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刑事収容施設内医療記録不開示決定を支持した東京高裁判決全文紹介

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平成29年10月19日(木):初稿
○「刑事収容施設内医療記録不開示決定を支持した東京地裁判決全文紹介」の続きで、今回はその控訴審である平成20年7月9日東京高裁判決全文の紹介です。

○拘置所に収容されている死刑確定者である控訴人が、拘置所において控訴人が受けた医療に関する保有個人情報の開示請求をしたところ、その全部を開示しない旨の決定がされたことから、控訴人が当該不開示決定の取消しを求めたところ、請求が棄却されたため、控訴人が控訴した事案で、刑事収容施設が保有する情報については、その当該情報の個別具体的な内容にかかわりなく、開示することにより収容の事実が明らかになるとして、まさに行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項の適用によって、保護すべき保有個人情報に当たるとし、控訴を棄却しました。

○行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項の規定は、以下の通りです。
第45条(適用除外等)
 前章の規定は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分、刑若しくは保護処分の執行、更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判、処分若しくは執行を受けた者、更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については、適用しない。


○この規定の趣旨は、これらの保有個人情報には、本人の前科、前歴、逮捕歴、勾留歴等を示す情報が含まれており、これらの保有個人情報を開示請求等の対象とすると、本人の前科等が本人以外の者に明らかとなる危険性があり、本人の社会復帰や更生保護を図る上で本人の不利益になるおそれがあるため、このような弊害を防止しようとするところにあるとのことです。

○この規定の趣旨から、それを特別に許容すべき法律上の手当が何ら存在しない以上、刑事収容施設の被収容者に対して講じられた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものについては、同法45条1項の対象となるといわざるを得ないとしていますが、その趣旨と結論の関係が全く理解不能です(^^;)。

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主  文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 処分行政庁が控訴人に対し平成17年10月5日付けでした,同年9月5日受付の控訴人からの開示請求に係る原判決別紙記載の保有個人情報の開示をしない旨の決定を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,東京拘置所に収容されている死刑確定者である控訴人が,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)の規定に基づいて,処分行政庁に対し,同拘置所において控訴人が受けた医療に関する保有個人情報の開示請求をしたところ,処分行政庁が,当該保有個人情報は,法45条1項所定の刑事事件に係る裁判,刑の執行等に係る保有個人情報に該当して開示請求等に関する法の規定の適用から除外されているとして,その全部を開示しない旨の決定をしたことから,控訴人が当該不開示決定の取消しを求める事案である。

 原判決は,当該保有個人情報は,開示請求に関する法の規定の適用から除外されるものと解するのが相当であり,上記不開示決定は適法であるとして控訴人の請求を棄却したため,これを不服として控訴人が控訴した。

2 法の定め,本件の経緯に関する事実,争点及び当事者の主張については,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1から3まで記載のとおりであるから,これを引用する。

3 控訴人の当審における補足的主張
(1) 原判決は,法45条1項につき,開示行為により情報の保有主体が刑事収容施設であることが明らかになることを想定しているとするが,誤りである。法45条1項は,開示することにより,当該情報の内容から前科等の本人に不利益な事実が明らかとなる場合を想定しているのであり,情報の保有主体に着目した規定ではない。

(2) 原判決は,医療上の措置に関する情報が法45条1項所定の刑事事件に係る裁判,刑の執行等に係る保有個人情報に該当し,他の場合と別個に解すべき理由はないと判断しているが,その判断根拠が示されていないし,以下の点からも判断は不当である。
① 医療情報は,その性質に照らし,法45条1項が想定する情報に定型的に当てはまらない。

② 外部医療機関の保有する医療情報は,患者が刑事収容施設に収容されている事実がその診療録のいずれかの場所に記載されており,他方,刑事収容施設の保有する医療情報は,診療録の表紙部分からは刑事収容施設における診療録であることが窺えるが,診療録記載部分は通常の医療機関と本質的に同じであり,その体裁によって区別することはできない,むしろ,実質的な診療記録部分だけが開示されることにより,開示された情報から刑事収容施設への収容歴が明らかとなるものではない。結局,医療情報を開示しても本人に不利益はない。

(3) 刑事収容施設において医療の外部委託化が行われ,外部医療機関では医療情報が開示されているが,さらに医療の外部委託化が進むと,刑事収容施設により外部委託の進み具合に差があることから,どの刑事収容施設に収容されるかが情報開示の可否を分けることになり不合理である。こうした不合理な事態を法は全く想定していない。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから,これを引用する。

2 控訴人の当審における補足的主張に対する判断
(1) 同主張(1)について

 法45条1項が,刑事事件に係る裁判や刑の執行等に係る保有個人情報を,開示請求等の法の規定を適用しないと定めた趣旨は,これらの保有個人情報には,本人の前科,前歴,逮捕歴,勾留歴等を示す情報を含んでおり,開示請求等の対象とすると,前科等が明らかとなる危険性があり,本人の社会復帰や更生保護を図る上で本人の不利益になるおそれがあるため,このような弊害を防止しようとするところにあるものと解されるのであって,このことは引用に係る原判決の説示するとおりである。

 控訴人は,上記趣旨からすると,法45条1項の規定につき,当該情報の内容に着目して本人に不利益な事実が明らかとなることを想定したとみるべきで,情報の保有主体に着目したものではないと主張する。しかし,法でいう保有個人情報とは,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した個人情報であって,当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして,当該行政機関が保有しているものをいうと定められているところ(2条3項),法45条1項の文言をみても,「保有個人情報」について異なる意味付けがされてはいないし,保有する個人情報の内容如何によってその情報を区別する規定とはなっておらず,このことからすると,法2条3項で規定する「保有個人情報」の意義となんら変わるところはないというべきである。

 したがって,刑事収容施設が保有する情報については,その当該情報の個別具体的な内容にかかわりなく,開示することにより収容の事実が明らかになるとして,まさに法45条1項の適用によって保護すべき保有個人情報に当たるものということになる。

(2) 同主張(2)について
 控訴人は,医療上の措置に関する情報が,法45条1項所定の保有個人情報に該当しないと主張する。

 確かに,法の立法段階の国会(参議院)の個人情報の保護に関する特別委員会において,適用除外の規定である法45条自体の削除やその内容を限定すべきではないかとの議論がされた経緯があり(乙7),自己を本人とする保有個人情報,特に医療上の措置に関する情報については,その性質から,本人が望めば開示しても不利益はないと考える余地がないではない。

 しかし,制定された法は,上記適用除外規定である法45条が削除されることなく,また,同条の適用に関して,それをさらに除外する規定等が設けられず,医療情報に関して特別に許容すべき法律の手当もなされなかったものであるから,結局,刑の執行等に係る医療情報についてのみを特段の扱いとする制度は現行法においては採用されていない。

 したがって,刑事収容施設が保有する情報で法45条1項に該当するものは,同項の適用上,一律に同一の取扱いをするのが明確性の観点から相当であり,他の場合と別個に解すべき理由はないとした原判決の判断は相当である。

 なお,控訴人は,その理由②において,実質的な診療記録部分だけが開示されることになれば,医療情報を開示しても本人に不利益はないと主張し,当審において,外部医療機関の診療録と刑事収容施設における診療録の記載を比較して収容歴が明らかになる点で変わりないことを立証するとし,証拠(甲15の1,2,甲16,17)を提出する。

 しかし,この点は,被収容者が刑事収容施設の被収容者としての立場において受けた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものは,これを開示することによって,直ちにその者の収容の事実が明らかとなるのであるから,実質的な診療記録部分だけであれば収容歴が一切明らかにならないということができず,上記甲号証によっても,その判断は左右されない。

(3) 同主張(3)について
 控訴人は,被収容者が医療を受けた場合に,刑事収容施設内と刑事収容施設外の病院等との違いによりその情報開示に違いがあり法として不合理であると主張する。しかし,法45条1項の趣旨及び刑事収容施設が保有する医療情報を特別に扱う旨の規定がないことから,その開示除外対象となるといわざるを得ないことは前説示のとおりであり,刑事収容施設内と施設外の病院等との間で差があるとしても,事実上のものであってやむを得ない。また,被収容者を具体的にどの刑事収容施設に収容するかは,当該情報開示の可否と直接関わる事情とはならないし,刑事収容施設の違いにより不合理が生じるものでもない。

 なお,乙9(平成19年2月14日付法務省矯医訓第816号「被収容者の診療記録の取扱い及び診療情報の提供に関する訓令」第3章),乙10(同日付法務省矯医第817号「被収容者の診療記録の取扱い及び診療情報の提供に関する訓令の運用について(通達)」5・6)及び乙11(同日付法務省矯医第818号「『被収容者の診療記録の取扱い及び診療情報の提供に関する訓令の運用について』の留意事項について(通知)」3)によれば,被収容者のうち医師又は歯科医師の診療を受け,その診療が継続している者に対しては,上記各訓令等に基づき,情報提供が行われることになり,その提供は原則として口頭であるが,図示やメモの提示,適宜の書式に必要事項を記載して交付するなどの方法も用いられることが認められる。これによると,少なくとも,本人が受けた医療に関する情報については,本人に対して直接の情報提供がなされるための具体的な運用が図られているものといえる。

3 以上のとおり,控訴人の主張はいずれも採用し難く,本件不開示決定は適法である。

第4 結論
 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 南敏文 裁判官 安藤裕子 裁判官 小林宏司) 
以上:4,724文字

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