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東北大学法学部小嶋和司教授講義ノート紹介8-昭和49年6月8日

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平成28年 8月10日(水):初稿
○「天皇陛下「象徴の務め難しくなる」お言葉全文-記憶にとどめます」を記載して久しぶりに憲法を思い出しました(^^;)。
天皇陛下のお言葉で、日本国憲法第1条「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」の「この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」の意味を実感でき、主権者は国民であるとの日本国憲法の理念を忠実に守る天皇陛下の誠実さに心を打たれました。

○以下、忘れていた日本国憲法について私の42年前の講義ノートの一部です。90分の講義ノートが6600文字以上ありますが、後で書き足した部分も含まれています。

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東北大学法学部 小嶋和司教授講義ノート
1974/6/8


c説 いわゆる間接適用説「いわゆる」とは間接適用説という語が適当でないことを示す。
民第90-公序良俗違反の行為の考え方を利用して個人権侵害の私人間の効力を否認するもの。この考えは間接的要請といわれるがこの言い方は適当でない。
なぜなら憲法は対公権力の関係を規定するもので民90条を媒介として私人間の行為に適用されると考えるべきではない。
公序良俗の内容として一種の憲法理想をとりこんでいるので、あくまで私法規範としてことがらを考えている。→間接適用説という語が不適当であるとともに、私法規範であるから憲法が重視する価値と、私的自治とのバランスを合わせて考えなければならない。間接適用説という語は憲法の価値が私人間にも§90を媒介として適用されるという意味に取られやすいので適当でない。
私的自治の要請と憲法理想の実現のバランスの下に考えていくべきである。宮沢博士の提唱に関わる。

d説 限定的直接適用説
実際的な論として、私人相互間にも認められるを要するものについて憲法の解釈にあたり、国に一種の作為義務、不作為義務を要求するというように解釈する。
小島…c説が妥当
 憲法は対公権力規定である本質を持っているため、私的自治の尊重との間のバランスを考えなければいけない。

最高裁判例 a説的論法を採用しての主張 48.12.12大
 学生運動の経歴を隠して試庸されたが、それがバレて本採用を拒否された。
 43.6.12東京高裁判決 かくのごときは思想信条により採用決定するから違憲である。
 会社側上告 上告論旨:憲法は対公権力規定であり本件は私人間の問題であり、判決は憲法解釈を誤っている。
 被上告人の反論-憲法は社会的優位な地位にある者には適用される。
 米国にいうprivate governmentの理論とは若干異なる。
判示:憲法は国又は公共団体と個人との関係を規律するものである。私的支配関係における是正は第1次的には立法により行うべきものである。 

 立法が欠けている場合、民法1条又は90条によって救済されることがありうる。但し、一面で私的自由、私的自治の原則も尊重されなければならないので、個人の自由平等の絶対視できない。→事案は違憲でないとする。最高裁はc説を採用

c説の論法での判例
政治活動をしないという約束で学校に雇用されたものがこの約束を破って政治活動をしたので解雇されたが、この約束は無効と主張、27.2.22二小
当該契約は当事者の意思によるものであり契約内容の限定されており、公序良俗違反とは認められない。

d説的論法の事案
30.6.8大、日蓮宗:?、寺院の住職が欠けた場合、住職の代理者があれば、住職候補者を選定し信者等の同意を得て任命する。代理者がない場合は千与人か候補者を選定し信者等の同位を得て任命する。90日以内にそういう手続をしなければ本山の管長が一方的に任命する。この結果信服しえない僧侶が住職とされたため信仰生活は破壊されると考え、日蓮宗:?の無効を主張した事案…私的ルールも憲法は無効にできる効力があると考えている。判示…このような考え方を§20については否認

<公務員と基本的人権>
(1)公務員の政治活動
(イ)「現行法の状況」
a.国家公務員法§102Ⅰ、人事員規則§14-7、地公法§36
 公務員の政治活動を大幅に制限。制限違反には罰則。
(理由)公務員の全体の奉仕者性。公務遂行の公正と政治的中立性の確保
b.公務員政治行為制限の合憲性

<判例>①最判昭33.3.12、33.5.1「公共の福祉」を理由に合憲とする-「全体の奉仕者」性
②最判昭41.10.26、全逓中郵事件、P89参照、公務員の労働基本権の制限-限定解釈
③最判昭48.4.25、前農林警職法事件、逆戻り
④最判昭49.11.6、猿払事件

「公共の福祉」論、「全体の奉仕者」論→利益衡量論…表現の自由の制限により得られる利益を大きめにみつもり、それに伴う不利益を小さ目に見つもる。→①と紙一重
(ロ)「私見」
 政治活動は表現の自由に(§21)含まれる。表現の自由は民主主義の基礎をなす重要なもの。その制約は厳格に制限すべき。この理は、公務員も一般国民もかわらない。但し前者は公務の特殊性より一般国民とやや異なる取扱いを受けるにすぎない。
 現行法による制限は違憲と解する。
(理由)①禁止すべき政治的行為を人事院規則に包括的に委任することは許されない。
②制限を受ける公務員の範囲、さらに制限を受ける政治的行為の観念、範囲が広すぎる、かつ不明確である。ex勤務時間内外を区別しない。
 前述の理由より、制限は必要最小限にとどめるべき。そのためには、①制限される政治的行為の種類や範囲は明確に定められるべき、②支配的地位の濫用防止の見地からすれば、公務員の権限に応じて制限される政治的行為の種類範囲に区別が必要。単純労務に従事する下級公務員については、政治的中立の必要性は軽微。
③制約は原則として法律で定めるべき。規則への委任は具体的個別的に。
④制限違反に対する罰則は「それ自体において直接、国家的又は社会的利益に重大な侵害をもたらし、又はもたらす危険があり刑罰によるその基本が要請される場合に限るべき。

(三)特別権力関係「基礎知識」P53、ドイツ
 国民は国又は公権力に対して二つの関係にたつ。
①一般権力関係…一般的に権力に服する。(一般国民として)
②特別権力関係…特別の理由により一般国民としてでなく権力的支配関係に服する。
   ↓
 (ア)意思により入る場合…国公立大学の学生、公務員
 (イ)法の定めにより入る場合…監獄に入る囚人、伝染病院への入院

②法治原則に例外が認められる。ex.一般権力関力では自由の抑制は法律又は条例によらなければならないが、②の場合は常に法律が要る訳ではない。法律によらなくても権利,自由の制限ができる。命令権及び懲戒権に服する関係ももつ。

「②において憲法上の保障があるかどうかが問題」
 意思により②に入る場合特に問題
公務員になる関係を民間会社に勤務する関係と同様のものと考えると憲法の保障は直接には及ばないと考えられる。
明治憲法の下においてはこのように考えられた。憲法の保障は一般権力関係についての保障であり特別権力関係には及ばないと考えられた。
 この点についての争い。33.3.12大

 一般職公務員の政治的行為の制限-国家公務員法§102ーは違憲であるとの主張がなされた。国家公務員法§102、§110罰則
 明治憲法下の考えでは、憲法の保障は特別権力関係には及ばないから違憲論は成立しないという形で処理されるはず。
(判示)特別権力関係にも憲法の保障が及ぶことを前提として司法審査の対象となるとして、当該関係の特殊性からくる合理的制限の場合は合憲であるとする。政治的行為の制限は、公務の公正な執行の確保及び支配的地位の濫用の防止という見地からいわゆる政治職公務員と異なり政治的中立が特に要請される。合理的制限であるから憲法違反にはならない。

在監者と人権 大阪地裁(昭33.8.20)
<判旨>在監関係は特別権力関係
 被拘禁者の人権の制限
(1)具体的な法律の根拠を要する
(2)制限も拘禁目的に照らし、必要最小限であること。
(3)刑務所内の内部規律維持のための管理者最良行為もその限度を超える場合は、司法的救済を求める。
(根拠)人権保障、尊重を最重視する憲法の精神

 最判、昭45.9.16
<判旨>監獄法施行規則§96による未決拘禁者の、喫煙禁止も合憲
(理由)①未決勾留の制度目的…逃走、罪証隠滅の防止→このため身体の自由、その他の自由に対する合理的制限もやむをえない。
②喫煙→罪証隠滅のおそれ、火災発生の場合は逃走のおそれ、被拘禁者集団内での火災発生は人道上重大な結果を生む。
③煙草は単なる嗜好品、生活必需品ではなく、これがなくても人体に直接障害を与えない。

(批判)この判例は、法律の委任がなくても在監者の自由を制限できるという結果となる。このことを明確に肯定していないけれど、制限を許す基準「制限の必要性の程度と制限される基本権の内容、これに加えられる具体的制限の態様との較量」
 しかし、喫煙禁止は合理的制限とはいえない。
(理由)①火災発生、逃亡のおそれ、罪証隠滅等のおそれは喫煙場所を限定すれば防止できる。
②諸外国の立法例、酒類は禁止しても煙草までは禁止していない。
③行刑実務…煙草の不正投入の取締りに職員のエネルギーがついやされ、行刑本来の業務がおろそかにされるおそれあり。

「特別権力関係の自由の制限は法律の委任がなくてもよいか?」45.9.16大
 監獄法施行規則§96
 未決勾留により拘禁された者も喫煙が禁止…法律による委任がないことと国民の幸福追求の権利を害するとの理由で違憲論を主張。
<判示>制度の目的及び状況(多数の被拘留者のいる状況)から必用な限度においての合理的制限は認められる。法律の具体的委任を要しないとする。

一般犯罪の受刑者も現行法上、選挙権を有しないとされている。

(四)個人権保障の態様とその限界
 憲法における個人権保障の仕方は大別して2種類ある。
①憲法留保…前世紀西欧諸国に一般にみられる。
②立法への制約をも含む保障…米国に早く成立した考え方。
 ①法律によらずして権利、自由は制限されない。行政府限りでの制約の禁止。議会意思によればいかなる制約も可能になる。
 ②法律によっても制約できない部分があることを認めた保障…現実には立法の合憲性審査制度がなければ行われない。久しく米国にしか存在しなかった。
明治憲法は①の立場
現行憲法は②の立場であると考えられている。§81がこれを支えている。

<①②の具体的相違点>
ex表現活動
 憲法は表現の自由を保障-一切の表現を絶対的に保障するものではない。社会生活にはいろいろな調整が必要でそのため立法府が設定されている。表現活動についても立法で制約しうるものとしえないものが前提となっている。
a.その制約をすると自由国家の本質が否認されると考えられるもの。ex.政府批判の禁止。特定意見のものだけが著述できることにする。(ソ連など)新聞発行の禁止。
c.法的保障の対象となり得ないことが明白なもの。ex.偽証、犯罪の教唆、紙幣の印刷.名誉毀損
b.制限、不制限が立法政策に委ねられるもの。ex.美観のための表現制限、広告(ex.医師は古くから技倆の広告が禁止)
①…法律によりさえすれば、a、b、cとも制限可能・形式的(手続的)保障
②…cとbは法律では制限できるが、aは法律では制約できない。
 aの部分をwesensgehalt-憲法的保障の本質内容-という。(独)
自由…種々の意味…三つほどの異なる意味
-法は~の自由を侵すから違憲という場合はaを指す。権利、自由の制限は法律によらなければならないという場合はc+bを指す。

日本国憲法§13 a+bをさして、自由という語を使う。
「自由」-公共の福祉に反しない限り最大の尊重を要する。-cは含まない。
cは学説によると権利の内在的制約であると説かれる。但し、bは立法政策による制限の可能性のあることに注意。

憲法の保障は②の類型の保障と関連してwesensgehaltの限界の問題がおこる。明治憲法時代はwesensgehaltの考えは存在しないが現行憲法では重要な憲法問題となる。この問題は、従来は個人権と公共の福祉という形で論議され種々の学説があった。公共の福祉を名として制約できるのはbまでありaの部分には及ばないことに注意すべきである。
注意点…a、bの限界、~の自由であるかによって画一的に定められるものではない※
ex.許可制…信教活動の許可制は明らかに違憲。
保険、銀行業のごときに許可制をしたとも違憲とはいえない。(信用のあるものであること、絶えず監督の必要があることが根拠)
免許制…免許がなければ本を出版してはいけないということは違憲。
    免許がなければ医者になれないということは合憲。
aとbの限界は、-の自由であるかにより画一的でない。
大体の傾向-精神的自由の場合はbの幅が狭い。(二重の基準論、「基礎知識」P80参照)
      経済的自由の場合はbの幅が広い。
同じ精神的自由でも表現の自由と集会結社の自由ではaとbの幅は異なる。

[P47裏面]
判例(23.3.12など)通説
・基本的人権は公共の福祉を理由に制約を受ける。これは憲§12、§13から当然予想されるところである。
・公共の福祉とは社会全体の共通の利益

《基本権の制約》
(1)基本権は制約があるか…§12、§13「公共の福祉」との関連
制約はある-<理由>①人間は社会生活を営み、基本的人権という観念はこれを前提としている。
②社会共同生活を営む以上、特定人の自由権利は他人の自由、権利と関わりをもつ。他人の権利自由も尊重される。→従ってこの関係で必然的に基本権は制約が伴う。
(2)学説
a説…基本的人権はすべて「公共の福祉」による制約を受ける。「公共の福祉」の理由なら、法律による基本権制限は可能。
(根拠)憲§12、§13 判例の立場→但し現在はやや変化
<問題点>「公共の福祉」の概念の客観的限界を厳格に決定しなければ、基本権保障の意義を失う。
b説…憲法が明文で制約を認めている(§22、§29)ほかは、一般的に「公共の福祉」を理由に基本的人権を制限できない。但し、基本的人権は絶対無制約ではなく内在的制約がある。
<問題点>内在的制約の根拠、内容の明確化が必要
a、b説は実際はあまり差はない。a説の「公共の福祉」による制約とb説の内在的制約は実質的には同じもの、言葉がちがうだけ。

[P48裏面]
※結局、制約を認めることによって得られる社会共同の利益と制約を認めないことにより得られる利益を比較衡量して決する以外にない。
(3)基本権制約についての私見
 基本的人権は絶対無制約ではあり得ない(前頁参照)
 しかし、憲法の根本精神は、基本的人権の尊重の最優先⇒制約基準たる「公共の福祉」の概念の厳格な解釈が必要
(イ)「憲法の一般留保」
§12、13、基本権保障の最優先-但し制約はある→その基準として「公共の福祉」
①「公共の福祉」の観念
(定義)社会生活を営む成員多数の実質的利益-究極的には正義の理念により決定。その具体的内容は、具体的な社会的、経済的、政治的条件の変化により変化する。
②「公共の福祉」の内容・共同社会の全ての人の人格の尊厳の実現を図ることが目的。
(基本権の制約原理)Ⅰ他人の権利を害しない限り、基本権は尊重
ⅰ.同種の他人の基本権は阻害できない。ⅱ.異種の基本権-両者の間での比較衡量が必要(プライバシーと表現の自由)-特定個人の基本権の形式的尊重が却って多数の個人権の尊重を実質的に害することが客観的に明白である場合は、「公共の福祉」の理由で前者と制限できる。
Ⅱ憲法的秩序に違反しない限り基本権は尊重
Ⅲ道徳律に違反しない限り基本権は尊重

(ロ)法律の留保(政策的制約)ex.§29Ⅱ、§22
 憲法が各基本権について、特に政策的制約を加えることを立法機関に認めたもの
ex.§22、§29の権利はその性質にかんがみ、§13の一般的制約より広い政策的制約を認めていると解すべき
(理由)①権利の性質、②§22、§29に「公共の福祉」の制約を設けた意義

§22、§29Ⅱについて法律の留保(政策的制約)の認められる理由
①憲法は国民の実質的平等を図るため福祉国家の理念を採用して生存権等を認めている。これは必然的に経済的自由に対する広い政策的制約を容認するものである。
②経済的自由は個人の尊厳にとって手段的なものであり、精神的自由のように民主政とかかわりをもたず、広い制約を認めても不当でない。
③憲法自身§22Ⅱ、§29Ⅱで公共福祉による制限を特に明文で認めている。


以上:6,770文字

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