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高低差のある土地の境界擁壁修繕費用負担に関する判例紹介

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平成29年 2月14日(火):初稿
○2m程の高低差のある低地隣接地所有者からほぼ境界に沿った擁壁について倒壊のおそれがあり妨害予防請求として改修を要求されているとの相談を受けました。20年以上前はこのような相談が良くあったように記憶していますが、最近は殆どなくなっていました。民法の相隣関係の問題で、結構判断が難しいものです。

○境界が、その高低差のある上の土地の端としても、その擁壁は、上の土地を支えるためのもので、上の土地の所有者は、修繕義務は一切負担しなくても良いと簡単に断定することはできません。このような場合、高低差ができた経緯等を考慮する必要もあり、その改修費用の負担は結構難しい問題となります。関連判例を探していたところ、隣地との間に約4mの高低差のある低地所有者から高地所有者に対し所有権に基づく妨害予防請求としてなされた擁壁の改修請求について、土地相隣関係調整の見地から、低地所有者に改修費用の3分の1を負担させて認容した昭和61年2月21日横浜地裁判決(判タ638号174頁、判時1202号97頁)がありました。

関係する民法条文は以下の通りです。

第223条(境界標の設置)
 土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
第226条(囲障の設置及び保存の費用)
 前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
第229条(境界標等の共有の推定)
 境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。


関係部分を以下に紹介します。

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四 請求の趣旨2項(二)につき
1 本件擁壁上部大谷石3、4段目までの部分が現状において倒壊又は崩落の危険性があることは、前記1、3、(三)認定のとおりである。
 そして、本件擁壁上部大谷石3、4段目までの部分が倒壊又は崩落した場合には、原告所有土地又は原告所有建物に損害を与えるおそれがあることは、前記二認定のとおりである。
 そうすると、原告は、被告Aに対し、所有権に基づく妨害予防請求権に基づき、本件擁壁上部大谷石3、4段目までの部分が倒壊又は崩落しないような工事をすることを求めうるといえる。

2 そこで、右工事内容につき、検討する。
 第一に、右工事対象につき検討するに、擁壁は、その構造上、一体として、土圧に対する耐久力や排水機能等を備えていなければ、その目的を達成することができないものであるところ、前記1、2、3認定のとおり、本件擁壁は、その素材が大谷石であつて旧擁壁部分に面する地盤は自立しており、差当り崩壊する危険性が認められないとはいつても、その風化が著しく、その背部に裏込めがなく、水抜穴も十分に設置されているとはいえないから早晩その改修を余儀なくされるものと思われること、本件地盤には、所々に透水性のスコリアの混入している部分があり、本件擁壁側の関東ローム層には切裂もあり、その地層は、北側から南側(本件擁壁側)へかけて低くなるようなゆるやかな流れ盤構造形をなしていることなどの事実に照らすと、本件擁壁上部大谷石3、4段目までの部分が倒壊又は崩落しないようにするためには、右部分の改修にとどまらず、右部分とその下方部分との結合を強固にし、右部分の下方の擁壁の背部にも裏込めを施すなど本件擁壁全体についての改修工事が必要であるというべきである。

 次に、右工事の具体的方法につき検討するに、原告は、横浜市宅地造成工事技術資料(甲第7号証)に基づき、本件擁壁を新擁壁に改修することを求めるところ、右改修工事方法は、前記一認定の諸事実に照らして、必要かつ相当であると認められる。

3 ところで、被告Aは、本件擁壁を原告主張のような新擁壁に改修する必要があるとしても、その費用は、原告及び被告Aが共同して負担すべきである旨主張する。
 そこで検討するに、原告所有土地と被告A所有土地とは相隣関係にあり、被告A所有土地の崩落を予防することは原告所有土地にとつても等しく利益になり、その予防工事に莫大な費用を要することも明らかであるから、右予防工事については土地相隣関係調整の見地から、原告の求める新擁壁の如きは、高低地間の界標、囲障、しよう壁等境界線上の工作物に近い性質を併有することを考え、民法223条、226条、229条、232条等の規定を類推適用して、相隣者たる被告A及び原告が共同の費用をもつてこれを設置すべきものと解するのが相当である。

 そこで更に右費用負担の割合につき検討するに、前記1、1、2認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告所有土地は、昭和35、6年ころ、被告A所有土地に隣接する部分につき、約2メートルの切土がなされて宅地造成がなされ、このため、被告A所有土地側に高さ約2メートルの旧擁壁が造られたことが推認でき、また、前記1、1認定のとおり、被告A又は被告A所有土地の前所有者は、昭和42年夏ころ、被告A所有土地に高さ約2メートルの盛土をして原告所有土地よりその地上面が約4・1メートル高い平坦地とし、このため、旧擁壁上に大谷石を三段高さ約1メートル分積み加えて大谷石10段積高さ約3・1メートルの本件擁壁を造つたものであるから、高さ約3・1メートルの本件擁壁のうち、高さ約2メートルの部分は、原告及び被告Aの双方にとつて等しく改修の利益があり、高さ約1メートルの部分は被告Aにとつてのみ改修の利益があるものとみうるところ、右事実のほか本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、原告は被告Aに対し、被告Aの費用を2、原告の費用を1とする割合の費用負担をもつて、本件擁壁を新擁壁に改修することを求めうるというべきである。

4 以上のとおり、原告は、被告Aに対し、所有権に基づく妨害予防請求権に基づき、被告Aの費用を2、原告の費用を1とする割合の費用負担をもつて、本件擁壁を新擁壁に改修することを求めうるので、原告の被告Aに対する請求の趣旨2項(二)にかかる請求は、右の限度で理由があるが、その余の部分は理由がないことになる。

以上:2,506文字

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