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囲繞地通行権対象土地に特定承継が生じた場合についての最高裁判決全文紹介

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平成29年 8月29日(火):初稿
○民法213条の規定する囲繞地通行権は、通行の対象となる土地に特定承継が生じた場合にも消滅しないとした平成2年11月20日最高裁判決(判時1398号60頁、判タ768号62頁)全文を紹介します。



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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
上告代理人笹原桂輔、同小幡正雄、同笹原信輔の上告理由第一点について

 所論の点に関する原審の認定判断は、東京都大田区南馬込四丁目1511番4、1510番2及び1512番4の各土地(いずれも旧地番による表示。以下、右各土地を「旧地番の土地」という。)の昭和16年4月当時の権利関係を除き、原判決挙示の証拠関係に照らして、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

 また、右認定事実によれば、旧地番の土地は、一筆の土地(同所1510番2)として合筆された昭和35年9月当時、訴外高橋快衛が所有していたものであることが明らかであるから、高橋が昭和16年4月当時から旧地番の土地を所有していたのか否かは、原判決の結論を左右するものではない。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない部分についてその違法をいうか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について
 共有物の分割又は土地の一部譲渡によって公路に通じない土地(以下「袋地」という。)を生じた場合には,袋地の所有者は、民法213条に基づき、これを囲繞する土地のうち、他の分割者の所有地又は土地の一部の譲渡人若しくは譲受人の所有地(以下、これらの囲繞地を「残余地」という。)についてのみ通行権を有するが、同条の規定する囲繞地通行権は、残余地について特定承継が生じた場合にも消滅するものではなく、袋地所有者は、民法210条に基づき残余地以外の囲繞地を通行しうるものではないと解するのが相当である。

 けだし、民法209条以下の相隣関係に関する規定は、土地の利用の調整を目的とするものであって、対人的な関係を定めたものではなく、同法213条の規定する囲繞地通行権も、袋地に付着した物権的権利で、残余地自体に課せられた物権的負担と解すべきものであるからである。残余地の所有者がこれを第三者に譲渡することによって囲繞地通行権が消滅すると解するのは、袋地所有者が自己の関知しない偶然の事情によってその法的保護を奪われるという不合理な結果をもたらし、他方、残余地以外の囲繞地を通行しうるものと解するのは、その所有者に不測の不利益が及ぶことになって、妥当でない。


 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係によれば、
(一) 高橋は、昭和35年9月、訴外金文培名義で所有していた旧地番の土地を合筆して一筆の土地とした上、これを1510番2の土地と同番5の土地とに分筆し、同月29日、1510番2の土地を上告人に売り渡し(以下、同土地を「上告人所有地」という。)、その旨の所有権移転登記を経由した、
(二) 高橋は、昭和36年4月17日、1510番5の土地を訴外益子昇に売り渡し、その旨の所有権移転登記を経由した、
(三) 上告人所有地は袋地であるが、それは、前記のとおりの高橋による旧地番の土地の合筆、分筆後の譲渡によるものである、
というのであって、

右の事実関係のもとにおいて、
(1)上告人は、上告人所有地を買受けた時点で、いまだ高橋の所有であった1510番5の土地について囲繞地通行権を取得した、
(2)袋地のための囲繞地通行権を受忍すべき義務は、いわば残余地自体の属性ともいうべきもので、その譲渡によって譲受人にそのまま承継され、袋地所有者は、残余地以外の囲繞地に対して民法210条1項の規定による囲繞地通行権を主張することができない、
(3)上告人は、益子が1510番5の土地を買い受けた後においても、同土地を通行する権利を有し、上告人所有地を囲繞する被上告人らの所有する原判決添付物件目録一の2記載の本件通路部分について囲繞地通行権を行使することができない、とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第三点ないし第五点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官園部逸夫の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官園部逸夫の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由第二点についての多数意見に賛成することができず、原判決は破棄を免れないと考える。その理由は、次のとおりである。
 民法210条以下に規定する囲繞地通行権は、土地の利用の調整を目的とするものであるが、或る土地が他の土地に囲繞されて公路に通じないという土地の物理的な属性のみを考慮して定められたものではない。例えば、袋地所有者が囲繞地通行権を取得した後、被通行地以外の囲繞地を所有するに至った場合には、従前の被通行地についての囲繞地通行権は消滅すると解すべきものであって、袋地と囲繞地の各所有者がなんぴとであるのかという対人的な要素をも考慮して定められているというべきである。

 民法213条は、共有物の分割又は土地の一部譲渡により公路に通じない袋地を生じた場合に、袋地所有者が残余地についてのみ囲繞地通行権を有する旨を規定するが、同条が民法210条1項の例外的な規定であることに加えて、囲繞地通行権が土地の物理的な属性のほか、対人的な要素をも考慮して定められていることにかんがみれば、民法213条は、残余地が共有物の分割又は土地の一部譲渡をした当時の所有者の所有に属する限りにおいて、袋地所有者が残余地を無償で通行しうる旨を規定したに止まり、残余地が当時の所有者から第三者に譲渡されるなどして、その特定承継が生じた場合には、同条の規定する囲繞地通行権は消滅し、民法210条1項の規定する囲繞地通行権を生ずるものと解するのが相当である。

 多数意見は、右のとおりに解すべきものとすれば、袋地所有者が自己の関知しない偶然の事情によってその法的保護を奪われるという不合理な結果をもたらし、他方、残余地以外の囲繞地の所有者に不測の不利益が及ぶことになって、妥当でないというが、民法213条の規定する囲繞地通行権が残余地の特定承継によって消滅するとしても、特定承継を生ずる前、既に袋地所有者が残余地を通行しているなどの事情があれば、袋地所有者のために必要にして、かつ、囲繞地のために損害が最も少ない通行の場所及び方法として、従前の残余地を選ぶべきものと解されるから、多数意見の批判はあたらないというべきである。

 かえって、共有物の分割又は土地の一部譲渡によって公路に通じない袋地が生じたにもかかわらず、袋地所有者が残余地を現に通行することもなく、また、残余地の所有者と通行のために折衝することも、囲繞地通行権を主張することもなく推移してきたというような事情がある場合にも、その後に残余地の所有権を取得した第三者が囲繞地通行権を当然に受忍しなければならないというのも不合理である上、他方、第三者が袋地所有者の残余地の通行を権利の濫用に当たるなどとして拒絶しうるというのも、袋地の効用を図るべく囲繞地通行権を規定した民法の趣旨に照らして妥当なものではない。

 以上と異なる見解のもとに、上告人は、上告人所有地を買い受けた時点において、その一部譲渡がされる前の一筆の土地の残余地でいまだ高橋の所有であった1510番5の土地について民法213条2項の規定する囲繞地通行権を取得したものであるから、益子が1510番5の土地を買い受けた後においても、同土地のみを通行する権利を有し、被上告人らの所有にかかる本件通路部分に対して民法210条1項の規定による囲繞地通行権を主張することができないとした原審の判断は、民法210条1項、213条2項の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

 論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上によれば、上告人が上告人所有地から公路に至る通行の場所及び方法として本件通路部分が上告人のために必要にして、かつ、被上告人らの囲繞地の所有者のために最も損害が少ないものであるのか否かにつき更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。
(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

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