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民法211条を類推適用して給排水施設の使用承諾を認めた地裁判決紹介

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令和 3年 2月18日(木):初稿
○自己所有農地を宅地に地目変更して、その上にアパートを建築することになり道路の位置指定申請をするため、以前から申請人の土地の排水路として長い間雨水を放流している土地の水路所有者に排水放流同意をお願いしたところ水路共有者の一人から同意が得られず困っているとの相談を受けました。以下の民法条文の適用が問題になります。
第220条(排水のための低地の通水)
 高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。
第221条(通水用工作物の使用)
 土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
2 前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。


○関連判例を調査したところ、宅地を所有する原告らが、宅地の造成工事を行い、この宅地のために給水管施設及び排水管施設を設置して所有する被告に対して、この各施設の使用の承諾を求め認められた平成11年9月14日神戸地裁判決(民集56巻8号1799頁)がありました。その関連部分を紹介します。この判例では民法第221条を適用して給排水施設の使用権を認めています。

○以下の下水道法も類推適用しています。
第10条(排水設備の設置等)
 公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、次の区分に従つて、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠きよその他の排水施設(以下「排水設備」という。)を設置しなければならない。ただし、特別の事情により公共下水道管理者の許可を受けた場合その他政令で定める場合においては、この限りでない。
一 建築物の敷地である土地にあつては、当該建築物の所有者
二 建築物の敷地でない土地(次号に規定する土地を除く。)にあつては、当該土地の所有者
三 道路(道路法(昭和27年法律第180号)による道路をいう。)その他の公共施設(建築物を除く。)の敷地である土地にあつては、当該公共施設を管理すべき者
2 前項の規定により設置された排水設備の改築又は修繕は、同項の規定によりこれを設置すべき者が行うものとし、その清掃その他の維持は、当該土地の占有者(前項第三号の土地にあつては、当該公共施設を管理すべき者)が行うものとする。
3 第一項の排水設備の設置又は構造については、建築基準法(昭和25年法律第201号)その他の法令の規定の適用がある場合においてはそれらの法令の規定によるほか、政令で定める技術上の基準によらなければならない。
第11条(排水に関する受忍義務等)
 前条第1項の規定により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水設備を設置し、又は他人の設置した排水設備を使用することができる。この場合においては、他人の土地又は排水設備にとつて最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない。
2 前項の規定により他人の排水設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない


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主   文
一 被告は、原告X1に対して、同原告が別紙物件目録一、二記載の各土地の給水・排水のために別紙物件目録四記載の土地にある給水管施設及び排水管施設を使用することを承諾せよ。
二 被告は、原告X2に対して、同原告が別紙物件目録三記載の土地の給水・排水のために別紙物件目録四記載の土地にある給水管施設及び排水管施設を使用することを承諾せよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第一 請

 主文同旨

第二 事案の概要
 本件は、宅地を所有する原告らが、右宅地の造成工事を行い、右宅地のために給水管施設及び排水管施設を設置して所有する被告に対して、右各施設の使用の承諾を求めた事案である。

         (中略)

第三 判断
一 争点1(原告らの本件各請求についての訴えの利益の有無)について

 証拠(甲七、原告X1〔第1、2回〕、被告代表者〔第1、2回〕)及び弁論の全趣旨によれば、本件給水管施設(水道管)は水道事業者の小野市が設置管理する水道管に接続して設置されており、本件造成住宅地内の土地の使用者が本件給水管施設を使用して小野市の水道の給水を受けるためには、その各宅地から本件給水管施設に繋げる水道管を設置する必要があること、他方、本件排水管施設は、本件造成住宅地内の雑排水を土地改良区が管理する水路に排水するものして設置されており、本件排水管施設から右水路への排水につき、現在被告が土地改良区に対して排水加入金名目で費用の支払をしていること、原告らが本件給排水管施設を使用して本件各土地の給排水をするためには、その各宅地から本件給排水管施設へ接続する給排水管を設置する工事をしなければならないところ、他人が所有する給排水施設を使用して宅地に給排水を行うための施設(水道給水のための水道管、排水ための排水管)を設置する工事をする場合には、給水管施設については水道事業者から、排水施設については排水施設工事業者から、宅地からの給排水管を右他人所有の給排水施設に接続させてこれを使用することについての右給排水施設所有者の同意(書)ないし承諾(書)を要求されるのが通常であり、原告らも本件給排水管施設の使用につき被告の右同意ないし承諾を必要としていること、以上の事実が認められる。
 右認定事実によれば、原告らの本件各請求については、訴えの利益があるものと認められる。

二 争点2(原告らは、被告に対し、本件給排水管施設を使用する権利〔その使用承諾請求権〕を有するか)について
1 原告ら主張の相隣関係規定等に基づく権利について

(一) 民法221条は、他人がその所有地に設置した通水用工作物の使用権を認め、それを使用した場合の工作物の設置保存の費用を分担すべき旨規定している。
 また、下水道法11条は、同法10条1項の規定(公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、同条項の定める区分に従って、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠その他の排水施設を設置しなければならないとする規定)により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水設備を設置し、又は他人の設置した排水設備を使用することができものとし、この場合においては、他人の土地又は排水設備にとって最も損害の少ない場所又は箇所及び方法を選ばなければならないと定め(1項)、また、右規定により他人の排水設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならないと定めている(2項)。

 右各規定は、日常生活上欠くことのできない通水について、簡便かつ経済的な方法により、また、費用を分担させることにより、土地や通水施設の所有、利用関係を調整する趣旨に基づくものと解されるから、土地の利用のために、既設の他人所有の給排水施設とは別に公共上下水道やその他の給排水施設に給排水するための施設を設置することが困難な事情がある場合には、右規定を類推適用するのが相当と解される。

 これを本件についてみると、被告が本件給排水管施設を設置するに至った経緯、その本件各土地との位置関係等前述の事実関係に照らせば、本件給排水管施設は本件各土地を含む造成地内の宅地用のものとして設置されたものであり、他方、本件各土地の所有者である原告らが、本件給排水管施設とは別に本件各土地から公共上下水道やその他の給排水施設に給排水管を接続するなどして給排水の方法を確保することは極めて困難な状態にあるものと認められる。

 したがって、右民法及び下水道法の各規定を類推し、原告らは本件各土地について、これからの給排水管施設を本件給排水管施設に接続させてこれを使用する権利を有するというべきであり、原告らにその使用承諾を請求する必要があることは前述のとおりであるから、原告らは被告に対して本件給排水管施設につき使用承諾請求することができるものと認められる。

2 被告は、原告らは被告との間で本件解決金等の合意をした旨主張する。もし本件解決金等の合意が被告主張のとおり原告らと被告との間で本件給排水管施設の使用についてなされたものであれば、原告らは本件給排水管施設の使用については右合意に拘束され、右民法及び下水道法の規定は類推適用されない。

 以下、右被告の主張について検討する。
(一) 前記前提となる事実及び証拠(甲1ないし6、8、10の1・2、11の1、乙3ないし7、19、証人A、同B、同C、原告X1〔第1、2回〕、被告代表者〔第1、2回〕)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 別訴係属中の平成元年ころ、原告X1は、かねてから不動産関係の仕事上の知り合いであったD代表取締役のA(以下「D」という。)に、本件各土地を含む造成地について、買手があったら売って欲しい旨依頼した。Dは、E商事の実質上の経営者であった(E商事の代表取締役のDアサはDの妻である。)。Dは原告X1の右依頼を受けて、やぶの地所を通じてF開発に右の話を紹介した。

 F開発は、後の紛争がなければ買ってもよいとして、同社姫路支店の支店長とDの間で交渉が始まった。F開発は、原告ら所有地について原告らと被告の間に紛争があることを知っていたので、右紛争が後を引かないように、Dが42区画を購入してからF開発が右土地を買うことを条件に、右造成地の購入に応じた。

(2) そこで、Dは、F開発の出した右条件を原告X1に説明し、原告X1は納得し、平成2年5月25日、本件各土地を含む13筆の土地について、売主の代表としてD宛の売渡同意書を交付した。そして、同年6月18日、F開発は、D及びやぶの地所に対して、右13筆の土地を買受ける旨の買付証明書を交付した。

(3) Dは、平成2年6月19日、やぶの地所に対して、右売買土地に関する紛争解決に関する交渉を委任し、委任状を交付した。

(4) Cが被告との交渉にあたり、その交渉の結果、本件解決金等の合意が成立した。右合意により解決金等の支払が二回に分けられたのは、E商事が42区画をF開発に転売して受け取る代金から右解決金等の支払をすることを考えていたところ、売買土地のうち24区画についてはすぐにF開発に売却して代金を受け取ることができたのに対し、その余の七区画(本件各土地)は、F開発が買取りの条件とした分筆が完了しておらず、すぐにはF開発から売買代金の支払を受けることができない状態にあったためという、E商事の資金調達上の理由によるものであった。

(5) Dは、右合意内容をCから聞き、原告X1に連絡を取り、同原告の同意を得た上で、平成2年7月17日、被告との間で、E商事の名で本件解決金等約定書(乙4)を作成した。

(6) 平成2年7月6日、原告らとその子所有名義の土地についてE商事との間でなされた前記売買契約の売買代金は、右七区画分(本件各土地分)が1億3442万2200円、その余の17筆24区画分が4億117万9500円であった。また、同日付で、E商事からF開発に右24区画を5億2004万7500円で売渡す(所有権移転及び代金決済は8月8日)旨の売買契約が締結された。

(7) その後、F開発から支払われた右24区画分の代金をもって、本件解決金等の合意に基づく被告に対する第一回目の解決金等6200万円(右24区画分)及び右24区画分の水道・排水負担金3648万円(一区画152万円×24区画)が被告に支払われ、被告は右24区画について本件給排水管施設の使用を許諾した。
 その後、前記のとおり、被告は別訴の訴えを取り下げ、X1社はその反訴を取り下げるなどした。

(9) ところが、残りの七区画(本件各土地)について、F開発に対する売渡しの条件とされた土地の分筆が完了しなかったために、F開発は右土地を買受けず(右区画分の売買契約は合意解約された。)、そのためE商事は本件解決金等の合意により被告に支払うべき第二回目の1800万円の支払資金が調達できず、その支払がされなかった。
 そこで、被告は、前記のとおり、E商事に対し、平成2年12月31日到達の内容証明郵便をもって、本件解決金等の合意を解除したものである。

(10) E商事は、被告から右解除の通知を受けて、原告X1にその旨報告し、平成3年1月初旬ころ、原告らとE商事は、本件各土地についての前記両者間の売買契約を合意解約した。そして、目録1、2土地は原告X1が、目録三土地は原告X1がそれぞれ所有している。

(二) 本件解決金等約定書(乙四)には、原告らがその契約の当事者として、あるいはE商事が原告らの代理人として契約するものであることを窺わせるような記載は何もない。そして、本件解決金等の合意当時は、本件解決金等の合意に係る土地について本件請負契約代金の支払や本件給排水管施設の使用等を巡って被告と原告らとの間に紛争が続いていたのであり、それにもかかわらず、被告が、原告らとの間ではなく、また、そのことを本件解決金等約定書上に表すこともなく、E商事との間に本件解決金等約定書を作成してその合意をしたことは、被告が、その当時既に締結されていた原告とE商事との間の売買契約を認識し、それを前提として本件解決金等の合意をしたことを推認させるものというべきである。

 また、前記認定事実によれば、E商事がF開発との間で売買契約を締結したのは、F開発が原告らと被告との間にトラブルがあることを知り、そのような原告らとの直接取引を嫌って、被告との間のトラブルを解決して売買できる者からの買受けを希望したことから、E商事がそれに応じて原告らとの間で売買をしてF開発に転売したものと認められるのであり、この事実は、右E商事とF開発の間の売買は、実質的にも右の両社が当事者となってなされたものであって、原告らを当事者とするものではなかったことを推認させるものといえる。そうであれば、本件解決金等の合意は、E商事がF開発に対する売主としてF開発が要求した条件を具備させるためになしたものと考えるのが合理的である。
 これらの点に照らし、原告らが自ら又はE商事を代理人として本件解決金等の合意をした旨の被告らの主張事実を認めることはできない。

(三) 仮に、被告主張のとおり原告が自ら又はE商事を代理人として本件解決金等の合意をした事実が認められたとしても、被告がE商事に対して本件解決金等の合意を債務不履行を理由に解除したことは前記のとおりであるから(本件解決金等の合意が原告らが契約当事者として締結されたものであれば、右被告の解除の意思表示は原告らに対して効力が及ぶものといえる。)、本件解決金等の合意の効力は消滅していることになる。

(四) したがって、いずれにしても、被告の右主張は理由がない。

3 (原告らの本件各土地の所有権について)
 本件各土地についての原告らとE商事との間の売買契約が、被告による本件解決金等の合意の解除後、合意解約されたことは前述のとおりである。
 したがって、右原告らとE商事との売買契約により原告らが本件各土地の所有権を喪失した旨の被告の主張は、結局理由がない。

三 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らは被告に対し、本件各土地から給排水管施設を本件給排水管施設に接続させて本件各土地の給排水ために本件給排水管施設を使用する権利を有し、これに基づいて右使用承諾請求をすることができるものというべきである(なお、原告らが右に基づいて本件給排水管施設を使用する場合には、被告は別途、本件給排水管施設の設置及び維持管理の費用について、原告らの利用の割合に応じた負担を原告らに求めことができるものと解される〔民法221条、下水道法11条2項の類推〕)。

第三 結語
 よって、原告らの本訴各請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)
物件目録
(省略)
以上:6,893文字

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