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相続人名義預金は被相続人に帰属するとした地裁判決紹介

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令和 4年 9月 2日(金):初稿
○名義預金が名義人(相続人)のものか、資金提供者(被相続人)のものか争われている事件を取り扱っています。参考判例として、納税者(相続人)名義の本件定期預金は、その形成の経緯、管理、運営の状況等から、被相続人の財産(相続財産)であると認定された平成2年3月30日名古屋地裁判決(税資176号450頁)関連部分を紹介します。

○判決は、被相続人は、相続の課税を回避するために、納税者名義を使つて本件定期預金の積立を開始したが、その管理、運営及び払戻しについては、すべて自らの判断で行つていたものであり、一方、納税者(相続人)はその名義が使用されたほかは本件定期預金の形成、管理、運営又は使用に関与することはなかつたのであつて、かかる場合、本件定期預金は被相続人の財産であつて、相続財産に帰属すると認めるのが相当であるとされました。

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主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。

事   実
第一 当事者間の求めた裁判

一 請求の趣旨
1 被告が昭和60年7月4日付で原告らの昭和58年11月7日相続開始に係る相続税についてした各更正のうち、それぞれ課税価格金9002万4000円を超える部分及び同日付各過少申告加算税賦課決定のうち右取消しに係る更正に対応する部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨

第二 当時者の主張
一 請求原因
1 原告らは、いずれも昭和58年11月7日に死亡した訴外梅村A(以下「亡A」という。)の相続人であるが、右相続開始(以下「本件相続」という。)による相続税の申告及び修正申告の内容、これについて被告が原告らに対し昭和60年7月4日付でした各更正及び各過少申告加算税賦課決定(以下被告が原告らに対してした各更正を「本件更正」といい、各過少申告加算税賦課決定を「本件賦課決定」といい、本件更正と本件賦課決定を併せて「本件課税処分」という。)の内容並びにその後の原告らの不服申立ての経過は、別表一に記載のとおりである。
2 しかしながら、本件課税処分には、本件相続によつて原告らが取得した相続財産(以下「本件相続財産」という。)の総額を過大に認定した違法がある。
3 よつて、原告らは、被告に対し、本件課税処分の取消しを求める。

二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2及び3の主張は争う。

三 被告の主張

         (中略)

理   由

一 争点の所在
 本件課税処分に至る経過、内容及び原告らの不服申立ての経過が別表一のとおりであること(請求原因1)、本件相続財産の価額のうち、別表二の財産の明細1ないし4、6及び7の各欄に記載の各財産の価額が被告主張額であることは当事者間に争いがないが(被告の主張1(一)(1)(2))、別表二の同5の「現金・預貯金等」額については、原、被告間に争いがあるところ、これは、本件定期預金、すなわち、別表三の順号4の東海銀行豊田支店の定期預金(その内訳は別表五の番号11ないし30に記載のとおりである。)が、本件相続財産に帰属するのか(被告の主張1(一)(2)、被告の再反論)、あるいは亡Aが生前に原告らに贈与した財産であつて、本件相続財産に属しないのか(原告の反論)の争いに起因している。したがつて、本件定期預金が本件相続財産に帰属するか否かが、本件の主たる争点となる。

二 争点に対する判断
1 被告主張を裏付ける事実

 上記当事者間に争いのない事実に加えて、成立に争いのない乙第1ないし3号証及び乙第9号証、原本の存在及び成立ともに争いのない乙第7号証の1ないし5、証人Bの証言及び同証言によつて真正に成立したものと認められる乙第6号証、原告X3及び同X1の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 資金出所
 亡Aは、別表六に記載のとおり、昭和50年12月27日から同57年12月6日までの間、普通預金から引き出すなどして作つた自らの資金を東海銀行に預け入れて原告ら名義の定期預金とし、その後、右定期預金は、別表七に記載の書換えなどの経過を経た上、現在、別表五の番号11ないし30に記載の原告ら名義の本件定期預金となつている。

(二) 管理、運営状況
(1) 本件定期預金についての非課税限度額の申請手続、満期後の書換え等の管理及び運営は、すべて、亡Aが行つた。すなわち、亡Aは、本件定期預金の通帳をすべて自宅箪笥内に保管し、自らが銀行印として用いるのと同じ「梅村」姓の印鑑を用い、そのため、原告X1及び同X4の婚姻後も、本件定期預金の名義にはいずれも旧姓の梅村姓をそのまま用い、亡Aの自宅所在地を住所として届け出、東海銀行の担当銀行員に対する通帳及び印鑑の交付等も、亡Aが不在のときを除いて、自身が自宅応接間において行つていた。

(2) これに対し、原告らは、原告ら名義の定期預金が存在することは亡Aから聞いて知つていたものの、通帳や印鑑の所在については定かには知らず、原告X1が亡A不在のときに訪れた担当銀行員から通帳及び印鑑を預かる場合を除いては、本件定期預金の管理及び運営に携わることはなかつた。

(3) 昭和57年8月21日、原告X1名義の定期預金の一部が解約され、そのうち金400万円が原告X1の自宅の新築資金として用いられたが、その払戻手続きも、すべて亡Aが行つた。

 以上の事実によると、本件定期預金は、原告ら名義であつたものの、亡Aの資金により形成され、本件相続開始時まで終始亡Aが管理、運営し、原告らが関与することはなかつたのであるから、本件相続開始時において、なお、亡Aの財産、すなわち、本件相続財産であつたと推認することができる。

2 原告らの反論に対する検討
 もつとも、上記被告主張に対し、原告らは、本件定期預金は、昭和50年ころ原告らと亡Aとの間で成立した贈与契約の履行として預金されたもので、本件相続財産には含まれない旨反論する(原告らの反論)ので、以下その当否について検討を加えるに、以下のとおり,原告らの反論を裏付けるに足りる証拠はなく、原告らの反論を容れることはできない。

(一) 原告らの認識からの検討
 原告X1本人尋問の結果中には、原告らの母親が亡くなつた昭和50年8月ころ、亡Aから、「生きている間はお前たちに毎年60万円ずつやる」と聞いた旨の供述がある(原告X1本人尋問第1回2頁)ものの、以下の点からすれば、右原告X1の供述は信用するには足りず、むしろ、原告らの認識の点からは、原告らが主張するような贈与契約があつたと窺わせる事実を認めることはできない。
(1) 前記1(二)で認定したとおり、原告らは、本件定期預金の内容、管理状況等について、ほとんど知るところはなかつた。

(2) 原告X3は、本件定期預金について知つたのは昭和50年末ころであるが、その時には既に通帳があつた。すなわち、原告ら主張の贈与契約の履行があつた後に初めて贈与について知つた旨供述している(原告X3本人尋問7ないし13頁)。

(3) 原告X2は、本件定期預金の存在については、本件相続開始時までまつたく知らなかつた旨供述し(前掲乙第二号証問14、15)、原告X1及び同X3の質問応答書中にも、昭和50年に原告ら主張のような金員贈与の話を亡Aから聞いた旨の供述は一切記載されていない(前掲乙第1、3号証)。

(4) 原告X1は、昭和57年8月に、自宅を新築した際,新築資金の一部を本件定期預金の解約によつて得た金で賄つているが、その際、事前に亡Aにその使用につき許可を求めるかのような行動をとつている(原告X1本人尋問第1回4頁)。

(二) 贈与税の課税状況からの検討
 また、証人Cの証言並びに原告X1及び同X3各本人尋問の結果中には、亡Aは、贈与税の非課税限度枠内で本件定期預金を積み立てて贈与することにより、原告らに税金のかからない資産を残した旨の供述があるが、これは、本件定期預金のうち昭和50年及び同51年に預金されたものの金額が、別表六に記載のとおり、いずれも贈与税の非課税限度を超過していること(このことは、当事者間に争いがない。)、かえつて、原告X1が本件定期預金の解約によつて得た金400万円についてなされた贈与税の課税について異議なく確定していること(原本の存在及び成立につき争いのない乙第8号証の1及び2)ことと矛盾し、右原告X1らの各供述は、いずれも信用するに足りず、むしろ、右の課税状況からすれば、本件定期預金が本件相続財産に属していたことが推認される。

3 小括
 以上の証拠及び認定事実からすれば、亡Aは、相続税の課税を回避するため、原告ら名義を使つて本件定期預金の積立てを開始し、途中友人の税理士であるCの助言を容れて、贈与税がかからないよう、その非課税限度額内で預金を続けたが、その管理、運営及び払戻しについては、すべて自らの判断で行っていたものであり、一方、原告らはその名義が使用されたほかは本件定期預金の形成、管理、運営又は使用に関与することはなかつたのであつて、かかる場合、本件定期預金は亡Aの財産であつて、原告らの財産ではなかつた。すなわち、本件定期預金は本件相続財産に帰属すると認めるのが相当である。

三 本件課税処分の適法性
 前項で認定したとおり、本件定期預金は本件相続財産に帰属する結果、本件相続財産の価額は、被告主張のとおりとなり、また、前項で認定した事実からすれば、原告X1が昭和57年8月に本件定期預金の一部を解約して得た金400万円は、被告の主張1(二)(2)のとおり、その時点において亡Aから原告X1に贈与されたものと認められるところ、かかる事実を前提にした場合、原告らの相続税額及び過少申告加算税額が被告主張のとおりとなることは、当事者間に争いがない。したがって、本件課税処分は、いずれも適法である。

四 結論
 よつて、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法89条、93条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第九部 裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 杉原則彦 裁判官 岩倉広修

別表一
別表二
別表三
別表四
別表五
別表六
別表七

以上:4,250文字

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