人が控訴人Bから受取つた5000円は謝礼金であつて、これを控訴人Aが本件不動産購入について個人的に支出した金額と対比するときは、被控訴人主張のような持分権放棄の対価と目すべきでないことは明らかであると主張する。

しかし、原判決記載の甲第2、第3号証、第4号証の1、2、成立に争いがない乙第15、第20号証、原審における控訴人B、当審における控訴人Aの各本人尋問の結果(いずれも一部)、弁論の全趣旨によれば、控訴人Bは昭和18年11月住友金属工業株式会社に対し本件不動産を賃貸し、期間を一応3カ年と定めたが、将来これを売渡すつもりで手附金3万円を受領した。

本件不動産の購入資金は、食養会の会員が会債(無双原理講究所の所債)を引受けるという形式で拠出された分もあるが、控訴人Aが個人として支出した分もあつて、控訴人Bは本件不動産を処分するためには、右出資金の点の了解を得る必要があつた。Eは昭和19年3月1日控訴人Aをたずね、控訴人Bが本件不動産を譲渡することについて承諾を得たのであるが、控訴人Bにそのときのてん末を報告した手紙(甲第4号証の2)には、控訴人Aが5000円を受領したことは別として、本件不動産の購入資金の措置について、1000円の所債に関する以外は何も述べられていない。

以上の事実が認められるのであつて、右事実からおしはかると、控訴人Aの個人的出資金は、その額の確定はともかく、同人の主張によれば、右所債に比しはるかに高額であるから、もし、この点について同人と控訴人Bとの間に何らの話い合いもなされていないのであれば、控訴人AとEとの前記交渉の際には、当然それが問題となり、したがつて、Eはそのことを前記手紙で報告したはずである。

しかるにそのようなことのないのは、右交渉のときすでに控訴人両名の間で、控訴人Aの個人的出資の取り計らいについては話合いができていたものであると推定せざるを得ない。

以上の事実に、甲第2、第3号証、第4号証の1、2、弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人Aは、控訴人Bから前記5000円を受領することによつて、自己の個人的出資の清算を受けるとともに、原判決記載のとおり本件不動産に対する持分権を放棄したものであると推認するほかないのであつて、控訴人Aの前記主張は、その個人的出資の額を判断するまでもなく失当であるといわねばならない。右認定に反する原審における控訴人B、原審および当審における控訴人Aの各本人尋問の結果は採用しない。

五、控訴人Aは、同人が本件不動産の固定資産税を支払い、右不動産について管理事務や対外折衝をして来たことは、同人がその共有者であることの証左である旨主張するが、登記簿上不動産の共有者となつている以上、その者に固定資産税の課せられることあるのは当然であり、また不動産に関し管理事務や対外折衝をしたからといつて、その者が必ずしも共有者であるとしなければならないものではない。

控訴人Aは、控訴人Bが外遊するに際し、控訴人A、控訴人B、Cの三者が会談し、控訴人Aが本件不動産を共有するものであることを確認したと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

控訴人Aは、同人はCに対し、本件不動産をあざみ寮の施設として使用することを拒絶していたと主張するが、仮にそのような事実があつたとしても、そのことから控訴人Aが本件不動産の共有者であると推定しなければならないものではない。

六,原判決の理由中三の事実認定の証拠として、当審証人Cの証言を加える。丙第7号証、当審における証人F、Gの各証言、控訴人Aの本人尋問の結果は右認定をくつがえすに足らず、その他これを左右する証拠はない。

七、控訴人Bは、同人がCに対してなした本件不動産の譲渡行為は条件つき寄附というべきところ、Cがその条件を履行しなかつたので、控訴人Bはこれを解除したと主張するが、右譲渡行為を無条件贈与であると認むべきこと、原判決記載のとおりであるから、その主張のような解除権の生ずる余地がなく、仮に解除の意思表示がなされたとしても、その効果の発生するによしないものといわなければならない。

八、原判決の理由中四の事実認定の証拠として、当審証人Cの証言を加える。他に右認定を左右する証拠はない。

九、そうだとすると、被控訴人は、本件不動産について所有権を有することは明らかであり、控訴人Aに対し、その持分権放棄を理由として、Cの控訴人Bに対する代位権を代位行使し、主文第二項記載のとおり登記抹消手続を求め、控訴人Bに対し、その贈与を理由として、Cの控訴人Bに対する登記請求権を代位行使し、主文第三項記載のとおり登記手続を求めることができるものといわねばならない。被控訴人の本訴請求は理由があり、原判決中右と同旨でない部分は不当である。
そこで、民訴法386条、384条、96条、89条、93条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。(昭和43年3月28日 大阪高等裁判所第一民事部)

以上:5,570文字

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