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水分・油分付着飲食店通路転倒事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介

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平成30年11月13日(火):初稿
○「スーパー水濡れ床滑り転倒事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介」等の続きです。これまでは土地工作物管理瑕疵がないとして請求が棄却された事案を紹介してきましたが、瑕疵があるとして責任が認められた事案を紹介します。

○原告が、被告が所有するビルの7階の飲食店が並ぶ通路を歩行中に転倒し、左大腿骨骨折の傷害を受けた事故につき、本件通路の構造および使用状況から、本件事故当時、通路上に水分や油分が付着する状態が生じており、これが原告の転倒の原因となったと推認するのが相当であるから、被告には本件ビル7階の保存につき瑕疵があったというべきであり、原告は、その瑕疵により受傷したものと認められるとして、被告の土地工作物責任を認めた平成13年11月27日東京地裁判決(判時1794号82頁)の判断部分を紹介します。

○転倒箇所の状況として、「Bf作成の陳述書には、『ARさんが転倒した地点の床を見たところ、テカテカ光っていて、改めて足でなぞってもツルツルの状態で、非常に滑りやすくなっていました。』と記載されており、証人Bfは、これと同趣旨の供述をしている。また、原告作成の陳述書には、『私の転倒地点近くの床面は大変汚れていると同時にテカテカ光ってもいて大変滑りやすい状況でした。』と記載されており、原告本人は、これと同旨の供述をしている。」と、「ツルツルの状態で、非常に滑りやすくなって」いたことで、「上記の通路の状況をもって、本件ビル7階の保存につき瑕疵があったというべきであり」と瑕疵を認定しています。

○これに対し、瑕疵を認めなかった「スーパー水濡れ床滑り転倒事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介」では、「転倒場所の床が,雨天時に通常やむを得ず生じる程度の湿った状態を超えて,水や泥で滑りやすい状態にあったものとはにわかに認められない」、「転倒場所の床は,乾燥時に比べれば若干の滑りやすさはあるものの,来店客が通常の注意力をもって歩行しても転倒する危険性があるほど滑りやすい状態にあったものとは認められず,転倒場所の床が通常有すべき安全性を欠いていたものとは認められない」としています。

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主   文
一 被告は、原告に対し、金2262万7001円及びこれに対する平成12年2月12日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払をせよ。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを25分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項及び第三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は、原告に対し、金2667万7001円及びこれに対する平成12年2月12日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

第二 争いのない事実等
一 当事者

(1)原告は、昭和6年11月30日生まれの女性である。
(2)被告は、東京都豊島区(番地省略)において多数の店舗が入居しているメトロポリタンプラザ(区分所有ビル。以下「本件ビル」という。)の約80パーセントを所有して貸しビル業を営んでいる。

二 事故の発生


     (中略)


第四 争点に対する判断
一 本件事故の現場について
(1)本件事故の現場について原告本人及び証人Bfは、原告主張転倒地点である旨供述し、それぞれの陳述書((証拠省略))にも同旨の記載がある。

(2)ところで、本件事故後に女子トイレの中で動けなくなっている原告のために車椅子の手配をした防災センターの蓮田太作は、その陳述書において、原告から「とんかつ屋の角を曲がろうとしたとき足を滑らせて転んだ。」との説明を受けた旨記載し、ビデオ撮影に際しても、同旨の口頭説明をしている。また、動けなくなっている原告を発見して防災センターに連絡をした藤原かおりは、その陳述書において、原告が蓮田太作に対しそのように説明をしていた旨記載している。

しかし、上記のとおり、蓮田太作の記憶においては、原告から「とんかつ屋」の角で転んだという説明を受けたというものであり、原告が「とんかつ和幸」の角と述べたというものではなく、藤原かおりの上記陳述書の記載も同様である。また、原告は、本件ビルの7階を訪れたのは本件事故時が初めてであり、仮に、原告が「とんかつ和幸」と「ビストロじゅじゅ」との間の通路を通ったとしても、トイレに行こうとしていた原告がとんかつ屋であることを認識していたかどうかについては疑問が残る。

 したがって、上記の各証拠は、原告が蓮田太作に説明した具体的状況が不明なので、原告本人の供述と比較すると、原告が「とんかつ屋」の角と説明したかどうかについても疑問が残るというべきである。さらに、仮に、原告が「とんかつ屋」の角と述べたとしても、原告が「ライオン」又は「つばめグリル」をとんかつ屋と勘違いしていたことも有り得るのであって、その説明から転倒場所が「とんかつ和幸」の角であったとまで認めることはできない。

 もっとも、原告は、平成11年11月8日に夫と共に本件ビルを訪問しているところ、藤原かおりの陳述書には、その際、原告が「転倒の際、厨房が見えた。」と説明した旨記載されており、原告本人もそのように述べたことを肯定する供述をする。しかし、原告本人の上記説明は、転倒した状態で見た通路A奥の状況を述べていると見ることもでき、また、本件ビルをエスカレーターで八階から七階降りた地点からは「つばめグリル」の厨房を見ることができるところ、原告がエスカレーターを降りた地点から左方向に向かった際にその厨房が目に入ったことが印象に残っていたとも考えることができ、上記の説明から原告の転倒場所が「とんかつ和幸」の角であったとすることはできない。

 他方、原告は、同月11日にBfに会い、「つばめ」と「ライオン」の通路から左側トイレに曲がるところで転倒した旨の確認書を得ており、その点からすると、原告は、同月8日に本件ビル七階を訪れた際に転倒場所を原告主張転倒地点と特定していたものと認められるのであって、本件においては、原告が転倒場所を意図的に変更したとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。そして、その後に、原告主張転倒地点を訪れた松原厚弁護士がライオンの従業員に対して、通路Aの奥について「なぜ、ここを壁で塞いだのか。」と質問したとしても、そのことから同弁護士が原告から本件転倒時には転倒地点の通路の先が壁あるいは扉によって塞がれてはいなかった旨の説明を受けていたとの根拠とはならない(この点について原告本人は、本件事故時には、通路Aはつい立てによって塞がれていなかった旨供述している。)。

 また、証人Bfは、上記の確認書を作成した際、「つばめ」という記憶はあったが「ライオン」という記憶はなかった旨供述しているところ、そのことは、原告及びBfがエスカレーターを降りてすぐ左方向に向かったことを示しているといえる(仮に、原告らがすぐ右方向に向かったとすれば、Bfは、原告と別れた後、「とんかつ和幸」の角から被告主張通路をエレベーターホールの方に引き返したことになるので、「つばめグリル」が印象に残る可能性は少ないといえる。)。

 また、原告及びBfがエスカレーターを降りて右方向に向かったとすれば、「レモングラス」のところで、エレベーターは直進、トイレは左折と表示されていることを認識して「とんかつ和幸」の方に曲がったものと認められるところ、原告は、エレベーターが右側の方にあるかと思って右方向を見た際に転倒した旨主張するとともに、原告作成の陳述書にも同旨の記載があり、原告本人も同旨の供述をしており、このことは、原告がトイレとエレベーターとが同じ方向にあるとの認識の下に通路を歩いた後に右方向にエレベーターがあるという認識の下に右方向を見たことを示すものであって、上記の状況と一致しない。これに対し、原告及びBfがエスカレーターを降りた時点でトイレに行こうとしてトイレの表示のある左方向に向かったとすると、その表示にはエレベーターとして右斜め上の方向の表示がされていることから、原告が本件交差通路において右側にエレベーターがあるのではないかと考えて右方向を見たということと符合する。

 他方、原告は、転倒後、通ってきた通路の右側の壁に手を付いてようやく立ったことが認められるところ、仮に、その位置が「とんかつ和幸」の店舗壁面であったとすれば、原告の怪我の状況からしてそこからトイレまで歩いて行けたというのは不自然である。また、証人Bfは、転倒後、原告と別れてエレベーターに向かったが、すぐには探せなかった旨供述しており、「レモングラス」のところでエレベーターの方向を確認した後、トイレの方向に左折して被告主張通路を進行していた時に原告が転倒したとするとその後の行動として不自然であり、むしろ、エスカレーターを降りた時にすぐトイレに行くこととして左方向に向かった後、原告主張転倒地点で原告と別れてエレベーターホールに向かったとすれば、そこからエレベーターホールまでの通路が折れ曲がった複雑な進路となり、上記の供述内容と一致する。

(3)以上の諸点と原告本人及び証人Bfの各供述中に意図的に原告の転倒場所を変更していることを疑わせる点がないことを考慮すると、原告の転倒場所は、原告主張転倒地点と認めるのが相当である。

二 責任原因について
(1)(証拠省略)によると、以下の事実を認めることができる。
〔1〕通路Aには非常階段への扉と「ライオン」の厨房への出入口(本件出入口)とがあるが、非常階段への扉は通常閉鎖されていたため、通路Aは、専ら「ライオン」の厨房への出入りに使用されていた。

〔2〕そして、ライオンは、通路Aに本件厨房出入口を隠すようにしてつい立て(以下「本件つい立て」という。)を置き、その奥にダンボール、発泡スチロール、ポリバケツ、サラダ油の缶などを置いて使用していた。

〔3〕また、本件出入口は、ライオンの従業員(厨房にいる者も含まれる。)がトイレに行く場合に使用され、トイレに行くため本件出入口を出た従業員は、通路A及び通路Bを通行することになる。
〔4〕さらに、ライオンは、本件出入口から、調理に使用する油、しょう油等や、野菜等の食材を搬入し、さらに廃油等の搬出などを行い、それらの本件出入口までの運搬及び本件出入口から外部への搬出は、手押しの運搬車により通路A及び通路Cを通って日中に行われていた。

(2)そこで、上記(1)の事実を前提に検討するに、本件つい立てには、油あるいは汚れた水分が飛び散るなどして生じたものと認められるシミが多数あり、この点と本件つい立てが本件出入口から奥を隠すために置かれていること、本件つい立ての位置を避けるように運搬車の轍の跡が残っていることからすると、ライオンは、本件つい立ての奥を厨房に搬入する物品、あるいは厨房から搬出した物品の置き場として使用し、同時にそれらを運搬車から降ろしたり、運搬車に載せたりする作業も行っていたものと認められ、さらに、場合によっては本件つい立ての奥で油又は水分のあるものの出し入れをしていたものと認められる(本件つい立てのシミは、その付近で液体の出し入れを行っていたことを示すものである。)。

さらに、証人Mは、本件出入口にはマットが置かれていた旨供述するところ、その供述は、厨房から通路Aに出る場合に靴底についた油分、水分等をぬぐう必要があることを認めるものであるにもかかわらず、本件出入口の状況を示す各証拠(写真及びビデオ)においては、本件出入口にそのようなマットは置かれておらず、通路Aには、サラダ油又はしょう油の缶が置かれ、ポリバケツの中にはビニールホースが置かれている。

 そして、以上の点を前提とすると、本件事故当時、通路Aとこれに接する通路B及びCの一部においては、本件出入口からトイレに行くライオンの従業員、通路Aの奥への物品の搬入・搬出を行う者及び運搬車の通行によって、通路上に水分や油分が付着する状態が生じていたものと認めることができる(この点は、本件事故後であっても、通路上に油又は水分が付着していることからも十分首肯できる。)。

(3)次に、(証拠省略)によると、原告は、ゆっくり歩行をして通路Cから通路Bに足を踏み入れたときに重心のかかった左足が滑って転倒したことが認められ、その転倒が原告の靴に起因するとすべき証拠はない。また、転倒直前、原告は、通路Aの奥の方を見るため上半身をやや右に向けて左足を上げて前方に着地させる動作、あるいは、前に踏み出した左足が床面に着地する寸前に廊下右側を見ようとして顔を右に向ける動作をしているが、原告のその当時の年齢(67歳9か月)を考慮しても、上記動作のために原告が転倒したものと推認することはできない。

 そして、Bf作成の陳述書には、「ARさんが転倒した地点の床を見たところ、テカテカ光っていて、改めて足でなぞってもツルツルの状態で、非常に滑りやすくなっていました。」と記載されており、証人Bfは、これと同趣旨の供述をしている。また、原告作成の陳述書には、「私の転倒地点近くの床面は大変汚れていると同時にテカテカ光ってもいて大変滑りやすい状況でした。」と記載されており、原告本人は、これと同旨の供述をしている。

 さらに、原告が転倒した地点は、通路Cから通路Aに入ったところであり、この地点は、本件出入口への手押し運搬車の通行する箇所であるとともに、ライオンの従業員が本件出入口からトイレに向かう場合にも通行する箇所である(本件事故の時点では、本件つい立ては置かれていなかった。)。

 以上の状況を総合考慮すると、原告が転倒したのは、左足が着地した地点に油、水等が付着し滑りやすくなっていたことによるものと推認するのが相当である。


 もっとも、被告は、本件ビル7階の通路は、毎日清掃をしていた旨主張し、これに符合する証拠もあるが、本件ビルの7階では、清掃は、毎日、午前7時30分から10時30分までの間に行われていたものであり、清掃後に通路C及びAを通って野菜等の材料が搬入されていた可能性は十分にあり、午後には昼食に供された食材の廃材等の搬出も行われていたものと推認できる。

 そうすると、本件事故が発生した午後6時過ぎには、すでに原告主張転倒地点をライオン関係者が多数通行し、かつ、運搬車も通行していたものと認められ、その時点では、通行者の靴や運搬車両の車輪についていた油、水等が通路に付着している状態にあったものと考えられる(被告は、上記の清掃のほかにも毎日複数回清掃が行われていた旨主張するが、(証拠省略)からすると、清掃が頻繋に行われていたとは到底認められないし、通路Aのタイル、通路Aの壁、本件出入口の汚れ具合からして、清掃が行われていたとしても、油分を十分取り去る程度に行われていたとは認められない。)。

 したがって、上記の通路の状況をもって、本件ビル7階の保存につき瑕疵があったというべきであり、原告は、その瑕疵により受傷したものと認められる。


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